手を取り合って歩いていく二人の背後の茂みから、ひょこりとユージが顔を出した。 「魔王に父親を殺された少年は、父の武具を受け継ぎ、騎士として王に仕え、そして見事父の仇を討ったのでした。今や騎士となった少年は、王の下を辞し、魔王に捕らえられていた姫君を連れて故郷へと帰ります。そうして二人は幸せに暮らすのでした。めでたしめでたし。」  既に二人に気づかれない距離だと判断して、他の野次馬も次々に顔を出す。 「ちぇっ、がきんちょの癖に。」 「猫部さんには俺が・・・」 「塾に行くよりいい勉強になるね、ある意味で。」 「そうだな、でもツトム、あっちのカケル達を見る方が良い勉強になりそうだぜ」 「指揮権は完全にマナに掌握されているな。自分はテツヤなら指揮権を委譲しても構わないが・・・」 「あーん、いいなー、カケル君、私もどこか遊びに連れて行って欲しいな。」 「え、うん、わかったよ。」 「あ、いいな、コウ、私達も今度遊びに行こうね、・・・ってどうしたの?コウ」 「あのさ、あいつらのガチャボーグってどうなったんだ?」  コウ疑問はもっともだった。パートナーと意思疎通がうまくいかないショウ、そもそも明確なパートナーがいないオロチ。  いや、実のところ、ショウが意思疎通できないのはやはり理由があった。  二人がまず気が付いたのは、パートナーボーグが居ない不便さだった。  元々パートナーがいない凛と、父親のパートナーボーグを連れているショウ、簡単な意思疎通にも手間がかかって仕方が無い。 「前はユージとジャックが居たお陰で感じなかったが、矢張不便だな。」 「ごめんね、私がちゃんとパートナーを見つけられれば良かったんだけど。」 「気にするな、そういう話じゃない。第一、"誰の手も借りない"などと言い出してパートナーと直ぐに別れたオレの立場はどうなる。」  実際は、その黒いボーグの方から別行動を宣言されたのだが。 「やっぱり、私ってどこかおかしいのかな。」  普段は明るい凛が沈みだすと、ショウはたまらない気持になる。こいつを幸せにしてやると、オヤジに誓ったというのに。 「という訳だ。協力しろ。」 「オイラに任せな!どろぶねに乗ったつもりで!」 「・・・信用している。」  真っ先にショウがやってきたのはユージの家だ。  普段から何を考えているのか分かりづらいユージだが、こういう時には実に頼りになる。  それに、自分のパートナーの"感覚"が、ユージの家に来いと呼んでいた。 「パートナーと出会った段階で、名前が"分かる"。つまり命名は、"翻訳"に過ぎなくて、既に命名の前から意思疎通があって、名前を伝えているような気がするんだ。」 「命名は最後のプロセスか。つまり、凛のパートナーが出来ないのは、既に何らかのパートナー関係が存在しているわけだな。」 「バーストも出来たしね。間違いないと思うよ。だから、中断されているパートナー関係構築のプロセスを再開すれば、リンさんもパートナーができる。」 「つまり後はつけるための名前を思い出すだけか。」 「うーん、これはオイラの想像なんだけどね、多分リンさんもショウも、その名前を既に知ってるんだ」 「俺も、なのか」 「考えても見てよ、僕ら相手に話し掛けないあの脳みそが、ヒトに名前をつけるはずないよね。」 「・・・では、オロチという名前は何処から来たのか・・・成程、感謝する。」 「気にしないでいいよー、たまにはマジメに知性を使わないと、ただの変な子になっちゃうからね。」 「既に・・・いや、なんでもない。」  答えを思いついたからか、晴れやかな顔になったショウは、部屋の隅の気配に目をやった。 「ああ、そうだ。相棒にもよろしく言っておいてくれ。それじゃあ、また。」 「そういえば、そう。記憶を失っても唯一忘れなかった名前、とても大事な名前なのに、自分のものでは無かった名前。パートナーの名前に決まってるじゃない」 「解けた謎ほど簡単なものは無い。それより・・・」 「うん」  凛の声に応えるように、一体のデスウイングが彼女のところにやってきた。 「長い間、貴方の名前を勝手に使ってごめんなさい。これからもよろしくね、オロチ。」  凛とデスウイングが一瞬の光に包まれて後、漆黒のデスウイングは新たにオロチの名を持った。その色は・・・ 「行かせて良かったの?」  ユージは部屋の隅に疑問を投げかけた。 「今更パートナーなどと出て行くつもりは無い。」 「パートナーなのは事実じゃない。それに、目的の戦いは終わったんでしょ?」 「パートナーになったのは確かだが、それだけだ。俺は単独行動を望んだ。俺のエネルギー源になることと引き換えに、アイツは俺の情報を望んだ。」  部屋の隅から、ガチャボーグが現れた。コウのGレッドに良く似た、黒いガチャボーグだ。 「説明が足りなくて、多少ごたごたもあったみたいだが、アイツはアイツのやり方で目的を遂げた。それだけで十分だ。」  Gブラックというのが彼の名前だ。ユージにパートナー関係構築についての講義をしたことで、ショウのパートナーとしての仕事は終えたというのだろう。 「アイツも俺のことに気が付いていたみたいだしな、まぁ結局パートナーになる位、俺たちは似たもの同士ってことだ。惚れた女がいなけりゃ、あいつだって群れたがらないだろう?」 「・・・そうだね、話してるところはショウとそっくりだ。ほっとくと勝手にどこかに行きそうなのもそっくりだから、せめてショウみたいに、時々は遊びに来てよね。」 「ああ、そうだな。それじゃあ、また。」