「まどかの世界のほむら」  私は私が一番嫌いだった。  私には何の取り柄も無かった。コミュニケーションをとることも出来ず、運動なんてもってのほかだった。 その上、病気にまでかかって他人に迷惑までかけてしまっていた。だから、私なんてしねばいいと思ってた。 でも、そんな私でもまどかは肯定してくれた。一緒にいてくれた。必要としてくれた。だから、私もまどか を支えられるようになりたかった。  そんな一筋の時の光を私は掴めず、ただ残ったのは絶望だけだった。私は守られるだけで何も出来ず、まど かを死なせてしまった。自分への憎しみと運命の非情さに押しつぶされそうになりながら泣いていた私にあい つは言った。どんな願いもかなえてくれると。だから私は願った。まどかとの出会いをやり直し、まどかを守 る私になると。  それでも、私はまどかを守れなかった。だから私はもう一度やり直した。魔法少女の運命を知った私ならな んとか出来るかもしれないという希望を抱いて。  そして、私はまどかを守れた。皆死んでしまって、私たちももう駄目だったけどこれでも良いかなって思え た。でも、それは違った。私はまどかを守れてなかった。だからその時まどかに頼まれた。私を救ってと。私 を殺してと。それから悲しむまもなく私はまどかをすくう約束をし、まどかを殺し、またやり直す道をえらん だ。  その後何度も繰り返し、数えるのを諦めるほどにまどかの死を見てきて、無限に続く絶望に挫けそうになっ たけど、あの時の約束を頼りに私は今まで戦ってこれた。だけど、これでもう最後だと思う。私はもうすぐ私 としては存在できないから。もう、私の心は壊れそうだから。だからせめて最後に貴女に贈りたい。貴女の、 まどかの望んだ世界を。  そして私は―  T     私が起きたのは、目覚ましとか誰かが起こしてくれたとか、そんなんじゃなくて、変な夢を見たせいだ。  なぜかそのなかには会ったことも無い、真っ直ぐな長い艶やかな黒髪で今まで見た事のある人の誰もが 霞む位綺麗なの女の子がいた。その人は苦しそうだった。そして、悲しそうに「まどか」と私を呼んだ。ま るで大切なものを失おうとしてるかのように。そんな彼女に触れようとしたら彼女は崩れ、世界は暗転した。  いったいなんだったんだろう。私は今までに無い不思議な夢に疑問を抱きながら上半身を起こす。まあ、 夢は夢なんだからいつまでも気にしてても仕方ないよね。と自分に言い聞かせ、今日も頑張るぞ〜とベッド から降り、リビングへ行った。    今日もいつも通りにお母さんやお父さん、そしてたっくんとコミュニケ―ションをとって学校に向かう。 その途中でさやかちゃんと仁美ちゃんと会って、他愛の無いおしゃべりをしながら楽しく学校に着いた。そ して、授業が始まってボ―っとしてるといつの間にか夢の中の彼女のことを考えてしまう。何であの人は私 の事を知ってたんだろう。私が忘れてるだけだとして、何で覚えてないんだろう。ううぅ、考えれば考える ほどわかんないよぉ。それに、何でこんなに気になって――  「鹿目さん。聞いてますか」  「ふぇ!す、すみません聞いてませんでした」  正直に白状すると先生のあかあらさまなため息と周りのクラスメイトの笑い声が聞こえてくる。顔が熱い。 きっと今の私は恥ずかしさで顔が真っ赤になってるんだろうな。                          ◇    「はぁ、今日は散々な一日だったよ。さやかちゃんはずっと笑ってるし」  「いや、だっておかしいんだもん。先生に呼ばれてるのにも気づかないで百面相してて、最終的には聞い てませんでした。って思い出したら今でも笑えるよ」  「それにしても、どうしましたの。なにか悩み事でもあるんですか?」  「う〜ん。悩み事ってわけじゃあないんだけど」  夢であった女の子のことが気になってるなんて口が裂けても言えないよ。ぼ〜としてただけでこれなんだか ら何って言われることか。  「悩み事じゃないんだけど、何なの?」  「ちょっと気になることがあって」  そう、本当にただ気になって仕方ないだけ。夢なんだから気にする必要はないって割り切れるはずなのに、 なぜかそれができないでいる。姿だけだったらこんなに気になってないんだと思う。ただ、なぜか知らないは ずの彼女が私を知っていたことと、鮮明に再生される私を呼ぶ声が頭から離れない。  「ほら、また考え事してるでしょ」  「悩み事じゃないにしても、話せばいい結果に結びつくかも知れませんよ」  こういうときのさやかちゃんと仁美ちゃんは本当に心配してくれる。それはうれしいこと何だけど、今回の ことについては話すのが恥ずかしいってのは確かにある。でも、これは本当に悩みとかでもないから。  「本当に大丈夫だって。心配しすぎだよ」  「まあ、そういうんだったらいいけど、いざというときは頼りにしてよ」  「そうですわ。友達なんですから」                            ◇  「じゃあまた明日ね。さやかちゃん、ひとみちゃん」  「じゃあね〜。まどか、仁美」  「ええ、また明日。さやかさん、まどかさん」  さやかちゃんと仁美ちゃんと別れたし後は帰るだけなんだけど、どうしようかな。まだ時間あるし、ちょっ と寄り道でもしながら帰ろうかな。ちょっと遠回りの道を歩いて帰ろう。    歩きながら景色を見て、やっぱり綺麗な街だなと思った。それに、ここは平和だし家族にも友達にも恵まれて 私は幸せだ。こんな毎日がずっと続けばいいのにな。でも、自分を変えられたらもっと幸せになれると思う。私 ってさやかちゃんみたいに明るくて、誰かのために本気で怒って立ち向かえるほど強くない。そして、仁美ちゃ んみたいに綺麗で、何でもこなせるようにするための途方も無い努力もできない。だから、せめて誰かの役に立 てるような人になれたら良いなって思う。  「どうやったら変われるのかなぁ……」  独り言をつぶやいてふと周りを見てみるといつもの風景とまったく違う場所だった。そこは形容しようも無い 不気味な空間になっていた。  「ここ、なんなの?夢でも見てるの?」  目の前の光景に混乱してろくに判断も出来ないでいる間に大きな化物が現れ、いつのまにか周りにもたくさん の化物がいた。こちらは小さいけども、狂気に染まったこの空間では大きさなんて関係なかった。ただ、恐怖に 支配されていた。  ――私、死にたくない。まだ何もしてない。まだやり残したことばっかりだもん。助けて、さやかちゃん。ひ とみちゃん。お父さん。お母さん。――    重い音が鳴った。そう思ったときには私の目の前には女の子の顔があって、大きな爆発音と悲鳴にも似た化物 の叫び声が響いた。そしてあの世界は無くなり、目の前には元の景色が広がっていた。  「怪我はなかった?」  彼女は私を地面にゆっくりと降ろして聞いてきた。  なにか答えなくちゃいけないってのはわかってるけど、今さっきの現実離れした光景が目に焼きついていて、 恐怖で口が開かない。  「わ、わた、しは……」  言葉にならない言葉を紡ごうとしてる私を彼女は優しく包み込んでくれた。  その温もりを感じたした瞬間、恐怖や苦しみや嬉しさなどの様々な感情があふれだして、わけ分らなくなった 私は彼女に抱きついて泣いていた。そうすると彼女も抱き返して、頭をなでてくれた。それがとっても嬉しくて、 なぜだかとっても懐かしい感じがして安心した。そして、安心しきった私はそのまま意識を手放した。                          ◇    起きるとそこは私の部屋だった。  「また夢だったのかな」  でも、夢とはまったく思えなかった。今でもあの恐怖は鮮明に思い出せる。だけど、それ以上に助けてくれた 彼女の温もりが今でも残ってる気がする。そのおかげで今日は大丈夫そうだ。  そういえば、誰だったんだろう。黒い綺麗なロングヘア―の――  そこまで思い出して気づいた。  夢の中で出てきたあの悲しそうに私を呼んでた子だ。声も今思い出したらそのままだったし、彼女に違いない んだけど、彼女は何なんだろう。あの化物を一瞬で倒せるほど強くて、あの時私がして欲しかったことを直に理 解してしてくれた。でも、流石にこれはあまりにも都合がよすぎるような気がする。夢を見たその日に夢の中の 人に変なとこから助けられたなんて。しかも、そこからの記憶が無いし。夢、だったのかなぁ。  「まどか〜。そろそろ起きなくていいのかい?今日も学校だろうに」  お父さんの声で気づいた。いつの間にか時間がすごいたってるよ。    急いで準備した結果、なんとかいつも通りの朝食の時間に間に合った。朝食は今日一日にとって大事だからち ゃんととらないといけないしね。  「そういえば、昨日黒い長い髪をした女の子がまどかを連れて帰ってくれたんだけど、お礼をしとかないとい けないね。危ない目にあったのを助けてくれた上に、泣き疲れたまどかを抱いてつれて帰ってきてくれて、夜遅 くまで付き添ってくれてたんだし」  「え……?」  その言葉にびっくりした。やっぱりあれは夢じゃなかったんだ。本当にあの人と会ってたんだ。  「そういえば、あの子を今まで見たこと無いんだけど、なんて名前の子なんだい?」  うっ。どうしよう。知らないなんていったらきっと不審に思われるけど、仕方ないよね。  「実は――」                       ◇  今日はお母さんに言われたとおり赤いリボンをつけ、そのことについてさやかちゃんに茶化されたりしながら 何時もどおりに学校へついた。    ホ―ムル―ムが始まり、先生が入ってきてすごい剣幕で玉子焼きの焼き加減に文句を言うようになるなとで熱 弁した。ああ、今回も駄目だったんだ。  そして、なぜかその後に転校生を紹介しますと言った。皆、そっちがメインだよね?と聞こえてきそうな表情 をしていた。かく言う私もそうなんだけど。  転校生が来るということだけでも驚きなんだけど、私は入ってきたのが見覚えのある、黒くて長い髪をした綺 麗な女の子だという事にもっとびっくりさせられた。  「え、あの子は……」  夢のなかで会い、昨日は私を助けてくれた人、だよね。  「あれ、まどかあの転校生のこと知ってるの?」  「知ってるというか、なんって言えばいいのかな」  説明に詰まらせてる間に自己紹介が始まる。  綺麗な姿勢で丁寧に彼女の名前を書く姿だけでさえ様になってるように見えた。  「暁美ほむらです。よろしく」  と少し微笑んで彼女は自己紹介した。そして、私のほうを見てもう一度彼女は微笑んだ。でも、その笑顔は少 し夢の中の彼女のように悲しんでるようにも見えた。    「さっき、まどかの方見て微笑んでなかった?いつの間にまどかはあんな綺麗な子と知り合ってたのかな〜?」  「き、気のせいだって」  「それにしても、ク―ル感じですけど綺麗で人当たりもいい人みたいですわね」  「うん。まあ、所々表情が硬かったりしてるけど転校初日で緊張してるんだろうしね」  仁美ちゃんにもさやかちゃんにも高評価みたいだ。  それにしても、暁美さんっていったいどんな人なんだろう。  夢のなかの彼女。昨日助けてくれた彼女。そして、今ここにいる彼女。その全部に違いがありすぎてよくわから ない。そして、昨日のあの不気味な場所。色――聞きたいことがあるんだけど、あの状況じゃあ話しかけづらいし。  「あれ?まどか、こっちに転校生がくるよ」  「え?」  と顔を上げると彼女がこっちに向かって歩いてきていた。  「このクラスの保険委員は鹿目まどかさんよね。保健室に連れて行ってもらえないかしら」  「う、うん」  「じゃあ、お願いね」  と言って身を翻したのでそれに追いつくように早足でそばに行った。    話が出来る機会が出来たのは良いんだけど、なにから聞けばいいのかな。  いきなり昨日のこととか暁美さんのことについてなんて聞けないし、かといって好きそうな物もわからないし。 あ、名前とかはどうかなほむらってかっこいい名前だし。  「あ、暁美さんの名前って――」  「ほむらでいいわ。貴女に暁美さんって呼ばれるのは違和感を感じるから」  違和感?暁美さんって呼ばれるのが?やっぱり私たちって会った事があるのかな。  なら、やっぱり今さっき言いかけたことは無かったことにして聞いてしまおう。  「じゃあ、ほ、ほむらちゃんと私ってさ、何処かで会ったことあるの?」  「何言ってるの。昨日のこと忘れたの?」  いや、まあそうなんだけどそうじゃなくて、私が聞きたいのは――  「鹿目さん、次どっちに行けばいいの?」  そうだった。私はいま保健室に連れて行ってるんだった。  「えっと、こっちだよ」  聞くタイミングを逃したような気がするけど、ちゃんと聞かないと。  「そうじゃなくて、それ以前に会った事があるんじゃないかって」  そういった直後、ほむらちゃんの表情が一気に冷たくなったように見えた。でも、直に元の表情に戻って言った。  「貴女にはそれ以前に会った事がある覚えはあるの?」  「それは、ないんだけど……」  「なら、それが答えなんじゃないかしら」  本当にそうなのかな。そうなら会った事はないわって言えば良いだけなのに、それを言うのをまるで拒絶してるみ たい。だったら別のことを聞こう。  「じゃあ、昨日のあそこは――」  「保健室はここね。ありがとう、助かったわ」  え、いつの間にか保健室についてるよ。まだ聞きたいことがあるのに。  「聞きたいことがまだあるって顔をしてるわね。なら、放課後一緒に帰る?」  「え、いいの?」  それに対して「ええ」と微笑んで答えてくれて、ほむらちゃんは保健室へ入っていった。                          ◇    「まどか。今日もあそこによって帰ろうよ」  さやかちゃんは当然行くよねって感じで誘ってくれてるけど、ほむらちゃんと約束があるし……。  「私も一緒に行かせてもらえないかしら」  「え……?」  三人ともびっくりした。まさか私たちにほむらちゃんから声を掛けて来るとは思ってなかったから。  「鹿目さんと帰る約束をしてたのだけど、どうせなら鹿目さんの友達とも仲良くなりたいと思ったんだけど。駄目 かしら」  「いやいや、そんなことないよ。むしろ大歓迎だよ。ねぇ、仁美」  「ええ。私も暁美さんと仲良くなりたいですし」  「まどかも、別に良いでしょ?」  「え、え〜と……」  他の人もいるのにあんなこと話しても大丈夫なのかなぁ?というか、ちょっと昨日のことを知られるのは恥ずかし いかも。  「あれぇ?それとも、まどかは二人っきりで話したかったのかなぁ?あのまどかがこんなに積極的になるなんて、こ れが恋の力なのか。保健室に行っただけでそんなになるなんて、いったい保健室で何をしてたんだぁ」  「ちょ、ちょっと!さやかちゃん!」  大声でそんなこと言わないで。ホントにそれは皆に誤解されるから!  「もうそんなに親密な仲になってたなんて、でも、いけませんわ。それは禁断の愛の形ですのよ〜」  といって仁美ちゃんは走って行ってしまった。それについていくようにさやかちゃんが走っていく。  「あはははは……」  どうしようこの状況。ほむらちゃんも呆れてるよね。  「面白い人たちね。それにしても、早く行かないと追いつけなくなるわよ」  よかった。変な人たちとは思われて無いみたい。  「さやかちゃんが止めてくれてるだろうからそんなに急がなくても大丈夫だよ。でも、ちょっと走ろうか。待たせちゃ 悪いし」  「そうね。でも、転んだりしたら危ないから」  そういってほむらちゃんは手を差し出してくれた。それが嬉しくて、うん!と思いっきり返事をしてぎゅっと手を握っ ってしまったけど何も言わないから痛くは無いみたい。                             ◇  「暁美さんってすごいですわね。勉強もスポ―ツもなんでもできる上に、すごく綺麗なんですもの」  「そうでもないわ。私一人で出来ることなんて限られてるし、あなたの方がよっぽど綺麗よ?」  「あ、ありがとうございます」  ストレ―トにほめられて仁美ちゃんは照れてるみたい。  「ほむらがそうでもないって?私がほむらみたいにいろんなことが出来て綺麗だったら自慢しちゃうのに」  「確かに私が出来ることを美樹さんは出来ないかもしれないけど、私だって貴女が出来ることが出来るわけじ ゃないし、あなたは十分可愛いと思うわよ?」  「へ?あ〜……お世辞だろうけど、こんなに言われるとさすがに照れるわ」  うん。私もほむらちゃんにこんなにいわれちゃうと照れると思う。  「では、残念ですけどお先に失礼しますね」  「今日もお稽古があるの?」  「そうですの。そろそろいいかげんにしてほしいのですけど……」  「大変だろうけど頑張ってね」    「あ、CDショップに寄っていかない?」  「また上条くんの?」  「あ〜まあね」  「ほむらちゃんも来るよね?」  「行っていいのなら行かせてもらうわ」  「もちろんいいにきまってんじゃん」    さやかちゃんがCDを探してる間にほむらちゃんとわたしは別でCDを見て回ることにした。  「そういえば、ほむらちゃんってどんな曲が好きなの?」  「わからないわ。もうずっと音楽を聞こうなんて思える時間が無かったから」  え……。音楽も聞く時間が無いっていったいどんな環境で育ってきたんだろう。まずいとこに触れちゃったかな。  「だから、鹿目さんの好きな物を教えてくれない?それなら多分好きになれそうだから」  「あ……うん!」  そんなに気にすることでもなかったみたいだからちょっと安心かも。  「わたし、この曲好きなんだ。私もこの曲みたいに、どんなことがあっても前に進み続けれたら良いなって思う んだ」  「うん。私もいい曲だと思うわ。……私もこんなに強かったならまどかはあんな目に……」  「ん?何か言ったほむらちゃん?」  「いえ、いい曲だなって思って」  私の名前が聞こえた気がしたんだけど……。気のせいだったのかな?  「だよね?よかった。私、この曲が一番好きなんだ!」  ほむらちゃんと好みが合ってるって言うことがなんだか嬉しいからつい声が大きくなっちゃた。恥ずかしい。    全部聞き終わるとやっぱりいい曲だなって思う。そして、好きな曲をほむらちゃんと共有できたのがやっぱり嬉 しいな。じゃあ、次は――  『まどか。』  「え?」  名前を呼ばれたのに反応して回りを見渡してもほむらちゃん以外近くには誰もいない。気のせいなのかなぁ。  『まどか。』  気のせいじゃない。また聞こえた。でも、見渡してもやっぱりいない。  そんな様子に気づいたのか。「どうしたの?」とほむらちゃんが聞いてきた。  「私を呼ぶ声が聞こえるの」  「本当に?」  「うん。多分あっちの方向から聞こえてるんだと思う」  こんなに呼んでるって事はなにかあるはずなんだからいかないと。  「待って。また昨日のようになるかもしれないんだから慎重に行動して」  「ご、ごめんなさい」  「いえ、怒りたかったわけじゃないの。ただ、そういう時は私がいるんだから頼りなさいって事を言いたかった の」  あ、そうか。ほむらちゃんは本気で心配してくれてるんだ。嬉しいな。  「じゃあ、一緒に来てくれるかな」  「ええ。でも、私より前には行かないで。でないといざというときに守れない」    声をたどってついたのは人のいない立ち入り禁止区域だ。  「まどか、ほむら、なんでこんなところに?」  さやかちゃんも追ってきたみたい。でも、どう説明すればいいんだろう。  「こっちから声が聞こえてきたの。だからそれを確かめるために。今の時間に作業はしてないみたいだから、な にかあったんじゃないかと思って」  説明に困ってる私に変わってほむらちゃんが説明してくれる。  「声?私には聞こえないけど……」  「まあ、着いて来たらわかるわ」  そういってほむらちゃんが入っていくのでそれに着いて行く。  そして、そこにいたのは見たことも無い白い生き物だった。  「ねぇ、ほむらちゃん。あれって……」  何?って聞こうとして見たほむらちゃんの目はどこまでも無機質で、背筋が凍るくらい冷たかった。  「はじめましてと言っておこうか。鹿目まどか、美樹さやか。そして、暁美ほむら……君とは会ったこと無いはずだ けど。いったい何者だい?」  「何で私たちの名前を……」  「しゃべる気は無いみたいだね。まあいいや」  「鹿目まどか、美樹さやか。僕は君たちに頼みたいことが――」  「鹿目まどか! 美樹さやか! そこで屈みなさい!!」  冷たく響き渡るほむらちゃんの言葉にさやかちゃんと私は反射的に屈んでしまう。そこで気づいた。この空間が歪 み始めている事に。そして、いつのまにかほむらちゃんの格好が変わっていた。  完全に周りの世界が昨日の様に狂気に満たされると、奇妙な歌とともに化物が周りを囲んでいく。  「貴方達はそこから決して動いてはだめよ」  そう言ってほむらちゃんは走り出した。そう思った瞬間体をひねって飛び上がり、ほむらちゃんの世界が逆転した ところで銃を両手に持ち、体を回転させながら暴力的な音を響かせて宙を舞っていた。  着地したときにはほむらちゃんの腕にはすでに銃は無く、私たちの周りに化物も居なかった。でも、ほむらちゃん が身を翻してこっちに歩いてきてる後ろには無数の化物がまとまって襲いかかろうとしてる姿があった。  危ない。そう思った瞬間、爆発音が聞こえると共にほむらちゃんの後ろで火柱が上がり、後には何も残ってなかっ た。果たして世界が元に戻った。  またほむらちゃんのおかげで助かったみたい。それにしても、ほむらちゃんが守ってくれるって言ってくれたから 安心して見ていられたけど、ほむらちゃんカッコいいなぁ。私もあんな風になれたらいいのに。  「あら、魔女の反応を追って急いできたのにもう終わってるみたいね。魔女は逃がしてしまったみたいだけど」  「倒したいのなら追いなさい。私は二人のそばにいる。それに、被害が出るまでに倒せばいいだけ」  「ふふ。確かに、友達を放っておいてまでするような事じゃないわね」  なぜか終始冷たく言い放つほむらちゃんに対して、突然現れた金髪でツインの縦ロ―ルの優しそうな顔をした女性 は嬉しそうに微笑んでいた。  気づくとほむらちゃんは元の制服に格好が戻っていて、こっちに歩いてきていた。またあの冷たい目をしてるのか と思ったけどその顔はもとのほむらちゃんだったから安心した。  「大丈夫だった?」  私たちに顔を近づけて優しく言ってくれる彼女に嬉しく思うのと、カッコいいほむらちゃんの顔が近くにあること が恥ずかしい。  「う、うん。ほむらちゃんが守ってくれたから」  「わ、私も大丈夫だよ。ほむらのおかげで」  やっぱりちょっとさやかちゃんも恥ずかしいみたい。    「ところで、今さっきのはなんだったの?」  落ち着いたところでさやかちゃんが話をふった。   「さっきの場所は魔女の結界の中ね。そしてあの化物は魔女の使い魔よ」  「まあ、詳しい話は後にしましょう。ここにいつまでもいるわけにはいかいしね」  「そうね。立てる?」  そういってほむらちゃんは手を差し伸べてくれる。その所々の気遣いが嬉しい。知り合ってほんの少ししかたって ないけど、私を大切に思ってくれてるのがわかるから。  「じゃあ、説明は私の家でするというのでいいかしら」  「いいんですか?」  「ええ。私、一人暮らしだから遠慮はしなくて大丈夫よ」  「じゃあ、お願いします」  私はこのことについて知らないといけない。そう思うんだ。    U    その後自己紹介をすませ、私たちは魔女のことと魔法少女のことについてマミさんから話を聞いた。そ して、実際に魔法少女がどのようにしてるかを体験してみるということも決まった。  なぜかその時ほむらちゃんは終始無言で、最後に「貴女とは一緒に戦って行きたいと、そう思うわ」 とマミさんに言っていた。そうして話は終わった。    「それにしても願い事って急に言われても思いつかないなぁ」  「だよね。私も思いつかないわ〜」  「願いは自分でかなえるものよ。何かに叶えて貰った所で、そんなものなんの価値も無い」  ほむらちゃんは冷たく、でも優しく言い聞かせるように言った。  「それに、貴女たちが思ってるような者じゃないわ。魔法少女は」  「じゃあ、なんでほむらちゃんは魔法少女になったの?ほむらちゃんは何を願ったの?」  その時のほむらちゃんは今にも泣きそうな顔をしてるように見えた。  「私は、死を受け入れられなかった。そう、ただそれだけよ」  それ以上はいいたくない。そう感じさせる言い方だった。  私とさやかちゃんはまずい事を聞いてしまったのかと思った。まだ、軽い気持ちで考えてたから。  でも、すぐにほむらちゃんは元に戻っていて  「つまらないことを言ったわね。ただ、貴方達は幸せを掴める所に居るのだから、魔法少女になってそ れを遠ざけるようなことはしない方がいいと、私は思うわ」  私たちは怒らせたわけじゃないみたい。よかった。でも、確かにほむらちゃんの言う通り私たちは家族 に、友達に囲まれて幸せな毎日をおくってる。なのに戦いの運命を受け入れてその日常を崩そうとしてる のが気に入らないのはあるのかもしれない。  「そして、貴方達はまだ魔法少女について何も知らないでしょう。巴さんが言っていたのは表向きのと ころだけ。彼女は知らないから。この体がどんなものかなんて」  「どういう、こと?」  「おいおい話していくつもりだけど、今日のところは早く帰った方が良いわ。家族を心配させたくない でしょう?」    家に帰り、寝る前にキュウべえに誰よりも強い魔法少女になれるって言われたけど、お世辞だと思って そのまま意識を手放した。                                        ◇  今日は魔法少女の体験一日目だ。  さやかちゃんはバットを持ってきたい。そういう意気込みなのは助かるとマミさんは言った。  対して私は衣装だけでも考えてみたってことでノ―トを見せるとさやかちゃんとマミさんはつぼにはまっ たらしく涙が出るくらい笑ってた。は、恥ずかしいよ。でも、ほむらちゃんだけはなぜか凄く悲しそうで、 私がそれを見てることに気づくとすぐに表情が変わってしまった。さやかちゃんとマミさんは笑ってて気づ いてないみたいだけど。    やってて思ったのはさやかちゃんと一緒のように地味だって事。でも、こんな事をずっと続けて命がけで 戦ってるマミさんは本当に凄いと思う。  ついに魔女の場所が分り、私たちは走ってそこへ向かう。そこに飛び降りようとしてる女性がいたが、マ ミさんが魔法でうまく受け止めたから大丈夫だった。彼女は魔女の口付けというものをされたせいで自殺し ようとしていたらしい。  「じゃあ、行くわよ。準備はいい?」  「はい」  そして私たちは魔女の結界に入っていった。  「大丈夫?怖くは無い?」  マミさんが聞いてくる。  「大丈夫ですよマミさん。これもありますし」  とマミさんによって力が加わったバットをもってさやかちゃんは言う。  「もう、三度目ですし。それに、ほむらちゃんもいますし」  「「え?」」  マミさんとさやかちゃんの声が重なる。  「三度目ってのも気になるし、なんでそこまで暁美さんの事を信頼してるのかが気になるわね」  「私もそれはきになるな〜」  二人とも面白そうに私に話しかけてくる。  「まあ、それは後で聞くとして、一応命がけなんだから気を抜いてはだめよ」  「それにしても、暁美さんってすごいのね。ほとんど魔力を使わずにあの数の使い魔を倒すなんて」  「それはこの銃が本物で、魔力をほとんど使う必要が無いからよ」  使い魔を手に持った銃で倒しながらほむらちゃんは答えた。  「ちなみに聞きたいのだけれど、ここの魔女はどうやって倒すつもり?」  「暁美さんの実力を私は見たから、私の実力を見てもらおうと思ったのだけれど」  はぁ……と分りやすくほむらちゃんはため息をつく。  「貴女が強いことは私もしってる。だけど、貴女を一人で戦わせるようなことはしたくない。言ったわ よね。あなたと一緒に戦って行きたいって。貴女はもう一人じゃないのだから、それを忘れないで」  うわぁ。ほむらちゃん凄くカッコいいんだけど、その台詞は聞いてるわたしたちも恥ずかしいよ。さやか ちゃんもちょっと顔を赤らめてよそ向いてるし。  「ふふ。ありがとね。じゃあ、援護をお願いしてもいいかしら」  「ええ。もちろんよ」  でも、マミさんは凄く嬉しそう。そうだよね。一人で戦い続けるのってほんとに辛い筈だもん。    「もうすぐ魔女の結界の最深部よ」  そういって走り出したマミさんに追いつくように私たちも走り出した。  「あれが魔女か……なんっていうかグロいね」  「そう、だね」  改めてみると本当に気持ちが悪い。あんなのとずっと一人で戦ってきたんだ……。  「行くわよ暁美さん。あなたは魔女を威嚇して。その間に私が捕縛するわ」  「ええ。まかせなさい」  ほむらちゃんは手の大きさに見合わない大きな拳銃を両手に持ち、魔女の方へ目掛けてその一方の矛先を 向け、放っていく。その攻撃を魔女はもてるスピ―ドを生かせて避けるが、避ける方向が分ってたかのよう にもう一方の銃で魔女を打ち抜いた。  避けられないことをさとったのか、真正面からほむらちゃんに魔女が襲い掛かる。でも、それをほむらち ゃんは高くゆっくりと前宙をしながら避けると同時に、頂点で体が反転したところで魔女に双方の銃を撃ち 果たす。魔女の悲鳴が響いたと思った瞬間、マミさんの魔法で魔女は捕縛されていた。  「チェックメイトね」  そういってほむらちゃんは身を翻して魔女に背を向ける。同時にマミさんは体に対してあまりに不釣合い なマスケット銃を構えた。  「ティロ・フィナ―レ!」  声と共に放たれた銃弾が魔女を穿き、魔女は消滅した。  果たして魔女の空間も消滅し、自殺しようとしてた人もちゃんと助かった。    魔女を倒した後マミさんの家に招待されて、お茶をご馳走してもらうことになった。   「それで、鹿目さん。一度目の時のことを教えて欲しいのだけれど」  「それは、一昨日の事なんですけど……」  「あれ?それってまどかがやたらと考え事してた日じゃん。でも、朝から悩んでたような気がするんだけ ど」  「ええと、確かにそれも無関係じゃないんだけど……言わなきゃ駄目?」  あれを言うのは恥ずかしいからできれば触れて欲しくなかったんだけどな。本人がいる目の前でアレを言 うなんてはずかしすぎるよ。  「この反応は、ぜひ聞きたいわね」  「私もきになるなぁ〜」  うん。なんっていうか、凄くいい笑顔なんだよね二人とも。  困ってほむらちゃんの方を見るとほむらちゃんは私が見てることに気づいてくれた。  「そこまで言ってしまったら言うしかないと思うわよ」  だよね。やっぱり、覚悟をきめるしかないみたい。  私は夢の話と助けてもらったときの話を全部話した。  「なるほどねぇ。夢はともかく、確かに鹿目さんが暁美さんを信頼するのも納得ね」  「にしても、まだ知り合っても無いのに夢で出会ったなんて、それ前世からの運命だよ」  マミさんは普通に聞いてるのに、さやかちゃんときたら笑ってばかり。  私だって恥ずかしいのに。  「ねえ。その夢ってそこで終わりなの?他にはなにもなかった?」  珍しくほむらちゃんが詰め寄って聞いてくる。  「う、うん。それだけ」  「そう、なの」  どうしたんだろう。この夢になにかあるのかな。ほむらちゃんが詰め寄って聞きたいくらいの何かが。  「そういえば、願い事は決まった?」  マミさんが話を変えてくれた。  「願い事って自分に対してのことじゃないと駄目なのかな?例えばもっと必要としてる人に使うとかは できないのかな」  「出来ないことも無いね。願いの対象が自分である必要は無いから。それに、前例が無いわけでもない」  「それでも、私はお勧めはしないわね」  「貴女が誰に使うのかは知らないけど、あなたはそうしてどうしたいの?いえ、どうしてほしいの?」  さやかちゃんは俯いて黙ってしまった。  「私には、願いを選ぶ時間すらなかったから、あなたたちにもし本当に叶えたい願いがあるならしっかり 考えて欲しいの」  そう、だよね。やっぱり気軽に考えていい事じゃないもんね。  「結局、ほかの全てを投げ出して得るほどの願いを他人に使うと、どれだけうわべでごまかしても、見返り を求めてしまうものなのよ。そして、それが叶わなかったときには何も残らないの」  ほむらちゃんの言葉は冷たく、重たかった。その言葉に誰も何も言えなかった。  そして、長い沈黙がの後、ほむらちゃんは口を開いた。  「いまさら言うのもどうかと思うのだけれど、私はもう誰にも魔法少女になって欲しくないわ」  「一応、理由は聞かせてもらえるわよね」  「ええ。でも、外でその話はしましょう。ここでは出来ない話だから」  そうして、ほむらちゃんに連れられて人気の無い場所へといった。その間、さやかちゃんは深刻に考えてる みたいだった。ほむらちゃんの話を聞いて。    「私は誓ったの。もう誰も魔法少女にしないと」  ほむらちゃんはそう言って銃を取り出した。  「魔法少女になるって言うのは、こういうことだから」  そう言った時には、ほむらちゃんの持ってる凶器はほむらちゃんに向かっていて、重い音が響いた。同時に ほむらちゃんの一方の肩は無くなり、腕はほむらちゃんの後ろへ飛んでいった。  「なにを、してるの」  マミさんの困惑した声が聞こえる。  「こんな体になって、自分の望みさえ叶えられなくなっていく魔法少女を私は見てきた」  ほむらちゃんの声が聞こえるたびにほむらちゃんの体が無くなっていく。  「私今まで誰も守れなかった。だからせめて次こそ周りの人たちだけでもこんな運命に縛りたくないの」  もう、ほむらちゃんの体は立ってもいられない状態まで壊れていた。  「だから、今度も守れないんなら私には何の価値も無いの。だったら、こんな私なんて――」  いつの間にか飛んでいった腕のところまでほむらちゃんは下がっていて、爆弾を持っていた。  それを見たときにはなぜか私の体は動いてて、ほむらちゃんを抱きしめていた。  「やめて!もう自分を傷つけないで!ほむらちゃんの気持ちは、わかったから」  制服が血に汚れるのなんてどうでもいい。それでほむらちゃんが止めてくれるなら。  「それにね」  今さっきまでとは違い、優しい声が響いた。  「貴女は自分が何の取り柄も無く、誰の役にも立てないって思ってるんだろうけど、貴女がいるから。貴女 が人としてこの世界で待っててくれるから。貴女が私の居場所になってくれてるから。私は戦えるの。だから ね、魔法少女になんてならなくてもいいの。貴女は貴女でいてほしいの」  「うん」  なんで私がそういう風に思ってたことを知ってるのかは分らないけど、ほむらちゃんの言葉は何よりも私が 求めてた言葉で、嬉しかった。  「ここまでやっといて何だけど、ちょっとやりすぎたわ。巴さん。回復するの手伝ってくれない?」  「死なないってわかったから今は、冷静でいられるけどもうこういうのは止めて欲しいわ。私を一人にしな いっていったそばから消えてしまうのかと思ったじゃない」  「ごめんなさい」  「あたしもさ、目の前でほむらが傷ついてる姿は見たくない。友達が死ぬのはかなしすぎるじゃない」  「そうね」  みんな涙ぐんでほむらちゃんを責めた。ほむらちゃんは笑ってたけど、私たちは本当にほむらちゃんがここ で死んでしまうと思ったのだから。  「ごめんなさいね。実際に見てもらわないと信じてもらえないと思ったから」  「にしてもあれはやりすぎよ。夢に出てきそうじゃない」  ほむらちゃんの体が元に戻ってやっと冗談を言える位落ち着いてきた。  「じゃあ、キュウべえ。これがどういうことなのか教えてくれないかしら」  「わかったよ。君たち魔法少女にとって、元の身体なんていうのは、外付けのハ―ドウェアでしかないんだ。 君たちの本体としての魂には、魔力をより効率よく運用できる、コンパクトで、安全な姿が与えられているんだ。 魔法少女との契約を取り結ぶ、僕の役目はね。君たちの魂を抜き取って、ソウルジェムに変える事なのさ。むし ろ便利だろう?今さっきの暁美ほむらのように人体が損傷しても、その身体は魔力で修理すれば、すぐまた動く ようになる。弱点だらけの人体よりも、余程戦いでは有利だ」  そうやって、キュウべえは淡々と語った。  ほむらちゃんが実演した通りの話だったけど、理解は出来るけど、納得いかないよ。  「どうして、キュウべえは初めそんなこと言わなかったじゃない」  「私たちを、だまそうとしてたの?」  さやかちゃんも納得いかないみたいで、怒ってるのがわかる。  「君たちはそんなこと聞かなかったじゃないか。それに、君たちは契約をしてないんだからいいじゃないか」  確かに契約もしていない私たちには何も言う権利は無いのかもしれないけど、それじゃあほむらちゃんやマミさ んがあまりにかわいそうだ。  でも、それに対してマミさんはそんなに怒ってない様に見える。  「まあ、私はあのとき契約しなかったらここにはいられてないから。だから、少しは怒ってるけど憎めないのも 確かなのよ。それに、もう一人じゃないから。私一人だったら耐え切れなかったかもしれないけどね」  マミさんはそういって微笑んだ。そうして、この会話は終わりを告げた。  「それにしても、私もう疲れちゃったよ。色々ありすぎて頭もパンクしそう」  さやかちゃんが言うようにもうだいぶ遅くなってて、それに気づいた途端どっと疲れてきた。  「私ももう疲れたよぅ」  「じゃあ、きょうのところは帰って休みましょうか」  「そうね。それがいいと思うわ」  「まあ、その前にこれを着なさい」  そういってほむらちゃんは自分の服を差し出した。そういえば、私の今の服血がついてたんだった。  その後、私たちはマミさんを送り、その後さやかちゃんを送って二人だけの帰り道になった。  「そういえばほむらちゃんの家ってどこなの?」  「あっちの方かしらね」  そうやって指差した方を見ると、私の家からは近いとはいえない距離に見えた。  「え、じゃあ送ってもらうのは悪いよ」  「気にしないで。私はしたくてやってるのだし、私は強いから」  確かにほむらちゃんは強いから大丈夫なのかもしれないけど、やってもらってばかりだと私が 悪い気がする。どうしたらいいかなぁ。そういえば、前のお礼をしたいってお父さんが言ってた からお礼として泊まってもらえばいいんじゃないかな。多分大丈夫だと思うし。それに、ほむら ちゃんにそばに居て欲しいと思うから。  「じゃあ、わたしの家に泊まっていってよ。もう遅いんだし危ないよ」  「遠慮しておくわ。急にお邪魔するわけにもいかないし、それに……」  もう一押しでいけそうな気がする。  「お父さんがお礼したいっていってたし、ほむらちゃんが今日あんなことしたせいでほむらち ゃんが目の前で消えていく夢を見るかもしれないし……」  言っておきながら本当にありそうで嫌だと思った。初めてあった日の夢もそんな感じの夢だっ たから。想像してしまうと涙が出そうなくらい怖い。  「わかったわ。でも、家族の了解が得られたらよ?」  そんな私に気づいてくれたのか、ほむらちゃんは了承してくれた。  「じゃあ、いきましょうか」  そういってほむらちゃんは手を差し伸べてくれる。  「うん」  それだけの事なのに、何故かほむらちゃんの時は凄く嬉しい。そう思いながらその手を取るの でした。      V     朝起きるとほむらちゃんの姿は無かった。それに少し不満を持ったけど、書置きに今日の準備があるからと書い てあったから何もいえない。    私はいつも通りに準備をし、家族とのコミュニケーションをすまして学校へ向かう。  家族の皆にもほむらちゃんは好評みたい。ただ、気になるのはお母さんが言ってたことだ。  "私たちから見てもいい子だし、まどかがそんなに信頼してるんだから間違いないんだろ うけど、あのほむらって子は自分を押し殺してるような目だった。気のせいかもしれないけどね。それにしても、 まどかの様子が最近変だと思ってたら、まさかその相手が女の子だったなんて予想がつかなかったよ。"  ううぅ。いらないことまで思い出してしまった。お母さんも何言ってるんだか。  「まどか〜」「鹿目さ〜ん」  さやかちゃんと仁美ちゃんの声が聞こえた。そして、私は少し足を速めた。                       ◇  昼休憩になってほむらちゃんを誘って一緒にご飯を食べようかと思ったけど、ほむらちゃんは何処かへ行って しまっていた。  「どこいったんだろう。ほむらちゃん」  「そういえば、ほむらのやついないね」  「今さっき何処かへ行ってるのをみかけましたけど、それ以降はわかりませんわ」  う〜ん。どうしよう。朝に言われたことが気になってるみたいで、ほむらちゃんの事ばかり 考えてる私がいる。  よし、ほむらちゃんを探しに行こう。なぜだ分らないけど、私ならすぐに見つけられる気がするから。  「ちょっと、探してくるね。ご飯は二人で食べてていいから」  「ちょ、まどか?」  「ファイトですわよ〜」  なんか仁美ちゃんには勘違いされてそうだけど、ほむらちゃんを探すのが先だ。  私は屋上に来た。ここにいると感じたから。  やっぱりこここにいた。ほむらちゃん。と声を掛けようと思ったけれど、ひざを立てて自分を抱くようにし て腕を組み、うずくまってる姿を見て寝ているんだと思った。  どうしたんだろう。昨日眠れなかったのかな。  色々考えながらほむらちゃんに近づいてみると、やっぱり寝てるみたい。  寝ているほむらちゃんは、いつもの優しくて凛々しいカッコいいイメ―ジよりもむしろ年相応に可愛い感じ なんだなと思った。でも、そんな表情は直に崩れてしまって、苦痛に耐えるような苦しそうな顔になっていっ た。  「まどか。……まどか。……まどか」  服を破いて自分の肌も傷つけてしまうんじゃないかと思うくらい、ほむらちゃんの手に力が入っていて、私 の名前を何度も呼び続けていた。  「ほむらちゃん。どうしたの?ほむらちゃん!」  そういって揺さぶってもほむらちゃんは気づかないでうめき続ける。  「嫌、行かないで、まどかぁ!」  そう聞こえた瞬間私はほむらちゃんに抱きしめられていた。  「よかった。まどか。まだ――」  そういったほむらちゃんは涙を流して安堵の表情を浮かべていた。  「私は、ここにいるよ。どこにも行かないから、安心して?」  ほむらちゃんがどんな夢を見てるのかは分らない。でも、わたしは自然とほむらちゃんを抱き返して、眠 っているほむらちゃんをあやす様に声を掛けていた。  ほむらちゃんの寝言は気になるけど、抱きしめられてる今の状況じゃあ何も考えられそうにない。ほむら ちゃんに抱きしめられるだけで胸がどきどきして、でも凄く安心できて、ずっとこのままでいたい。そんな 気になるからだ。  でも、昼休憩は直に終わってしまうから起こさないといけないよね。名残惜しいけど仕方ないんよね。  「ほむらちゃん、起きて。ほむらちゃん!」  「んっ……」  今回は直に起きてくれたみたい。  「私は、どうして。何を?」  「ほむらちゃん。すごくうなされてたんだよ。大丈夫?」  起きたばかりでまだ状況がうまく理解できてないみたいだ。  「どうして私は貴女を抱きしめてるの?」  「私の名前を呼びながらうなされてたから、心配して駆け寄ったら引き寄せられて……」  「そう、だからあの夢が……」  ほむらちゃんは納得したようだけど、私は何も分らない。ほむらちゃんがどうしてあんなに苦しむのか、そ れが知りたい。私だってほむらちゃんの支えになりたい。  「ほむらちゃん。どんな夢を見たのか教えてくれないかな?私、ほむらちゃんの支えになりたいの」  上目遣いでほむらちゃんに訴える。  そうすると、ほむらちゃんは諦めたようにため息をつき、地面を見つめていった。  「数えるのを諦めるほどに貴女が死ぬ姿をみた。ただ、それだけよ」  見上げてるせいでほむらちゃんの表情は見えなかったけど泣いてるように感じた。  「私は、ここにいるよ」  こう声を掛けることしか出来なかった。ほむらちゃんはそれ以上何もいわなかったから。  多分、言いたくないんだと思う。でも、その事が悔しかった。やっぱり私は無力なんじゃないかと思ったとき。 後ろに回ってる腕に力が篭ったのを感じた。  「もう少しこのままでいさせて。そうすれば、元に戻れるから。貴女がそばにいてくれるだけで私は大丈夫だ から」  そう聞いて私も少し力を強める。そうするとありがとうと聞こえてきた。  嬉しい。ほむらちゃんから求められることが。ほむらちゃんの力になれてる、そんな気がするから。そして、 ほむらちゃんに抱きしめらてるから。  「もう大丈夫よ。ありがとう。じゃあ、戻りましょう」  そういってほむらちゃんは私から離れた。その感覚に寂しさを覚えながらも、身を翻したほむらちゃんの後ろ について教室へ戻った。    今日はさやかちゃんが上條くんのお見舞いに行くため、私はそれに付き添いに行くことにした。  ほむらちゃんは珍しく、用事があるといって何処かへ急いで行ってしまった。  だから、さやかちゃんが上條君のお見舞いに行ってる間は一人で待ってる気だったんだけど、なぜかさやかち ゃんは直に戻ってきた。なんでも、時間が合わなかったみたい。  「せっかく会いに来てやったのに、失礼しちゃうよ」  笑ってさやかちゃんは言う。まあ、仕方ないよね。  「さて、これからどうしよっか?」  予定としてはその後マミさんのところで集合していつものように魔女を探しに行く予定だった。  「あれ、なんだろ」  柱の部分になにか黒いものが見える。  「グリ―フシ―ドだ!孵化しかかってる!」  「そんな……」  今、ここにはほむらちゃんもマミさんもいないのに。  「まどか!あんたはマミさんとほむらを探してつれてきて!私はここで待つ」  「そんな!危ないよ」  「それでも!こんなところでなんて、放っておけないよ」  病院に魔女が住みついたら大変なことになるってマミさんもいってたし、ここには上條君もいるからここまで必 死なんだと思うけど、死んじゃうかもしれないところにさやかちゃんを放っておくことも、私はできないよ。  「大丈夫、僕も残るから。最悪の場合契約さえすれば何とかなるから」  「だからまどか、お願い」  「わかった!」  さやかちゃんの決意は揺るがないだろうな。今までそうと決めたらそれを貫き通そうとしてきたのを見てきたか らわかるよ。だったら、わたしはほむらちゃんかマミさんを一刻も早く連れてきてさやかちゃんを助けるしかない。 でも、ほむらちゃんは今どこにいるか分らないからマミさんだけでも連れて行かないと。                       ◇    「マミさん!急いで来て下さい!魔女が孵化しそうなんです!さやかちゃんとキュウべえがそこに残っているん です。到着次第最短ル―トを案内するからって」  「わかったわ!そこまで案内して!」    「ここね」  「はい」  『ここの魔女はまだ目覚めて無いから、なるべく魔力を使って刺激をするようなことをしないように来てくれ。』  「わかったわ」  会話が終わり、私とマミさんは結界の中に入って先へ進んでいった。  「そういえば鹿目さん。暁美さんはどうしたの?」  「用があるからって放課後からどこに行ったのかがわからないんです。凄く急いでたみたいだから聞くことが出来 なくて……」  「でも、気負う必要は無いみたいね」  マミさんは振り向きながら言った。  「ごめんなさい。到着が遅れたわ」  「ほんとよ。まにあわなかったらどうするのよ」  「マミさん。それは意地悪ですよ」  ほむらちゃんが来てくれたおかげでマミさんも気が楽になったみたい。  『マミ!急いできてくれ!魔女がもうすぐ出てくる。』  「わかったわ!暁美さんはここの使い魔の足止めと殲滅を!私たちは先に行くわ!」  マミさん言い終えると同時に、マミさんは私の手を引いて扉へ向かった。  「ちょっと!待ちなさい!くっ!」  ほむらちゃんは私たちと自分に襲ってくる使い魔を倒しながら私たちに訴えかけるが、一刻を争う以上私はマミさん と共にさやかちゃんの元へ走っていった。  「マミさん!」  「マミ。ぎりぎり間に合ったみたいだね。くるよ!」  そうして現れた魔女は今までとは違って見た目がかわいらしく、とても災厄を振りまく存在には見えなかった。  「出てきたところで悪いけど、一気に決めるわよ!」  そう言ってマミさんはをいすの足を銃で叩き割り、魔女を落下させると同時に手に持った銃で魔女を吹き飛ばした。 そのまま攻撃の手を休めることなく銃で魔女を打ち抜き、魔女を拘束する。果たしてマミさんはあまりに体に不釣合い な巨大なあの銃を取り出した。  「ティロ・フィナ―レ!」  声と同時に銃より放たれた弾丸は魔女を貫通した。  「マミさんすごい!」  「やりましたねマミさん!」  魔女に攻撃させるまもなく華麗に戦い、魔女に勝ったと皆確信した。  その瞬間、魔女の口から黒く、禍しい顔をした何かがマミさんに受かってその大きな口を開き、牙を向こうとして いた。そして、口が閉じた時にはマミさんの体は無くなっていた。  え……嘘。マミさん、死んじゃったの?私たち、死ぬの?助けて!ほむらちゃん!  そう願って恐怖を塗りつぶすように目を閉じた瞬間、大きな爆発音が聞こえた。それに反応して目を開けると、火柱 が上がるほどの爆発が起こり、魔女の体は爆ぜて無くなった。    そして、魔女の結界が無くなった後に目の前にはほむらちゃんと、お姫様抱っこをされているマミさんがいた。ほむ らちゃんはゆっくりとマミさんを下ろして立てるよう手を差し伸べた。私はマミさんが生きてたのが嬉しくて、近寄ろ うとしたけど、ほむらちゃんの顔がいつに無く怖くてその動きは止まった。  「貴女は一人で魔女の元に行った上に、倒したと勝手に確信して死に掛かった。そうよね?」   冷たい声でほむらちゃんは言い放つ。  「一人での戦いの一瞬の油断の結果は死しか存在しない。今回は私が間に合ったからいいものを、間に合わなかった らどうするつもりだったの?貴女が死ぬのはもうあなただけの問題じゃないの。一人では無いと私が言ったその意味を よく考えて行動して」  そして、悲しそうな顔をしてほむらちゃんは空を見上げた。  「勝手に、私に約束を破らせるような事をしないで。もう、誰かが死ぬところなんて見たくないわ」  それを聞いたマミさんは泣きながらほむらちゃんに抱きついてごめんなさいと謝っていた。その間、わたしとさやか ちゃんはマミさんが無事だった事に喜び、不器用なほむらちゃんの言い回しに笑っていた。    W  今日もいつものようにして学校へ向かった。  このいつも通りの生活が出来ることがどれだけ幸せなんだろうか。昨日の戦いでは私たち の日常は崩れる手前まで行っていた。あの時ほむらちゃんが間に合わずにマミさんが死んで しまっていたら、私たちはどうなっていただろう。ほむらちゃんが間に合わなかったら私た ちは何も出来ずに死んだと思う。ほむらちゃんが私たちだけを助けられても、私たちは恐怖 や悲しみ、自責の念にとらわれていたと思う。  あと、私たちは命がけと言う事の意味を理解してなかったということを痛感させられた。  「本当に命がけ、なんだよね」  「まどかはさ、まだ魔法少女になりたい?」  「ううん。昨日ほむらちゃんが間に合わなかったらどうだろうって考えただけで私、息が 止まりそうになるくらい怖いし、ほむらちゃんとの約束もあるから」  「そう、だね。ほむらは分ってたんだね、命を掛けて戦うことの意味を。そして、体のこ ともあったから否定的だったんだろうね」  「でも、魔法少女にならなくても力になれる。ほむらちゃんがそう教えてくれたから、私 は付いていくことくらいはしようかなって思ってるよ。今まで見たいに」  「そうだね。マミさんやほむらが私たちを大切にしてくれるように、私たちにとっても二 人とも大切だからね」  そうさやかちゃんと話していると、いつの間にかほむらちゃんがこっちへ向かって歩いて きていた。  「連絡先を渡してなかったと思って」  そういってほむらちゃんは連絡先を書いた紙を私にわたしてきた。  それだけなら放課後でも良いような気がするんだけれど、どうしたんだろう?  「早めに渡しとか無いと今日までのように忘れてしまうから。あと、魔法少女にならない と決めてくれたみたいね。ありがとう」  そう言ってほむらちゃんは教室へ帰っていった。  ほむらちゃんは私たちがどう選択するかが気になってたみたいだ。その優しさに私の心が 温まるのを感じた。でも、どうしてこんなに優しくしてくれるのか。時折見せる悲しそうな 顔はなんなのか。なんで私が死ぬ夢を見たのか。なんで戦っているのか。今までどれだけ戦 ってきたのか。落ち着いて考えてみると知らないことばかりだった。なんで今まで気になら なかったんだろう。いくら今までいろんなことがあったって言っても、考えればすぐに出て くるくらいの疑問なのに。  そういえば私、まだちゃんと名前を呼ばれたことも無いんだ……。     放課後、さやかちゃんは上条君のお見舞いに行き、ほむらちゃんはマミさんに話があると 言われたためマミさんの家に行くらしい。だから、私もほむらちゃんに聞きたいことがある からと言ってほむらちゃんに付いて行く事にした。                      ◇   「まずは昨日は助けてくれてありがとう。そして、改めてごめんなさい」  「気にする必要はないわ。もうすんだことだし、反省してることは昨日でわかったから。 でも、今日の本来の用件はそれではないんでしょう?」  「わかってるのなら単刀直入に聞くわ。貴女の能力は何なの?」  「それは僕もぜひ聞きたいね」  マミさんとキュウべえは落ち着いた様子でほむらちゃんの回答を待っている。  そういえば、マミさんは魔法で銃を出して攻撃してるけど、ほむらちゃんは本物の銃と爆 弾を使って魔女を倒しているところしか見たこと無い。でも、昨日は違った。マミさんが死 ぬと思った時ほむらちゃんはマミさんの近くには居なかったのに、どういうことかマミさん を助けた上に魔女を倒していた。  「それは、答えなければならない事なの?」  「暁美さんのことを信頼してないわけじゃないわ。ただ、能力を知っておけばこれからの 戦いでの戦略を今まで以上に組める事になるわ。あと、どこかで貴女を疑ってしまうような ことをしたくないわ」  そう。と言ってほむらちゃんは思い悩んでいるような表情をした。  「私の能力は空間を跳躍するようなもと思ってくれればいい」  「と言うことは、私がやられそうなところでその能力を使って私を助けると同時に魔女に 爆弾を浴びせたと言うことね」  「そうなるわね」  「そんな能力があるのなら、普段から使ってればもっと簡単に魔女を倒せそうだけど」  「魔力を極力消費したくないの。出来ることならこの能力は使いたくない」  「なるほどね。でも、それだけの事なら言ってくれればいいのに」  「それもそうね。ごめんなさい」  どうやら話は終わったみたい。確かにそれならそうと言えばいいのに、なんで言うのを躊躇 ってたのか気になるけど、私はそれよりも気になることがある。  「ほむらちゃん。私も聞きたいことがあるんだけど、いい?」  「ええ」  「なんで、ほむらちゃんは魔法少女として戦い続けてるの?」  「約束を、果たすためよ。」  「約、束?」  「そう、約束。大切な約束。たとえ何を犠牲にしたって叶えたい、願い」  ほむらちゃんは自分に言い聞かせるように、まるで自分を呪うかのように苦々しい表情で答 えた。なぜだか分らないけど、この事はこれ以上は聞いてはいけないような気がした。  「じゃあ、なんでこんなに私達に優しいの?」  「そ、それは……」  ほむらちゃんは答えを探しているようだった。うまくこの場を沈めるための答えを。  私が求めてるのはそんなこたえじゃないの。ほむらちゃんの本心が知りたい。ほむらちゃん の事を知りたいの。  「あ、貴女が私たち魔法少女に、関わろうとするから……」  「嘘、だよね。だって、いつもは私を見て話してくれるのに、今は見てくれてないもん」  私を見上げたほむらちゃんは今にも泣きそうだった。  「鹿目さん。そこまでにしておいてあげれば?暁美さんも答えられない理由があるのかもし れないし」  「でも――」  「それに、もう遅い時間だから帰らないと」  そういわれて外を見ると、外は暗くなろうとしていた。  だから、ほむらちゃんと私は話が中途半端なまま帰ることになった。  「ねえ、ほむらちゃん。なんで、答えてくれないの?」  答えてくれないのが悲しくて、ほむらちゃんの事をわかってあげられないのが悔しくて、泣 きそうな声になっていた。  「ごめんなさい。でも、いつか必ず話すから、お願いだから、それまで待って」  ほむらちゃんもいつもと違って弱々しい声で懇願するように言った。  「じゃあ、その代わり、私のお願い聞いてくれる?」  「できることなら」  「私のことを名前で呼んで、抱き締めて、そして約束して。ちゃんと時が来たら話してくれる って」  そうしてくれればほむらちゃんの私を大切にしてくれる気持ちが伝わってくるから。ほむらち ゃんへの気持ちを疑わないでいられるから。なぜだかわからないけど、そう思えるから。  ほむらちゃんは少し躊躇って、まどかと私を呼んで抱き締めた。そして、ごめんなさい。と何 度も言った。    「じゃあ、帰りましょうか。もう遅いし、送っていくわ」  何分そうしてたかかわからないけど、ほむらちゃんはそういって後ろに回した腕を解いた。  「う、うん」  「わかってる。その時が来たらちゃんと話すから、私を信じて」  「うん。ほむらちゃんの気持ち、ちゃんと伝わってきたから」  そう言って、笑いかけるとほむらちゃんも笑い返してくれた。今はそれだけで良い。そんな気が した。そして、私たちはまた帰り道を歩き出した。                            ◇  帰りの道の途中に何故か仁美ちゃんが歩いていた。私は珍しいなと思い、仁美ちゃんに話しかけ に行こうとした。だけどそれはほむらちゃんに遮られた。  「待ちなさい。首に魔女の口付けの跡があるわ」  「そんな!」  「まずは様子を見るわ。付いていきましょう」  「うん」  そうして付いたのは薄気味悪い廃工場だった。そしてそこには口付けを受けた人がたくさん居た。  「まずいわね。先に行って一気に魔女を叩くわ!」  そういってほむらちゃんは私の腕を引っ張って走る。  大丈夫かな、いつものほむらちゃんじゃないみたい。なんだか焦ってる。  「ここね」  工場の奥に入るとそこはすでに結界となっていた。  しかし、この結界の中はいつもと違った。ここには画面があり、そこには私とほむらちゃんが映っ ていた。でも、そこに映っている光景を私は知らない。私は魔法少女になっていて、ほむらちゃんは 眼鏡を掛け、髪はみつあみにしていた。  私とほむらちゃんは二人とも倒れて、泣きながら私はほむらちゃんに話しかけ、ほむらちゃんも泣 きながらそれに答えた。そして、私がソウルジェムをほむらちゃんの前に差し出し、それに向かって ほむらちゃんが銃を構え、悲しみを押し殺すような表情をして―  そこで結界がなくなった。魔女をほむらちゃんが倒したんだ。  私はいまさっきの光景のことについて聞こうと思って振り向いた先にいたのは、正気を失って今に も壊れてしまいそうなほむらちゃんだった。  「私は何も出来ない。誰も守れない。大切な、誰よりも大切なまどかを助けるどころか、私が貴女 を苦しめてる。やっぱり、私は死んだほうがいいんだね」  私が目の前に行ってもほむらちゃんの目の焦点は合わず、自分を呪う言葉を紡ぎ、そして手に持っ た銃の矛先を自分のソウルジェムに向けようとした。  「目を覚ましてほむらちゃん!」  そういって私は思いっきりほむらちゃんの頬を叩いた。  「っ!私は、何を……」  「ほむらちゃん!」  私はほむらちゃんに抱きついた。  「よかった……ほむらちゃん戻ったんだね」  安心してきたせいで涙があふれる。  「まどか、悪いのだけれどここから離れるわよ。多分警察が来るから」  うん。いつものほむらちゃんだ。  「うん」  そういってほむらちゃんとわたしは逃げるようにその場から立ち去った。  「ねえ、どうしてほむらちゃんはあんなことになったの?」  いつもは冷静で大抵の事には動じることなんて無いのに、ほむらちゃんは明らかに正気を失ってた。  「正直に言うと、貴女の質問に心を乱されたからということになるんでしょうね。そこに漬け込ん で私の心的外傷を使って自壊するようにさせられたんでしょうね」  確かにあの時のほむらちゃんはいつものほむらちゃんじゃあ考えられないほど弱々しかった。自分 を壊したくなるほど言うのが辛い内容だったんだ……じゃあ、わたしのせいでほむらちゃんが――  「貴女のせいじゃないわ。全ては私のせいだから、気にする必要は無い」  「でも、私があんな事いわなければほむらちゃんはあんなに苦しむことなかったんでしょ?」  「じゃあ、まどかは私がそうなることを望んで聞いたの?」  「そんなわけない!」  私がそんなこと望むはず無い。私はただほむらちゃんのことが知りたかっただけ。  「でしょ?だから、あなたのせいじゃないわ。それに、あなたが私を知ろうとしてくれたのは嬉し かったから」  それならなんでほむらちゃんの事を私に教えてくれないの?   「でも、今さっきのことは忘れて。あそこで見たものは全て私だけの物であって、貴女が背負う必 要なんて無いんだから」  「嫌だよ。私だって、ほむらちゃんの支えになりたいの。やっとほむらちゃんの事を分ってあげら れると思ったのに、そんなのってないよ!」  そう。私だってほむらちゃんの支えになりたい。私は守られてばかりだから。いつも私に笑顔をく れて、安らぎをくれて、支えてくれて、命がけで助けてくれて、私、ほむらちゃんからもらってばか りだから。  「いいえ。まどかは私を十分支えてくれてる。あなたがいる、ただそれだけで私は戦える」  「戦えるとかそういうのじゃないの。私はほむらちゃんの心の支えになりたいの。ほむらちゃんの 悲しみも苦痛も私が一緒に支えていきたいの。だってわたしは」  だって、なんだろう。ほむらちゃんの友達だから?違う。じゃあ親友?これも違う。そんなのじゃ ない。ほむらちゃんのそばにずっといて、支えあって一緒に歩んでいけるような存在でありたい。  そっか。これが好きって事なのかな……  「私は、ほむらちゃんの事が好きだから」  ほむらちゃんは目を見開いて驚いてる。  「な、なんでそんなこと……」  「いってくれたよね。私がほむらちゃんの居場所だって。帰る場所だって。それと同じだよ。ほむ らちゃんは私を守ってくれたよね。ほむらちゃんはいつも私がして欲しい事をしてくれた。言って欲 しい事を言ってくれた。ほむらちゃんはいつも私を見てくれてた。そういうほむらちゃんの優しさに 包まれてるうちにね、いつの間にか私の場所はほむらちゃんのそばにあったの。もう私はほむらちゃ んがいないと安心も出来ないんだよ?ずっとそばに居て欲しいって想うようになってるんだよ?」  いろんな感情が流れてきてわけが分らなくなって泣いてしまいそうだけど、最後まで言いたい。ほ むらちゃんに私の想いを届けるために。  「わたしね。ほむらちゃんの本当の意味での居場所になりたいの。ほむらちゃんの全部を受け止め てあげたいの。だから、ほむらちゃんを教えて?私、ほむらちゃんを全部知りたい」  駄目だ、もう抑えられないよ。  「ごめんね。何も知らなくて。ほむらちゃんはこんなに苦しんでたのに!」  もう涙が溢れて来て、何もいえない。なにも考えれない。  「………………な、んで、なの?ねえ」  長い沈黙の後ほむらちゃんは喋り出した。  「なんで、そんなこというの?そんな事言われたら、貴女を求めてしまうじゃない。私は一人で居 なきゃいけないのに。ずっと皆を騙していないといけないのに。一人でこの道を進んでいくって決め たのに。そんなこといわれたら、私、貴女への想いが止められないじゃない!私は貴女が思ってるよ うな物じゃないのに!私は汚れてて、本当なら貴女に触れる価値も無いのに!私のせいで苦しむ人が 増えて、悲しみの連鎖が生まれたのに!そんな私なのに、救いを求めてしまうじゃない!」  ほむらちゃんも泣いていた。私はその姿を見ていまさっきよりもっと涙を流しながらも、もてる力 を全部出し切るくらい強く、決して離れないようにほむらちゃんを抱き締めた。そうするとほむらち ゃんは呻くように泣きながら痛いくらいに私を抱き返した。  いったいどれだけの苦痛を抱えてきたんだろう。私の涙はほむらちゃんが抱き締めてくれた時に引 いてしまった。私の感覚は全てほむらちゃんで満たされてしまったから。でも、まだほむらちゃんは 泣き続けている。  どれだけの時間がたったのか分らなくなったころに、ほむらちゃんは泣くのを止めた。  「まどか、本当に私の事好きなの?嘘じゃないの?私、貴女を好きでいていいの?」  でも、まだほむらちゃんは今にも泣きそうで、何かあれば直に壊れてしまいそうだった。だから私 は不安を取り除くように、うん。好きだよ。とほむらちゃんに言うと。本当に?と不安そうに何度も 聞いてくる。その全てに、好きだよ。と私は答えた。それが私の本当の気持ちだから。  しばらくすると、ほむらちゃんも落ち着きを取り戻し、私の手を取って立ち上がった。  「さあ、帰りましょう。もう本当に遅くなってしまったからまどかの家族も心配してるでしょう」  「うん。でも、私はほむらちゃんと一緒に居たい。まだ、ほむらちゃんの事何も聞いてないもん」  ほむらちゃんは嬉しいような困ったような、そんな顔をしていた。  「もう隠す必要は無いから大丈夫よ」  「嘘だよ。きっと、またはぐらかそうとしてる」  少しでも長くほむらちゃんといっしょにいたい。そして、ほむらちゃんのことを直にでも知りたい。 こんなに傷ついてるほむらちゃんを早く癒してあげたい。そう思いながらほむらちゃんに言葉を紡ぎ、 真っ直ぐ見つめ続けた。  「……わかったわ。私の負けよ。貴女にはいつも敵わないわね。……じゃあ、私の家に来てくれる?」  「うん!」  やっとほむらちゃんが折れてくれた。ほむらちゃんと一緒に居られる。ほむらちゃんを支えてあげら れるようになれる。そう思うと嬉しくて飛び上がりそうだった。  ここまで来て気づいた。ここが外だと言う事に。そして、何人もの人が私たちのことを見てる事に。 今さっきの事が聞かれてると思うと恥ずかしくて、顔が熱くなってくる。周りからしてみると中学生が 告白しあってる光景にしか見えないから。実際そうなんだけど。  あまりに私ははずかしくて、ほむらちゃんの腕にしがみ付いてほむらちゃんの後ろに隠れる。  でも、ほむらちゃんはそうでもないのか平然と歩きだした。私はと言うとほむらちゃんの家につくまで ずっとその状態だった。    ほむらちゃんの家に着き、家に連絡を入れた後、ほむらちゃんがコーヒーを入れて持ってきてくれた。  「はい。どうぞ、まどか」  そういってほむらちゃんはコップを渡してくれ、私の隣に腰掛けた。私はそれに寄り添うようにほむら ちゃんに近づいて体重を傾けた。  こうして二人っきりで寄り添ってるだけで、ほむらちゃんの甘い香りが鼻をくすぐり、触れ合う肩には あったかいほむらちゃんの体温が伝わってくる。たったこれだけの事なのに、それが特別な事に感じて、 恥ずかしいと同時に幸せだった。  私の顔が熱くなっていくのを感じる。ほむらちゃんはどううなんだろうと見上げると、ほむらちゃんも 少し顔が赤くなっていて、私を見て微笑んでいた。その時の顔はいままで見た事無い、幸せそうなものだ った。ほむらちゃんも私と同じように感じてくれると思うと、心が繋がった気がして本当に幸せだ。  出来る事なら、ずっとこうしていたい。だけど、わたしはほむらちゃんを支えるためにここにきたんだ から、私は聞かなきゃいけない。ほむらちゃんの事を。  「ねえほむらちゃん。教えて、くれるよね?」  「わかったわ」  そういってほむらちゃんはコーヒーを口に含んだ。私もそれにつられる様にコーヒーに口をつける。  「まどかはね、私の太陽なの。まどかが私の世界を照らしてくれた。まどかが私に生きる意味をおしえ てくれたんだよ?まどかが私を魔女から助けてくれて、私を肯定してくれたの。でも、まどかはワルプル ギスの夜に殺されてしまうの。私をおいて死んでしまったの。それでね、私はまどかを助けたい一心でキ ュウべえと契約して時間逆行と時間停止の能力を身に着けたの」  ほむらちゃんはいつもとは異なる、少し可愛い口調で語りだした。  私がほむらちゃんを助けた?  まるで逆の構図に、実感がわかない話だった。   そして、わたしのためにキュウべえ契約をしたという事に嬉しさと悔しさが湧き上がってきた。  そのまどかは私であって私でないから。ほむらちゃんの心は私じゃなくて私の知らない私が縛っている と思ったから。  「そしてね、魔法少女になった私はまどかと巴さんと協力してワルプルギスの夜を越えようとしたの。 まどかと私はね、どうにかワルプルギスの夜を越えたけど、まどかのソウルジェムが濁りきっててね、魔 女になってしまったの。それに絶望して私は繰り返したの」  ここで初めてわかった。ほむらちゃんの誰も魔法少女にしたくないと言っていた理由が。  魔法少女は魔女になってしまうからだったんだ。  「私はね、皆にソウルジェムの事を教えたの。そうしたらね、どういわれたと思う?私がだまそうとし てるんじゃないかって、仲間割れさせようとしてるんじゃないかって言われたの。そしてね、それが本当 だってわかったら巴さんはね、私たちを殺そうとするの。そこでも、まどかが助けてくれたんだ。でも、 巴さんを殺したまどかはもう絶望しきってた。だけど、私たちは支えあってワルプルギスの夜を倒したの。 もう私はこれでおわりでもいいかなって思ったけど、まどかがね。言ってくれたの。こんな結末を変えて って。私を助けてって。だから私は約束したの。何度繰り返す事になっても必ず貴女を助けてみせるって。 その時のまどかのソウルジェムは限界だったんだ。だから、私が殺してあげたの。まどかが魔女になりた くないって言ったから」  私のためにこんな道を選んでくれた事に嬉しく感じると同時に、私は私に嫉妬していた。ほむらちゃんの 心を縛ってるのはここまでのまどかであって、私じゃないと感じたから。  「そして私は、誰も信じることなく、誰にも頼らない道を選んだ。誰も受け入れる事が出来ないんだった ら、私が一人で全ての魔女を殺してワルプルギスの夜も私が殺してしまえばいいと思ったから。でも、駄目 だった。ワルプルギスの夜は私一人の手では倒せなかった。そのせいでまどかは魔法少女になって、魔女に なった。私の力が無かったせいで、まどかが死ぬ事になった。まどかが全てを滅ぼす魔女になった。私が殺 したようなものだわ」  先ほどまでとは違い、冷たくはっきりした口調でほむらちゃんは語った。  ほむらちゃんは私が死んだ事全てを受け止めてるように感じた。自分が殺したようなもの。実際はその私 が勝手に選択して勝手に死んだのに、ほむらちゃんはそれすら自分の責任にしてるから。  その事が嬉しくもあり、それ以上に悲しかった。  「でも、そのくらいならまだ私は大丈夫だった。無限の迷路に閉じ込められたって、貴女を守れるならか まわない。これは私のため祈りの代償。私が望んだ私一人の戦いだと思えたから。見返りなんて求めるわけ が無い。私は私のためだけに願いを叶えたのだから。そう思っていた」  どうしてそこまでして私を助けてくれようとしてくれるのか。私のためにどこまで傷ついてきたのか。ど うしてそこまでして約束を果たそうとしてくれるのか。  「でもね、駄目だったのよ。ふふっ。所詮私は何も出来なかったの。笑えるわよね。何度繰り返しても必 ず貴女を助けて見せる。そういったのにわたしの心は繰り返すごとに疲れていってたのに。ごまかしてただ けなのにねぇ。でも、何とかしてまどかの命だけは守ったわねぇ。周囲の全てを犠牲にしながら。それでど うしてまどかを守れると思ったのかしら。その時のまどかはこの世界に絶望しきって死ぬ事を願った。当然 よね。自分の周りが壊れた世界でどうしろって言うのよ。だから、わたしは魔法少女とか関係なく、まどか を殺したわ。そう。人間のまどかを!この手で!」  クスクスと笑いながらほむらちゃんは自分を責め続けた。  だけど、疲れてしまって道を誤ってしまったほむらちゃんを私には責めることなんて出来なかった。ほむ らちゃんは全てを犠牲にして戦ってきていたんだから。  「私ね。頑張ったんだよ?大好きなまどかのためだもん。どんなことがあっても大丈夫だよ。私の事を覚 えてる事なんてなくてもね、まどかが笑顔だったら何も要らなかったの。まどかが笑顔ってだけで辛くなん てなくなるもん。そう、思ってたのにね……。私、ホントは抱き締めて欲しかったの!愛して欲しかったの! だから私、見返り、求めちゃったの。そしたらまどか、優しいから。私を愛してくれたんだ。私を抱きしめ ていっぱい、いっぱい好きっていってくれたの。でも、まどかそのせいで魔法少女になっちゃった。だから ね、殺してあげたの。まどか、優しいから、魔女になるなんて嫌だろうから」  ほむらちゃんの口調が安定しない。そういえば、聞いた事がある。心の限界を超えた人が出来る事は、死 ぬか、別の人格を作る事で苦痛を和らげ、自己防衛をするのだと。多分、ほむらちゃんは後者だ。  そして、口調の変わる時はいつもほむらちゃんが私を殺したときだって事に気づいた。  私との約束を果たす。ただそれだけの為にほむらちゃんは何度も壊れて、その度に私の為だけに立ち上が って戦ってきてくれた。何かを言い訳にして苦痛から逃げる手段なんていっぱいあるはずなのに、全部正面 から受け止めて、自分を壊して、また自分を創って、壊して、その繰り返し。なんて不器用なんだろう。  「そしてね。苦痛はそこから始まるの。私はまどかに依存した。でも、まどかは私の事を知らないまどか。 記憶を引き継いでる上に、苦痛でゆがんで、すでに自分が曖昧になってる私はまどかを傷つけた。それなの に、まどかは私を完全に拒絶しなかった。それどころか、私を受け入れてしまった。私が今までの事をまど かにぶつけたせいでまどかの心を縛ってしまった。そうしてやっと気づいたの、いつのまにか私がまどかを 苦しめる存在になってる事に。そして、思い出したの。貴女の笑顔は皆がいる時が一番輝いてた事に。でも、 もう私は壊れてて、人格が保てなくなっていた。だから、もう終わりにしようと決めたの。次で最後。どん な結果になろうとここで終わらないと、私はどうなるか分らない。だから、私を捨ててでも今回こそは貴女 の望みを叶えたかった」  でもね、問題が起こったの。とつぶやいた。  「貴女はなぜか出会う予定の前日から行動が私の予想外だった。なぜかあのタイミングで魔女と出会って しまった。貴女を助けて抱き締めた後、貴女は眠ってしまった上に放そうとしたら貴女は魘されて、見てい られなかった。だからずっと貴女のそばにいた。その時、私の仮面は簡単に外れそうになった。だって、貴 女の事が好きなままだから。ずっと離れられなかったから。あなたが離してくれないから。でも、そこから はうまくいっていた。そう思っていたのに、次は私を貴女の家に招待した。貴女は一度言い出すと、それこ そ拒絶するくらいじゃないと聞かないから、私は貴女を完全に拒絶する事なんて出来ないから、少しでも傷 つけただけで私は壊れてしまいそうだったから、私はそれを受けた。そして、屋上でも、巴マミのところで も、その後の会話でも、貴女は私の造った仮面が外れるようなことばかりした。そして、私の求めていた言 葉を言ってくれて、もう、仮面なんて壊れて、貴女への想いが抑えられなくなりそうなの」  いつのまにか、ほむらちゃんの表情も空気もいつものほむらちゃんに戻っていた。  「ねえ。まどか、もう一度聞いていい?私、あなたの事、好きでいてもいい?」  ああ、本当にこの人はどれだけ私の事を愛してくれてるんだろう。私から手を差し伸べたのに、私が手を 引いてもいいんだとそう言ってる。ここまで創ってきたものを全てさらけ出して、今にも壊れそうなのに、 まだ、自分を苦しめる道を見てる。  ほんと、ほむらちゃん馬鹿だよ。もっと我が儘になっていいのに。もっと、私に押し付けてしまえばいい のに。好きだといった私に責任を負わせてしまえばいいのに。なんでこんなに無理しようとするのかなぁ。  「いいに、きまってるよ」  そう、そんなの話を聞く前から決まってる。でも、話を聞く前はただ感情に任せてただけだったかもしれ ない。でも、今は違う。ほむらちゃんの事を知った上で、ちゃんと考えて、感じて、導き出した答えだから。  「やっとわかった。私ね、ほむらちゃんの事分らなくなってたかもしれないけど、体が覚えてたよ。ほむ らちゃんに抱き締められるとね、凄くドキドキするのに、それ以上に安心できて、ずっとそのままで居たい っていつも思ってたの。それに、いつもほむらちゃんの事が気になって仕方なかった。なんでかわからなか ったけど。今なら分るよ。私は初めからほむらちゃんの事が好きだったんだよ」  「まどか……」  「だから、これからは私が受け止めるから。ほむらちゃんの事。今まで、ほむらちゃんが苦しんだ分、全 部受け止めるから。だから、いいよ。私にして欲しい事全部吐き出して」  そういってほむらちゃんを顔を私の胸に包み込むように抱き締めた。  「私も、ずっと好きだったの! あなたが好きだったの! ずっとそばに居て欲しかった! 抱き締めて 欲しかった! 好きって言って欲しかった! お願い。もう、私を一人にしないで……」  ほむらちゃんは泣きながら私を抱き返した。  「ほむらちゃんだって、私を一人にしないでよ?」  「うん」  そういってほむらちゃんは私から離れた。そして、ほむらちゃんは私の手を取り、手の甲にキスをした。 そして私の目を真っ直ぐと見つめて口を開いた。  「私は、誓うわ。絶対に貴女を一人にしない。貴女を守り続けると」  私はその行為に恥ずかしがる事しかできなくて、顔を真っ赤にしたまま俯いた。  その後、私たちはご飯を食べ、お風呂に入り、一緒に抱き合って眠りについた。    X     朝起きると、私の目の前にはほむらちゃんがいて、ほむらちゃんはまだ眠っているみたいだった。 眠っていても、抱き締める腕に力が入ってるみたいでどうにも抜ける事は出来なさそうだ。  まあ、抱き締められているこの状況から抜け出そうとも思わないんだけどね。  ずいぶん私は早く起きてしまったようで、なかなかほむらちゃんは目覚めない。その間、私はほむ らちゃんの温もりと匂いを堪能しながら昨日の事を思い出していた。  あの時は必死だったからどんな事でも言えたけど、今思い出してみると凄い事言ってる事に気づい た。普段自分の事をあまり出そうとしないのもあって、自分の思いの全てをぶつけた事、そしてその 時の自分の言葉を思い出すほど恥ずかしくなってくる。  わ、私、何であんな事言えたんだろ。こ、こんな台詞恥ずかしすぎるよ。ほむらちゃんの顔をまと もに見れないよ。  もう私の顔は熱くなっていて、頭の中は恥ずかしさで満たされていた。それをごまかすように私は ほむらちゃんの胸に蹲る様にして思いっきり抱きついた。そうすると、頭の上からクスクスと笑い声 が聞こえた。  「おはよう。まどか」  微笑みながらはっきりとした声で愛しそうに私の名前を呼んでくれる。それが嬉しくて、また、恥 ずかしかったので、ほむらちゃんの胸に蹲った状態でおはようと返事をした。  「朝ごはんを作るから、まどかは着替えてて」  そういってほむらちゃんは私から離れる。それが凄く寂しかった。そして、温もりが無くなり始めた ころにその思いは強くなった。  「あっ……」  思わず声が漏れてしまったが、すでに立ち上がって朝食を準備しようと向かっていたほむらちゃん にはそれは聞こえなかったみたいだ。私はそれにちょっと理不尽な不満を抱きながら、ほむらちゃん に言われたように着替え始めた。しかし、今着ている服がほむらちゃんのものだったと気づくと、そ んな感情は消えていた。    その後、私たちは朝食をすませ、学校に向かい始めた。  そして、ほむらちゃんは真剣な顔で口を開いた。  「上条恭介といったわね。美樹さんは彼のせいで契約してしまう可能性があるわ」  「え……それってどういう事なの?ほむらちゃん」  ほむらちゃんの言う事があまりに予想外だった。  さやかちゃんの心が?なんで?  「私が魔法少女の体の事を説明してるから、突発的に契約する事はないと思うのだけれどね。彼の こと聞いたわ。事故にあったんだってね。そして、彼女は彼に尽くそうとしてる。そうよね?」  「うん」  ほとんど間違ってない。バイオリンを弾けなくなった上条君を支えようとさやかちゃんは必死に尽 くしてる。  「美樹さんは、誰かのために願い事を使えないのか。と聞いてきたわね。だったら、彼のために願 い事を使うと言うのが妥当な考えだと思うの」  私も、あの時上条君の事を言っているのだと思った。  「彼女、これまでの中で何度も魔法少女になってたわ。途中までは彼女も正義感に燃えて、見返り なんて求めないと言っていたけど、彼女は必ず魔女になった。つまり、願いを叶えた先に彼女の求め たものは無かったという事になるわ」  そんな、そんな酷い話……さやかちゃんが可哀想だよ。  「それにね、彼女は感情に身を任せるタイプだから体の事を分ってても契約してしまうかもしれな い。だから、もし本当に彼女が悩んでる様子があるなら彼女の話を聞いてあげて。巴さんに話を聞い てもらうのもいいと思うわ」  「うん。わかった」  さやかちゃんがそんなことになるなら私も頑張らないと。  「じゃあ、まどかはいつもの待ち合わせ場所に行ってあげなさい」  「え、ほむらちゃん、一緒に行かないの?」  「私は少し用事があるから」  「そうなんだ……」  一緒に行くものだと思ってたからちょっと残念。  「またあとでね。まどか」  「うん」  早めに出たおかげか、待ち合わせ場所に一番に着いた。  そうすると直に仁美ちゃんが来て、最後にさやかちゃんが来た。  ほむらちゃんに言われなければ気づかなかったかもしれない。さやかちゃんは本当に空元気を振り まいていた。その様子を教室に着いたほむらちゃんに言うと、昼に屋上で巴さんと話す機会を作った から、そこで話すのがいいと思うわ。と言った。その時ほむらちゃんは用事があって行けないらしい けど。                         ◇  「美樹さん。なんだか今日は元気ないみたいね」  その言葉にさやかちゃんは目を見開いて驚いた。  「さやかちゃん。何があったの?私、さやかちゃんは空元気を振りまいてるようにしか見えないよ」  「溜め込んでいたら何も変わらないけど、言えば楽になるかもしれないし、一人で考えるより色ん な考えが出て解決もしやすいと思うの」  マミさんは本当に心配している表情でさやかちゃんを見て言った。  「やっぱり、わかっちゃうか。マミさんも知ってると思うけど、上条恭介って人。天才って言われ てたあの。恭介は私の幼馴染なんだ」  マミさんは驚いたような顔をした。  「それで、事故があってバイオリンを弾けなくなってから今までCDを持って行ったり、話をしたり しに行ってたの。いつか治るから頑張ろうって意味を込めて。でもね、昨日言われたんだって、もう バイオリンを弾くことはできないって。手は治らないって。もう、痛みすら感じないって。その時、 契約すればって思った。契約すれば、手は治って恭介は昔を取り戻せるから。でも、そうしたら私あ んな体になっちゃうんだって思ったの。そんな体になったら私、思いを伝える事も出来なくなる。で も、苦しんでる恭介の姿も見たくない。もう、私どうすればいいのかわからないよ!」  さやかちゃんは泣いていた。どうしようもない現実に嘆いて。  「美樹さん。中学生には居いくらでもこれからを決めていける年齢なのよ。彼がバイオリンを弾け なくなったのなら他の道を探す手助けをしてあげると言うのは無理なのかしら。確かに、皆に賞賛さ れるほどの才能が潰れた本人は全てを失ったと思って絶望するでしょうね。でも、他にも進める道は いくらでもある。それが見えなくなってると思うの。だからね、それを手助けしてあげる事が貴女に とっても彼にとっても一番良いんじゃないかしら」  確かに、そうかもしれない。目先の事実にとらわれて現実が見えてなかったのかもしれない。まだ いくらでもやり直しが出来るのに、勝手に決め付けていたところがあったと思った。  「それとも貴女は、バイオリンが弾けない彼は好きじゃないの?」  「そんなことない!」  「でしょ?」  「そっか。そうだ。私なにを勘違いしてたんだろう。バイオリンが弾けなくったて恭介は恭介だ。 今は弾けなくなった事で心が荒んでるだけなんだよね。私たちにはいくらでも将来を選ぶ事が出来る んだから。ありがとう。まどか、マミさん。私、頑張るよ!」  よかった。さやかちゃんが元気になって。  それにしても、マミさんは凄い。私にはあんな事いえなかったと思う。そんな考えが出来なかった から。私も、目の前のことにとらわれてたから。  「それにしても、暁美さんにはお礼を言わないとね。この場を作ってくれたのは彼女だし、今の考 え方も彼女のおかげで気づいたようなものだから」  そうやってマミさんは微笑みながら言う。  「ほむらちゃん、そんな事言ってたっけ?」  純粋に疑問に思った。  「言っては無いわね。体についての話をした時、彼女が貴女に魔法少女になんてならなくても、貴女 がいてくれるだけで力になるって言ったわよね。私もね、いつしか一緒に戦ってくれる仲間が欲しくな ってたの。だけど、戦うって事に気をとられすぎて、協力してくれる魔法少女が欲しくなってたの。だ けど、その言葉を彼女の口から聞いたとき、その言葉は本当に重くて、心にしみこんで言った。一緒に 戦うのにもいくつもの選択があることに気づかされたわ。実際、そばに守るものがあるってのは力にな ったもの。だったら人生の中にはもっと多くの道があるはずよっ、てね」  「まあ、あのときのほむらはホントにやりすぎでしたけど」  「ホントに。あんなの二度と見たくないもの」  さやかちゃんも笑って冗談を言えるくらいになったみたい。で、マミさんも笑ってそれを返してる。  やっぱりほむらちゃんは凄い。こうして皆を助けてる。ほむらちゃんが居ないこの場所でも。そうい えば、朝から用事があるっていって何処かに行ってるけど、何をしてるんだろう。  「さあ、ご飯を食べましょう。お腹も減ってきてきてるところだし」  「ホント、話したらすっきりして、お腹が減ってきちゃいましたよ」  「私も、安心したらお腹が減ってきちゃった」  そういって笑いあいながら私たちはご飯を食べた。     教室に戻るとほむらちゃんは少し考え事をしてるようで、表情が硬かった。  そのせいか、今日は誰もほむらちゃんの周りには居なかった。  そんなほむらちゃんにさやかちゃんは近づいていった。  「ありがとね、ほむら。あんたのおかげで私、もう少し頑張れそうだよ」  ほむらちゃんはその時なぜか凄く申し訳無さそうな顔をした。  「え、ええ。でも、私はなにもしてあげてないわ」  「まあ、いいから気持ちくらいうけとっときなって」  そう言ってさやかちゃんは自分の席の方へ向かっていった。  「どうしたのほむらちゃん。なんか、様子が変だよ?」  「いえ、何かを忘れているような気がするの。だけど、思い出せなくて」  「ホントにそれだけ?」  ほむらちゃんは直に溜め込もうとする人だからこうして聞かないと安心できない。  「ホントよ。まどか」  だけど、真っ直ぐ私をみてこういってくれるから。ホントなんだろう。そう思った私はそのまま席へ 戻っていった。                       ◇    放課後、今日の話を実践するために病院へ行くといってさやかちゃんは行ってしまった。  私とほむらちゃんはマミさんと一緒にいつものように魔女を捜しに行き、あっさり倒してしまったた め、今日は早めに帰ることになった。  帰り道、私たちは腕を組んで歩いていた。  これが一番まどかを近くに感じられると思うから。そういってほむらちゃんが提案してくれた。私も そうして歩きたかったから直に了承した。  腕に抱きつくようにして歩いているので、ほんとうにほむらちゃんを近くに感じる事が出来る。外に 居るのに私の景色の大半はほむらちゃんで満たされて、感じる匂いも、温度も、ほむらちゃんに埋めつ くされてる。そして、ほむらちゃんが笑いかけてくれる。それだけで胸がドキドキして、その反面すご く安心できて、幸せすぎてどうにかなりそうだった。  それをほむらちゃんに伝えると、ほむらちゃんは少し顔を赤らめて、私もよ、まどか。と耳元でささ やいてくれた。その耳にかかる吐息が、聞こえてくる声が私の心を震わせて、嬉しいのか恥ずかしいの かわからなくなる。そして、私は組んだ腕を放して正面から抱きつく。そうすれば、どんな感情でもい いと思えるから。ほむらちゃんに全部包まれてたらもうどんな感情でも、幸せだと感じられるから。そ して、ほむらちゃんは抱き締め返してくれて、私の全てを捕まえてくれるから。    私の家の前に着くと、ほむらちゃんは明日まで会えなくなってしまうと感じて、それだけで寂しく思 えた。ほむらちゃんもそう思ってるのか、なかなか私を離そうとしない。でも、離れたのはほむらちゃ んが先だった。それが寂しく思えたのが顔に出てたのか、ほむらちゃんは少し困った顔をしていた。で も、その困った顔は嬉しそうだった。そして、ほむらちゃんは私に顔を近づけ、額にキスをした。私は 一気に顔が熱くなるのを感じた。そのままほむらちゃんは私もまどかと離れるのは寂しいけど、これか らも一緒だから。いくらでも時間はあるんだから。だから、今日はこのくらいでね。と優しく諭すよう に私に言う。私は恥ずかしくて、首をこくこくと動かす事しかできなかった。私はそのまま立ち尽くし て、ほむらちゃんが見えなくなるまでそのままでいた。                       Y   私はまどかと別れた後、杏子を探すために町へ戻っていった。  まどかを助けるためには彼女の力が必要不可欠だ。彼女は大概の事なら自ら背負い、受け入れて 戦う事の出来る強い心を持っている。そして、利己主義の考えの裏に誰かのために戦うという優し い心まで持ち合わせ、なにより彼女は強い。戦友としてはもっとも信頼できる相手だ。  今までと同じ様に行くなら、そろそろ杏子は絶好の狩場であるこの街にくるはずだ。  今までどおりなら大体どこに居るのかは予想はつくが、まだその時間ではない。その上にこの時 間軸は私によってどんな変化が生じているか分らないから一度見つけておきたかった。    どれだけの時間探しただろうか、すでに完全に日は沈んでいた。  暗くなれば探しやすい。建物の上を飛び越えながら探せるからだ。  「見つけた!」  私はその方向へ駆けて行き、様子を見る。  あれは…杏子と、美樹さやか?なんでこの二人が一緒にいるのだろう。  争ってるわけじゃない。むしろ杏子が美樹さやかを励ましているように見える。  この方向は…美樹さやかの家ね。送っていってあげてるのかしら。でも、なぜ?  杏子は美樹さやかを送り届けたみたいだ。話しかけるなら今しかない。  「貴女らしくないわね、佐倉杏子」  私の声に反応してこちらに向く。そしてすぐに訝しげな顔をした。  「あんた、どこかで会ったか…?」  「貴女にあった覚えがあるのなら、そうかもね」  杏子は私を警戒して観察している。流石にベテランだ。会話の間に相手の分析を始めてる。  「ああ、あんたが噂のイレギュラーってわけだ。人のために使い魔を含めて魔女を倒し続けてる あの巴マミとコンビを組んでるって言う」  私の事をある程度知っていると言う事は、大方インキュベーターにでもあらかじめ教えられてた んだろう。  「で、あんたらと違う信念で魔女を狩るアタシが邪魔だから消しに来たってとこかい?」  そういって変身し、直に彼女は武器を構え、臨戦態勢に入る。  しかし、彼女は笑っていた。消しに来たと判断しているのに、杏子はその空気を楽しんでいる。  「信じてもらえるか分らないけど、私はあなたと話がしたくて来たのよ」  「へぇ。用件はなんだい?」  「貴女に協力して欲しいの。私たちに」  多分信じてないだろう。わかってる。杏子は頭が切れる。信じるに値する事実があることを確認 した上に、信じるに値する意思を見ない事には協力なんてしてくれないだろう。  「協力するだって?そんな事言うのはあんたらだけだよ。それに、グリーフシードは一匹の魔女 から一つしか出ない」  「協力すれば普段よりもグリーフシードの使用回数は減るからむしろそこは効率的よ。欲しけれ ば優先的に貴女に上げてもいいわ」  「ふうん。なんでそこまで自分が不利になる条件を出すのかは気になるけど、実力を知らない相 手とは組めないね。ここで死ぬような奴なら別にここを私のものにすればいいだけだしね。まずは あんたが組む価値があるかどうか私に見せてみなよ」   ふふ。勝負ってわけね。貴女らしいわ杏子。  「貴女のそういうところ、気に入ってるわ。いいわ。やりましょうか」  私はそういって変身する。武器はコンバットナイフとデザートイーグルAE50だ。ナイフは守りと 最後の決め手としては最適だ。銃だけでは彼女の攻撃を防ぎきることは出来ない。また、彼女相手 の戦闘の決め手としては銃は適さない。彼女の槍は可変するため、距離をとった状態でも不意をつ かれる場合がある。また、タイミングを計られ、避けられる可能性があるからだ。デザートイーグ ルは確かに戦闘向きではない。ただし人間が使えばだ。だけれど、私には関係ない。反動を気にす ることなく撃ち続ける事の出来る体があるから。  「じゃあ、場所を変えましょう。ここじゃあ人目につくわ」    そういってやってきたのはいつか私が始めて魔法を練習したところだ。  「じゃあ、はじめようか」  そういって杏子は笑って構える。  「いいわ。この薬莢が地面に落ちた時点で開始しましょう」  そういって薬莢を取り出し、杏子に見せる。そして、上に投げる。その瞬間、どちらも空気が変 わる。ゆっくりと薬莢が落ちていく。それを見ることなく、音に反応しようとどちらも互いに見合 ったままだ。そして、数秒にも満たない沈黙は終わりを告げた。  反応はやはり杏子の方が早かった。その一瞬の差の間に杏子は一気に間合いを詰め、それと同時 に突きを繰り出す。それに対応するように私は前に出る。後ろに下がる事は死を意味するからだ。 コンバットナイフを逆手に持ち替え、槍を突き出しきる前に止めるように左腕を突き出す。だが、 受けるだけでは勝つ事は出来ない。そんなに杏子は甘い相手ではない。私は躊躇無く、デザートイ ーグルの銃口を杏子に向ける。その瞬間、杏子は槍を地面に立て、飛び上がり、私の上を取る。次 に杏子は槍を多節棍に変形させ、直に攻撃に転じる気だ。それに対応させるように槍が変形する前 に槍を銃で打ち抜く。その衝撃で杏子の体はバランスを崩す、はずだった。しかし、杏子はその反 動を利用して槍を回転させ、こちらに突き出してくる。それを体を捻り、銃で迎撃しながらコンク リートの地面を転がる事で回避しようとするが腕に掠めてしまう。急いで体勢を立て直すと、杏子 にも命中していたらしく体勢を整えているところだった。  「やるねぇあんた。見たところ自分の魔力を使った武器じゃないみたいだけど」  「貴女もね。因みにこの武器は、貴女の言う通り実際にある物よ」  「それにしてもその銃はどうかと思うぞ。掠めた程度で衝撃がきやがった」  「貴女のその槍も同じようなものじゃない。長さを変えられるんだから」  「違いない」  私たちは殺し合いをしてるはずなのに笑ってた。楽しかったから。私はまだ生きてるって実感が 武器越しに伝わってくるから。  いつかの私は命がけで戦う事に喜びを得ていた。全てを捨てた私が生きる実感を得るには最適の 手段だったから。その名残が私にもあるんだろう。  「どうする? 終わりにする?」  「ここで終わるのはもったいないよな。もう少し楽しまないかい?」  「そうね。じゃあ、行くわよ!」  互いに実力を認め合っているのに私たちは戦いを再開した。  しかし、もうこれは殺し合いではなかった。互いの動きを理解したうえでの攻撃はどちらにもあ たることは無く、まるで二人で踊っているかのようにその攻防の切り替わりまでもが完成された動 きになっていたからだ。  しかし、舞台の終幕は早かった。互いに避けられない体勢を相手に作らせ、首に獲物を突きつけ る。数秒の沈黙の後、どちらも武器をしまった。  「で、協力してくれる?」  「目的は?」  「二週間後にワルプルギスの夜がくる」  「なるほどね。なんでわかるのかなんて聞かないよ。あんたが嘘をついてないことくらい分る」  「じゃあ、協力してくれるのね」  「巴マミに私にあんたでの共同戦線か。確かにどんな敵でも倒せそうなメンバーだ。」  杏子は協力してくれるようだ。正直、彼女がいるだけで戦力は相当上がる。私と巴マミは前線で は戦えない。そのせいで相手の接近を許してしまう。また、互いのサポート神経を使う。その問題 を全て解決できるからだ。  「それじゃあ、何処かゆっくりと話せるところに行きましょう。貴女には聞きたいことがあるか ら。もちろん私のおごりでいいから」  「本当か! あんたいい奴だね。え〜っと……」  「暁美ほむらよ」  「じゃあ、よろしくな。ほむら」                           ◇    「本当に遠慮しないのね……」  見てるだけで胸焼けがしそうな量の注文をして杏子は席に座った。  「せっかくのおごりなんだし、貰った金はオーバーしてないからいいじゃないか。」  笑いながら平然と言ってのける。ある意味そのずうずうしさには敬服してしまう。  「まあ、いいわ。ところで、美樹さんとどうして一緒にいたのか教えてくれる?」  その言葉に杏子の手は止まる。  「ああ、さやかの事か。あれはアタシにもよくわかんないんだよね。」  わからない? どういうことなのだろう。  「あいつは死んだような目をして歩いてたんだ。そういう光景は珍しい事じゃない。なのに、な んか気になったんだ。まあ、魔女おおびき出す格好の餌だと考えた事に否定はしないけどな」  わからないけど気になる。まどかも同じような事を行っていたわね。  「まあ、魔女がホントに出てきたから、そいつは怯えてわけが分らなくなるだろうからその時に 潰しに行けばいいって思ってた。でも、そいつは虚ろな目で魔女を見てそのまま歩いていったんだ。 これはヤバイと思ってね、あいつを捕まえて安全なところに置いた後、魔女を倒した」  美樹さやかがそんな状態になる原因は上条恭介とかいう男しか思い当たらない。しかし、今日の 彼女は多少の事では挫けない決意がある目をして彼のところに行ったはずだ。  「そしたらさ、何で助けたの? って聞くんだよ。はぁ? って思ったよ。この状況で第一声が それかよってね。その次には、ここで死ねたら楽になれたのにって言いやがった。あたしは命を自 分から蔑にする奴は大嫌いだからさ、一発言ってやろうと思ったんだ」  彼女は飲み物を飲んで一息つく。そして直にまた口を開いた。  「あたしは襟首を掴んであいつを立たせた。そしたらあいつ泣きながら、だってあたし、もうどう すればいいのかわかんなくなってるんだもん。恭介に捨てられて、あたしが頑張る意味、なくなった んだもん。て言うんだ」  上条恭介が彼女を? 彼女は魔法少女になったせいでああなってしまったと思っていたのに、どう やら見当違いだったみたいだ。美樹さやかには悪い事をしたわね。ごめんなさい。  「ガラじゃあ無いとは思ったんだけどね、そいつが泣いてるのがなんか嫌だったんだよ。だから今 までの事とか今日あったことを聞いてやったんだ。そしたらダブって見えてきて、ほっとけなくなっ た。そういうことだね」  「そうなの。ありがとう。私からもお礼を言っておくわ」  「まあ、気にすんなって。またなんかあったらあいつの話くらい聞いてやるさ。これでも神父の娘 だからな。話を聞くことと気を楽にさせることくらいは出来るよ。まあ、そういう約束もしちまった しな。」  今までも杏子は美樹さやかの事を気に掛けていたが、それは魔法少女になって互いにぶつかり合い、 杏子がさやかに昔の自分の影をみたからだった。  体が覚えてる。そうまどかは言っていたわね。この子も知らないうちにどこかで覚えてるのかしら ね。そう思うと思わず笑みがこぼれる。  「どうしたんだい?急に笑ったりして」  「ごめんなさい。本当に、貴女らしいと思って」  「出会ったときと言ってる事が逆じゃないか。まあ、自分でもそうかもしれないとは思うけどさ」  そういって杏子も笑った。    「じゃあ、詳しい話は明日にしましょう。今日は楽しかったわ。それじゃ」  「そうだね。もう時間も時間だしね」  そういって私たちは別れて、私は帰路についた。  そういえば、まどかとはまだ二人でどこかにいったりした事無かったわね。今度誘ってみようかしら。 まどかの好きな店は覚えてるし。こんなことを考えながら。    Z   朝、学校にいくと赤いポニーテールでボーイッシュな雰囲気なんだけど綺麗な顔立ちを した女の子が校門の近くに立っていた。  誰なんだろう? と思っていると、さやかちゃんはその姿を見て少し驚いていた。  「杏子?なんでここに?」  「いや、ある奴に用があったんだけど、どこに居るのか分らないからここで待ってたん だよ。ここの生徒みたいだったからな」  杏子とよばれた女の子はポッキーを食べながら言う。  「き、昨日はありがと。私、頑張ってみるよ」  さやかちゃんは少し顔を紅潮させて俯きながら言う。  「ああ、頑張りな」  そう言って笑いながら杏子と呼ばれた女の子はさやかちゃんの頭を撫でた。  この人、さやかちゃんとどういう関係なんだろ?   「おっ。来たみたいだな」  「え?」  杏子という子が用がある人物が来たらしいので、そちらを向くとそこにはほむらちゃん がいた。  「ほむら。あんた詳しい話は今日するって言ってたけど、場所も時間も教えてもらって なかったんだけど」  「そういえば、言い忘れてたわね。ごめんなさい」  そう言って謝るほむらちゃん。  ほむらちゃんとも知り合いなんだ。その事に少し疎外感を感じた。  そして、私の知らない人がほむらちゃんと親しげな事に今まで感じた事無いもやもやし たものが胸を埋め尽くした。こういう時はほむらちゃんに抱きつきたくなる。でも、流石 に学校の前なのでその感情をなんとか抑えられた。  「じゃあ、学校が終わった後の二時間後くらいに私の家へ来て頂戴。これが地図よ」  「りょ〜かい」  そう言って杏子と呼ばれた子は何処かへ行ってしまった。  「あなた達も来れるのなら来て欲しいわ。あなた達にも関係の無い話ではないから」  「うん。わかった」  私には断る理由が無かった。  「わたしは、ちょっとわかんないかなぁ」  対してさやかちゃんはちょっと悲しそうな表情でそういった。    休憩中にほむらちゃんはマミさんも誘ったみたい。皆を集めて何を話すつもりなんだろ う。それをほむらちゃんに聞くと、ワルプルギスの夜を越えるための話し合いよ。と言っ た。                       ◇  あたしは学校が終わったのを確認すると、さやかを探し始めた。  さやかはあたしが言ったように、もう一度ちゃんと確認しにいくはずだ。あたしはそれ を見届けないといけない。辛くても、ちゃんと思いを一度本人に伝えなければ、それに縛 られ続けるから、でないと死ぬその瞬間まで後悔することになる。そうあたしが言ったか ら。  あたしはさやかとは出会ったばっかりだ。昨日助けた後、話を聞いて慰めてやった。た だそれだけだった。  "だってあたし、もうどうすればいいのかわかんなくなってるんだもん。恭介に捨てられ て、あたしが頑張る意味、なくなったんだもん"  そう言ってあいつは泣いていた。何故か、それが嫌だった。  "はぁ、とりあえず落ち着きなって。まずはその涙を抑えな。胸くらいは貸してやるよ"  自然と出て行った言葉に自分が一番驚いてたっけ。 そして、あいつは泣きついてきた。そして子供のように泣き続けた。その時私はいつか 死んだ妹にしたように頭を撫でてやった。そして、しばらくするとあいつは顔を上げた。  "落ち着いたかい?"  "うん。ありがとう。え〜と……"  "佐倉杏子だ"  "ありがとう、杏子。"  "で、なんであんなふうになってたんだい?これでも神父の娘だからアドバイスくらいは 出来ると思うよ?"  "遠慮がないんだね。でも、なんか心地いいや"  そういってあいつは語りだした。  "私ね、好きな人がいたの。その人は天才ってよばれるくらいバイオリンを弾くのが上手 かったの。でもね、事故にあって彼は弾けなくなったの。彼は弾けなくなった事に絶望し てた。だから私は彼が希望を持てるように支えたかった。好きだったから。音楽の事勉強し て、欲しそうなCDを頑張って見つけて、度々お見舞いに行ってた。でもね、もう治らないっ て言われたの。その日私は、自分が弾けない曲なんて聞かせないでくれ! って言われたの。 だから一瞬、契約して治そうかと思ったけど、私には願えなかった。それを責めもしたけど、 歩んでいける様々な道が見えなくなってるだけだから、それを見つける手助けをしたらどう かって言われて、納得して、私、頑張ろうと思ったんだ。"  さやかはまた泣き出していたっけな。  "でも、分ってくれなかった。そして、前々から言おうと思ってたんだけど、さやかはうっ とおしいんだよね。二度と僕の目の前に現れないでくれ。って言われたの。なんでかなぁ。 私、間違ってたのかなぁ。そこまで言われたのに、なんで断ち切れないのかなぁ。"  どれだけ他人を思って尽くしても、どれだけ正しい事を貫いても、報われない。  自分の出来ること全てを尽くしても、壊れてしまう願い。  ああ、こいつはあたしやあたしの家族だった人たちと同じ部類の人間なんだとおもった。  "ははっ。初対面なのに全部話しちゃった。でも、なんでかな。杏子はなんだか初対面な感 じがしない。ずっと一緒にいてくれてた、そんな気がする。そのくらい他人の気がしないよ"  そう。わたしもそんな気がしてた。初対面のはずなのにほっとけない。しかも、なぜかこう して二人で仲良くやってると安心する。自分と同じだからなんてのは話を聞いてから気づいた だけだ。  "そうだね。あたしもそんな気がするよ"  "なんだか、杏子といると安心する"  "あんたはさ、どうしたい?"  私は急に話をぶった切って言ったんだよな。  "もし、後悔したくないならあんたの想いをぶつけてきな。でないと、あんたは縛られ続け る。死ぬその瞬間まで。辛いかもしれないけど、その時はあたしが居てやるよ"  "うん。わかってた。それが一番いいんだって。でも、それを言うと今まで積み上げてきた ものが壊れてしまいそうで、一人になってしまいそうで怖かった。でも、なぜかあんたがい ると大丈夫な気がするんだ。なぜだかわからないけど、本当にそう思えるんだ。"  "ああ、いいよ。一人ぼっちは、寂しいからな。一緒にいてやるよ"  そんな感じだったな。  今考えると初対面で告白してるようなもののように思えるが、なぜだか一緒に居ることを 望んでた気がする。初対面なのに、前から思ってたなんてありえるはずがないのにな。  そうやって思い出してると、さやかが何処かに行こうとしているのを見つける。  やっぱり、行くんだな。そう思った私はばれないように後をつけていった。  ここがその病院か。さやかが入っていったので、から直見える位置に座る。  それにしても、こんな性格だったらすぐにでも契約して件の彼に使ってしまいそうなもの だけど、よく使わなかったな。ほむらや巴マミと親しいみたいだからそこで何かあったのだ ろう。契約しなかったのは正解だと思う。やり直せない領域まで行ってあたしと同じように なってしまいかねないから。    何分待っただろう。さやかが入ってから、ほとんど待つことなくさやかは出てきた。その 表情は今にも泣きそうだ。そして、あたしを見つけたのか一直線にこっちに来る。  そして、初めて会ったときのように泣きついた。  「私、怖かったけど頑張ったよ。駄目だって分ってたけど言えたんだよ」  「ああ、頑張ったな」  そういって私は頭を撫でてやる。  しばらくして泣き止み、さやかは空を見上げた。  「あんたの言うとおりだった。これで私、前に進めそうだよ」  そういって私に笑いかけた。その表情は、とても清々しくて見惚れる様なものだった。 ああ、こいつは笑っていた方がいい。こんな表情を見て行きたい。そう思った。  「それじゃあ、ほむらの家へ行こうか」  「そうだね」  そうしてあたし達はほむらの家へ向った。            [    「そろそろ、始めるわよ。」  「ちょっとまって、そういえば私、まだ何の為に呼ばれたのか聞いてないのだけれど。」  ほむらちゃんはマミさんの反応に疑問を抱いているようだった。  「言ってなかったかしら?」  「はぁ……貴女ってどこかぬけてるわよね」  「私のときもそうだったしな」  ほむらちゃんは率直に何かを要求するとき大事な事を言うのを忘れる事が多いみたい。  そのことに思わず笑ってしまう。いつもは完璧を演じてるのにやっぱり地が出るのかな。  「まあいいわ。私が呼んだのは一週間と6日後にワルプルギスの夜が来るからそれの対 策の為よ。」  ワルプルギスの夜という言葉にマミさんは驚きを隠せない様子だった。  「因みに、出現予測は地図で見るとこの範囲ね。いずれのパターンにも対応する為にも 最低でも二箇所の霊脈を抑える必要があるわ」  「なるほどねぇ。つまり一人がまずワルプルギスの夜を抑えて、その後合流したと同時 に一気に叩くんだね」  私とさやかちゃんとマミさんはすっかり置いてけぼりで話が進んでいる。  「ねえ、ワルプルギスの夜ってなんなの?」  さやかちゃんもやっぱり疑問に思ってたみたい。   「超弩級の大型魔女さ。あれが来たときにはその周辺は原型を保てないくらいに壊れる だろうね。」  その言葉に私とさやかちゃんは絶句する。そんなんじゃあ皆死んでしまうんじゃないか と考えてしまい、思わず聞いてしまう。  「そんなのに勝てるの?」  「ええ。そのための共同戦線だもの」  「まあ、絶対勝てるとは言い切れないけど、勝てない事は無いだろうね」  勝算はあるみたいで、ひとまず安心した。  「一ついいかしら。佐倉さんは、なぜこんな事が言えるのかって疑問に思わないの?」  マミさんは真剣な表情で疑問を口にする。それはそうだと思う。マミさんからしてみれ ば何の根拠もなしに言っているようにしか聞こえないはずだからだ。  「疑問に思わないって言えば嘘になるけど、ほむらは嘘をついてないし、根拠を知る事 はそれほど重要じゃないしね。戦ってみて信頼できる奴だと思ったからあたしは協力する 事にしたんだ」  「まあ、確かにその通りではあるわね」  「説明しにくいのなら僕が説明してあげようか? 暁美ほむら」  皆が納得しかけたタイミングでキュウべえが会話に入ってくる。  「時間操作の魔術が君の能力だね?……沈黙は肯定ととるよ。ワルプルギスの夜の説明 でやっとわかった。君はその能力を使って何度もこの時間軸をやり直してるんだろう。大 方、願いは未来を変えるために過去に戻るようなものなんだろうけど。」  「ええ。そうよ」  沈黙が流れる。  「なんで本当の能力をいわなかったの?暁美さん」  能力を隠していた事に多少怒ってるのか少し声が硬いが、表情はそこまで怒ってないよ うに見える。  「私がその能力を持っていることが知られたらいけなかったからよ。キュウべえ、いえ、 インキュベーター。あなたの目的を阻止する為にね。」  「やれやれ、君には完全にやられたようだね。君には全部ばれてるわけだ。」  「ええ。だから今すぐ消えなさい」  「仕方ないね。無駄に潰されたくないし、今日のところは退散させてもらうよ」  声色や雰囲気が変わり、人までが変わったかのようにほむらちゃんの声も目も、周りの 空気までもが冷たくなっていた。キュウべえはそれを察してか直に何処かに消えてしまっ た。  「能力の事については黙っててごめんなさい。でも、これだけは信じて欲しい。私は貴 女も助けたかったの。だから言うわけにはいかなかったの。」  そう言ってほむらちゃんはマミさんの手を取って真っ直ぐに言う。  さっきまでの雰囲気は消え去り、もとのほむらちゃんに戻っていた。やっぱり、感情が 高ぶると安定しない結果のものだったみたいだ。  「いえ、こちらこそごめんなさいね。実はそんなに疑ってたわけじゃないの。根拠が知 りたかったのは、少しでも疑問の種を消し去りたかったからなの。あと、能力については 純粋に、私に黙っていたことへの不満よ」  そういってマミさんは笑っていた。  「ありがとう」  「それにしても、あいつの目的ってのは何なんだい?」  そう、それは私も聞いていない。ただ、ソウルジェムが濁りきると魔女になってしまう ということだけしか知らない。  「まずはソウルジェムの説明からね。」  「以前言っていたのは、このソウルジェムが本体であって私たちの体はそれによって動 かされるハードウェアって事だったわね。それ以外にまだあるの?」  「そうなのか? はじめて知ったよ。ああ、なるほど。だからか……」  初めて知ったにわりには反応が私たちとは違った。杏子ちゃんは思い当たるところがあ ったみたいだ。  「そして、このソウルジェムが濁り切った時、私たちは魔女になるわ」  一瞬、空気が凍った気がした。  「それ、本気でいってんのか……?」「本当なの? 暁美さん……」  マミさんと杏子ちゃんは同時に信じられないといった表情でほむらちゃんに聞く。  「ええ。これは紛れも無い事実よ」  私は魔法少女じゃないからなんともいえない。実感する事が出来ないから。それが悔し いと思う。でもほむらちゃんが魔女になってしまうと言う事を考えると、悲しさがこみ上 げてくる。  「じゃあ、私がいままで倒してきた魔女は皆……」  「幸せ、だったでしょうね」  「え?」  ほむらちゃんの返答に皆驚く。  「自分の事だと思って考えてみて。巴さん、貴女が魔女になって周に無差別に絶望を振 りまくとするわね。でも、その魔女ってソウルジェムから生まれたあなた自身のはずよ。 貴女にもし意識があるとしたら、あなたはそこで何を望むかしら」  ほむらちゃんの言いたい事が分った気がする。魔女を倒すということはその人が解放さ れるということ。その人が誰かの為に戦ってたらそんな事は本気で望まないはず。だから 倒すのはむしろ救いなんだって事なんだと思う。  「私は、死ぬことを望むでしょうね」  「だから、あなたは胸を張っていい。この街を守り、魔法少女を開放してあげ、グリー フシードという形で彼女たちの思いを繋いできてるのだから。」  そうね。そういってマミさんは今までのことを思い出すように目を瞑った。  「あと、グリーフシードには汚れる条件がある。私が知っているのは、知っているよう に魔法を使う事。もう一つは、世界に絶望して自ら呪を生み出す事」  そこでさやかちゃんは納得したような顔をした。  「だから人の為に使うなって言ってたんだね。見返りを求めて、それが返ってこないと それだけで他人を呪ってしまいそうになるだろうから。そして、魔女になっていくんだ… …そんな救われない話、私は嫌だな……」  「じゃあ、ここからが本題なんだけど、簡単に説明するだけでかまわないかしら。実際、 詳しく説明したところでそこまで意味があるものでもないから」  皆がほむらちゃんに注目する。  「インキュベーターは私たちを魔女にすることで宇宙を維持する為のエネルギーを得る 事が出来るのよ。つまり、あいつは希望が絶望に変わっていく事を前提に契約して、宇宙 のために死んでくれ。そういっているのよ」  そんな話ってあるだろうか。自分の希望を描き続け、その果てには自分の一番なりたく ない姿になるしかないなんて。  「じゃあ、私はずっとキュウべえに騙されてたって事になるのかしらね……」  マミさんは悲しそうな顔でつぶやいた。  マミさんはほむらちゃんと共闘するまでずっと一人だった。それはとても辛かったはず で、それの支えにキュウべえはなっていたはずだ。だから、マミさんはこの中で今一番傷 ついてるように思えた。  「それでも、今私にはここがある。それだけで戦い続けられる気がするの。あなた達と 一緒に居るだけで、心があったまるから。」  そう言ってマミさんは目を瞑って、胸に手を当てて微笑んだ。  「まあ、グリーフシードをちゃんと集めて穢れきらないようにすれば問題ないんだろ?」  そう言っても、使い魔を倒すときにも魔力を使ってる。他の誰かを守る為に自分を削り 続ける。もし魔女を穢れきるまでに倒せなかったら魔女になってしまう。そう考えると、 使い魔を倒さないようにした方がって考えてしまう。ほむちゃんやマミさん、そして杏子 ちゃんに死んで欲しくないから。  ああ、私、嫌な子だ。自分の大切な人たちが生きる為に他の人に死んで欲しいと願って るのと一緒だよ……  さやかちゃんを見ると、自分への嫌悪感を滲ませた顔をしていた。私と同じように。  「それでも、使い魔を狩る事はやめないわ。それが、私の信念だから」  「色々アタシにもあったけどさ、やっぱりそれが私の原点だからな。アタシも誰かのた めに戦うよ」  マミさんと杏子ちゃんはすでに覚悟を決めてるようだった。  それなのに、まだあんなことを考えてしまう自分が嫌になる。  「そんな顔をしなくていいの。今まで問題なかったことはあなたたちが一番知ってるじ ゃない」  そういってほむらちゃんは私たちに微笑んでくれた。  「でも……」  「それなら、約束してよ。誰も死なない。皆、私たちとずっと一緒だって。そうすれば、 あたしたちも安心できるから」  さやかちゃんは懇願するように言った。  「ええ、もちろんよ。私たちは死なないわ。何があっても、乗り越えて見せる」  「絶対とは言い切れないかもしれないけど、アタシもそのつもりだ。そして、あんたた ちを悲しませるような事はしないよ」  マミさんと杏子ちゃんは決意に満ちた声で言い切った。  それだけで私たちは少し安心できた気がする。さやかちゃんもそんな顔をしている。  「そのためにも、私たちはワルプルギスの夜を乗り越えないといけない」  その言葉に私たちはやっと本来の目的を思い出した。  あまりに衝撃的な事実に囚われてせいで忘れていたみたいだ。  「実際、あなたは油断さえしなければ魔女を問題としない強さを持ってる」  ほむらちゃんに言われてマミさんは助けられた時の事を思い出したのか、少しもうし わけなさそうな顔をしている。  「そして、あなたも。だから、ワルプルギスの夜を越えることさえ出来れば大丈夫」  「ああ、そうだろうな。で、まだ期間はあるみたいだがその間はどうする?」  「できるだけグリーフシードを集めるわ。ワルプルギスの夜は万全の状態を維持して、 全力で倒す」  「確かにそれが一番でしょうね。」  そんなに強いのかな。ワルプルギスの夜って言う魔女は。でも、今のほむらちゃんやマ ミさん、杏子ちゃんは誰にも負ける気がしない。そんな風に見えた。  でも、その中に自分が入れない事が少し悔しかった。魔法少女がどんなものか分ってる。 ほむらちゃんがそれを望んでない事も分ってる。でも、やっぱり戦えないのは辛かった。  それはさやかちゃんも同じみたいだ。私も戦いたい。そうつぶやいてたから。  私たちの様子に気づいたのか、ほむらちゃんたちは私たちを見ていた。  「あなた達はすでに私たちと戦ってるじゃない」  「あたし達は帰ってくる場所があるから全力で戦えるんだ」  「待ってるってのは辛いわよね。頑張ってる人たちがいるのに私はなんて無力なんだろ うって。でも、本当は違う。無力なんかじゃない。待っている人が居るだけで私たちはど こまでも戦えるもの。あなたたちが居るってだけで。それに、待つって言うのはある意味 私たちより辛い戦いだもの。自責や不安に常にかられてそれでも信じて見てないといけな いなんて、私には出来ない。あなたたちは強いから。それを任せたいの。戦いの中で一番 辛くて、一番重要な役を」  この辛さと戦いながら自分は生き残ってほむらちゃん達が帰ってくるところを守らない といけないんだ。そして、それは一番大切なこと。帰ってくる場所が無いなんて、そんな 世界で戦えるわけ無いから。  「そっか、私達が不安にかられてもそれに耐えて帰ってくる場所を守り続けるって事が 私達の戦いなんだね。私達を信じてるからそれを任せてるんだよね。だったら、私は辛い けど頑張るよ」  「わたしも、絶対待ってる。帰ってくるのを、勝ってくるのを待ってる」  「ありがとう」  そういってほむらちゃんは笑った。  待ってるだけなのは本当に辛い。だけど、ほむらちゃん達は帰ってくる。そう思えるか ら、私は待つよ。  「わかってくれたみたいだし、今日はもう終わりにしましょう。あと、もう遅いから泊 まっていって。」  いつの間にか時間は相当遅くなっていて、外は真っ暗だった。また両親に心配かけてる なぁ。  「じゃあ、お言葉に甘えてそうさせてもらおうかしら」  「あたしも泊めて貰えるんならそうしようかな」  「じゃあたしもほむらの家に泊まらせてもらおう」  「私もそうしたいな」  そう言って皆ほむらちゃんの提案に甘えさせてもらい、一緒に楽しく夜を過した。                       \   私達はワルプルギスの夜が来る日まで魔女を狩り、グリーフシードを集め続けた。 とはいっても、ずっとそうしていたわけでもなく、日常生活はそのまま崩さず、いつ もの魔女を倒しにいく時間になってから集まって倒しに行った。  休日は時間までほむらちゃんと二人で過したりマミさんの家に集まったりして、皆 で楽しみ、そして同じように魔女を倒しに行った。  杏子ちゃんが加わったおかげで、戦闘は凄くスムーズだった。杏子ちゃんが前で削 っていき、マミさんとほむらちゃんがそれを援護しながら拘束したところをほむらち ゃんが最後の一撃を食らわせて終わりだ。あまりに連携が凄くて本当に誰にも負けな いと思えるくらいだった。  何もかも順調だったけど、一つだけ気になった事があった。気持ちに余裕が出来て 周りのことをちゃんと見れるようになってきて、ほむらちゃんに違和感を感じた。い つも感じるわけではなくて、ふとした瞬間に、一線を引いてるように見えた。でも、 そのくらいは誰でもあることだって思った。それなのに、どこか引っかかっていた。  でも、ほむらちゃんが手を繋いでくれたり、抱き締めてくれたりして恥ずかしかっ たり嬉しかったりしてる間にそんな事、忘れていった。                    ◇  ワルプルギスの夜が来る日、私は窓を叩く音で目覚めた。  何かと思ってカーテンをあけるとほむらちゃんがいたので、急いで窓を開けた。  「どうしたのほむらちゃん? こんなに早くに」  「どうしても、まどかと話がしたかった」   そうやって微笑むほむらちゃんに違和感を覚えつつも、そう言ってくれる事が嬉し くてすぐに部屋に上がってもい、ベッドに隣り合って座った。  「で、話って何かな?」  「今日までいろんなことがあったわよね」  ほむらちゃんは何の脈絡も無く話し始めた。  「そして、そのなかにはいつもまどかがいてくれた。それだけで私は幸せで、救わ れてた。ありがとう」  ほむらちゃんは真っ直ぐと私を見て言って来た。  「う、うん」  私はそれに顔を赤くして俯くだけだった。  「ねぇ、まどか。私は貰ってばかりだけど、もう一つだけお願いしたいの。そうす れば今日、闘えると思うから」  私の方がもらってばっかりだと思うんだけど、そう言うのはやめておこう。今はお 願いがあるのなら全部聞いてあげたい。  「いいよ?私ができることなら」  「まどか、私の方を向いて目を瞑ってくれない?」  その言葉に余計に顔を赤くする。  目を瞑ってってことは、そういうこと……なんだよね?  恥ずかしいけど、私は覚悟を決めた。  「いい、よ」  そういって。ほむらちゃんの方へ向いて私は目を瞑った。  目を瞑ると、自分の心臓の音がうるさいのが聞こえる。そして、ほむらちゃんが近 づいてくるのもいつも以上に感じられる。いつキスされるんだろうと考えただけで、 余計に心臓がうるさい。  ほむらちゃんの手が私の手に重なり、手から少し高めの体温が伝わってくる。そし て、唇に暖かくてやわらかいものが触れた。  恥ずかしいけど、それ以上に嬉しかった。ほむらちゃんと繋がってる気がして。こ うしてるだけで他の事がどうでもよくなるくらい甘いものだった。  そして、緊張でして硬くなっていた私も求めるようにほむらちゃんに近寄った。そ の気が緩んだ瞬間に、口に異物が入ったのを感じた。私は反射的にほむらちゃんから 離れると同時に吃驚してそれを飲み込んでしまった。    そうすると、ほむらちゃんは立ち上がった。  悪い事をしてしまったと思い、私も立とうとするけど力が入らない。それどころか 目の前がゆがんでいく。  「まどか。愛してる。だけど、――――――――」  ほむらちゃんが何か言っている。でも、私の意識はもう限界だった。                    ◇  目が覚めるとそこにはもう誰も居なくて、私一人だった。  ほむらちゃんとキスをした後からの記憶が無い。いったいどれだけの間眠ってたん だろう。ワルプルギスの夜は、皆はどうなったんだろう。そこまで考えて、私は外へ 飛び出した。  するとそこにはキュウべえがいて、その視線の先にはワルプルギスの夜らしきもの が空に浮かんでいた。そしていきなり爆発に飲み込まれ、それは完全に消えてしまっ た。  「驚いたね。まさか本当にあのワルプルギスを倒してしまうなんて」  キュウべえはそういった。  それを聞いた私は居ても立ってもいられなくて、ほむらちゃんたちが居るだろう方 向へ駆け出した。  「暁美ほむら。本当に彼女には敬服してしまうよ。まさか――」  キュウべえが何か言ってるみたいだけど、私はもうそんな事どうでもよくて、とに かく皆に、ほむらちゃんに会いたかった。今まで一人で私のために戦ってきたほむら ちゃんの苦しみを開放してあげたかった。約束、守ってくれたんだねって。そして、 ほむらちゃんが自分を許して、自分の幸せを見て生きてほしい。    でも、街は酷い有様だった。建物も、道路も、何もかもが原型を留めてない。地震 と大津波が同時に来たってこうはならないだろう。災害でこうなったようにも見える けど、建物が倒れたりしたくらいではこうはならない。まるで、空から撃ち捨てられ たような跡まである。  そんな光景に私は悲しみを覚えた。もう、ここがなんだったのかもわからないから。 皆との思い出が消えてしまったかのような気がするから。    どれだけ走ったのだろうか。いつのまにか私は建物が立っていた痕跡も無いような、 瓦礫と以上にあがった水面しかない場所まで導かれるように来ていた。そして、そこ にほむらちゃんがいた。  「やっと見つけた」  言葉に出てしまうほど見つけられたのが嬉しくて、今まで以上に早く走ってほむら ちゃんに駆け寄った。  「ほむらちゃん!」  近くで見たほむらちゃんは所々傷だらけだった。でも、意識を失ってるだけで呼吸 の音が聞こえたから一安心だ。  そんなほむらちゃんを私は抱き締める。いろんな思いを込めて。  「ねえ、ほむらちゃん。私達、勝ったんだよ。ほむらちゃんは私の事ちゃんと守れ たんだよ?約束、守れたんだよ?だから、もう自分を責めないで。私の為だけじゃな くて自分の為にも生きてね。ずっと、私の為に戦わせてごめんね。一人にしてごめん ね。私が、ずっとそばに居るから。もう一人にしないから。だからもう、頑張らなく たっていいんだよ。」  ほむらちゃんには聞こえてないだろうけど、私は独り話し続けた。  「だから、今は休んでていいからね」  最後に私はそういってほむらちゃんの唇にキスをした。  ほむらちゃんとの二度目のキスは冷たくて、血の味がした。            ]   冷たくて、血の味がした。  冷たい? 血の味? なんで?  ああ、そっか。この光景は夢、なんだね。  そう自覚した瞬間、私の目の前の景色は崩れ去った。  そこは、今までとほとんど同じ景色。ただ、違うのはほむらちゃんは死んだと言う事。 私が抱き締めてるほむらちゃんはソウルジェムが砕けてしまっていて、意識が戻る事な んて無い。  本当はわかってたのかもしれない。こうなってしまう事を。ただ、そこから目をそら していただけなのかもしれない。だからあんな夢をみてしまうんだ。  だから、あのときほむらちゃんの言葉やキュウべえの言葉が聞こえなかったように思 えたのかもしれない。だって、今なら思い出せる。  "まどか。愛してる。だけど、さようなら。まどかは私が居なくても、生きていけるか ら大丈夫よ。そして最後に、ごめんなさい"  "暁美ほむら。本当に彼女には敬服してしまうよ。まさか、まどかの世界を守る為に自 分の全てを犠牲にするなんてね"  ああ、やっぱり。簡単に思い出せたよ。  「ホントに、馬鹿だよ。ほむらちゃん」  確かにほむらちゃんは約束を守ってくれた。でも、私はほむらちゃんにそばに居て欲 しかったんだよ。生きててほしかったんだよ。なのに、なんで死んじゃうのかなぁ……  冷たくなった彼女の体を抱き締めて私は涙を流した。  「私、ほむらちゃんが居ない世界なんて、嫌だよ……」  「なら、僕と契約すればいい」  どこから現れたのか、いつのまにかそばにはキュウべえがいた。  「君が魔法少女になるのなら、君は暁美ほむらと一緒に居る事だってできるよ」  キュウべえは私を誘うように語り掛けてくる。  でも、私はその言葉に魅力を感じなかった。  だって、ほむらちゃんは命を賭けて私の約束を守ってくれたから。だから、次はわたし が約束を果たさないといけないから。  「そんな事言ったって、契約なんてしないよ?キュウべえ」  「そうしてだい?君はこんな現実を覆したいと思ってるはずなのに」  「確かに、ほむらちゃんのいないとこなんて嫌だけど、この世界は、ほむらちゃんが守 った世界だから」  そう。だから私は奇跡なんて望まない。  私はほむらちゃんの守った世界で約束を果たすから。  私はキュウべえから視線をはずして、ほむらちゃんの手にあった銃を手に取る。  「私、約束したもんね。ほむらちゃんを一人にしないって。全部、受け止めてあげるっ て。だから、私ほむらちゃんと同じところに行くよ。追いかけてくれたように、次は、私 がほむらちゃんを追いかけるね」  そういって私はほむらちゃんの体にもたれかかって、銃口を自分に向けて放った。     そうして彼女達を見つけた三人は泣いてその場で崩れ落ちた。守れなかった悔しさと、 こうなる事に気づけなかった自分に嘆いて。こんな世界なのに誰よりも幸せそうな二人の 表情があまりに悲しくて。    ]T  「ま〜たまどかは私達を使って小説を書いてるの?」  そういって書き終えた私の小説をさやかちゃんは奪ってしまった。  「ちょっと、とらないでよ〜」  「いいじゃん。読ませなって」  うう、どうやっても読むつもりみたいだ。もう諦めてしまったほうがいっそ楽だ。  こういう時はほむらちゃんに甘えに行こう。うん。そうしよう。  「ほむらちゃ〜ん」  こう呼ぶとほむらちゃんは直に私の方へ向いてくれて受け止める準備をしてくれる。  だから私はそこへ飛び込んで抱き締めてもらう。これが出来るのは私だけの特権なのだ。   「どうしたのまどか?」  そして、いつもほむらちゃんは優しくこう聞いてくれる。  「ん〜ん。なんでもない。ただ、こうして欲しかっただけ」  ほむらちゃんはこういうと抱き締める力を強めてくれる。それが嬉しくて私も少し力を込 める。そうしてるだけでほむらちゃんの全てを感じられるようで、幸せだ。そして、ここが 私が本当に私で居られる居場所なんだって思う。    私は普段、自分を表現するのが凄く苦手だ。だからいつも自分の思いをちゃんと伝えられ なかった。そして、私にはなんの取り柄も無かった。だから、何の役にも立てないと思って た。  だから、いつしか自分が希薄になっていった。湧き上がる感情を抑制して過すようになっ ていったから。  でも、ほむらちゃんが来てから全てが変わった。ほむらちゃんがここに来たとき、私に似 てるって思った。顔とかじゃなくて、雰囲気が。だからほむらちゃんと話したいと思った。 でも、どうすればいいのか分らなかった。ほむらちゃんは綺麗でかっこよくて何でも出来る 人だったから。そして、話しかけるのを諦めようかと思ったとき、ほむらちゃんから話し掛 けてくれた。  ほむらちゃんも私と話したいと思ってくれてた。そう思っただけで嬉しくなって、私は久 しぶりに自分が戻ってくるのを感じた。  そして、ほむらちゃんと私は二人でお話して、互いに理解しあった。私たちはやっぱり似 てるんだってことを。そこから私は一気に惹かれていった。それからの彼女は、私のして欲 しい事や言いたい事を理解してくれてて、いつも助けてくれたから。でも、惹かれてても私 じゃあなんの役にも立てないからほむらちゃんにこの思いは伝えられない。私となんて釣合 ってない。そう思ってた。  そんな時、ほむらちゃんは言ってくれた。私の事が好きだって。貴女がそばにいてくれる だけで私は私で居られる。まどかとずっと一緒にいたい。そういってくれた。私はその時泣 きながら自分も好きだって答えて抱きついた。  そのとき、初めて自分を好きになれた。役に立てない。何の取り柄も無い。そう思ってた のに、ほむらちゃんは私の全てを肯定してくれて、私を受け止めてくれたから。そして、私 もほむらちゃんの全てを受け入れられたから。初めて好きになった人の役に立てたから。  そして、ほむらちゃんはよりいっそう私の事を理解してくれた。言葉にしないと伝わらな いこともあるけど、ほむらちゃんは大抵何も言わなくても私の一番して欲しい事をしてくれ る。だから、私はほむらちゃんの傍なら私で居られるようになった。  「ねえ、まどか。キスしてもいいかしら?」  抱きつきながら昔を思い出していると急にほむらちゃんはとんでもないことを言い出した。  「こ、ここ、学校だよ?それに、まだお昼だよ?」  私は顔を真っ赤にしながらほむらちゃんに訴える。  「大丈夫よ。唇にはしないから。それとも、して欲しかった?」  それを聞いて余計に恥ずかしくなる。  ほむらちゃんは時々こういう意地悪をしてくる。私の可愛い顔が見たいとか言って。  でも、そんな意地悪すらも心地いい。だってキスして欲しいのは本当だから。キスしただけ で、ほむらちゃんと繋がった気がして、本当に幸せな気持ちになるから。  「いい、よ」  ほむらちゃんは少し意外に思ったのか、目を見開いた。  でも、すぐに元に戻って私に顔を近づけた。  なぜかその時周りの話し声は聞こえなくなり、まるで世界が止まったみたいだった。そして、 少しの時間がたって唇に柔らかな感触が伝わってきた。それは、暖かくて、とても甘いキスだ った。                      ◇  まどかは小説を書いていたみたいだ。聞かなくたってわかる。その中の世界に確かに私が存 在したから。今回の私は酷く辛い道を歩む事になった。永遠とまどかの死を見続ける。最後に 私はまどかを助けられるけど、まどかは私を追って死んでしまう。そんな辛い話。この話は他 の人からしてみるとただのフィクションだ。当然、まどかにとっても。でも、私にとっては違 う。その全てを私は経験してきたから。そして、これからもまどかが書く物語の中を私は歩み 続ける事になるんだろう。  でも、それでもいい。私が物語りを進める事でまどかは自分を表現できるから。そして、私 はまどかの全てを知って、まどかをもっと好きになる。まどかはどこまでも私を想ってくれて 、いつでも私の心を救ってくれるから。  貴女が笑ってる。それだけでわたしは幸せ。だから、本当のことなんて知らなくてもいいの。 まどかは優しいから知ったら悲しむでしょうしね。  「ほむらちゃ〜ん。早く帰ろ〜」  考えているうちに足が止まっていたみたいだ。早く行かないとまどかを心配させてしまうか ら急いで追いつかないとね。  「待って。すぐに行くから」  そういって笑顔で手を振るまどかの元に私は走り出した。