43、  ユージの宣言を受けて、トレーニングルームは再び喧騒に包まれた。渦巻いている声の中には、「作戦が あるんだ! これでシンを助けられるぞ!」という希望の声も、「ユージさんはいったいどうやって助けよ うっていうんだ?」という疑問の声もある。そして、「これでようやく、デスブレンとの因縁も終わりか… …」という、万感に満ちたものまでが、混沌とした空気の中に混じり合っている。  しばし壇上に立ち尽くしていたユージは、軽く咳払いをして場の喧騒を落ち着かせると、「作戦の詳細を 伝える前に、現状で得られた情報を共有させて下さい」と前置きしてから、キョウコにスクリーンを起動す るように伝えた。  ユージの脇に待機していたキョウコが、足元に設置されたガチャボックスのスイッチを入れる。ガチャボ ックスの側面から投射され始めた光が、ユージの背後にある白い壁面に画像を映し出す。それはサハリ町全 域の地図だった。ユージは右半身を白い壁に向かって引き、地図を指差しながら説明を始める。 「Gブラックは研究所を襲った後、ジャングル公園に逃走。ジャングル公園の北でアクイラと交戦し、アク イラをシン君ごと乗っ取っています」  白い壁に映るサハリ町の地図に、研究所からジャングル公園までの矢印が表示された。これがデスブレン の進路に当たる。 「我々は以降、このアクイラをデスアクイラと呼称します。デスアクイラはジャングル公園の北に広がる田 園地帯において、グライドに向けて幾度かの火線を放った後、イナリ山方面に逃走しました」  今度はジャングル公園からイナリ山へと、地図上に矢印が引かれる。 「デスアクイラがイナリ山に向かった目的は2つあります。一つは、コタロー君が空に開けたバリアの穴を 通ってイナリ山に降下した、デスボーグたちと合流するため。もう一つは、Gレッド達が乗ってきたガチャ ボックスを自らの拠点として使用するためです。……次の地図をお願いします」  キョウコがガチャボックスを操作して、映像を切り替える。今度は、白地図にイナリ山の等高線を描いた だけの、ほぼ真っ白な地図が出てきた。  白い地図に重なるように、小さな赤い楕円が表示される。その円の中心は、Gレッド達が乗ってきたガチ ャボックスが降りた地点と、ぴったり一致している。 「この赤い円は、80分前に観測されたエネルギーを描いたものです。観測されたこのエネルギーは、ガチャ ボックスにワープエネルギーをチャージする際、発生するものであることが分かっています」 「ワープだと? ヤツの目的は何なんだ?」  壇の下から、ショウが尋ねた。 「デスアクイラはガチャボックスのワープ機能を使い、研究所に攻撃をかけるつもりです。チャージが完了 するのは90時間後。現在時刻は5月5日午前1時ですから、90時間後の時刻は5月8日の19時ですね。この 時刻になれば、デスアクイラは研究所に攻撃を仕掛けてきます」 「なぜ断言できるんだ? チャージが完了しても、ヤツが仕掛けてくるとは限らないぞ? 俺たちに仕掛け ずとも、未来に帰るということもできるんじゃないか?」 「結論からいえば可能です。私たちがワープ用のエネルギーを観測した際、同時に、デスアクイラがガチャ ボックスにタイムワープ機能を追加し始めたことが判明しています。しかし私は、デスアクイラは未来に帰 還せず、研究所に仕掛けてくると考えています。デスブレンは破壊衝動の塊であり、今回はガチャフォース を滅ぼすためにわざわざ過去の地球へとやってきています。よほど追い込まれれば帰還することも考えるで しょうが、まずは研究所の破壊を優先すると思われます」 「なるほどな」  ショウは素直にうなづいた。ユージが語るデスブレンの行動原理については、ショウも同感だったからだ。 「……それで、俺たちはどう動く?」 「本日5月5日は、コマンダーの休息とガチャボーグの修理に当てます。翌5月6日は、イナリ山に威力偵 察をかけます。5月7日は再び休息とし、5月8日の決戦に備えます。細かいスケジュールや作戦内容に関 しては、日の出までに資料を作成して、配布致します。現段階で、何かご質問はありますか?」 「……6日の威力偵察というのが気になるな。こちら側がイナリ山まで到達できれば、人が少ないイナリ山 を戦場として選べるからいいだろうが、もし向こうも打って出てくれば、前線がサハリ町内に作られてしま う。そうなれば、人の多いサハリ町内が戦場になってしまうぞ?」 「住民の避難については、既に手を回してあります。サハリ町は今日の18時から100時間、無人になります。 この100時間の内に、我々は作戦を遂行します」 「デスブレンの消滅作戦と、シンの奪還作戦か……」 「そうです。もし我々がデスブレンを消滅させることに失敗し、デスアクイラがシン君を内包したまま未来 に帰ってしまえば、シン君の救出は困難を極めます。なんとしてでも、この100時間で決着をつけなければな りません」  シンの名前が出てきたことに反応したのか、これまで黙していたリンが突然口を開いた。 「……シンは私の弟よ。絶対に助けるわ」  リンの心は、シンが自分を想っていたことを伝えられても、動じてはいなかった。恋人であるショウも同 様のようで、「あいつは俺にとっても弟だ。必ず助けて見せる」と決心を語った。  ショウの言葉を受けて、リンは一瞬だけ口の端を引き上げて笑みを見せた。しかしすぐに真顔に戻して、 「……そうね。それじゃあ、シンを助けられたらあなたのことを許してあげる」と、本心とは違うことを言 ってみせる。  対するショウはいたって真面目な表情で、「ああ、シンは必ず生きて連れ戻す。約束だ」と言ってのけた。  2人の周囲でその会話を聞いていた旧ガチャフォースメンバーの多くは、 (もう許してるんだから、素直に仲直りしようと言えばいいのに……)  と思いつつも、ようやくわだかまりが解けた2人のことを、密かに喜んでいた。