その日は。いつもと同じような、特別でも何でもない、ごくごくありふれた日だった。 ゆま「マミおねーちゃん!おでかけ?」 マミ「……あ、ゆまちゃん。ちょっと私はでてくるから、後の事は宜しくね」 ゆま「うん。いってらっしゃぁい」 杏子「あれ、マミは?」 ゆま「うん、今、出て行っちゃった。でも、なにか様子がおかしかったよ。少し落ち込んでたような」 杏子「……ああ。そうか、今日はあの日か」 ゆま「あの日って?」 杏子「マミの奴はさ、昔から月に一度、ああなっちゃうんだよ。やっぱ辛いだろうしな」 マミの両親の月命日。 あたしも、マミの気持ちはわかる。だってあたしも同じだから。 ゆま「あ、月に一度って」 杏子「そっか、お前にもわかっちまうか。あたし達三人とも同じだもんな」 マミの両親は事故で。 あたしの両親は自殺で。 ゆまの両親は、魔獣に殺されて。 事情は違えど、あたしたち三人は両親を失ったのだから。 ゆま「でも、ゆま、まだ来てないよ?」 杏子「はあ?」 なんか話がかみ合わないな? ゆま「月に一度来る、女の子の日のことでしょ?」 杏子「な、な、な!?」 ゆま「ほむらが教えてくれたんだよ。ゆまにも来たらもっと素敵な事おしえてあげるってゆってた」 ……ほむら。 杏子「……ゆま、あたしはちょっとほむらの家にいってくる。留守番たのんだぜ」 あたしは、ことさら優しく、ゆまの頭をなでて言った。 ほむらの奴が。同じ魔法少女として、そして友達として、あいつが道を踏み外す前にケリつけてやらなくっちゃな。 ゆま「いってらっしゃーぃ」                  ◇ そしてほむらの家。 杏子「暁美ほむらぁぁぁ!!」 あたしはほむらの家の扉を蹴破って中に入る。 ほむら「……一体どうしたの?」 杏子「お前のその薄っぺらい胸に聞いてみろ!」 ほむら「胸についてはあなたにはいわれたくないわ。それに、いま忙しいの」 そういうほむらは、見慣れない円盤を手にはめていじくっている。 杏子「……なんだ、その円盤」 ほむら「これは、私が昔使ってた魔法の装備よ。今でこそ弓を使っているけれど、昔はコレで時間を操作して戦っていたの」 杏子「時間を操作?」 ほむら「時を止めたり、過去に戻ったり」 杏子「……過去に?」 ほむら「ええ。世界が改変されたときに失っていたはずなのだけど。一体どうして今頃でてきたのかしら」 過去に戻れるだって? だったら、もしかしたら。 杏子「なあほむら!ソレを使って、マミの奴が交通事故にあう日まで戻れるか?」 もし過去に戻ってマミの事故を食い止めれたら。あいつが毎月あんな悲しい顔をしなくても良くなる。 ほむら「難しいわね。それって結構過去でしょ?私が過去に戻れたのはたった一ヶ月、それも決まった日にしか戻れなかったわ」 杏子「魔力をおもいきり充填したら?お前とあたしが協力したら、もっと前まで戻れないかな」 ほむら「仮に出来たとしてもおすすめしないわ。今この時間軸に二度と戻って来れなくなるかもしれないわよ。」 杏子「……そっか」 ほむら「過去の悲しい事柄も。生きてさえいれば、いつか必ず幸せで塗りつぶせるわ。」 杏子「そうだよな。うん」 ほむら「……あなたの大切な人は、今ここに生きているんだもの。それがどれだけ幸せな事か」 そう言ってほむらは悲しい顔を浮かべる。 杏子「ほむら…。」 ほむら「それにしても、過去に戻れると聞いてまず思い浮かべるのが巴マミの事だなんて。」 杏子「悪いかよ。」 ほむら「あなたらしいなって思っただけよ」 杏子「最初に不幸にあったのがマミってだけで、た、たまたまなんだからな!マミの次はあたしで、その次はゆまで……」 あ。 ゆまで思い出した。ここにきた理由を。 すっかり忘れるところだった。 杏子「そうだてめえ、またゆまに変な事吹き込んだだろ!」 ほむら「……何のことかしら」 杏子「しらばっくれんな!ちょっとそこになおれ!ついでにそのひねくり曲がった性格もなおれ!!」 ほむら「せっかくだけれど遠慮するわ」 杏子「こら、逃げんな!まてっ!」 ほむら「ちょ、乱暴は……あ」 あたしとほむらが大人気なくもみ合ったそのとき。 カシャン。 ほむらの手にした円盤が乾いた音を立てて、回転する。 杏子とほむら「うわあああああああ」 あたしは、円盤から広がる不思議な光に包まれ、意識が遠くなった。 『あ、ちょっとまって……』 薄れ行く意識の中で、懐かしい声を聞いた気がした。           ◇ 杏子「ここは…」 目を覚ますと、そこは見覚えのある景色だった。 ほむら「巴マミのマンションの近所ね。さっきまで私のアパートにいたのに。」 あたしの横ではほむらが立っていた。 杏子「いったいなんだったんだ?あの円盤がいきなり……」 ほむら「アニメ的なお約束だと、おそらく……。」 まあ、そうなんだろうな、お約束的に。 ほむら「とりあえず巴マミのマンションにいってみましょう。予想通りならきっと……」 ほむらに促され、マミのマンションに移動する。 外から見る限りなにも変わっちゃいないけど。 エレベーターを上がり、マミの住んでいる部屋の階まで上がる。 杏子「特に変わった様子はないけどな」 ほむら「杏子、隠れて!誰か出てくるわ!」 少女「お母さん、いってきまーす」 マミの部屋の扉から少女が駆け出してきた。 杏子「まさか、あいつ!」 その少女は、あたしの知ってるマミと共通点が沢山あった。 美しい金髪。 ほむら「金髪はアニメ的表現じゃないのかしら」 杏子「うるさい」 少したれ目、だけど大きくて綺麗な瞳。 柔らかそうな、桜色の唇。 大きな胸……は、あたしの知るソレより少し小さい。 そう、今出てきた少女は、あたしの知るマミよりも少し幼い、少女だった。 ほむら「今よりだいぶ幼いけれど、巴マミね。……萌えるわね」 杏子「おい」 少女「きゃっ」 駆け出してきた少女は、角に隠れていたあたしにそのままぶつかってしまう。 杏子「おっと、大丈夫か?」 倒れそうになる、少女を咄嗟に受け止める。 少女「あ、ご、ごめんなさいお姉さん」 杏子「!!」 お姉さん!? 少女「あ、あの?」 杏子「お、おおおおう、キニシナイで。」 少女「はい、じゃあ私お醤油買いに行かなくちゃいけないので、これで」 そう言ってぺこりん、と頭を下げて走り出してしまった。 ほむら「なるほど、噂に聞くお醤油マラソン中ね。これを繰り返せば巴マミの因果値が……」 杏子「……」 ほむら「何にやけた顔してるのよ。そこはまどマギポータブルかよ、と突っ込むところでしょう」 杏子「な、なんでもない」 マミにそっくりの。 というか、あたしの知る巴マミよりも少し幼いマミに、お姉さん、と呼ばれたときに感じた、なんともいえぬドキドキ感! ほむら「調子が狂うわね。しっかりしなさい。とりあえず後をつけましょう」 杏子「お、おう」              ◇ スーパーで醤油を買ったマミは、鼻歌を歌いながら散歩しつつ歩く。 のんびりしてるもんだから日が落ちて、あたりは暗くなってくる。 ほむら「今の巴マミとはちがって、何かと隙の多いというか、ちょっと緩そうというか、危機感がないというか。」 杏子「今のマミも、結構ぬけてるところはあるけどな。本来はそっちが素なのかもしれないな」 隙のない、素敵なお姉さん、巴マミは。結構無理して繕っているところがあるからな。 前を歩くマミから少し距離をとり、あたしたちはそっとついていく。 マミ「こっちの道を通れば近道なんだよねー♪」 ほむら「あ、路地裏に入ったわ。」 杏子「ここらは治安はいいとはいえ、あんな子が一人で歩いたら……」 ほむら「そうね、変質者に捕まったらエロ同人のような目に合わされるに違いないわ。」 杏子「ところでほむら、何だその格好」 さっきからずっと気になってたんだ。 ほむら「何って変装よ」 杏子「ここが本当に過去の世界ならマミはあたし達の事知らないんだから変装なんて必要ないだろ。」 目出し帽にサングラスにマスクにコートとか、めちゃくちゃ怪しいぞ。 あたしだって一緒に歩くのを勘弁して欲しいレベルだ。 マミ「なんだか急に暗くなってきちゃったなぁ。あそこの張り紙、痴漢注意ってかいてある。ううう、やっぱり広い道通ればよかったかな……」 マミのやつは、今更ながら怖くなったのか、キョロキョロしながら歩く。 ほむら「大変!美少女が困っている。心配だから声をかけてくるわ。」 杏子「お、おい」 あたしの制止を振り切り、ほむらがマミに近寄り、そして肩を掴む。 あちゃあ。 ほむら「ちょっといいかしら。」 マミ「きゃぁぁぁ、痴漢!!!」 やはり、想像通りの反応。 あんな格好でいきなり後ろから肩を掴まれておどろかねえ女の子なんかいないだろ! ほむら「え?あ、あの?」 マミ「だれかぁぁぁ!!」 いつものマミならほむらをリボンで拘束でもしているんだろうが。 今のマミはただの無力な少女。 杏子「まて!」 あたしは急いで駆け寄り、ほむらを引き剥がす。 杏子(とりあえずお前はこの場を離れろ!) さすがに友達が逮捕されるところなんか見たくない。 と、いうかこんな格好の奴が友達だってバレるのがいや過ぎる。 ほむら(そ、そうね) マミ「……ふぇ」 マミをみると、少しおびえて目に涙を浮かべている。 杏子「もう大丈夫だ、心配いらない」 あたしは、落ち着かせるためにマミの頭をなでてやる。 マミ「……あ、あの、お姉さん。ありがとうございました」 杏子「いや、平気さ。これ以上暗くなる前に早く家に帰りな」 マミ「は、はい」 なんだかあたしを見上げるマミの顔が赤い。 こ、これは可愛い!! 普段は偉そうにあたしに注意ばっかりするくせに、なんだこの保護欲を沸かせる儚さは! ほむら《杏子。私がせっかくチャンスを作ったんだから、ここでなんとか巴マミと接触しなさい。》 ほむらの声が脳裏に響く。テレパシーだ。 杏子《お前、コレを狙ってわざと?……いや、ないな》 だが、これはチャンスかもしれない。 なんとかうまく交通事故の事を伝えなくては。 マミ「本当にありがとうございました、それじゃ」 杏子「あ、まって」 くる、と背中を向けて走り出そうとしたマミの手を咄嗟につかむ。 マミ「あ……」 ついいつものクセで手を掴んでしまった。 まずい、これではほむらと同じじゃないか! マミ「あ、あの、お姉さん。なんですか?」 だが、マミは悲鳴を上げることなく、あたしを上目遣いで見つめてくる。 よかった。マミに悲鳴を上げられて逃げられたらさすがのあたしもショックがでかい。 杏子「実は」 グゥウウウウウウ 話を切り出そうとしたとき、あたしのお腹の虫が大きな音を立てる。 そういや飯を食う前にほむらの家に乗り込んだから昼飯食べてない。 マミ「お腹すいてらっしゃるんですか?」 杏子「う、うん、そうだけど、そうじゃなくって!!」 マミ「じゃあ、私のお家でご飯食べていってください!お母さんとお父さんにも私から伝えますし。」 杏子「え、え?」 マミ「えへへ。今日は私もお料理の仕込み手伝ったんです。あんまり得意じゃないから失敗しちゃったけど」 杏子「あ、ああ」 マミは、つかんだあたしの手を握り返してきて、引きずるように歩いていった。 一方。 QB「あれ、ここで魔法少女の素質をもつ女の子の気配を感じたんだけどなあ。」 マミがこのイベントで因果値を稼げたかどうかは定かではない。 マミ「ここが私のお家ですっ」 マミに案内され、さっきまでいたマンションへと連れて行ってもらう。 なんだか成り行きでマミの部屋で晩飯をご馳走になることになってしまったな。 マミ「ただいまぁ」 杏子「ただいまぁ。って、間違えた」 ついクセでただいまって言っちゃった。 今はお客さんでも、いつものあたしからすればここは帰るべき我が家なのだから。 マミ「うふふ、お姉さんったら♪」 そう微笑むマミは、あたしの知ってるマミの笑顔よりも少し幼い、それでいてとても魅力的な笑顔だった。            ◇ マミ母「本当にすいません、マミがお世話になったそうで」 マミ父「まったく、もう年頃なんだから気をつけないと。寄り道はだめだよ?マミ」 マミ「はぁい。ねえお姉さん、このハンバーグおいしいですか?私が作ったんです!は、はじめてだったんですけど」 杏子「ああ、おいしいよ」 正直、あたしの知ってるマミのお手製に比べたらちょっと劣るけれど。 なんかちょっとコゲてるし。 だけど、やっぱりマミの味の片鱗は感じる。 杏子「初めてでこれなんて凄いな。練習したらきっともっと上手くなるよ」 マミ「うふふ、やったぁ」 マミ母「うふふ、よかったわね、マミ」 そして、素直に喜んでくれるマミ。 そういや、マミの両親を見るのは初めてだけど。優しい人たちだな。 いきなりあたしなんかに晩御飯をご馳走してくれて。 マミの優しさは、このご両親がいるからこそだったんだろうな。 なんとしても。守ってやりたい。 でも、どうやって?近日中に交通事故でご両親は亡くなりますよ、なんて言って聞いてもらえるのか? ほむら《それは無理ね》 杏子《ほむらか》 突如頭に響く声。テレパシーでほむらが会話してきたのだ。 ほむら《何度も繰り返しループした私ならわかるわ。真実を打ち明けてもそう簡単に信じてなんてもらえない》 杏子《じゃあ、どうすれば》 マミ「お姉さん、もう遅いですし今日は泊まっていってくれませんか?」 杏子「え?」 マミ「お父さんもお母さんも是非って。あ、もちろんお姉さんが嫌じゃなかったら、なんですけど。」 杏子「あ、ああ。それじゃあお世話になろうかな」 そっか、今のあたしはここに住んでるんじゃないんだからなあ。泊まる気満々だったぜ。 ほむら《うまく寝床を確保したわね》 杏子《ああ》 ほむら《…私は野宿になりそうなんだけど》 杏子《わ、わるいな》 ほむら《気にしないで。替わりに、上手くいったら教えて頂戴》 杏子《ああ、なんとか交通事故を防げるように努力してみる》 ほむら《違うわよ、今夜ロリマミちゃんとうまいこといったら、のはなs》 杏子《もう寝ろ!!》           ◇ マミ「それでね、お友達が……」 杏子「ばっか、そこはきちんとだなぁ」 マミ「でもね……」 夜、あたしはマミの部屋に用意された来客用のお布団に包まりながら、取り留めない話をしていた。 学校での話、趣味の話。 マミ「ふわぁ」 杏子「眠そうだな」 マミ「うん、少し。いつもは9時に寝てるから」 杏子「はやいな!!良い子かよ!」 マミ「うん、良い子だよ!」 時計をみると、もう11時だ。 杏子「んじゃねるか」 マミ「えー、もっとお話してたい。杏子お姉さんとお話しするの面白いもの」 杏子「でもそんなに眠そうじゃねえか。ガキはさっさとねろ」 マミ「ガキじゃないもん」 杏子「じゃあ、良い子はさっさとねろ」 マミ「はぁい」 こうしてみると本当に子供だな。 しばらくすると、マミの寝息が聞こえてきて。その寝息を聞きながら、あたしも目を閉じた。 いろいろあったせいか疲れたな、これならすぐに眠れそうだ。 杏子「!!!」 うとうとしかかっていた時、突然布団のなかに入ってくる気配を感じた。 杏子(ま、マミさんっっ!?) トイレにでも起きてたのだろうか。 寝ぼけてあたしの布団にもぐりこんで来たようだ。 杏子「お、おい、マミさん!じゃなくてマミ!」 マミ「すぅ……」 完全に寝てらっしゃる!! ほむら《チャンスよ杏子。そのまま一線越えちゃいなさい》 杏子《こえねえよ!ていうかお前はドコから監視してるんだ!!》 ほむら《勝手知ったるなんとやら、よ。そんな事より暴れたら巴マミが起きるわよ》 杏子《くっ》 とりあえず起こさないように、そっとベッドにもどしてやるか。とりあえず体を離して、と。 ぽよんっ マミ「んっ……」 あたしにひっつくマミの体を引き剥がそうとしたときに手のひらに感じた柔らかい弾力。 杏子《で、でけえ!こいつ、こんなころからこれほどのおもちをお持ちで……》 ほむら《でけえ?おもち!?触ったのね、杏子!》 杏子《あああ、間違ってテレパシーで言っちゃった!》 ほむら《キスは?!キスはしたの!?》 杏子「キスはしてねえよ!間違って胸に触っちゃっただけだ!」 マミ「きすぅ?」 杏子「あああ、今度は声にだしちまった!」 マミ「……ふわ、どうして私杏子お姉さんのお布団に!?」 杏子「あああ、これは、その!」 マミ「まさか…」 やばい、マミに誤解される!!嫌われる!! ほむら《誤解もなにも、一緒の布団に寝ておっぱいをモミモミしたのは事実でしょ》 杏子「モミモミなんかしてねえよ!ってああ、もう!」 また誤爆した!! マミ「も、モミモミ?」 杏子「あああ、お前の名前、巴モミだったよな!」 マミ「もう、違うよ、お姉さん。私の名前は巴マミですよ」 杏子「失礼、かみました」 マミ「違う、わざとだっ」 杏子「か、かみまみた(きゅっぷり〜ん)」 マミ「わざとじゃない!?」 杏子「ファミマみた?」 マミ「まどマギ関連はローソンで展開ですよ、杏子お姉さん!」 杏子「そ、そうだったな。」 だからこのネタはキュゥべぇのネタだって。 ああ、もう、ぐだぐだだ。でも一緒の布団に寝てたこととかはうやむやにできたか。 マミ「でもなんで、私杏子お姉さんのお布団で……」 できてなかったっ! く、幼い少女に手を出したとして逮捕されちまうのか、あたし。 マミ「まあいっかあ、眠いし……おやすみなさい」 杏子「……寝てらっしゃる。仕方ない、あたしはマミの方のベッドで寝るか」 さすがに一緒には寝られないしな。 ほむら《なるほど、やるわね、杏子。そうやって巴マミの残り香をかぐのね》 杏子《ちがう!》 こうして、波乱の一日目は終了したのだった。                       ◇ そして二日目の、朝。 杏子「ふわああああ」 マミのベッドで目を覚ます。 そうだ、夕べマミの奴が寝ぼけてあたしの布団に入って来たからこっちにうつったのだ。 マミの匂いが微かに残ってて、なんかいい感じ。 まるで今ここにマミが寝ているかのような。 マミ「ふぁぁ」 杏子「ってええ!?」 目の前にいた!正確に言えば、同じベッドのシーツに包まれてた! 本来のマミより一回小さい、少女のマミ。 確かにあたしの布団で寝てたはずなのに、結局自分のベッドに戻ってきたのか。 マミ「ふあああ、まだ眠いよ、お母さん…」 どうやらまだ寝ぼけているようだ。 いくら女の子同士とはいえ、変な誤解をされたらマズイ。 あたしはそそくさとベッドから出る。 杏子「お前学校は?そろそろ起きないと遅刻するんじゃないか?」 マミ「うん…あと少ししたらおきるぅ」 マミは一向に目覚める気配がない。 杏子「マミぃ」 マミ「あと少ししたらおきるよぉ」 杏子「あと少しって一体何分だよ」 マミ「うんと、後5時間……」 杏子「すでに単位が分ですらない!!」 まあ、普段9時に寝ているというのに、昨日は11時ごろまで起きていたわけだしな。 多少眠くてもしょうがないかもしれない。 杏子「マミ、何時に起きたら学校に間に合うんだ?」 マミ「うんとねぇ……8時」 8時か、今の時間は7時過ぎ。まだ結構あるし仕方ない、寝かしといてやるか。 あたしは可愛いマミの寝顔を眺め、ため息をついた。 その時、コンコンっと控えめなノックの音が聞こえた。 杏子「はい」 扉を開ける。 マミ母「ごめんね、杏子さん、起こしてしまって。そろそろマミを着替えさせないと遅刻しちゃいそうだから」 杏子「着替えさせる?!」 正確な年齢は公式設定を知らないからわからないにせよ、そこまで小さな女の子でもないだろうに。 ……結構おっぱいもあったし。 マミ母「この子、朝が弱いから。少しでも夜更かししたらもうだめなんです。」 杏子「あ、すいません、夕べあたしが遅くまで起こしてたせいで」 マミ母「ううん、いいのよ。マミったらあんなに楽しそうだったし。ずっとお姉さんが欲しいって言ってたからきっとうれしかったのね」 杏子「そうなんですか」 マミが、お姉さんを欲しがってたなんてな。 あたしからすると、まるで本当のお姉さんのように感じていたけど。 マミ母「それで悪いんだけど、杏子さん。マミのお着替え手伝ってくれます?」 杏子「へ?」 マミ母「私は上着を着せるから、杏子さんはパジャマのズボンを脱がしてスカートを履かせてやってもらえます?」 杏子「あ、あ、ああたしが?!」 しかも下半身?! マミ母「手伝ってくれたら、朝食のウインナー一本追加しちゃう♪」 そういって、ウインクをしてみせる。 杏子「手伝います!」 言っとくがけしてウインナーに目がくらんだわけじゃないぞ? マミのお母さんが、一瞬あたしの知ってるマミに重なったから。 なんとなく断れなかったんだ。 ほむら《わかってるわよ、ロリマミちゃんのお着替えに目がくらんだのよね》 杏子《またお前か!どこから覗いて……》 ほむら《……お着替えを済まして朝ごはんを食べたら、近くの公園まで来て》 杏子《わかった》 ほむらの声が、少し真剣なものだったことに気がつき、あたしも冷静になる。 ほむら《邪魔して悪かったわ。お着替えがんばってね》 んん!? マミ母「それ、マミちゃん、ばんざーい」 マミ「ふぁう……」 ほむらからの一方的なテレパシーを終え、視線をもどすとマミ母が丁度マミのパジャマの上着を脱がせたところで。 杏子「!!」 マミの大きなふたつのおもちが目に飛び込んできた。 マミ母「杏子さん、今よ、パジャマのズボンを!」 杏子「えええ?!あ、はい!」 マミ「ふぁう?」 言われるままにマミのパジャマをずり下ろしたら勢いがあまり。 マミ母「あら、下着まで脱いだならついでにお着替えしましょうか♪」 杏子「うわぁぁ!?マミさんごめんなさいごめんなさい!」 マミ「はぁい」               ◇ ほむら「遅かったわね」 なんだかいろんなことがあって、あたしは巴家に挨拶を済ませ約束の公園へやってきた。 杏子「ああ、わりいな。ちょっと頭を冷やしてきてたんだ。そこの噴水で」 ほむら「それで頭がびしょびしょなのね。」 杏子「ああ。なんか朝からめまいがしそうな事のオンパレードでな」 いけない、また思い出してしまいそうになった。 ほむら「私もさすがにパンツまで脱がせるとは思わなかったわ。」 杏子「見てたのか!?」 ほむら「え?」 杏子「え?」 ほむら「ごめんなさい、冗談で言ったんだけど、まさか本当に……」 杏子「ば、ばか、あれは事故みたいなもんだ!」 ほむら「確かに、あの巴マミはまどかに通じる幼さがあってかなり萌えよね、同士」 杏子「お前と一緒にするな。あと同士って呼ぶな」 ほむら「導師?」 杏子「あたしはお前を導きもしねえしネコミミつけてホーリーもうたねえよ!」 ほむら「そんな事はさておいて。本題なのだけど」 杏子「ああ。」 ほむら「巴マミの裸はどうだったの?」 杏子「幼さが残る中に成長途中の少女の美しさがあいまって見事な……って何を言わせるんだ」 ほむら「……」 杏子「言わせておいて驚くなよ」 ほむら「ごめんなさい、触れてはいけない闇に触れてしまいそうだったわね、冗談はここまでにして」 杏子「ああ」 ほむら「おっぱいの感触はどうだった?」 杏子「同年代の少女より成長しつつもまだ成長段階のおもち特有のわずかな堅さを感じながらも、やっぱり柔らかかった…」 バシっっとほむらの頭を殴る。 杏子「って何を言わせるんだ!!」 ほむら「痛いわね!ボケは二回繰り返すのはお約束でしょ!?それに中々見事なのりつっこみだったわよ!」 杏子「ほめんじゃねえよ、うれしくねえよ!とにかく本題に入れよ!さっきから裸とおっぱいの話だけで本編がちっともすすまねえだろうが!」 変態トークでどんなけ会話するんだよ! ほむら「あなたは、タイムスリップ物を見たことはある?」 杏子「ん?バックトゥザフューチャーとか、ドラえもんとか、涼宮ハルヒとか?」 ……レパートリーが少なくて悪かったな。 ほむら「それだけ見てれば十分よ。それらの主人公が過去に来て必ずすること。わかる?」 杏子「はぁ?」 ほむら「そして私達は、それらの主人公が必ずするその行為をしていなかった」 杏子「行為?もったいぶらずに言えよ」 ほむら「マーティも、のび太も、キョンも。過去に戻ったとき、必ず『今が何年で何月の何日』かを確かめていたわ。」 杏子「ああ、そういやそうだったな。幼いマミを確認したせいで必要なくなったしな。」 あたしの知ってる巴マミより、一回り幼いマミをみてしまったら、ここが過去だと認識せざるをえないしな。 ほむら「私も、その時点で過去に来たとおもって油断していたのだけど。油断してしまっていたのだけど。」 杏子「なんだよ」 ほむら「杏子。あなたは、巴マミが事故にあうのが何月何日で、今が何月何日か、認識しているの?」 事故でマミの両親は亡くなってるんだから。えっと。 ほむら「しっかり思い出しなさい。来るべき日がいつかわからないと、対策できないわよ」 杏子「あ?ああ、マミの両親の月命日が12日だから、おそらく12日だろう」 ほむら「12日?12日なのね?本当に?」 杏子「ああ」 ほむら「なら急ぎましょう。……今日がその12日よ」 杏子「まじかよ!」 マミの話だと、たしか学校帰りに外食にいく途中だとかなんとか…… ほむら「なるほどね。なら、事故が起きるのは夕方から夜と言ったところかしら。」 いまはまだ朝だ。まだ対策を練る時間もあるだろう。 ほむら「対策のほうは私で何とかするわ。あなたは巴マミを監視しておいて頂戴。私達というイレギュラーが介入した時点で、歴史には多少のゆがみが生じるわ。」 杏子「ゆがみ?」 ほむら「たとえばあなたがそこの売店でクレープを買うとして。」 ほむらが公園の広場の隅で営業するクレープ屋を指差す。 杏子「お、うまそうだな」 ほむら「聞きなさい。私達の時代では、あのクレープ屋は倒産しているわ。」 そういやこの公園には何度か着てるが、見たことないな ほむら「本来は赤字で倒産するクレープ屋が、あなたの買った売り上げ分で倒産せずにすんだら?それだけで多くの人の運命が代わるわ」 杏子「クレープ一個でか?」 ほむら「たとえばの話よ。いつ、何の影響でゆがみが生まれているかわからないわ。歴史を変えるというのは、そんな危うさをはらんでいるわ。」 杏子「……それでも。あたしはマミが悲しまないようにしてやりたい。それに、マミのご両親はとてもいい人たちなんだ。かかわっちまったんだ、見殺しなんかに出来るかよ」 ほむら「それが神への反逆だとしても?」 杏子「罪の無い女の子が悲しむのが神さまの決めた出来事だって言うのなら、そんな運命ぶち壊してやるさ。」 ほむら「……あなたらしいわね。」 杏子「今はとにかくマミだ。他の事はまた後で考える。あたしは万能の神様じゃねえからな。」 全部を救う事なんかできやしない。 たとえば、どちからしかその場で救えない状況なんかで選択していかなければならないことがあるだろう。 ならあたしは自分の心に正直に、選択していくだけだ。両方どっちつかずなんかで両方救えない、なんてのは嫌だからな。 杏子「その時、一番大切な人を助ける。一番大切な人を助けたらその次の人を助ける。それを力の限り続けるだけだ!」 それに、人を不幸から救う事の何が悪いのだ。 そのときのあたしは、何一つ迷うことなく、そう思っていた。                 ◇ 杏子「ここがマミの通ってる小学校か。……このクレープうめえな」 あたしは公園で買ったクレープをかじりながら、小学校の校門の前に立つ。 まどマギポータブルではマミはもう中学生だったけど、アニメ原作じゃ小学生っぽかったもんな。アニメじゃあたしもちっさかったし。 だからそこは気にしないでいこう。 杏子「普通に考えれば校門の前でまってればいいんだろうけど。」 あたしとほむらが干渉したせいで生まれた歪み、か。 杏子「……それに、なんかキナ臭いんだよね。」 学校から感じる、魔獣の気配。……いや?それとは少し異質な。 でも、禍々しい魔力の波動。 杏子「……気になるな。仕方ない、潜入するとしますか」 異質とはいえ。 まちがいなく小学校の敷地のどこかに魔獣が発生しているのだろう。 杏子「まさか本当にこれを使うことになるとはな……」 あたしは、手にしていた紙袋を見つめる。 いや、やっぱ、無理だって。 杏子「ああ、クソっ!ほむらのやつめ!」             ◇ あたしはさっきの公園での出来事を思い出す。 ほむら「杏子。これをもっていって。」 そういってほむらから渡された紙袋。 杏子「なんだ?これ」 ほむら「あなたはロリマミちゃんが想定に外れた行動をしないように監視しなくてはらない。それはさっき説明したわよね」 杏子「ああ。予定通り、交通事故にあうはずの行動をとらなくちゃいけないってんだっけか」 あたし達が介入したせいでこの時代にはゆらぎが生じている。 そのせいで、マミたちの家族が違う行動をとったせいで、想定とは違う場所で事故にあってしまうと対処が難しくなる。 だから、マミには出来る限り予定通り行動してもらわなくてはならないのだ。 ほむら「ロリマミちゃんは、資料によると今日の放課後、両親とお食事に行く途中に車で事故にあうわ。」 杏子「資料ってなんだ?」 ほむら「まどマギポータブルよ。」 杏子「……」 ほむら「なによ。」 杏子「いや、なんでもねえ。で、結局この紙袋はなんなんだ?」 ほむら「巴マミの通う私立小学校の制服よ。それを着て、近くから監視してなさい。」 杏子「はぁ?!」 ほむら「いいわね。必ず予定通り両親の車に乗り込むところまで監視しなさい。そこから先は私が引き受ける。」 杏子「ちょ、まて!あたしが小学校に潜入なんかできるかよ!一発でばれるわ!」 ほむら「大丈夫よ、あなたなら。あなたロリマミちゃんより貧乳だし。」 杏子「おまえだけには言われたくないっ」               ◇ 結局。 杏子「全然バレねえし……。そんなことでいいのか、小学校のセキュリティ!」 なんなくあたしは潜入していた。 あたしが幼く見えるんじゃなくて、きっと制服のおかげなんだろう、そうに違いない。 というか、あいつどこからこんなの調達してきたんだろう。 杏子「いくらバレないとはいえ、授業中生徒がうろちょろしてたらやばいしな。はやいとこマミの教室をさがさねえと。」 まずはマミの確認。 無事を確認したら、速攻で魔獣を見つけ、倒す。 マミの奴は魔法少女の素質がある。 そして素質のある人間は魔獣を認識できる。 逆に、認識できてしまう人間は、どうしても巻き込まれてしまう確率が高い。 マミ「あれ、杏子お姉さん?」 杏子「うわぁ!?」 突然後ろから声をかけられ、思わず飛び上がってしまう。 振り返って確認。間違いない、マミだった。 マミ「どうしてここに?と、いうか杏子お姉さんって小学生だったんですか?」 杏子「あ、あの。その、なんだ」 マズイ。見つかって予定が狂ってしまったということよりも。 マミに変な目で見られるのがいやだ!! いい年した(中学生だけど)やつが小学校の制服着てうろついてるなんて、絶対バカにされてしまう! なんとかごまかさないと。 杏子「あの、えっと、そう、実は6年生だったんだ」 マミ「えええ、同級生だったの?杏子お姉さん大人っぽいからてっきり中学一年生くらいかとおもってました。」 杏子「中学一年でもねえんだけどな……」 マミ「何かいいました?」 杏子「い、いや、なんも」 マミ「あ、でも杏子お姉さんじゃ変ですよね、同級生だと」 杏子「そ、そうだな、杏子でいいよ、マミ」 マミ「うふふ、わかりました、杏子ちゃん」 杏子「!!」 お姉さん、と呼ばれることにもなかなかの新鮮さを感じていたけど、ちゃんつけで呼ばれるのはまた新しい!! マミ「どうしたの?」 杏子「ちょっと感動を……」 マミ「あ、そろそろ移動しないと。授業が始まっちゃう。」 杏子「ああ、移動教室なのか」 マミ「うん、つぎは音楽の時間だから。それじゃあまたね、杏子ちゃん」 杏子「ああ、またな」 そういってかけていくマミを見送る。 マミの確認はしたし、もうひとつの目的も達成しないとな。 杏子「……さてと」 マミが駆けて行った方角。 その方角から、強い瘴気をかんじる。 杏子「やっぱり引き寄せられちまったか。急がないと」 あたしはマミから少し距離をとり、その後を追いかけた。          ◇ マミがパタパタと走る少し後を追いかける。 追いかける、のだが。 杏子「さっきから結構走ってるのに、まだつかねえのか?」 と、いうかこの廊下長すぎじゃねえか? 杏子「……ああ」 いつのまにか、魔獣の結界に取り込まれちまってたってわけか。 先を行くマミも、異変を感じたようでキョロキョロとしている。 杏子「マミ!」 マミ「あれ、杏子ちゃん?」 杏子「こっちだ!」 マミ「あの、これいったい……あっ」 あたしはマミの手をとり走る。 結界の出口を探すが、見つからない。 杏子「くそ、まるで迷路のような結界だな」 魔獣の結界にしては変に手が込んでいやがる。 空間には、薬のオブジェのようなものが浮かんでは消えている。 あれは診察台?メスのようなものや、手術中、と書かれた緋いランプも見える。 まるで、そう。 マミ「学校にこんなトコなかったはずなのに……」 杏子「しゅじゅちゅしつみたいだな」 マミ「え?」 杏子「しゅ、しゅじゅちゅちつ」 マミ「しゅじゅつちつ?」 杏子「だからっ!しゅじゅちゅ……いた!」 舌を噛んだ。 マミ「だ、大丈夫?」 杏子「う、うるせー!」 小学生に心配されてしまった。 マミ「杏子ちゃんの言うとおり、まるで『手術室』みたいだね!」 小学生にフォローされてしまった。 杏子「どいつもこいつもこの結界が悪い!こうなったら魔獣に八つ当たりしてやる!!」 魔獣を倒せば結界だって壊れるだろうしな。 マミ「魔獣?」 杏子「この結界を作ってるヌシさ。……いや、その前に。」 突然物陰から魔物が飛び出してきた。 杏子「あんた達から八つ当たりを受けてくれるんだね!」 あたしは、咄嗟にソウルジェムから槍を召喚し、襲い掛かってきた魔物を打ち払う。 魔物はあたしの槍の一撃で動かなくなった。 杏子「なんだ、あっけねえ。魔獣の手下かなんかか?」 マミ「杏子ちゃん、すごい!」 杏子「へへ、これくらい朝飯前さ」 と、謙遜はするが悪い気分じゃない。 あのマミの奴があたしを手放しで褒めてくれるんだから。 杏子「へっ、この調子でガンガンいくぜ!マミ、あたしから離れるなよ!」 マミ「うん!」 杏子「おっと、その前に……はっ!」 ソウルジェムをかざし、意識を集中する。 ソウルジェムが放つ光につつまれたあたしは、一瞬の後に魔法少女への変身を終える。 マミ「わぁぁ。まるで漫画やアニメの魔法少女みたい!」 杏子「そうさ、あたしは魔法少女、さ。漫画やアニメのような、ではないけどな」          ◇ 襲い掛かってくる魔物を蹴散らしながら、あたしは結界の奥へと進んでゆく。 マミ「なんだか風景が変わってきたね」 杏子「だな。」 さっきまでは薄暗い手術室!のようだった風景が、どんどん明るくなってきて。 杏子「あれキャンディか?でっけえなあ」 マミ「あれケーキだよ!美味しそうだね」 まるでお菓子の家のような。 ちょっと。いや、かなり後ろ髪引かれる気持ちはあるけれど。 いまはマミの安全の確保が第一だ。 杏子「ここが、最後か?」 結界の奥に現れた扉。奥からは強力な瘴気を感じる。 杏子「んじゃいくか本気で行くとするか!」 あたしは全力で扉を蹴破る。 杏子「……ん?」 扉の向こうにいたのは、魔獣ではなく。さっきまで襲い掛かってきていた魔物と同じくらいのサイズのナニカ。 杏子「妙に強い瘴気を放ってるけれど」 だが、その見た目はぬいぐるみのようで、とてもじゃないが魔獣には思えない。 杏子「ハズレだったか?まあいいや、即効で片付けさせてもらうぜ!」 あたしは槍を振りかぶり、ヌイグルミのような魔獣?の座っているイスの長い脚をへし折る。 落下してきた魔獣を、槍でぶんなぐり、吹き飛ばす。 壁にぶつかった魔獣に向かって、あたしは巨大化させた槍を投擲する。 ソレは見事に魔獣に突き刺さり。 杏子「口ほどにもねえな。」 決まった。そうおもった、その瞬間。 魔獣は、口を大きく開けると、そこから巨大な体が飛び出してきた。 飛び出してきた巨体は、近づきながらぐぱ、と口を開ける。 杏子「……!!」 やばい、油断した。やられる。 そう思った瞬間。 マミ「あぶない!!」 あたしの体がどん、と押され、倒れこんでしまう。 杏子「いってて……」 マミ「だ、大丈夫?杏子ちゃん!」 杏子「ああ。マミが助けてくれたのか」 マミ「うん、無事でよかったぁ」 はっ、と気がつきマミの体を確認する。 多少のすり傷はあれど、怪我は無いようだ。 杏子「まったく、あんたみたいなガキに助けられるなんてあたしもヤキがまわったもんだ」 あたしの油断が、あたしだけじゃなく、マミの命まで危険に晒してしまったのだ。 攻撃を空振りしてキョロキョロしている魔獣に向かって、あたしは新たな槍を召喚し、向かいなおす。 杏子「ぜってーぶっとばす!!」 もう油断は無い。熱くなる心とは裏腹に、あたしの頭は氷のように冷えてくる。 ーー怒りは戦いに向かう勇気につながるわ。 けっして悪いものじゃない。 でも、心は怒りで燃やしても、頭は氷のように冷静でいなきゃだめよ。 マミの教えが思い出される。 大丈夫だよ、マミ。 杏子「はぁぁ!」 何度も致命傷となるような攻撃をヒットさせた。 だが、いくらあたしの槍を受けても、魔獣はその傷から脱皮するように飛び出してくる。 杏子「どうやら分裂する能力をもってるようだな!」 まったく、変な魔獣だぜ。 杏子「だったら!分裂できなくなるまで八つ裂きにしてやるだけさ!」 あたしは魔力を集中させる。 固有スキル『幻惑』。 その奥義。 あたしの体は、一瞬で13人に増える。 杏子「必殺!!ロッソファンタズマ!!!」 13人のあたしによる波状攻撃。 分裂した瞬間に次の攻撃をヒットさせてゆく。 怒涛の連続攻撃の前に、魔獣の分裂は追いつかなくなってゆく。 幾度めかの攻撃をうけ、やがて魔獣は、断末魔の悲鳴をあげながら地に付した。 マミ「杏子ちゃん、すごい!格好良かったよ!」 謎の魔獣を倒したあたしに、あたしの知るマミより少し幼いマミが駆け寄ってくる。 杏子「あたしにかかればこんなもんさ。怪我は無かったかい?」 マミ「うん。大丈夫。」 幼いマミは、にっこりと微笑む。 杏子「そっか、良かった」 そんな笑顔を見て、なんだか心が癒される感覚を味わう。 マミ「あの、ロッソファンタズマ!!って叫んだところとか、すごく格好良かった!」 杏子「はぁ?そんなの叫んでねえし」 マミじゃあるまいし。誰がそんな恥ずかしいことを。 マミ「えええ?叫んでたよ?」 杏子「なんかの聞き間違いだろ」 小学生くらいだと、変な妄想するやつとかたまにいるけどな。 あたしが必殺技名を叫ぶ? はは、ないない。 マミ「う〜?そうかなあ?」 なんてことを話していると、結界が消えてゆく。 マミ「学校の廊下……」 杏子「無事に戻ってこれたな」 マミ「ねえ、杏子ちゃんはいつもあんなのと戦ってるの?」 杏子「ん?ああ、今日の魔獣はなんか変な感じだったけど。あんなへんてこな奴と戦うのが魔法少女の宿命だからな」 マミ「魔獣?宿命?へえええええ」 マミは、目をきらきらさせてあたしを見つめてくる。 杏子「世間で起こる原因不明の自殺や事件なんかは大抵魔獣の仕業なんだ。そんな魔獣が事件を起こす前に倒すのが魔法少女さ」 マミ「正義の味方なんだね」 杏子「……そんないいもんじゃねえよ」 マミ「私も、魔法少女になりたいな!」 杏子「……」 しまった。マミの無垢な笑顔をみていると。 余計な事までつい話し過ぎちまった。 マミ「それで杏子ちゃんと一緒に魔法少女コンビくんで、一緒に必殺技叫んでみたり。えへへ」 だからあたしはさけばねえって。 杏子「魔法少女はお遊びじゃないんだ、やめときな」 マミ「でも……」 マミの笑顔が曇る。胸の奥がチクっといたむ。 杏子「魔法少女は、ならなきゃいけない、叶えなきゃいけない願いがある、どうしようもないやつだけがなるべきなんだ」 マミ「願い……?」 そう。魔法少女は生半可な気持ちでなるべきじゃないんだ。 たとえば、そう。自分の命をつなぐため。 そうあ、あたしはマミが事故にあい、どうしようもなくって契約をしてしまう、そんな未来を変えるためにここにいるんだ。 杏子「魔法少女は、願いを対価にその命をささげて生まれる存在。人であって人でない。願いを叶えるために人であることをやめた人外。」 マミ「……」 杏子「魔法少女になるってのは、テレビや漫画のように、甘くは無いのさ。」 マミの顔が曇る。 たとえ真実とはいえ、こんな少女の夢を壊してしまうのは、気が引けてしまい。 杏子「それにな、魔法少女になんかなれなくたって。ただの人間にだって出来ることはいくらでもあるさ。」 マミ「そう、なのかな?」 杏子「魔法少女にできることは大抵普通の人間にだってできるんだからさ。」 マミ「えええ?でも、今の私はあんな魔獣と戦えないよ?」 杏子「魔法少女はただ一般人より少しだけ戦えるだけさ。それが得意だからやってるだけだ。正義の味方になりたいからって必ず戦わなくっちゃいけないわけじゃないだろ」 マミ「でも、プリキュアは戦ってるよ?フレッシュプリキュアとか」 プリキュアの名前に歴史を感じるな、うん。 杏子「たとえばミンキーモモは戦ってないだろ。いろんな職業のコスプレしてるだけで笑顔を振りまいてるじゃないか」 マミ「あれだって魔法で変身してるよ!あと、コスプレとかいったらだめ!」 そうだっけ、小さいころ再放送でみただけだから細かいことはわすれちまったが。 杏子「あたしの知ってる奴が言ってたぞ、女の子はだれでも、可愛い服を着ただけで変身できる魔法を持ってるって」 言ったのはマミだけど。 マミ「ずいぶん乙女チックなことを言う人だね」 杏子「だな。」 言ったのはお前だけどな。未来の。 杏子「魔法少女だから。魔法少女になっちまったから出来なくなることだってある。今のお前のままじゃないと救えない人だってきっといる。」 マミ「……」 杏子「まあ、だから、さ。街の平和とお前はあたしが守ってやるから。お前はいまのままのお前でいてくれ。」 あたしはマミの頭をポン、と叩く。 まあ。元の時代にあたしがもどちゃったら、がんばるのは過去のあたしだけどな。 杏子「あんたが笑顔でいてくれるだけで、あたしはうれしい。」 親の月命日のたびに悲しい顔をして。 本当は戦いたくなんか無いくせに無茶をして、傷つく、そんなあんたを救ってみせる。 マミ「ふわわ……」 マミは、なぜか顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。 その時、キンコンカン、とベルがなる。 杏子「丁度授業が終わった見たいだな。」 あたりが、ざわざわ、としてくる。 マミ「あああ!さぼっちゃった?!移動教室だったのに!」 杏子「別にイイジャン、それくらい」 マミ「だめだよ!これから正義の味方になるのにそんな悪い事!」 杏子「おまえ、まだ……」 マミ「ううん、魔法少女にはならないよ。でも、私にも出来る事をやってみる。」 マミはにっこり笑い。 マミ「それで、私にしか出来ないこと、探してみるね、杏子ちゃん。」 杏子「……そっか」 マミ「あ、もういかなきゃ。杏子ちゃん、またあとでね!」 杏子「またあとで、な」 そういって、マミは駆けて行った。 その笑顔を見送りながら、あたしはふと気がつく。 ……もし、マミが契約しなかったら。 未来のあたしは未来のマミと出会えるのか?           ◇ そして放課後。 あれから特に問題は起きなかった。 マミの姿を探すためうろちょろしていたら、丁度体育の時間の前でマミのお着替えに遭遇してしまったり。 廊下でぶつかってパンツをみてしまったり、なんてハプニングはあったけれど。 ……あたしが着替えさせたパンツをこんなに、再び遭遇するとは思わなかったな。 薄いピンク。 って、こんなこと考えてたらまるでほむらじゃねえか。 まじめに考えよう。 えっと、このままいけば、両親が車で迎えに来て、外食にいき。 そしてそこでマミは事故にあう。 事故にあって、両親を失って。 そして命を繋ぐため、魔法少女になる。 ……その事故を阻止するのが、本番だ。 ほむら「あら、どうしたの?」 杏子「なにがだよ」 ほむらと待ち合わせていた校門前に向かうや否や。珍しく心配をしてきた。 ほむら「珍しく考え込んでるみたいだから。小学校でなにかあった?」 杏子「魔獣が出たからやっつけたくらいかな。」 ほむら「魔獣が?」 杏子「ああ。なんか見たことないタイプの魔獣だったよ。最初はヌイグルミみたいな姿だったのに、いきなり口から恵方巻みたいなのが……」 ほむら「ま、まって?それって……でも、まさか」 杏子「不意を撃たれてさ、情けないながらマミに助けられちまったよ」 ほむら「巴マミに?いったいどういうことなの?」 杏子「だからさ……」 あたしはほむらに今日の出来事を説明した。 小学校に無事に潜入できたこと。(非常に不本意ながらだれもあたしが中学生だとは気がつかなかったようだ) でもマミに見つかっちゃったこと。 そしたら魔獣の結界にマミが引き込まれたこと。 見たことないタイプの魔獣だったけど、無事やっつけたこと。 ほむら「まるでそれってお菓子の魔女の……。まさか、でも、そんな。」 ほむらの奴は、なにかぶつぶつといいながら考え込んでしまった。 魔女? ほむら「……それで。なぜあなたはそんなにブルーになってるの?見たことない魔獣に出会ったせい?」 杏子「ちげえよ。ちょっとさ、気がついちゃって。」 ほむら「……」 そう、気がついてしまったのだ。 最初から、少し考えたらわかることなのに。 ……マミが魔法少女にならなかったら。あたしとは出会わなくなるってことに。 あたしとマミの出会いは、魔獣退治の途中だった。新米だったあたしをマミが助けてくれて。 それから、一緒に高めあって、強くなって。 時に喧嘩をしながら。 時に笑いあいながら。 いいことだけじゃなかったけど。いいことも沢山あったんだ。 マミを救うって事は、そんな思い出をなくしてしまうって事なのだ。 ほむら「じゃあやめる?未来を変える覚悟がないなら、なにもしなければいい。そうすれば、元のままよ」 杏子「ばぁか」 大切な思いでは無くなってしまうかもしれないが。 一人の可哀想な魔法少女を、幸せな普通の女の子にかえてやる、唯一のチャンスなんだ。 杏子「やるさ。絶対。」 それに、もし未来であたしとマミが他人になったとしても。 だったらそれがなんだっていうのだ。もう一度出会えばいいだけじゃないか。 ほむら「……そう。わかったわ。じゃあ作戦を言うわよ」 杏子「ああ」 ほむらの口から、作戦が語られる。 ほむら「巴マミと両親を乗せた車は、市外のホテルにある高級レストランに行く途中、高速道路で事故にあう。つまり。」 杏子「つまり?」 ほむら「今日は近場でお食事会をさせればいいのよ。」 杏子「どうやって?」 ほむら「まあ、見てなさい。ほら、ご両親がいらしたわよ。……徒歩で。」 杏子「ん?車で迎えに来るんじゃなかったのか?」 マミのご両親が、校門に向かって歩いてくる。 あたしとほむらは咄嗟に身を隠す。 ほむら「少しばかり、私の魔法を使って、運命をいじったわ。これから家族三人で、市内のレストランへ向かうはずよ。」 杏子「運命をいじるなんてお前の魔法はたいしたもんだな、ほむら。」 ほむら「それほどでもないわ。ちょっと車をパンクさせただけ。」 杏子「おい」 魔法じゃないだろ。 ほむら「魔法の弓でパンクさせたんだもの。車で事故にあうならその車を使えなくしてしまえばいい。」 杏子「まあ、そうだけどさ」 マミ、やっぱり魔法少女には夢も希望もないぞ。 ほむら「後はロリマミちゃんを追跡して、無事を確認すればそれでいいわ。」 杏子「まあ、簡単でいいけどな」 ほむら「さらに、確実性を持たせるために、レストランの予約も、巴マミの家族を名乗ってキャンセルしておいたわ。」 杏子「やるじゃないか」 ほむら「見て、ロリマミちゃんが来たわ。」 杏子「うれしそうな顔してるな、マミ」 両親の姿を見つけ、駆け寄るマミ。 そうだ、この笑顔を。絶対守ってやるんだ。 ほむら「さて、近場のレストランだと、どこへ向かう可能性が高いかしら……」 杏子「おい」 ほむら「この近辺から歩いていける最有力候補は…」 杏子「おい」 ほむら「なによ」 杏子「マミの家族、車にのったぞ!」 校門から少し離れた場所にとめてあった乗用車にのりこんでゆく。 ほむら「え?」 マミ母「車がパンクしていたときはびっくりしたけど、レンタカーを借りれて良かったわね」 マミ父「だね。予約したレストランへいけないところだよ。さあマミ、レストランへ出発だよ」 マミ「わぁい。マミ、あのホテルのレストランだぁいすき!」 なんて話している。 杏子「しかも、予定通り市外のホテルのレストランに向かうみたいだぞ!」 ほむら「まずいわね、一つ見落としていたわ。」 杏子「なんだよ!」 ほむら「確かに私はレストランをキャンセルしておいたわ。」 杏子「だからなんだよ!」 ほむら「でも、キャンセルされたことは巴マミのご両親は知らない!」 杏子「おい」 そりゃそうだ、キャンセルされたことを知らなかったらそのまま普通に向かうわな! マミをのせたタクシーは、走り去ってしまう。 ほむら「このままでは……非常にまずいわ」 杏子「くっ」 このままじゃ、マミをのせた車は高速道路で事故にあってしまう。 そうなったら。 ほむら「予約をキャンセルされた事を知らずに現地に着けば、ロリマミちゃんはきっと悲しむわ!」 杏子「そこかよ!」 ほむら「急いで予約キャンセルを取り消さないと!」 杏子「ちょいとほむらさん!?ソレより前に大切な事あるでしょ?!ああもう!…あ!」 運よく、タクシーが近づいてくる。 杏子「ほむら、タクシーがきたぞ!それに乗って追いかけるぞ!」 ほむら「あら、まるでドラマみたいね!運転手さん、あの車を追いかけて頂戴」                 ◇ そして。 ほむら「巴マミの事故。防げてよかったわね。」 杏子「そうだな……」 あたしとほむらは、高級ホテルの前で、天を仰いで立ちすくむ。 道中、マミをのせたタクシーは事故に会うことはなく、無事にレストランについた。 ほむら「ちょっとしたことで運命は変わるから。たとえば、自家用車じゃなくてレンタカーだったことで、微妙に運命が狂ったのね。」 そんな事くらいで、簡単に未来って変わってしまうんだなぁ。 あたしがクレープを買っただけでも運命が変わるかも、みたいな説明をほむらが最初にしてたっけ。 杏子「お前が車をパンクさせたことも、無駄では無かったってことだな。」 ほむら「そう、ちょっとしたことで歴史は変わるわ。でも、私達が来たから。私達が行動したから歴史はかわったの」 杏子「ああ。がんばってよかった。」 これで、運命を変えられたんだから。 杏子「そういや、マミのやつ。レストランの予約キャンセルされてて悲しんでるんじゃないだろうか。」 ほむら「そうね。悪いことしたわね。泣いてないといいけれど。」 だが、あたし達はそれを確かめる術はない。 泣き顔のマミを想像してみた。 結構可愛いかもしれない。実際に見れないのは残念だ。 運転手「ちょっとお嬢ちゃん達!お金も無くタクシーのるってどういうことなんだ!」 あたしたちは。 いつまでも、怒り狂うタクシーの運転手の怒声を浴びていた。               ◇    隙を見て運転手から逃げ出したあたし達は、必死に走って見滝原へと帰った。 フルマラソンほどではないだろうけど、その半分近い距離を全力疾走するのはなかなかに堪えた。 ほむら「あそこから巴マミのマンションが覗けるの」 ほむらが、マミのマンションの向かいのビルの屋上を指差す。 杏子「お前、昨日も覗いてたのか」 どうりで内情に詳しかったわけだ。 ほむらに連れられて、覗きスポットからマミのマンションを覗く。 杏子「無事に帰ってきたみたいだな」 万が一、帰り道で事故にあわないかとか心配はあったけど。 マミの部屋からは、明かりが見える。 ほむら「レストランがキャンセルされてて、すぐに帰って、自宅で食事をしたみたいね。」 カーテンから微かに覗くマミの表情は、やはり明るくて。 杏子「よかったんだ、これで」 これで歴史は変わっちまっただろうけど。 あたしとマミの出会いは無くなってしまったんだろうけど。 杏子「よかった、ほんとうに」 ほむら「……ふふ。じゃあ、そろそろこの時代ともお別れね」 杏子「だな。じゃあ、頼むぜ」 時系列でいくなら、マミを救った後はあたしの両親だ。 その次はゆまを救って。 そして、もう一つ。 かわっちまった歴史で、もう一度、あたしはマミとの出会いを果たさなきゃいけない。 ほむら「……そういえば、どうやって戻るのかしら」 杏子「は?」 ほむら「私のこの円盤は、そんな都合よく飛べないって言ったでしょ。」 杏子「ちょ、まて。もしかして、あたし達戻れないのか?!」 ほむら「うかつだったわ。帰ることを考えてなかった。」 杏子「おいぃぃ!?それって基本だろ!?」 冗談だろ?あたしは、ほむらの手にした円盤をひったくる。 杏子「こうか?!こうか!?」 ほむら「ちょっと、やめなさい!壊れるでしょ!」 杏子「うるせええ!一生この時代に置き去りにされてたまるか!マミぃ!」 ほむら「ちょっと返しなさい!壊れたら本当にどうしようも……」 杏子ほむら「あ」 あたしとほむらがもみ合っていると、円盤がカシャン、と音を立て、光を放つ。 あたしとほむらは、光に飲み込まれ、そして意識を失った。 『やっとみつけたよ、ウェヒヒヒ、って、あああ!』 薄れ行く意識の中で、どっかで聞いたことある声が聞こえた気がした。             ◇ 杏子「ててて」 頭が割れそうにガンガンする。 また時間を移動したのか。 ってことは、もどってこれた!? なんかあたりは薄暗いが。と、いうかどこだここ。 ほむら「目を覚ましたようね、杏子」 杏子「ほむら?」 がばっと起き上がると、ほむらがあたしを見下ろしていた。 杏子「戻ってきたのか?」 ほむら「ええ。戻ってきたようね。確かに今は、私達が時間を飛ぶ前の時間のようだわ」 ほむらが携帯を見せ付ける。 ほむら「私の携帯は、時間を自動で合わせてくれるの。さっきまでは過去に居たから時間は狂ったままだったのだけど、今はきちんと正しい時間を示しているわ。」 ほむらは、携帯をしまい、指を差す。 ほむら「あの時計をみて。」 指差した先には、柱は折れ曲がってはいるが、よく公園であるような時計があった。。 かろうじてまだ動いているようで、その時間はほむらの時計とおなじ時刻を差していた。 杏子「ん〜?てか、なんか荒れてるな。どこだここ」 ほむら「わからない?ここは見滝原の公園よ。そこのマンション、見覚えない?」 ほむらが指を指した公園の向こうには、崩れかけた建物が見えた。 杏子「あんな壊れたマンション、しらねえよ。廃墟じゃねえか。確かに面影はあるけど。」 そう、どことなく、面影が。 杏子「あああ!あれって、マミのマンションか!?」 ほむら「そうよ。あなたが意識を失ってる間に様子を見てきたのだけど、もぬけの殻だったわ。マンションだけじゃない、どこにも人の姿はなかったわ」 杏子「ど、どういう事だよ、おい」 ほむら「どうやら、私達が過去を変えたせいで。」 そこでほむらは一旦言葉を区切る。 そして、信じられない事を言った。 ほむら「世界、ほろんじゃったみたい」