41、 「まず私がやらなければいけなかったのは、旧ガチャフォースの価値を落とすことでした」 「俺たちの価値を落とす? どういうことだよ?」  まるで話が飲み込めないといった様子のコウに対して、ユージはゆっくりとした口調で説明を始める。 「もし旧ガチャフォースが戦っていなければ、デスブレンはたった1日で地球を滅ぼすことができました。 それだけの強さを持つ敵を相手にできる戦力は、地球上には旧ガチャフォースしかありませんでした。つま り、8年前の時点では、旧ガチャフォースは世界最強の武力集団だったのです」 「俺たちが強かったら、どうなるっていうんだ?」 「世界中の国々を始めとしたありとあらゆる勢力が、旧ガチャフォースを我が物にしようと動き始めます。 最強の武力を欲しがる勢力は、どこにでもありますからね」 「でも俺たち、たまに政府の人に見張られてたりはしたけど、どこにも連れ去られてなんかいないぜ?」 「その通りです。その結果こそが、私が旧ガチャフォースの価値を落とした成果なのです」 「ユージ……お前、一体なにをやったんだ?」 「あらゆる勢力の目的を、旧ガチャフォースの奪取から人工ガチャボーグの開発へと逸らしたのですよ」 「どうやって?」 「それは、今からご説明いたしましょう」  8年前のデスブレンとの戦いから、一夜明けた翌日。ユージはイナリ山で未来に帰るアリスを見送ってか ら、一人で山を降りた。そのまま足を南東に向け、ある人物と会う約束をしている場所に向かって歩きだし た。ある人物とは、当時から政府高官の身であった、多摩川である。  タマを介して多摩川と連絡を取ってもらった際、ユージは待ち合わせ場所として、サハリ町のデスベース 跡を指定した。現在はここにガチャボーグ研究所が建てられているが、当時はまだ政府に存在を知られてい ない場所であり、極秘に接触するには都合が良かったからだ。  初対面の多摩川に対して、ユージは旧ガチャフォースがこれまで積み重ねてきた戦闘データと、パートナ ーボーグのパーソナルデータ、そして新メガボーグを救う代わりにデスブレンを撃破するという約束で入手 した、フォルトから貰ったデータを、全て提供した。それと合わせて、旧ガチャフォースのコマンダー全員 の氏名も伝えている。  このデータ譲渡こそが、旧ガチャフォースの価値を一気に下落させた。ユージが渡したデータを持ってす れば、すぐにでも人工ガチャボーグの開発を始めることができたからだ。  ユージは多摩川にデータを渡す際に、データの一部をわざと世界中に漏洩させ、人工ガチャボーグ開発の 足がかりを与えることを約束させた。これによって世界中で人工ガチャボーグ開発の機運が高まり、旧ガチ ャボーグの価値は下がったのである。  なぜ世界中に存在するありとあらゆる勢力は、旧ガチャフォースのことを諦め、人工ガチャボーグ開発に 傾倒していったのか。それは旧ガチャフォースのことを、独立した武力集団であると認識していたせいだ。 当然ながら旧ガチャフォースは世界最強の部隊であるため、その戦力を背景にして交渉に望まれてしまえば、 取り込むためには多大な労力と対価がかかると考えていたし、無理やり取りこめたとしても、勢力側より旧 ガチャフォースの方が高い戦闘力を持っているため、勢力側が思い通りに使いこなせる保証はどこにもなか った。それならば勢力側が、独自に人工ガチャボーグを開発し、自らの組織の構成員に運用させる方がロー コスト、ローリスクであるという判断を下すのは当然のことだ。 「でもさ、データがあっても材料がなきゃ、人工ガチャボーグなんて作れないだろ? デスフォースとずっ と戦ってたユージは材料を持ってたかもしれねえけど、世界中のやつらはどうやって材料を集めてたんだ?」 「材料は世界中にあったんです。デスブレンを撃破したときに消滅しなかったボディの一部は、バラバラに なって世界中に降り注ぎましたからね」 「そういうわけで、世界中が人工ガチャボーグ開発に向かって行ったんだな……。あ、でもさ。この研究所 以外で人工ガチャボーグを完成させたとこってあんのか? 聞いたことねぇんだけど?」 「完成させたところはありませんよ。今はようやく、ガチャボーグのボディを構成する金属を作れるように なったところです。ちゃんとした人工ガチャボーグを作り上げるまでには、まだ長い時間が必要になります ね」 「へー。なるほどなー」 「……ごめん、ちょっといいかな?」  コウの隣にいたカケルが右手を上げて、ユージに向かって発言を求めた。ユージは手を差し出しながら 「どうぞ」と応える。 「ユージ君は僕たちを守るために、多摩川さんにデータを渡したりして、僕たちの価値を落とすための行動 をしてくれたと思うんだ。でも昨日は、僕たちに価値が無いって思われたせいで、パートナーボーグ破壊計 画が実行されてしまったんだよね? そうなると、僕たちの価値を落とすのって、長い目で見れば僕たちに とってマイナスじゃないのかな?」 「仰るとおりです。私が目指したのは、短期的には旧ガチャフォースの価値を喪失させることです。しかし、 失う一方ではいけません。時期を見計らって、価値を創造できる仕掛けを作り上げる必要がありました」 「それが……デスブレンを呼ぶことなんだね?」  カケルの言葉に、ユージはうなづいた。 「私は、フォルトさんとの約束を果たすためだけにデスブレンを呼びこんだのではありません。私個人の都 合としては、先ほどカケル君が指摘されたように、旧ガチャフォースメンバーの価値を再生させて、パート ナーボーグ破壊計画を止めさせるという理由がありました。しかしもう一つ、大きな理由があったのです。 世界各国では牛の歩みではありますが、人工ガチャボーグの開発が進み続けています。しかし人工ガチャボ ーグは、どの国でも対人用の兵器としてしか捉えられておらず、地球全体を守るための戦力として捉えてい る勢力はいません。私はその認識を変えるため、自らデスブレンを呼びこみました。デスブレンの再来を見 せることで、地球を守る兵器として人工ガチャボーグを開発することへの意義を、各国に持ってもらいたか ったのです。8年前にデスブレンという脅威が存在した以上、それに匹敵する外からの脅威が繰り返す可能 性は存在し続けます。それが私たちの身に降りかかるのは、100年後かも、1000年後かも、あるいは1年後か もしれません。もしそのときに地球を守れる戦力がなかったら、私たちは滅びるしかないのです。それを防 ぐためには、できるだけ早い時期から人工ガチャボーグに地球を守る兵器としての価値を持たせる必要があ ったのです」  「だけど、再び呼び込んだデスブレンに負けるようなことがあっちゃいけない。だから、デスブレンを確実 に撃破できる武器を開発する必要があった。それを開発するための期間が、8年だったというわけだね。だ からこそユージ君は、デスブレンを8年後に出現させるように、フォルトと計画を立てたんだ」 「その通りです。私の思惑通り、デスブレンは問題なく撃破することができました。その後に出現したGブ ラックに対しても、予想の範囲内で対処できていました。しかし、ある1点だけ、私の予想の範囲外のこと が起きてしまったのです」  ユージの言葉に鋭く反応したカズトが、壇上に向かって声を放ってきた。 「それってまさか、シンとミサキのことなんですか!?」  ユージは教え子達の方へ向かって、静かにうなづいた。それを見た教え子達がざわめく中で、指導者であ るユージは、深く頭を下げた。 「……みなさん。シン君を救うために、どうか、力を貸していただきたいのです」