巨大化したガチャボーグの戦闘は広く報じられ、ガチャボーグの存在が世に知れ渡るようになった。  デスブレンの撃破後、ガチャボーグたちは大人からも歓迎された。そして、地球を救った少年少女とガチャボーグの軍団に敬意を表し、 軍団のリーダーである少年とガチャボーグの銅像を、彼らの住むサハリ町とその周辺の町に立てた。  その像には、『地球を救った少年と紅の勇者』とある。  それから数年後―――――  ――――――――――  ここはさばな町。数年前、突如として活性化したデスフォースと巨大化したサイバーデスドラゴンに破壊された町である。デスフォース 撃退後、学校だけは真っ先に再建されたが、聳え立っていた高層ビルは未だ建造途中である。  奇跡的に住宅地への被害は少なかったので、修復は早かった。今日は休日で学校が休みなこともあって、公園で遊ぶ子供たちの姿が見え る。しかし、子供たちは公園の遊具には目もくれない。  彼らは互いにガチャボックスを持ち寄り、フォースバトルをしているのである。ガチャボーグによるフォースバトルは現在、子供たちに 大人気の遊びとして定着していた。ガチャボーグたちも、自身の鍛錬の一環としてフォースバトルを楽しんでいる。もっとも、平和になっ た今、戦いの中でGFエナジーを増幅させる者は少なく、フォースに入るのは彼らがパートナーと定めたガチャボーグ1体が限度である。 玩具とするには危険に見えるかもしれないが、ガチャボーグたちには確固とした人格があり、自分のすべきこと、すべきでないことをわか っている。むしろ精神年齢的にはガチャボーグの方が上であり、彼らが子供たちを監督する立場にあるので、基本的には安全なのだ。  皆、そんな平和な日々がずっと続くと思っていた―――――  ――――――――――  さばな町住宅地にある一軒家に、今日友人と自宅で遊ぶ約束をして、部屋の準備をしている少年がいる。  名前は、鷲尾 駿(わしお しゅん)。さばな町立兄丸小学校(あにまるしょうがっこう)の5年生である。  遊ぶ、と言っても、やることは当然フォースバトルであり、彼は自分の部屋をバトルフィールドに改装中だ。床に散らかっているものを 一度綺麗に片付けてから、遮蔽物としてマンガ本を『適度に』散らかす。これで準備はOK。後は友人を待つだけである。  彼の頭の上には彼のパートナーであるガチャボーグの姿がある。名前はリュウ。フォースバトルにかける情熱は人一倍、いや、ボーグ一 倍のサイバーヒーローだ。そのリュウがシュンに話しかける。 「来ないな」 「来ないな」  シュンも同じことを言った。もう約束の時間を過ぎている。シュンは早くも待ちくたびれた様子である。 「コウヘイの奴、どこをほっつき歩いてるんだ?」 「今日もラハイアと戦えると期待していたというのに。シュン、コウヘイとラハイアはちゃんとここに来るのだろうな?」  コウヘイというのは『気は優しくて力持ち』という言葉が良く似合うシュンの親友の熊谷 幸平(くまがい こうへい)のことであり、 ラハイアというのはコウヘイのパートナーボーグである誇り高きソードナイト、ラハイアのことだ。大剣『メガキャリバー』を振るい鋭い 剣撃を出す。今までリュウと何度も戦っており、勝敗は五分五分。 「ちゃんとそう言ったし、コウヘイもよろこんでOKしたっての。そうだ、あいつの家に電話してみるか。いなかったら、そのまま待てば  いいんだから」 「そうだな。それがいい」  リュウも異論は無いようである。  彼らは『子供にはまだ早い』と親に言われ、携帯電話を持たせてもらっていない。連絡手段と言えば家の固定電話である。シュンが電話 をかけるために部屋を出ようとした時、 「シュ、シュン!後ろを見ろ!」  突如リュウが叫んだ。 「何だってんだ?リュ―――――」  振り向いたシュンは固まった。  部屋の中を、どこから湧いて出たのか、謎のガチャボーグの集団が歩き回っているのだ。丸い目玉に短い足が生えたようなボーグが約3 機、それらの四方を囲んで守るように人型が4機、そして、それらをさらに囲むように2機の人型と、他より一回り大きい猫のようなボー グが1機、警戒のためかウロウロしている。  これら全てが真っ黒なボディと、大きな一つ目が描かれた顔でできている。人型と猫型の手は、よく見ると銃口のようである。本物に紛 れたガチャボーグのゴキブリなら何度か見かけてリュウとともに倒したことがある(この辺りが、人間とガチャボーグの共存における数少 ないデメリットのひとつである)が、こんな連中をシュンは見たことが無い。 「馬鹿な・・・デスフォースだと・・・・・?」  ふと、リュウは声を漏らした。  その言葉を聞き、シュンは戦慄した。 「デスフォースって、あの・・・?」   デスフォース。  デスブレンの忠実な下僕。破壊と征服のために戦う悪のガチャボーグ軍団だ。だが、 「デスフォースは何年か前に倒したんだろ!?なんでこんな時に―――」 「実際にここにいるんだから説明のしようが無いな。こいつらは危険だ。速攻で潰すぞ!」  リュウがシュンの頭の上から飛び降りながら叫ぶ。 「だ、大丈夫なのか?」  シュンは困惑した様子で尋ねる。 「こういう時のために、今までフォースバトルで鍛えてたんじゃねえか。シュン、指示を頼む」  初耳だった。シュンは慌てながらも、まず弱そうなのから先に倒すべきだろうと考えて指示を出す。 「お、おう!じゃあ、あの目玉みたいなのから倒すんだ!」 「合点!」  指示を受け、リュウは勢い良く前に跳んだ。  すると、リュウから向かって右側を守っていた人型の手から銃弾が連射された。 「リュウ、右から撃たれてるぞ!」  シュンが叫ぶ。 「はぁっ!」  リュウはさらに勢いを付けて跳躍することでこれを避ける。そのスピードのまま、前方を守っていた人型を飛び蹴りの一撃で倒した。目 玉型の前に出る。と、いきなり目玉型が3機一斉にリュウに飛びかかってきた。 「こいつら、俺に取り付く気か!?」  なんとかこれを回避した。この目玉型(デスアイという)は、他のガチャボーグに取り付いてコントロールしたりデスボーグを強化した りする目的で作られたものである。取り付かれたら、どうなってしまうか・・・・・ 「まとめて吹き飛ばす!旋風脚!!」  リュウは、片足を軸にしてコマのように高速回転しながら回し蹴りで突撃し、デスアイを2機、破壊した。 「後ろだ!」  シュンの叫びに後ろから撃たれていると気付き、高くジャンプした。さっきまでリュウがいた場所を銃弾が通過する。 「そこか!」  空中で振り向き、さっき撃ったであろう人型に気孔弾を立て続けにぶつける。人型は弾け飛んだ。着地のついでに、近くにいたもう1体 の人型に拳の連撃を叩き込み撃破。 「上から来るぞ!」  見ると、倒し損ねた最後のデスアイが再び取り付こうと飛びかかっていた。 「チィッ!」  とっさに真上に気孔弾を放つ。デスアイは一発で撃墜できた。 「面倒だ。まとめて倒す。いけるな、シュン?」  リュウは両手に気合を溜める。護衛対象がいなくなったデスボーグたちは、リュウに向けて弾をばら撒き始めた。 「ああ!―――バースト!!」  シュンは集中し、掛け声を放つ。  短時間の間ボーグの力を極限まで高めるGFコマンダーの秘術、バーストの発動である。 「ヒーロービィーーーーーーーーーームッ!!」  リュウの両手からまばゆい光線が直進した。デスボーグの弾丸をかき消し、奥にいた残りのデスボーグを一掃する。  バーストが解け、周りにデスボーグが残っていないことを確認して、 「あー疲れた!」  リュウはその場に寝転がった。  シュンも安心して壁にもたれかかろうとした時、突然家の電話が鳴り響いた。コウヘイかも、と思い受話器をとる。 「もしもし?」  すると受話器から、コウヘイの怯えたような声が聞こえた。 「あ・・・・・シュン・・・?ラハイアが・・・・ラハイアが大変なんだ!すぐに僕の部屋に来て!」 「なに?おい!もしもし!?切れた・・・」  電話を切られてしまう。コウヘイはかなり慌てている様子だった。 「何があったんだ?」  リュウが訊く。 「コウヘイから。ラハイアが大変だから家に来てくれって・・・まさか・・・・・」 「その可能性は高いな。急ぐぞ、シュン!」  リュウはシュンの頭の上に飛び乗った。 「おう!!」  二人は部屋の片付けも忘れ、ガチャボックスを持ってコウヘイの家へと走った―――――  ――――――――――  お邪魔します、とコウヘイの家の人に挨拶してから、彼の部屋へと急ぐ。  入り口のドアを開けると、大柄な少年が駆け寄ってきた。 「シュン!来てくれたんだね!」  コウヘイである。 「当ったり前だ。デスフォースに襲われてるんだろ?」 「えっ?どうしてそれを?」 「ウチにも来たんだよ。何とか倒したけどな」 「それで、ラハイアはどうなっている?」  リュウが訊く。 「なんか・・変な丸いガチャボーグに取り付かれて、突然暴れ出したんだ。僕の言うことも聞いてくれないし・・・まるで誰かに操られて  るみたい。お願い、ラハイアを止めて!」  改めて部屋を見ると、荒れに荒れている。壁、天井、机、あちこちが小穴と斬り傷だらけである。奥のベッドを見ると、切り裂かれた羽 毛布団から中身が出ている。おそらく穴はデスボーグの銃弾で、斬り傷はラハイアのメガキャリバーだろう。流石、ちっこくても切れ味は 抜群だ。床にはラハイアの抵抗の証だろう、2等分または4等分にされたデスボーグの残骸が散らばっている。そして、頭にデスアイを乗 せたラハイアと猫型と人型のデスボーグが1機ずつ、盛大に暴れていた。ものすごく機械的な動作である。  ヘタをしたらリュウもああなっていたかもしれない・・・・と思い、シュンは改めて恐怖した。が、恐れている暇は無い。 「まかせろ!リュウ、まず邪魔なデスボーグからやっつけるぞ!」 「応!」  リュウがシュンの頭の上から飛び降り、そのまま飛び蹴りで人型を倒す。さらに、猫型をアッパーで打ち上げ、空中で連撃を浴びせてか ら地面に叩きつける。また立ち上がってきた(やはり他のデスボーグより少し大きい分タフだ)ので、 「砕けろ!」  とどめの飛び蹴り。猫型を撃破。 「危ない!後ろだ!!」  シュンの叫びが聞こえたが、着地の隙をつかれて反応が遅れてしまい、ラハイアの攻撃をマトモに喰らう。 「グハッ!!」  リュウは背中に打撃を受け倒れたがすぐに起き上がる。今のはおそらくラハイアのシールドスラッシュだろう。 「いったん退くんだ!」  その場から飛び退り間合いを取る。ついでに気孔弾を撃ちだしたが、全てシールドで防がれてしまう。  今度は斬撃を叩き込もうとラハイアが突っ込んできた。そのまま斬り込んで来る。 「うおっ!?」  ギリギリで避けたが、肩のアーマーに傷が走る。 「やっぱ、強ぇな・・・・!」  冷や汗を流しながらリュウが呟いた。 「盾を弾き飛ばせないか?」  シュンが訊いてきた。 「わからないが、やってみるか・・・」  リュウは再び走ってくるラハイアを振り切って大きく後退し、両手に気合を溜める。そして、 「ヒーロービィーーームッ!!」  バーストしていない分、パワーを抑えて細く収束させたヒーロービームを放った。ラハイアは立ち止まり、シールドを構えてこれを防ご うとする。シュンが言ったようにシールドを弾き飛ばすことはできなかったが、ビームのパワーに耐え切れずラハイアはその場で大きくよ ろめいた。そしてその隙をリュウは逃さない。 「今だ!」  大きく踏み込んだ勢いを乗せて、 「ラハイア!目を覚ませッ!!」  ラハイアの頭を、正しくはその上に乗っていたデスアイを思い切り殴りつけた。デスアイは砕け散り、ラハイアも吹っ飛んで壁に叩きつ けられる。 「くっ!・・・私は、いったい何を・・・・・?」  意識を取り戻したらしいラハイアがフラフラしながら立ち上がった。 「やった!元に戻ったぞ!」 「ああ!やはり、デスアイを破壊すればよかったようだな」  リュウがやや疲れた様子で言った。 「ラハイア!!よかった・・・よかったぁ・・・・・」  コウヘイは泣きそうになりながらラハイアを抱える。 「主・・・・どうやら涙を流す時間もなさそうだ。私のようにデスボーグに襲われた者は数多くいるはず」 「ッ――――そうだね」  言われてコウヘイは涙を引っ込めた。 「シュン殿、リュウ殿、此度の事、誠に感謝する」  コウヘイの手の上でラハイアは二人に頭を下げた。 「いいってことよ!」  シュンはちょっと照れくさそうだ。 「それより、俺もお前と同じ考えだ。特にもリンダが危ねぇ」  リュウはシュンの頭の上で、さっさと話を次に進める。 「ミナミちゃんのパートナーだよね。確かに、彼女みたいに直接戦闘が苦手なボーグは大変だよ」 「ガードウィッチだもんな・・・・・・」 「デスボーグの群れにウィザードボーグ一人で挑むのはあまりに危険。姫君を救い出さねば・・・・」  全員考えは同じようである。二人の少年はガチャボックスを手に取った。 「よし、行くぜ!」  シュンが駆け出し、コウヘイが後に続く。  新たな戦いの火蓋が、切って落とされた―――――  ――――――――――  さばな町住宅地、突如出現したデスフォースと、暴走するガチャボーグによる騒ぎの中、一人の少女が道を歩いている。背格好や制服を 見る限り中学生だろうが、その手にあるのは通学鞄ではなくガチャボックスである。  少女の横には死神が浮かんでいた。ふと、少女が口を開く。 「ぅーわ、こっちもヒドイ事になってるみたいね?」  その声を聞き、死神が少し嬉しそうに応える。 「マァ、サハリ町ダケナハズガネェヨナ。久シブリニ大暴レデキソウダナァ、オロチ?・・・ット、スマネェ。リン、ダッタナ」 「いいよ、気にしてないから」  少女の名前は錦織 凛(にしきおり りん)。隣町のサハリ町に住むGFコマンダーだ。傍らの死神は彼女のパートナーボーグであり、 名はルーク。長大な鎌『ソウルテイカー』を持つデスウイングだ。  リンは数年前デスブレンに洗脳され、デスコマンダー『オロチ』として戦ったが、一人の少年に救い出され、彼とその仲間と共にデスブ レンに立ち向かった。ルークも元々はオロチのパートナーとしてGFコマンダー達の前に立ちはだかったのだが、オロチとともにデスフォ ースから抜け出し、同胞と戦った。  その忌まわしさと嬉しさが混ざった記憶を引っ張り出し、リンは考える。 「こうまで組織的かつ大規模な行動は指揮官がいなければ不可能なはず。やっぱり・・・」 「アア、ソレシカネェダロウナ。マッタクシブテェ野郎ダ」  つまり、デスブレンの復活―――――考えたくは無いが、奴以外にこんなことができる存在はいない。 「これも、デスブレインの御意志、ってやつなのかしら?」 「オイオイ、デスブレン、ダロ?イツマデモソウヤッテ間違エラレタママジャ、アイツモ死ヌニ死ニキレネェダロウヨ」 「う、うるさいっ」  リンは少し赤くなって反論し、すぐに話題を変えた。 「それにしたって・・・は〜ぁ、くじ引きで決めたからって、私だけ先にさばな町まで向かうことになるなんて。他にも何人かこっちに合  流するって言ってたけどさ。多分コウとは別行動だろうし―――」  ふと、この町にもあった銅像が目に入る。リンは立ち止まり、自分を恐怖と絶望から救い出してくれた少年のことを想う。 「コウ―――――」  その様子を見て、ルークがカッカッカッカ、と不気味な笑い声を上げた。 「ソコマデアイツガ好キナラ、早イトコ捕マエトキャ良カッタジャネェカ。モタモタシテット、ウサギ嬢チャンニ取ラレチマウゼ?」 「そ、それは・・・その・・・・・ゴニョゴニョ――――――」  次第に真っ赤になって俯いてしまうパートナーに、ルークは呆れながらも気合を入れなおすために話を逸らす。 「ソウイヤ、コッチデ強イGFコマンダーヲ見カケタラガチャフォースニ引ッ張リ込ンデクレ、ッテ言ワレテタヨナ?」 「そ、そうだったわね。まあとりあえずは、強いコマンダーの壁になってやろうかしら」 「壁?」 「そ。その後私という壁を破るほど強くなってくれればよし。ガチャフォースに引っ張り込むのは仲間と合流してからでも大丈夫でしょ」 「流石キャプテン。他人ノ鍛エルノハ得意ナ様デ」 「まあね」  彼女は通っている中学でバスケ部のキャプテンを務めていて、その実力は折り紙付きだ。デスブレンに目を付けられていただけあって、 その指揮力と統率力は高い。 「ジャア強イ奴ヲ見付ケルタメニモ、人ノ多イトコカラ片付ケッカ。暴レルゼ!」 「そうね。行きましょ、ルーク!」  まず公園辺りからかな、と目星を付けて、リンは走り出した―――――  ――――――――――  ※続きません