三角形の透明なガラステーブルに、可愛らしい花柄のティーカップが3つ、湯気を立てて置かれている。 だから当然、集まった人数もティーカップの数通り。 「美樹さん、佐倉さん、お久しぶり」 「お久しぶりです、マミさん!」 「よお、元気そうじゃ…って、今のあたしたちにはおかしいか」 「ふふっ、そうよね」 お互いの顔を見合って、ついつい笑ってしまう私たち。 どうやらみんな「あの世」とやらにいるらしいのに、『元気そう』はちょっとおかしいわよね。 そう、今日は私の記念日に、『あの世仲間』の美樹さんと佐倉さんがお茶会を開いてご招待してくれたのだ。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 「ではでは、不肖このさやかちゃんが、会の音頭をとらせていただきますよ」 言うが早いか、すくっと立ち上がり、 まるで大人がビールジョッキを持つように、ティーカップを宙にかかげる美樹さん。 「えー、本日はお日柄も良く、地上では、私の先輩・巴マミさんを支援する会が150回を超えたとのことで、  この喜ばしい日を祝って、一席設けた次第です。  では、みなさま、カップを手に取っていただいて、…かんぱーい!」 「…え、と、美樹さん?」 「…さやか、紅茶で乾杯はねえだろ?」 美樹さんの「あれー?」っと首をかしげる姿に、またも吹き出してしまう私たち。 そんな風にして、なんだか不思議なお茶会は始まりを告げたのだった。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 「それにしても、150回って凄いなあ」 私の焼いたケーキ(招待された側のはずなのに、ケーキ持参を半ば強制されたことは、今はあまり気にしないでおこう)を 「おいしいおいしい!」と喜びつつ、口いっぱいに詰め込みながら美樹さんがポツリとつぶやく。 「ええ、自分でもびっくり。  こんなにたくさんの人に、こんなに長い間支援していただけるなんて…  …私なんかで本当にいいのかしら? みんな、本当は誰か他の人と間違ってるんじゃないかしら?」 「…」 「…」 「え?あれ?二人とも、どうしたの?顔が少し怖いけど…」 「…無自覚って怖いわー」 「…なあ、ここまでくると嫌味だよな」 「えっ?えっ?」 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 「つーか、相当暇人が多いんだろうな」 佐倉さんが、片手いっぱいに掴んだクッキーを口に放り入れ、もぐもぐと咀嚼しながら言う。 「むふふっ、あんたはその約3分の1くらいだもんね」 「…てめえ」 「それにあんたの会は、深夜になると何とも言えないポエムが投稿されるんだよね?」 「うっ!なぜそれを…」 「ふっふっふっ、さやかちゃんをあなどるなかれ!こう見えても結構みんなの会をチェックしてるんだからねー」 「でも、佐倉さんの会のポエムって、なんだか愛情いっぱいって感じで、温かい気持ちになれるわよね」 「あれ?マミさんもチェックしてるんですか?」 「だって、こっちの世界って結構ひまなんですもの」 「お、おまえら、…か、勝手に人の…」 顔を真っ赤にしながら口ごもる佐倉さん。 「あ、見られるのが嫌だったらごめんなさいね。でも、佐倉さんの会ってとても素敵だと思うけどなあ。  あと、美樹さんの会もすごいわよね。色々と魅力的な創作物があふれていて…  思わず見とれちゃうような作品がいっぱい」 「えへへ、そうでしょ、そうでしょ。これもさやかちゃんの隠し切れない魅力のせいかなーって」 「へっ、世の中には奇特な奴もいたもんだな」 「なにおー!」 「こらこら、二人とも!」 「っていうか」 と言いながら、美樹さんがこちらに顔を向ける。 「マミさんの会って、150回のうち、たぶん50回分くらいはエッチな話ですよね?」 「えっ?」 「なっ!そうなのか?」 突然話の矛先がこちらに。 「いやー、世の男子はどうしようもないですなー」 「…そっ、そんなことはない、と、思う、けど…」 「いやいや、マミさんの会を見てると、なかなかドキドキさせられますよ?」 そう言いながら私の顔を覗き込む美樹さん。私の顔が真っ赤になっているのはたぶん丸わかりだろう。 「で、でも、男の子って、そういうことを考えちゃうものだって聞いてるし、仕方ないのかなって…」 「ふーん、なるほど。  …では、マミさんもそういう話題はまんざらでもない、と?」 「そ、そんなこと、一言も言ってませんっ!」 額に汗をかきながら、絶叫してしまう私。 横を見ると、そんな私をにんまり眺める美樹さんと、興味津々という顔で見つめる佐倉さん。 「もう!二人とも!」 私の反応に大笑いする美樹さん。そしてつられて笑い出す佐倉さん。 もう、本当に憎めない子たちなんだから! 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 「…でも、いつまで経っても誰かが覚えてくれている、っていうのは嬉しいものよね」 用意したたくさんのお菓子やケーキを3人でペロリと食べ終わり、 最後の紅茶をのんびりと楽しみながら、私はしみじみと呟く。 「…そうですね」 「…まあな」 「会の数とか関係なく、今日も誰かが私たちのことを思い出してくれる。それだけで私はとっても幸せだわ」 「うん、わたしもそう思います」 力強く、心からの言葉として口にする美樹さん。 「あたしたちのやったことが、少しは何かにつながったのかなって、そう思えるよな」 照れ隠しなのか、そっぽを向きながら、でもうそ偽りのないであろう気持ちを語る佐倉さん。 「じゃあ、最後にみんなで乾杯しましょうか?  私たちのやってきたことと、それを今も支えてくれる人たちに」 「え? 紅茶で乾杯? 正気ですか、マミさん?」 「お前が言うなよ」 「えへへ、だよねー」 笑いながら、私たちはティーカップをカチリとぶつけ合わせた。 おわり