ほむらは言っていた。 たとえば、そこのクレープ屋。 それは、私達の来た未来では売り上げ不振で閉店してしまっているけれど。 未来から来たあなたが、クレープを買うことによって売り上げが上がり、閉店を免れるかもしれない。 閉店を免れたクレープ屋で、たとえばプロパンガスが破裂して事故が起きたら。 その事故に巻き込まれたのが、未来で日本を導く存在になるはずの政治家だったら? あなたがクレープを買うことで、それだけ未来が変わってしまう可能性が生まれるの。 杏子「じゃあ!あたしがマミを、交通事故から救ったから!世界は滅んだというのか?!」 ほむら「可能性は否定できないわ。」 杏子「……!!」 そんなことって。そんなことってあるかよ! ほむら「あなたは、確か新米の頃に巴マミに救われたのがきっかけで出会ったのだったかしら。」 杏子「ああ」 ほむら「じゃあ。巴マミが魔法少女じゃなかったら?あなたはそこで死んでいるわ。」 杏子「!」 あたしが、死んでる? ほむら「もしかしたら、美樹さやかも。私だって。死んでいるのかもしれない。それだけ、巴マミと言う存在は大きいものだったのね」 杏子「この街の魔法少女が、存在しなかったから、世界は滅んだって言うのか?」 ほむら「……もう一つ。あなたは過去で、見たことのないタイプの魔獣と戦ったといっていたわよね」 杏子「ああ」 最初はヌイグルミみたいな外見だったのに、一撃食らわせたとたん、恵方巻のようなでかい体が飛び出てきたんだ。 ほむら「それは、魔獣ではなく、魔女。あなたのその証言で、なんとなく理解できたの」 杏子「どうゆうことだ!」 ほむら「私達は、単に過去に飛んだのではなく。世界が改変される前の、別の時間軸の過去にとんでいたということ。」 まどかが契約によって世界を作り変えるより前に飛んだから魔女が存在したのだ、と言う。 杏子「意味がわかんねえが。いまあたし達がいるのが、お前が前にいっていた、『まどか』が世界を作り変えた、前の世界ってことか?」 ほむら「……ええ。そして」 ほむらは、遠い空の向こうをみつめつぶやいた。 ほむら「世界を滅ぼしたのは、そのまどか、よ」               ◇ ほむらが言うには。 魔法少女が存在しなかったこの街で、ワルプルギスの夜、と呼ばれる魔女に対抗するため『まどか』は、魔法少女になったのではないか、という。 彼女、鹿目まどかの能力は、あたしたちが束になってもかなわないくらい強大だったそうだ。 だが、改変される前の世界では、魔法少女は魔力を使い果たしたら魔女と言う存在になってしまうのだという。 『まどか』は、最強の魔法少女であったため、最悪の魔女となった、らしい。 杏子「魔女とか使い魔とかよくわからねえが、『まどか』が魔女になったから世界が滅んだってことか?」 ほむら「ええ。私のめぐった時間軸でも、何度か彼女は魔女になり世界を滅ぼしている」 杏子「まじか」 どんなけすごい奴なんだろう。 ほむら「最後の時間軸で、彼女は数々の魔法少女と出会い、その結果すべての魔法少女を救う願いを叶え、世界を作り変えた」 杏子「つまり、魔法少女との出会いをまったく経験しなかったから、世界を作り変える願いを願わなかったってことか」 ほむら「そういうことね。それもまた、数ある時間軸の一つに過ぎないのかもしれないけれど。今それを確認する手段は無い。」 杏子「じゃあ、どうしたら……」 ほむら「どうしようもないわ。」 杏子「どうしようもないって!何でそんなに他人事みたいに!」 ほむら「他人事なわけないでしょ!?まどかが全てを捨ててまで作り変えた世界が、元に戻ってしまったのよ!」 ほむらは、あたしの襟をつかんで叫んだ。 付き合いはそこまで長いわけじゃないけど、そんなほむらを見るのは初めてだった。 『ヨイナクヨハカンケ』 『ャキナシクヨカナ』 突然、頭上から声が聞こえた。 杏子「なに!?」 ほむら「使い魔?」 咄嗟に頭上を見上げると、そこにいたのは可愛らしい、二人の天使。 だが、見た目とは裏腹に、あたし達に向ける気配は穏やかなものではなかった。 杏子「何だあれ。めちゃくちゃやばい感じがするぞ」 肌で感じる。こいつは危険だ、と。 ほむら「まどかの使い魔なのだとしたら。使い魔といえど馬鹿にできない強さを持っているかもしれないわ。本気で行くわよ、杏子」 杏子「ああ。ムシャクシャしてたんだ、やってやるぜ!」 あたしとほむらは、ソウルジェムを構え、変身する。 変身バンクは省略されるパターンだな、今は。 杏子「てりゃぁ!」 ほむらの弓の援護を受け、あたしは天使に切りかかる。だが、 『メダャチッコヲ』 槍が当たる寸前で、かわされる。早い。 『ヨダキヲシヲハコイルワ』 天使の頭が、不気味に割れる。 そこから飛び出た触手にあたしは絡め取られてしまう。 ほむら「杏子!…きゃっ」 あたしを助けようと近寄ったほむらも、もう一体の天使に絡め取られてしまった。 『ウコイテレツ』 『ニクゴンテ』 杏子「くそ、離しやがれ!」 あたしは。こんな所で終わっちまうのか? 世界を滅ぼした挙句、こんな雑魚にやられて。 そういえば、マミは今、どうしているのだろう。 あれから、家族と平和に暮らせたのだろうか。 でも、世界が滅んでしまったら、きっと今頃は。 ちくしょう。ごめん、マミ。あたしのせいで。 もっとひどい結果になっちまった。 ……その瞬間。優しい少女の歌声が聞こえてきた。 杏子「この歌は?いや、この声は!」 ほむら「まさか」 ーー夢を叶えて 一人探してた星の 優しい歌声が響く。天使は、動きを止める。 歌っているのは、可憐な衣装に身をまとった一人の美しい少女。 ーー同じ光を 君が見つめてるだけで 天使の力が緩んでゆく。 ーーいつもの夜が闇に染まる頃 走り出せるはず 完全に拘束が外れる。 ーー……一人じゃない 心たちの ように 天使は、割れた頭を元通りにしたかと思うと、いずこかに消えてしまった。 本来は追撃するチャンスだったんだろうが、あたしは歌声に聞きほれてしまっていて、動けなかった。 ほむらも、同じ気持ちだったんだろう。 あたし達はその少女に目を奪われてしまっていた。 少女「危ないところだったわね。でも、もう大丈夫。」 そう、その少女は。 少女「あの使い魔は、人の争う気持ちを察知して現れるの。どう云う訳か、歌を聞くと大人しくなって、どこかにい行ってくれるのだけど」 杏子「ま、ま、ま」 少女「久しぶりね、杏子ちゃん。」 あたしを見て、にっこり微笑むその少女は。 杏子「マミ!」 ……あたしのよく知る、15歳の巴マミだった。 ◇ 杏子「マミ、無事だったのか!」 マミ「杏子ちゃんも。無事でよかったわ。」 あたしの事を杏子ちゃん、と呼ぶということは、あたしとほむらが飛んだ過去世界からの続きのマミなんだろう。 あたしの知る、マミはあたしのことは佐倉さん、とか杏子、と呼んでいたから。 でも、それでも. 滅んでしまったと思っていた世界で、再びマミに再会できたことは素直にうれしかった。 ほむら「……巴マミ」 マミ「あなたとは初めましてかしら。よろしくね」 ほむら「初めまして。」 実際ははじめましてじゃないんだろうけど、ほむらはまったくそんなそぶりを見せずに受け答えをする。 なんだかこいつ、妙になれてるなあ。 マミ「杏子ちゃん、ずっと会いたいなって思ってたのよ。あれから居なくなっちゃって。小学校にも佐倉杏子なんて生徒は居なかったし」 杏子「ああ、イロイロあってさ。あはは」 まさか過去に戻って小学生の制服を着て潜入してたなんて言えない。 実は中学生だってまったくばれなかったなんて格好悪くて言えない! 杏子「そういえば、その衣装は」 マミの着ている服は、華麗に飾られていて、とてもよく似合ってはいるが、おそらく普段着としてはきることは無さそうなデザインで。 杏子「まさか、魔法少女になったのか?」 あたしの知るマミの魔法少女服とはデザインはまったく違っていたが。 先ほど、歌で使い魔と呼ばれる魔物を追い払ったところを見ると、やはりそうなのか。 マミ「ああ、これ?似合うかしら」 マミはその場で、くるっと華麗に回ってみせる。 杏子「似合ってる。……じゃなくて!契約したのかって言ってるんだ!」 ほむら「まさかキュゥべぇの口車に……」 マミ「ううん、魔法少女にはなってないわ。杏子ちゃんと約束だったし。」 杏子「え?」 マミ「これ、ステージ衣装なの。」 杏子「……ステージ衣装?」 ステージ衣装と言うと、ステージで着る衣装の事か? ほむら「……そのままじゃない。」 杏子「あたしの心の中にまで突っ込みを入れるな マミ「うん。ステージできる衣装。だって私、アイドルだから♪」              ◇ 魔法少女になんかならなくたって、ただの人間のままだって何だってできる。 そんな力に頼らなくたって、沢山の人を笑顔にすることだって出来る。 そう、過去に戻った時、あたしはマミにそう言った。 そしてマミは、私にしか出来ないこと、探してみるね、と答えてたっけ。 マミ「それでね、思い出したの。小さいころ、アイドルになりたかったって。可愛い衣装や素敵な歌で、みんなを笑顔にしたいって。」 そういってマミは微笑む。 その微笑みは、確かに。沢山の人を問答無用で魅了してしまいそうなほどの破壊力をもっていた。 ほむら「あなたがアイドルになった、というのはわかった。でも、『今』は?」 ほむらが、真剣な目でマミに問いかける。 ほむら「世界は滅んでしまって、人は見当たらない。さっきのような使い魔もいる。『今』何が起こっているの?そして『今』あなたは、何をしているの?」 マミ「と、言うと?」 ほむら「ああ、私達はいろいろあって記憶が一部脱落してしまっているのよ」 マミ「そうなの?大変ね。えっと、少し前の日。世界がこうなったのは、ほんの数日前。」 世界の終わりは突然だったという。 その時マミはコンサートのリハーサルのため、見滝原のコンサート会場に来ていたらしい。 そして突如発令された避難警報。 マミ「テレビで、スーパーセルだって。急いで避難してくださいって言っていたわ。」 ほむら「……ワルプルギスの夜」 マミ「コンサート会場の地下に、避難用のシェルターがあったので、私達はそこに避難したの。」 地下のシェルターなのに嵐の音がしてすごく怖かったわ、とマミが言う。 ほむら「……それで?」 ほむらが聞く。まるで、それから何が起こったかを知っているような口ぶりで。 何かを確認するような、そんな口ぶりで。 マミ「わからない。暫くしたら、嵐の音がやんで。外に出たら、人が居なくなっていたわ。」 あたり一面、暴風雨でなぎ倒されて荒れていた。 マミ「そう。『地上』から、すべての人が消えていたの」 ほむら「……やはり救済の魔女。まどか……」 杏子「救済の魔女?」 ほむら「地上から全ての命を吸い上げて、強制的に天国へといざなう、最悪の魔女よ。」 ほむらが、思い出すのも辛そうにつぶやく。 そうか、それが『まどか』か。 マミ「救済の魔女……」 杏子「でも、なんでマミだけは無事だったんだ?」 ほむら「もしかしたら、魔法少女の素質があったからかしら。素質を持つ少女は、通常は人の目で認識できない結界や使い魔、魔女を認識できるから。」 マミ「でも、一緒に居たスタッフさん達や、見に来ていた私の両親も無事だったわよ?」 ほむら「……いったいどういうことかしら。」 マミの両親、という言葉であたしは思い出す。。 マミとの再会で、忘れてしまっていた。忘れていいはず無いのに。 そう、あたしが、マミの運命を変えたせいで世界は滅んでしまったのだ。 胸が締め付けられるように痛む。 あたしのせい。 ちくしょう! マミ「……それが、私の知っている『今』よ、明美さん。そして、私が『今』なにをしてるかっていうと」 マミは、うふふ、と微笑みを浮かべる。 マミ「アイドル兼、正義の味方、かしら♪」            ◇ マミ「嵐の後、外に出て、他に生き残ってる人を探そうって話になって。」 あたし達は、マミに案内され、天使が襲ってこない、と言う場所へと向かって歩き出した。 マミ「でも、やっぱり怖くって。大人たちは険悪な雰囲気になるし」 そんなとき、あの天使に襲われたのだ、とマミはいう。 マミ「あそこよ。あそこのビルの地下なら安全なの。……それでね、大人たちが喧嘩を始めたときあの天使が襲ってきて」 マミに案内されたのは、崩れかかったビル。 ほむら「……それで?」 マミ「怖かったから、歌を歌ったの」 マミが少し恥ずかしそうな顔で言う。 マミ「昔にみたアニメや漫画とかでね、怖いときは歌を歌えばいいっ言っていて。」 そうして、マミはさきほど天使達を追い払った歌を口ずさむ。 ーーいつもの 夜が 闇に染まる頃 走り出せるはず 一人じゃない 心たちのように マミ「……私が今度コンサートで発表するはずだった新曲なの。うふふ」 それはとても綺麗な声だった。 マミ「でね、そうしたら。天使達はいなくなって。喧嘩してた大人たちも争うのをやめてくれて。」 この綺麗な曲をきけば、わからないでもない、な。 世界を滅ぼしてしまったあたしの心すら、癒されていくような気がするから。 マミ「私は杏子ちゃんや暁美さんのように魔法をつかえないけれど。歌で人が救えるならって。」 杏子「……」 マミ「杏子ちゃんは笑うかしら。うふふ。だから私。……巴マミは、正義の味方をはじめたの。生き残ってる人を、一人でも見つけ出そうって。」 笑うもんか。 笑えるもんか、そんな気高い思いを。 マミ「それが、私にしかできない、私なりの正義の味方。」 そう言うマミの瞳は、とても強い輝きを放っていた。             ◇ マミ「ここで今日は休みましょ?少しだけど食べ物もあるし。コンビニで無断でもらってきたものだけど。」 マミに案内されたのは、ビルの地下の駐車場。 明かりも無く薄暗い。 ソウルジェムの輝きがわずかに周りを照らしている。 ほむら「とりあえず、ここにいれば天使はこないのね?」 マミ「ええ。でも、争わないでね。争いの気を察したらあの天使達が現れることもあるかもしれないわ」 ほむら「争う気配に反応して現れるのね」 マミ「うん。あと、それと」 ほむら「それと?」 マミ「日が落ちてから表にいると。闇に飲み込まれちゃうの」 ほむら「闇?」 マミ「うん。太陽が沈んで、あたりが暗くなっても地上に居ると、その人も消えてしまうの。」 それに気がつくまでに、何人も犠牲になったわ、とマミはつらそうな顔で言う。 マミ「それでね、私はこの現象を自分なりにいろいろ考えてみていたの。」 そういってマミはおいてあった鞄からノートを取り出す。 マミ「暁美さんのくれた情報を元に、いろいろ推論を立ててみるわ。」 ほむら「そうね、このままじゃどうしようもないし。作戦会議をしましょう」 杏子「ああ、そうだな」 あたしとマミとほむらの三人で、作戦会議、か。 懐かしいな。 いつもマミがケーキをだしてくれて。 マミ「まず、私達がなぜ生き残ったのか。」 ほむら「そうね。魔法少女の素質が関係が無いのなら、きっとほかに条件があるのでしょう」 マミ「暁美さんが言ったわね、これは救済の魔女だって。」 ほむら「ええ。地上全ての人の命を強制的にすいあげる、最悪の魔女」 マミ「そこよ。『地上すべて』。」 ほむら「あっ」 マミ「私達は地下に居たから助かったのよ。地下は地上じゃないもの。地下までは支配が及ばなかった」 杏子「なるほどな」 ほむら「そして日中はその支配が及ばない。そして日が沈むと支配力が復活し、命を強制的にすいあげる」 マミ「でも、一番最初はまだ夜にはなっていなかったわ。だからきっと日中、ではなくお日様。」 ほむら「ワルプルギスが現れて黒い雲があたりを覆っていたからこそ、救済の魔女の支配が発現した、ということね」 マミ「ええ。それがわかったから、私は外を歩いて生き残ってる人を探していたのだし」 杏子「んじゃ晴れてる昼間なら平気ってことか。」 ほむら「あと、争いが嫌いでそれをやめさせるために使い魔をはなっている」 杏子「使い魔は日中も行動できる」 マミ「大体わかっているのはそんなところかしら」 杏子「だな。あとは魔女をなんとしても倒す。」 ほむら「……やるしか、ないわね。」 やるしか、ない。 刺し違えても。 それはあたしの責任だ。      ◇ マミ「ねえ、杏子ちゃん、まだ起きてる?」 隣に眠るマミがあたしに小声で話しかけてきた。 杏子「……ねてる」 マミ「もう、起きてるじゃない」 完全な暗闇の中。あたしたちは毛布をかぶり明日へと備えていた。 マミとは反対側からはほむらの寝息が聞こえる。 マミ「なんだか、思いつめてる感じがして。大丈夫?」 杏子「なんでもねえよ」 マミ「なんでもなくないわ。」 マミがあたしの手を握る。 マミ「私達は友達でしょ?」 ………。 杏子「……あたしは取り返しのつかないことをしちゃったんだ」 マミ「取り返しのつかないこと?」 杏子「世界が滅んだのはあたしのせいだ」 マミ「え?」 杏子「あたしが。『ある人』の運命を変えたくて、深く考えもせずに過去を変えたせいで、世界は何もかもおかしくなっちまった」 マミ「……ある人?」 杏子「結果、その人はこのとんでもない世界で大変な目にあってる!」 マミ「……杏子ちゃんは、その人が大切なのね」 杏子「……」 マミ「なんだかうらやましいな、その人。杏子ちゃんにそんなにおもわれて」 杏子「う、うっせえ、ガキはさっさと寝ろ!」 マミ「もう、私はガキじゃないわよ」 杏子「だったら、良い子はさっさと寝ろ!」 マミ「はぁい」 杏子「……本当に寝てる」          ◇ そしてあたしは、夢を見た。 あたしは宇宙空間のような場所で漂っていた。 『やっと見つけた。……ごめんね、ほむらちゃん、杏子ちゃん。そしてマミさん。大変な目にあわせちゃって』 少女の声。 聞いたことがある、でもだれかわからない声。 『その時…軸はほむ…ちゃんが…験しなかった可能…の…間軸』 だれだっけ。思い出せない。声も、ノイズがまじってよく聞き取れない 『そし…マミ…んが契…しな…った唯一の時…軸』 マミ? 『今の…間軸はイ…ギュラーな介入があって生…れた世界』 何を言ってるんだ、わけがわからないよ 『キュゥべえかよ』 突っ込まれた。しかもそのつっこみだけは鮮明だった。 『…が改変す…にはその介入が行な…れな…ちゃだめだったの』 そして再びノイズ交じりで話し出す。 『あとは魔女を……そうしたら……』 ノイズが濃くなってくる。 ほむら「まどかぁ!!!!」            ◇ 目が覚めた。 ほむらの声で。 耳がキンキンする。 マミ「すやすやすや。その衣装可愛いわ、かな…さん」 マミはまったく起きる気配はなかった。 よくあんな大声で起きないものだ。それにしても、幸せそうな寝顔だな。 いったい、どんな夢を見ているのだろう。 ほむら「……夢?」 杏子「ふわあ、お前のせいですっかり目が覚めちまったぜ。」 ほむらの携帯の時計を確認する。 杏子「もう朝か」 日中は魔女の支配が及ばない。 今のうちになんとか魔女を倒す手がかりを見付けなくてはいけない。 ほむら「まどかぁ」 ほむらはぼんやりた瞳でまどか、まどか、とつぶやいている。 杏子「いい加減目を覚ませ!」 マミ「すやすやぴー…円環の理っておしゃれな言葉ね…」 杏子「お前はいい加減に起きろっ」 結局、マミを起こすのに手間取り、出発するころにはかなりの時間がたっていたのだった。                ◇ 杏子「救済の魔女、だっけ。それについてもっと知ってることはないのかよ」 あれから数日。あたしとマミ、ほむらの三人は、生き残りを探して旅をしていた。 ほむら「だから何度も言ったでしょ。まどかが魔女になった時点でリセットしていたから、ほとんど情報なんか知らないって」 生き残りを見つけることはほとんどなかったが。 それでもごくまれに生き残っている人を見つけると、とても嬉しかった。 少女「ありがとう、みんな」 マミ「うふふ、どういたしまして。食料を少しおいていくわ。」 少年「まさかあのアイドルの巴マミさんにあえるなんて、感激です!」 マミ「私のファンなの?うふふ、応援してくれてありがとう♪」 少年「はい。事故でバイオリンがひけなくなった僕に、さやかがマミさんのCDを持ってきてくれて。それをきいたら勇気が出たんです」 少女「もう、恭介ったら♪」 なんてやりとりがあったりなかったり。 あいつ、この時間軸じゃカレシとよろしくやってんだな。 世界は取り返しのつかないくらいどうしようもないけど、それでもまだ終わっては居ないって。 そう思えたから。 杏子「たく、ほんっとつかえねえなあ」 あたしは、ほむらに対して悪態をつく。 ほむら「何よ、文句あるの?」 マミ「もう、喧嘩しちゃだめ!」 そう、喧嘩をしたら使い魔が現れるのはもうお決まりのパターンだ。 杏子「へ、おいでなすったぜ」 ほむら「そうね」 ほら、おいでなすった、使い魔だ。 マミ「もうっ。毎回毎回。ワンパターンすぎないかしら」 そう、喧嘩をして使い魔をおびき寄せる。 かなり強力な相手とはいえ、何度も戦っていれば行動パターンなんかも読めてくる。 杏子「必殺!ロッソファンタズマ!!」 ほむら「……マジカルシュート(ぼそ」 魔獣とちがって、使い魔は何匹倒してもグリーフシードを落とさない。 そういった面じゃこの世界は不便だ。 だけど別にあたしたちはただ使い魔をやっつけようってわけじゃない。 杏子「よし、ひるんだぜ、マミ!」 マミ「お任せあれ♪」 マミが歌う。 未来、という歌らしい。 マミの歌を聴くと、使い魔は退散していく。 杏子「ほむら、メモったか?」 ほむら「ええ。」 退散していく方角をほむらはメモしていた。 使い魔の現れる方角、退散する方角。 それを調べ、統計を取っているのだ。 マミ「魔女の居場所、近づいてるのかしら」 ほむら「そうね。大分しぼれてきたわ。」             ◇ 夜になると、地下へ移動する。 昼間、捜索をしながら、安全そうな場所を探しているのだ。 暗くなる前にも戻り、朝がくるとまた捜索、を繰り返すのであまり沢山の距離は移動できない。 あれから数日たっているが、隣町の風見野どころか、まだ見滝原すら出ていないだろう。 ほむら「魔女の居場所は大分つかめてきた。」 だが、別に意味無くうろついているわけじゃない。生き残りを探すと同時に、魔女の位置を探っているのだから。 統計によると、使い魔の出現方向は見滝原市のどこかの可能性が高いからだ。 杏子「ああ」 魔女は昼の間結界に潜み、夜になると結界をぬけて現れる、らしい。 マミ「仮に見つけたとして、倒せるのかしら。相手は最強の魔女なのでしょう?」 杏子「はっ、そんな心配するだけ損だぜ。どんな相手も、槍が刺されば貫けるんだ」 ほむら「……まったく、その能天気さにはあきれるわ」 杏子「なんだと?」 マミ「もう、いまは使い魔をおびき寄せる必要はないのよ!」 杏子「……わるぃ」 ほむら「そうね、大人気なかったわ。ごめんなさい」 マミ「うふふ。さ、食事にしましょ。と、いっても残っているのはスナック菓子くらいだけど」 杏子「たまにはもうちっとましなもん食いてえな」 とはいえ、電気の供給がとまり、スーパーもコンビニも食料はほとんどダメになっていて。 賞味期限の長いものをなんとか食いつないでいた。 ほむら「あなたは改変前、いつもお菓子たべてたんだから平気じゃないの?」 杏子「んなわけねえだろ!そんな健康に悪そうな食生活しねえよ」 ほむら「……巴マミの手料理を食べ過ぎて舌が肥えたのかしら」 マミ「え?」 ほむら「ああ、私達のいた時代では佐倉杏子と巴マミは一緒に住んでいたの。あなた達は魔法少女の先輩後輩だったのよ」 マミ「へえええ」 杏子「な、なんだよ」 マミの奴が目をキラキラさせて顔をよせてくる。 マミ「私が先輩だったの?それとも後輩?」 杏子「ど、どっちでもいいだろ、そんなの!そんなことより、魔女をどうやって倒すかが大事だろ!」 ほむら「あら、槍さえ刺されば倒せるんでしょ?」 杏子「そんな能天気でいいわけないだろ!なんか考えろ!」 マミほむら「あなたが言うな!」 ハモって怒られた。なんだよ、ちくしょう。 ほむら「魔女について知るなら、アイツが適役なんでしょうけど」 杏子「あいつ?」 ほむら「キュウべぇよ。」 杏子「ああ、そんなやつもいたっけな」 あの見た目だけは可愛らしい白い獣。 マミ「ああ、キュウべぇ、知ってるわ。何度か私のところに契約してくれって言ってきてた」 ほむら「あいつは。特に改変前世界のあいつは信用ならないから、迂闊に力を借りるのは考え物だけど。」 杏子「そういや、こっちに戻って来てから一度も姿を見てないな」 ほむら「ええ。どこにいったのかしら」 マミ「世界が壊れたとき、私の前に現れたわ。」 ほむら「え?」 マミ「この惑星でのノルマは達成したから、僕達はもういくよ、って」 ほむら「なんてこと!」 杏子「キュウべぇはもういないのかよ」 ほむら「これで魔女の情報を得る手段はなくなってしまったわね……」 マミ「あ、でも。もしマミが契約する気があるなら、呼んでくれたら特別に宇宙の果てからでも駆けつけるって言ってくれたけど」 ほむら「インキュベーター……」 杏子「あいかわらず、あいつはマミには甘いな……」 キュゥべぇ「マミ、久しぶり。呼んだかい?」 突如、姿を現した白い獣。 相変わらず神出鬼没なやつだ。だけど。 マミ「あら、キュウべぇ」 キュウべぇ「なんとなくマミに呼ばれてる気がして、わざわざ戻ってきたよ。」 ほむら「キュウべぇ!」 杏子「話がある!」 キュウべぇ「やあ、暁美ヒット。」 ほむら「私の名前を勝手に野球用語にかえないで頂戴。」 キュウべぇ「あれ、たしか野球用語に近い名前だったと記憶してるのだけど。暁美ヒットエンドラン?暁美エンタイトルツーベース?」 ほむら「ホームランよ!じゃなくて、私の名前は暁美ほむらよ!ヒットでもヒットエンドランでもエンタイトルツーベースでもないわ!」 キュウべぇ「失礼、かみました」 ほむら「違う、わざとだ」 キュウべぇ「かみまみたっ」 ほむら「わざとじゃない!?」 キュウべぇ「かみじょうきょうすけ」 ほむら「それは美樹さやかの彼氏よ!というか遠いわよ!」 杏子「なあ、もういいか?」 もう化物語ネタをひっぱるなよ。 それはあたしも過去でマミとやったし。 ほむら「……ええ、結構よ」 キュウべぇ「さあマミ、どんな契約をするんだい?」 マミ「えっと、契約するつもりじゃないのだけど」 キュウべぇ「ええ!そうなのかい?まあ、久しぶりにマミにあえたからよしとするよ。じゃあね」 ほむら「待ちなさい!」 キュウべぇ「なんだい、暁美ホムンクルス」 ほむら「私の名前はほむらよ!」 杏子「それ以上はモウイイから!キュウべぇ、救済の魔女について教えろ!」 キュウべぇ「悪いけど、それは僕の管轄外だよ。」 マミ「キュウべぇ、だめなの?」 キュウべぇ「仕方ないな。いいよ、マミ。何が聞きたいんだい?」 杏子「こいつっ」 ほむら「あいつのペースに乗せられてはだめよ。落ち着きなさい、杏子」 お前も散々あいつにのってたけどなっ。 キュウべぇ「冗談はさておき。君達じゃあの魔女を倒すことは不可能だよ。」 マミ「でも…私達は倒さなくちゃダメなの。」 キュウべぇ「そうだね、マミ。君が願えば話は別、だけどよ」 マミ「え?」 キュウべぇ「どういうわけか、君はすさまじく強力な素質を秘めている。それこそ、一国の王女クラスなみだ。」 ほむら「まさか」 杏子「ん?」 ほむら「私達が巴マミを中心に世界移動をしたから?でも、たった一度で……」 キュウべぇ「マミ、君はアイドルという特殊な立場に立つことで、多くの人との因果を結んだ。だから、それほどまでに大きな素質をもっているんだろうね。」 マミ「わ、私が?」 キュウべぇ「鹿目まどかほどじゃないにしても。ソレ相応の願いを叶えれば、君はあの魔女を止めるくらいできる、かもしれない」 ほむら「そいつの言葉に耳を貸してはだめよ。」 マミ「でも」 ほむら「仮にあなたが魔法少女になったとしても、その後さらなる強力な魔女が生まれるだけ。この世界は、そう云うルールで成り立っている。」 キュウべぇ「あれ?キミに教えたっけ?おかしいな」 ほむら「巴マミ。それは最悪の選択肢。いまは忘れなさい」 マミ「……ええ」 キュウべぇ「まあいいや、そういう手段もあるって覚えておいてよ。魔女の事が知りたいんだっけ?」 ほむら「ええ。出来る限りの事を詳しく教えなさい」 キュウべぇ「そうはいっても、僕だって公式サイトの魔女図鑑に書かれてる程度の知識しか持ち合わせていないよ」 杏子「メタネタはよせ」 ほむら「その公式サイトに書かれてる情報だけでもいい、教えなさい。」 杏子「お前も公式サイトとか言うな!」 マミ「お願い、キュウべぇ」 キュウべぇ「仕方ないな、特別だよ。あいつは救済の魔女。まどかが姿を変えた最強最悪の魔女さ。」 杏子「それは聞いた。ほかにないのか」 キュウべぇ「彼女は人の命を強制的に吸い上げ、自らの結界、天国へと強制的に引き上げる。」 ほむら「それも知ってるわ。まったく、使えないわね」 キュウべぇ「ひどいな、君は。あとは、この世から悲しみが無くなれば、彼女はここを天国だと錯覚するだろうね」 天国と錯覚? ならば、人の命を天国に引き上げるのが目的なら。 ここが天国だと錯覚すれば活動をやめるんじゃないか? 杏子「それだ!この世から悲しみを失くせたら隙をつけるってことだよな!」 マミ「でも……それは」 ほむら「……それは不可能と同義ね。チーズに目が無いとか、そんな弱点を期待していたのだけど、やはり無理そうね」 キュウべぇ「さあマミ、いっぱいサービスしたんだ。だから……」 杏子「てめえ、まだ契約を……」 キュウべぇ「また歌を聞かせてくれないかい。君の歌を聞いていると、なぜだか脳神経が落ち着くんだ。」 マミ「うふふ、いいわよ。」 マミが優しい声で歌う。 ーー諦めないよ 届かないと泣き濡れた ほむら「キュウべぇともあろうものが、ずいぶんと……」 杏子「幸せそうな顔してやがるな。なんかぶん殴りたくなってきた」 キュウべぇ「その割には、あなたも穏やかな顔しているよ、佐倉杏子。」 杏子「ほっとけ」 ーーキミをただ抱きしめたい 側にいるよ ずっと ほんとうに、いい歌だ。 聞いているだけで、心が幸せになる。 杏子「ん?」 ほむら「……なあに。今は静かにして頂戴。」 杏子「世界中の、いま生き残ってる奴全てに。マミの歌を聞かせたらどうかな」 ほむら「え?」 杏子「世界中の人が、幸せになるんじゃないか?」 ほむら「どうやって世界中の人に聞かせて回るのよ。」 杏子「あ……」 くそ、いい手だとおもったのに。 なにか、なにかないのか。 キュウべぇ「だね、さすがの僕でも世界中の生き残ってる人間の元に行ってマミの歌をテレパシーで聞かせるのは大変だ」 杏子「ん」 ほむら「ん」 杏子「それだ!キュウべぇ、お前が世界中の人間のもとにいってテレパシーで聞かせろ!」 キュウべぇ「いやだよ、そんなの。さすがに大変すぎるよ。エントロピーの損失だよ。これだから人間は。」 マミ「でも、世界中の人に歌を聞いてもらえたら、幸せだわ」 キュウべぇ「仕方ないな。やってみよう」 杏子「おまえやっぱりマミに対して甘すぎだろ!」             ◇ やるべきこと。 やるべき事を、やるための道筋。 それがわかったのなら迷わない。 その道筋がどんなに困難だろうがかまわない。 どんなに大きな壁があっても乗り越えてみせる。 杏子「やるぞ。」 あたし達は、崩れかかったビルの屋上から地上を見つめる。 丁度ビルから見下ろした位置、そここそが、統計から推測された魔女の潜んでいる場所。 夜になるときっとそこからわきあがり、世界の命を吸い上げるのだろう。 ほむら「……やりましょう。」 マミ「ええ。」 あたしとほむらが過去を変えて、マミの運命をかえてしまったばかりに、世界は滅んでしまった。 いや、今も尚、滅び続けている。 わずかに生き残った人の命すら吸い上げてしまおうとしている。 魔女。救済の魔女。 ほむら「まどか……」 ほむらが、まどか、という少女の名前を呼ぶ。 マミ「キュウべぇはうまくやってくれるかしら」 ほむら「あいつらは信用ならない存在。期待しすぎはダメよ。」 杏子「救済の魔女が生まれたのも、結局あいつらのせいなんだろ?」 魔法少女は、その最期の瞬間、魔女へと孵化する。 あたし達の世界とは違うルールが存在する、この世界。 マミ「でも、今は信じるしかないわ。」 キュウべぇは、その複数の固体を動員し、世界各地のわずかな生き残りの元へと向かった。 その目的、それはマミの歌を届けること。 絶望に満ちた。満ち満ちたこの世界で、ほんのひと時でいい。 幸せを感じてもらいたい。 マミ「世界の人に、幸せを。笑顔を。……奇跡を。」 世界に幸せが満ちれば、救済の魔女は活動を止める。 キュウべぇが公式サイトで調べた、情報だ。 キュウべぇ「やあ、またせたね。」 突如あたし達の足元に、白い獣が現れる。 キュウべぇ「この惑星で生き残っている人間はもうほとんど居なかったようだからおもったより楽だったよ。よかった。」 杏子「よくねえよ!」 いったいどれだけの人間が、救済の魔女に命を吸い上げられたんだよ。 ほむら「どうせ何を言っても無駄。キュウべぇには感情なんか無いんだもの」 マミ「……でも、私達のために行動してくれたんだもの。」 キュウべぇ「マミの言うとおりだよ。まったく少しはねぎらって欲しいよ、はぁ」 ……こいつ、本当に感情が無いのか? 絶対あるだろ、コレ。 キュウべぇ「今から僕の瞳を通じて、他の僕に映像と音声のデータを送る。」 ようは、キュウべぇが見たマミの姿と歌を、他の固体を通じて送り届けるらしい。 最初はテレパシーをつかって歌だけでも、と考えていたんだけど、それ以上の事もできるらしい。 マミ「すごいわね、キュウべぇ。えっと、いんたーねっとってやつかしら」 あたしでも違うってわかるぞ、マミ。 指摘したら拗ねそうなのであえて指摘しないけど ほむら「……全然違うわよ」 マミ「むぅ」 あーあ。 あたしの我慢の甲斐なくほむらが指摘してしまった。 みろ、口を尖らせて拗ねてしまったじゃないか。 キュウべぇ「じゃあ、始めようか」 マミ「ええ」 うなずくマミの顔は、ほんの一瞬前にふてくされた表情を見せた少女とは一変していた。 マミ「もう何も。怖くない。」              ◇ マミ「えっと、もう写ってるの?」 キュウべぇ「ああ、よく映ってるよ。マミ。」 マミがキュウべぇの瞳を覗き込む。 マミ「ようは、今、キュウべぇがカメラさんね」 杏子「いよいよか」 ドキドキしてきた。 別にあたしがやるわけじゃないのにな。 ほむら「……始まるわ」 マミ「世界の皆さん!初めましての方は初めまして。私を知ってくれてる人は御久しぶりです。巴マミです」 マミがキュウべぇに向かって語りかける。 さすがにアイドルだけあって慣れたものだ。 マミ「今日はただ、みなさんに私の歌を聴いてもらいたくて。皆さんの元に居るキュべぇを介して話しかけてます」 キュウべぇ「マミ、すごいよ。一気に世界の人が幸せな気持ちを感じ始めたよ!」 マミ「ええ?まだ歌を歌ってないのに?」 しゃべりだけで?さすがアイドルなのか? キュウべぇ「ああ、特に男性はすごい勢いで幸せになってるよ」 マミ「え?」 ほむら「あ」 ほむらが何かに気がついたように、声を上げる。 杏子「どうした?」 ほむら「……みなさい。キュウべぇの目線を。キュウべぇ視点の巴マミが世界に配信されてる、ということは。」 杏子「あ」 キュウべぇは、高い知能こそ持っているが、見た目は猫と同じくらいのサイズである。 そんなキュウべぇがマミを見ると、当然見上げるような格好になり。 それってつまりローアングルということで。 マミの今の衣装はふわふわに広がったフリフリのスカートで。 なんだ、その。言わなくてもわかるよな? マミ「あ」 マミも気がついたようだ。 マミ「いやぁぁぁぁぁ!?」 スカートを押さえて泣き出してしまった。 あたしとほむらはキュウべぇの映し出した映像は見れはしなかったわけだが。 あたしはキュウべぇをつかみ持ち上げる。 キュウべぇ「何を怒ってるんだい、杏子」 杏子「どうしたもこうしたも!?」 マミの、ぱ、ぱ。……を、全世界配信しやがって! マミ「ぱ、パンツみられたらお嫁さんにいけない!」 泣くポイントそこ!? キュゥべえ「大丈夫だよ、パンツを見られるということと結婚には何の因果関係も無い」 杏子「キュウべぇ!」 キュウべぇ「なんで怒ってるかわからないよ」 くそ、これだから感情の無い奴は! マミ「くすん、恥ずかしかったけど、キュウべぇにはそんな悪気は無いのだろうし、仕方ないわよね」 杏子「ちっ」 キュウべぇ「そうだよ、パンツを世界中の人に見られた程度で。結果幸せになった人間はかなり多いよ。よかったじゃないか、いいもの見れて」 マミ「ちょっとっ!?」 確信犯だった。しかもあたし達は見れてねえし。 キュウべぇ「あ、でも君達は見れてないんだっけ、マミのパンツ。色、教えてあげようか?」 凶悪犯だった。教えてなんか、ほ、ほしくねえよ! ほむら「とりあえず気を取り直して再開しましょう。キュウべぇ、あなたはそこの台にのって撮影しなさい。あと、あなたの映像データ、あとでなにかメディアに…」 キュウべぇ「……はいはい、わかったよ」 顔中、なぜか殴られた形跡のあるキュウべぇは、感情が無いクセになぜかふてくされた風に言った。 キュウべぇ「今、君が殴ったんだよ、杏子」         ◇ 気を取り直し、再度挑戦。 その前にマミの機嫌を治さなくては。 ほむら「アイドルにパンチラ事故はつきものよ。気にしないで、巴マミ。ちょっと雑誌に投稿されたりする程度よ」 マミ「!」 ほむら「むしろ、キュウべぇの映像でよかったじゃない。もしテレビなんかだったら映像は永遠にネット上にうぷろーどされるわけだし。」 マミ「そ、そうよね」 ほむら「ただ、全世界の人が見たという点じゃ、インターネットのそれよりはるかに見た人はおおいんだろうけど」 マミ「!!!」 なんて、ほむらが下手なフォローを入れるもんだから。 かえってマミは落ち込んでしまい。 ほむら「それに、お嫁にいけなくなったら杏子が幸せにしてくれるわよ。」 マミ「!!!!」 杏子「ん?何か言ったか?」 マミ「な、なんでもない!よーし、マミさんはりきっちゃうぞ!」 何故かよくわからないが、やっと機嫌をなおしてくれたようだ。 でも、結構時間がたってしまったな。 マミ「よし、行くわ。」 ついにマミがを歌いだす。 ーー夢を叶えて 一人探してた星の 『未来』。 世界がこんなにさえならなければマミがコンサートで歌うはずだった新曲。 その歌声が、キュウべぇを通して世界中の人々に伝わっていく。 逆に、マミの姿を映すキュウべぇから、世界中の人の反応が伝わってきた。 マミ父『マミ、あんなに立派に歌って……。送り出して正解だったね、ママ』 マミ母『うふふ、あなたったら、マミが正義の味方になるって言い出したとき、泣いて引き止めたくせに』 マミ父『う、そりゃ可愛い娘が危険な旅にでるっていうんだから。』 マミ母『私は信じてたわ。だって、私達の娘なんだもの。がんばって、マミ』 優しい想い。マミの両親。 ほむら「素敵なご両親ね」 杏子「ああ」 今度は別の想いが届く。これは…… 蒼い少女『恭介、マミさんが歌ってるよ。新曲かな』 少年『素敵な曲だね。僕は腕は動かなくなったけど。自分では演奏できなくなったけど。なんだかこの歌を聴いていたら勇気がでてきたよ』 蒼い少女『恭介、ほんとう?私てっきりアイドルのパンツがみれたからだって誤解しちゃった』 少年『何気に失礼だね、さやか。僕をいじめているのかい?……ああ、僕も人を幸せにするような、歌が歌いたいな』 蒼い少女『恭介はイケメンだからきっとアイドルになれるよ!』 少年『ありがとう、さやか。いつも励ましてくれて。さやかは僕の最高の友達だよ!』 蒼い少女『あ、あはは。……友達』 どこかで聞いたことある声だな。 ほむら「美k……今の少女。平気かしら」 杏子「……さあ」 いまのやつのせいで世界中を幸せ作戦が失敗しないこと祈ろう。 ほむら「幸い契約はしてないようだし、魔女化は平気だとおもうけれど。」 キュウべぇ「まだまだ、いろんな想いが返ってきてるよ」 ?『世界が幸せになりますように、ぽこも応援しています。ぽこの紅茶です』 ?『エッビマミマミエビマミー』 ?『早く寝なさい!』 ?『ぽんぽこフレーバーが……』 沢山の思いが伝わってくる。 それは数え切れないくらい多くて。 スレッドにしたらきっと300以上分の、幸せな想い。 なんか偏ってる気もしないでもないけど。 少年『マミさん!がんばれ!』 蒼い少女『マミさん!あたしも応援してます!』 さやk。……さきほどの少年少女の声。 ほむら「どうやら立ち直ってくれたようね」 杏子「そのようだな」 ーー少し未来を信じていいんだと かなしみを暖めてあげたい マミの歌は続く。 そして世界に、幸せが満ちていく。 滅びかけた世界に、希望が満ちていく。 亡くしてしまった未来が、再び生まれ始める。 ーーーいつもの夜が輝き始める 君を守りたい 一人じゃない心で行く ……未来 マミの歌が終わる。 そして。 ついにそのときがきた。 キュウべぇ「魔女が。動くよ」 黒い霧が地上から立ち上ってきた。 現世を天国と勘違いした、救済の魔女はついに姿をあらわす。 杏子「で、で、で」 ほむら「……」 でかい。 その姿は。あたし達はビルの屋上にいるというのに。 魔女の足は地上にあるというのに。 なお、見上げても上部が見えない。 とてつもなく、でかい。 マミ「……!」 マミも、その姿に驚き動きを止める。 こいつはやばい。 隙をつく、とかそんなレベルじゃない。 考えが甘かった。甘すぎた。 勝てるわけ、ない。 今は日中で命を吸い上げる能力は発言していないようだけど。 そんな話のレベルじゃない。 ほむら「だけど」 杏子「ああ」 やるしか、ない。 それが世界を滅ぼしたものの責任だ。 刺し違えてでも、倒す。 杏子「なあ、マミ」 最期に。一つだけ、マミに聞いておきたいことがあったんだ。 マミ「どうしたの?」 杏子「あんたは、幸せだったかい?」 マミ「なあに、急に」 杏子「今はとんでもないことになってるからさ、そんな悠長なこと、考えられないかもしれないけどさ。」 マミ「え?」 杏子「両親と暮らして、楽しく学校に通って。アイドルになって。あんたが歩んできた、今までの人生は幸せだったかい?」 両親の月命日に泣くこともなく。 魔法少女の宿命におびえることもなく。 理解されない孤独を恐れることもなく。 マミ「ええ、幸せだったわ。」 マミは満面の笑みで答えてくれた。 あたしの聞きたかった、言葉。 杏子「そっか。へへ」 あたしのしでかしてしまった事は、取り返しはつかないかもしれない。 だけど。 それでも、ただ一人の女の子を幸せにできた事だけは誇ってもいいんじゃないかな。 もっとも、ここで魔女に負けたら台無しだけどさ。 負けるわけには、いかねえよな。 マミ「ありがとう、杏子ちゃん。」 杏子「なんだよ、急に。」 マミ「今はとんでもない事になっているから。そんな悠長な事言ってる暇ないかもしれないけれど。」 杏子「え?」 マミ「私を助けてくれてありがとう。」 杏子「マミ」 マミ「杏子ちゃんは、私のために過去を変えてくれたんだよね。」 杏子「ち、ちが」 マミ「とっくに気がついていたわよ。女の子の勘はするどいんだから。」 あたしも女の子なんだけどな。 ……かなわないなあ、ほんとに。 マミ「私のために過去を変えてくれて。その結果、本当にあなたのせいかどうかもわからないのに、世界の責任まで取ろうとして」 杏子「……」 マミ「本当に感謝してるの。ありがとう。杏子」 杏子「か、かゆくなるからそんなセリフいうなよ!ああ、もう!」 ほむら「まったくよ。横に私がいるのを忘れないで欲しいわ。イチャイチャされたら妄想が止まらなくなるでしょ」 杏子「な、な、な?!」 マミ「うふふ」 杏子「ちっ!まあいいや。とっとと魔女をぶっとばすぞ!」 あー、顔が熱い。 ほむら「……顔が真っ赤よ、杏子」 杏子「うっせーー!」 マミ「うふふ。もう……」 全員「何も怖くない!」 勇気がみなぎってくる。 刺し違えて倒すという決意よりもつよい気持ち。 絶対倒して、幸せになってやる。 あたしも、マミも。世界の人も全員だ。 憧れてた、正義の味方になるんだ。 そして。 未来を勝ち取るんだ。 『ありがとう、もう大丈夫だよ』 そのとき、懐かしい少女の声が聞こえた。 後ろを振り返ると、そこには女神。 一瞬、そう錯覚してしまうような少女がいた。 ほむら「まどか!」 そう、こいつが。 こいつが、まどかだ。 思い出した。どこかであったような、懐かしい存在。 マミ「鹿目さん……。あれ、私、どうして?」 マミの奴も、何かを思い出したようだった。 『やっと姿を見せたね、私。ずっと出てくるのをまってたよ、私』 少女は、救済の魔女を見つめ、弓を構える。 その瞬間、背後に巨大な魔法陣が広がる。 『ありがとう、ほむらちゃん、マミさん、杏子ちゃん』 こちらを向き、少女が言う。 『結界の奥に潜んでいた私をひっぱりだしてくれて。世界に幸せを満たしてくれて』 構えた矢が光り輝く。 『もう大丈夫。ここからは、私の仕事。』 そして。 『おやすみ、私。もう絶望なんて!する必要ない!!』 輝く矢が放たれ、世界が光に包まれた。                          ◇ 気がつくと、あたし達は宇宙空間のような場所に漂っていた。 いつかみた夢のような。 マミ「ここは……?」 ほむら「私はこの場所を知ってる。まどかと最後に話した場所……」 杏子「マミ、ほむら」 今回は全員一緒のようだ。 マミ「ふ、服!どこにいっちゃったのかしら!」 そういえば全員裸だった。 ……やはりデカイ。 小学生の頃よりも胸につけたおもちが大きくなってて。 うーん、立派なおもちをおもちで。 マミ「ど、どこを見てるの?!」 杏子「み、見てねえよ!」 神様ゴメン、ウソをつきました。 『あ、あの、ちょっといいかな』 少女は。まどかは、少し困ったような表情で語りかける。 『本当にありがとう、魔女を光の下に連れ出してくれて。おかげで消し去ることができました』 杏子「どういことだ?」 『あの私は。あの魔女は、昼間は結界の中、夜は闇にまぎれてしまって感知できなかったの。私だけに、私から逃れるすべを知っていたみたいで』 あの魔女も、いまのこいつも、同じ私、なのか。 『あの時間軸は、前も言ったけれど、マミさんが唯一魔法少女にならなかった時間軸なの』 マミ「それは、杏子ちゃんや暁美さんが努力をしてくれたから?」 ほむら「イレギュラーの介入によって、そうなったということね」 『ううん、違うの。本来のあの時間軸は。マミさんが事故にあう前に、小学校に発生した魔女の結界に紛れ込んでしまって命を落としていたの』 小学校で? まさか、あたしが倒したあの魔女か? 『魔法少女になる前に命を落としたマミさんは、当然杏子ちゃんとも出会わず、杏子ちゃんは魔女にやられちゃったの』 …あたしは、マミに助けられたおかげで、生きてたんだからな。 『……さやかちゃんも、使い魔の結界で。』 ほむら「私は?」 『ほむらちゃんは、この時間軸に来なかったから、覚醒してなかったの。そして転校してしばらくして、魔女にやられちゃったの』 ほむら「……確かに、私のめぐった時間軸で巴マミがいなかった時間軸は無かった」 『私、その時間軸の私は、未熟なままで契約して、ワルプルギスの夜に挑んで。』 ワルプルギスの夜。無力の魔女、とほむらは言っていた。 『結果暴走しちゃって力を使い果たして、魔女になって。……世界を滅ぼしちゃったの。』 それが、救済の魔女、か。 『私は、世界を壊して。そして壊れた世界をもう一度壊して、それからさらに壊しつくして、完全に世界の未来の絶やしたの。それが、本来この時間軸がたどるはずだった世界。』 完全に破壊しつくした世界だったから、円環の理となったまどかも気がつくのが遅れたのだ、という。。 マミ「じゃあ、私が生きてるのは……」 『うん、この最悪な時間軸で、マミさんが生き残ったおかげで、希望が生まれたの。さやかちゃんも使い魔の結界で死ぬことは無かったし。…杏子ちゃんとほむらちゃんは助からなかったんだけど』 杏子「えええ」 結局あたし死んだのか! ほむら「……私達がこの時間軸に現れるから、そういう風に世界が選択したのかもしれないわね。私達が複数存在しないように。」 なんだかわけがわからなくなってきたな。 頭いてえ。 ほむら「まさか、私の部屋の物置にこの円盤をいれたのは」 『うん、私。魔女を消し去るために。表に出すためにイレギュラーな存在が必要だったから。』 杏子「それならもっとちゃんと説明しろよな!」 ナンも説明されずに過去にほりだされて。 どれだけ苦労したと思ってるんだ。 『だ、だって私が説明しに登場する前に、勝手に円盤を作動させちゃうんだもん!』 う。 『ようは、杏子ちゃんとほむらちゃんのおかげでマミさんが生き残って。さやかちゃんも上条くんと仲良くなって。ほんの少しだけ奇跡が起こったの』 杏子「奇跡?」 『世界が壊れるまでにほんの少しの猶予ができた。そして、魔女をひっぱりだしてくれた。だから、私が世界を改変しに来れたの』 マミ「……改変。世界は、変わってしまうの?」 『うん。魔女のいない世界に。時期に世界は変わります』 マミ「じゃあ、この世界はどうなるの?」 『私によって滅んでしまった世界は。消えてしまった人達は、元に戻ると思います。魔女に殺されたこの世界の杏子ちゃんや、ほむらちゃんも』 マミ「私達の記憶は?」 『多分、なくなってしまうと思います。世界のあり方が変わってしまうから』 世界が変わるなら、あたし達の経験した事もなかったことになってしまうのか? マミ「そんな、せっかく杏子ちゃんや暁美さんとも友達に……」 杏子「マミ……」 『ごめんなさい、マミさん。でも、杏子ちゃんもほむらちゃんも、この時間軸とは別の時間軸の存在だから。元の世界に帰らないといけない』 マミは、この世界であってから初めて見せる、悲しい表情を浮かべた。 あたしも。きっとそうだろう。 マミ「……ねえ、杏子ちゃん。」 杏子「……なんだ?」 マミ「杏子ちゃんは。杏子ちゃんや、暁美さんは、元いた世界でも。私と友達なんだよね。」 杏子「ああ」 ほむら「ええ」 マミ「だったら。無理に引き止めたら、その世界の私が泣いちゃうよね」 マミは、にっこりと微笑んだ。目の端に涙を浮かべながら。 『そろそろ時間だよ』 世界が、光で包まれていく。 杏子「マミ!!世界が変わったらさ!そっちの世界のあたし達も生き返ってるらしいからさ!」 マミ「杏子ちゃん!」 杏子「きっと出会って、友達になれるさ!!」 マミ「うん、私、絶対に二人を探すわ!記憶なんか無くたって、絶対!」 ほむら「私達のつながりは、腐れ縁なんかで言い切れないくらい深いもの。たとえ嫌でも、生きてさえすれば。きっと巡り合うわ。」 マミ「暁美さん!」 ほむら「何度も何度も世界を移動してやり直した私が言うんだもの、間違いないわ」 マミ「うん!うん!」 杏子「だから、サヨナラはいわねえからな!」 ほむら「そう、さよならじゃないから!」 マミ「杏子ちゃん!ほむらちゃん!」 『ウェヒヒヒ。人の心の強さは。絆の強さは。無限大。その奇跡に私も賭けるよ』 ……だから、またね。 4人の言葉が、光の中で重なった。      ◇ ロッソファンタズマロッソファンタズマ うるさいなあ。 耳元でなんだよお。 杏子「うーん」 ああ、あたしの携帯の着信音か。 マミの奴が勝手に設定しやがったんだっけ。 うー、長い夢を見ていたような。なんか体が重い。 ほむら「まどか……」 重いとおもったら、ほむらがあたしの上にのしかかっていた。 ぐい、と振り払い、ポケットから携帯を取り出し電話に出る。 杏子「はい、もしもし……」 マミ『杏子、いったいどこにいるの?』 杏子「ま、マミ?!」 マミ『もう晩御飯の支度できてるから早くかえってきなさい。』 杏子「あ、えっと」 どこだ、ここ。 ふらふらしてた頭が徐々に覚醒してくる。 そうだ、ここはほむらのアパートだ。 あたしなんでここに居たんだっけ。 マミ『すぐ帰ってこないと、晩御飯抜きよ!』 通話が途絶えた。 杏子「そ、それだけは簡便!」 ほむら「……杏子」 杏子「ほむら、話は後だ!」 ほむら「いいから。待ちなさい」 杏子「おまえなあ、あたしの晩飯がかかってるんだぞ!」 ほむら「あなた、覚えてる?さっきまでの出来事」 杏子「……ああ」 覚えてる。忘れるもんかよ、あんな体験。 まどかの奴は、記憶はなくなるなんていってたけど、しっかりあたしの記憶に焼きついてやがる。。 ほむら「私達は、過去に戻ったと思っていたけれど。本当は違う時間軸に飛んでいて。」 杏子「そこで、マミを救う事ができた。」 改変された世界でも、元気にアイドルを続けてるのかな、マミ。 あたし達に記憶が残ってるんだ、あいつにもきっと残ってるはず。 だとしたら、あっちのあたし達と出会えてる、かな。 ほむら「そう、救う事はできた。でも」 杏子「なんだよ。」 人の感動に水を差すつもりか。 ほむら「救ったのは、あの時間軸の巴マミ。この時間軸じゃないわ。この時間軸の巴マミは何も変わっていない。それだけは理解してなさい」 杏子「……」 そうだ。 この時間軸のマミは、これからもずっと。 月命日のたびに両親を想い辛い表情をし続けるのだ。 一つの世界と、一人の少女を救いはしたけれど。 結局この世界はなにも変わらなかったのだ。 ほむら「でもきっと、大丈夫よ。ふふ」 ほむらのアパートを出て、帰路に着く。 帰る足取りが重い マミのマンションってこんなに遠かったっけ。 杏子「ただいまぁ」 マミ「おかえりなさいっ」 ゆま「おかえり、キョーコー」 玄関を開けると、マミとゆまが出迎えてくれた。 ゆま「キョーコ遅いよ!ゆまお腹ペコペコだよぉ」 杏子「そんなに腹減ってるなら先に食えばいいのに」 ゆま「何言ってるの、キョーコ。先になんか食べれないよ」 マミ「そうよ、杏子ったら。」 だって、私達は家族じゃない。 二人の声が、ハモった。               ◇ そして。 杏子(やっぱりマミのやつ。無理して明るく振舞ってる) 食事の時も、マミの奴は、時々つらそうな表情を浮かべていた。 やはり両親の月命日は、思い出してしまうのだろう。 そう思うと、マミの明るさ、優しさが痛々しい。 いや、もしかしてあたし達が家族のように振舞うからこそ。 両親の事を思い出してしまうのだろうか。 あたしに、何か出来ないのか。 ……だから、あたしは我慢しきれずに、就寝前のマミに話しかけた。 杏子「……なあマミ」 マミ「なあに?」 杏子「ごめんな、あたし。何も出来なくて」 マミ「え?」 杏子「マミが辛い顔するのに、何も。何も出来なかった」 結局あたしはあれだけの苦労をしても今のマミの笑顔を取り戻すことなんてできなかったんだ。 マミ「もう、何を言ってるの?」 杏子「今日は、ご両親の月命日だったんだろ?」 マミ「ええ、そうよ。今日もお墓に行ってきたわ」 マミの心に影を落とす、辛い記憶。 マミ「最近はね、よくあなたや、ゆまちゃんの事を報告するのよ。うふふ」 マミは、楽しそうに笑っている。 マミ「あなたやゆまちゃん。暁美さん達と一緒に過ごすようになってから、月命日の日も、楽しい気分になれるのよ」 杏子「へ?」 マミ「今の私はこんなに幸せだよ、ってお父さんとお母さんに報告するのがとても楽しいんだもの」 杏子「で、でも、今日だってすごい落ち込んでたんじゃ……」 マミ「え?」 杏子「え?」 アレ? でも、ゆまの奴が確かに。 マミ「んっ」 あ、ほら、いまも辛そうな顔をした。 ……やっぱり無理をしているんじゃ。 マミ「最近、虫歯が出来ちゃって。今日もお墓参りの後に歯医者さんにいってきたのよ。」 杏子「は?」 マミ「毎日しっかり歯磨きしてるのになぁ。公園にあるクレープ屋さんで買い食いばかりしてるせいかしら」 杏子「あんなとこにクレープ屋なんかあったっけ?」 マミ「何を言ってるの?ずっとあるじゃない、あのクレープ屋さん」 そうだっけ? って、いうか。 まさか。 マミが落ち込んでたのって。 虫歯のせい? あたしって、ほんとバカ…… マミ「で、杏子、いったい何の話だったの?」 杏子「あーもう!うっせーうっせー!なんでもねえよ!」 掘り返すな、恥ずかしくて死にたくなる! マミ「もう、気になるじゃない!」 杏子「なんでもねえって言ってるだろ!って、離せよ!」 マミがあたしの腕をぎゅっと掴む。 マミ「むぅ、教えるまで離しません。」 こうなったらマミは頑固なのだ。 杏子「仕方ねえな、覚悟しろよ!あたしがさっきまでどれだけ苦労してきたのか話してやる!」 ショ−トストーリーにして11話くらいになる、長い長いお話を! 時をかけた魔法少女と、あるアイドルの物語を。 朝になってもしらねえからな!! 『……思い出話せば日が暮れて。未来を語れば日がまた昇る。それはそれは、大きな宇宙の片隅の、小さな星の、奇跡の物語。ウェヒヒヒ』