★2話後半     ■場面:イナリ山のふもと。登山道南口(サハリ町側)     マサト、登山道の入り口まで走ってきて、足を止める。  マサト「ハアッ、ハアッ……。シグマ、ダイキ君は?」  シグマ「……追ってこないようだ。妙だな、あれだけ執念を燃やしていた人間が、どうして急に……」     シグマ、誰かの気配に気づき、左を見やる。     左に生えている木々の間から、コマンドガールのレインが飛び出してくる。     着地したレインは、マサトに歩いて近づきながら、話しかけてくる。  レイン「(冷淡に)どうやら、無事に逃げ切ったみたいね」  マサト「レイン、君が助けてくれたの?」  レイン「そうよ。マグネットロボの足元にビームを撃ちこんだら、逃げて行ったわ」  マサト「ありがとう。おかげで助かったよ」  レイン「礼には及ばないわ。昨日の借りを返しただけよ。そんなことより……」     レイン、立ち止まって、マサトをにらみつける。  レイン「デスボーグをパートナーにしている限り、あなたは憎まれるばかりよ。こんなことは何度でも起き      るわ」     シグマ、うつむく。  レイン「誰にも頼らずに、ひとりで戦い続けることだけなら、否定しないわ。私だって、地球に来てからは      一人で戦ってきたんだから。でも、あなたの場合、後ろから撃たれてしまうのよ? そんな状況で      戦い続けるなんて、絶対に無理よ」     レイン、マサトに迫る。  レイン「デスボーグとは別れなさい」  マサト「……そんなこと、しないよ。シグマは僕のパートナーなんだ。僕はシグマと一緒に、人間とガチャ      ボーグのために戦うって決めたんだ」     シグマ、顔を上げてマサトを見る。  シグマ「(感動したように)マサト……!」  レイン「バカなことを言わないで。さっきあなたを襲ったのは、本来なら味方のはずのガチャボーグなのよ?      デスボーグと共にいる限り、誰かに理解してもらえることなんて無いわ。そのことを、身を持って      学んだばかりでしょう?」  マサト「……だけどね、レイン」      マサト、レインの顔を見つめる。  マサト「僕たちをマグネットロボから助けてくれたことで、君はもう、恩を返したはずだよね。だったらも      う、僕たちとは何の関係も無いはずだ。なのにこうやってたしなめてくれるのは、レインが僕たち      のことを理解して、心配してくれてるからじゃないのかな?」      レイン、ハッ、とする。      マサト、微笑む。  マサト「きっといつか、僕たちのことを分かってくれる仲間が現れるよ。僕はその人たちと一緒に戦いたい。      だって、デスボーグと一緒にいるのに、誰かに理解してもらえることを、身を持って学んだばかり      だもの」      レイン、そっぽを向いて顔を伏せる。   レイン「わ、私はまだ……デスボーグを仲間だと認めたわけじゃ……」      マサト、シグマと目を合わせて、苦笑する。      マサトの表情が、不意にこわばる。  シグマ「どうした、マサト?」  マサト「デスフォースだ! こっちに来る!」      シグマとレイン、マサトと同じ方向を向く。      デスボーグアルファ4機と、デスボーグオメガW2機の混成部隊が、こちらに向かっている。  シグマ「俺が上空でおとりになる! レインは地上から狙撃してくれ!」  レイン「(大きくため息を吐いて)……分かったわよ。あなた達に協力するわ」  マサト「ありがとう、レイン!」  レイン「礼には及ばないわ。私はただ心のままに、動くだけよ」      デスフォースのフォーメーションは、横一列に広がったアルファ4機が先行して、その後をオメガ      W2機が追いかける形になっている。      シグマ、山の樹木より高い位置をハイスピードで飛び、デスフォースに接近。      オメガWのビームを回避しながら、オメガWの真上を取り、狙いをつけずにビームを乱射する。  レイン「良い陽動ね」      レイン、右手の銃からバスターレーザーを放つ。      バスターレーザーは、シグマに気を取られているオメガWの1体に命中し、爆散させる。      残ったオメガWは、シグマを狙ってビームを放つ。  シグマ「この距離では、お互いに当たらないが……!」      シグマ、Vの字を描くように急降下からの急上昇を行う。      その最下点でビームを2発放ち、オメガWの腕を狙い撃つ。      オメガWは腕を破壊され、戦闘不能になる。  シグマ「あとはアルファを!」      シグマ、最大速度で飛行し、アルファを追いかける。      レインの攻撃によって、先行していたアルファは残り2体に減っている。      しかし、レインとの距離は詰まりつつある。  レイン「接近戦は得意じゃないけど……」      レイン、右腕の銃を狙撃モードから通常モードに切り替える。      バックジャンプしつつ、レインから見て左側にいるアルファにビームを連射する。      アルファは最初の2発を回避するが、3発目を脇腹にうけてバランスを崩し、その後に続いた連      射を浴びて消滅する。            もう1機のアルファはシュリケンが届く距離にまで接近していて、シュリケンを投げながらレイ      ンとの距離をさらに詰める。  レイン「こいつっ!」      着地したレイン、シグマにビームを連射する。      だが、シュリケンに邪魔をされて正確に狙えず、命中しない。      アルファ、右手の刀を下から上に振り上げて、レインに攻撃する。      レイン、後ろにステップして避ける。      アルファ、踏み込んでから、今度は逆に振りおろす。      レイン、また後ろにステップして回避しつつ、ビームを放ってアルファの頭部を吹き飛ばす。  レイン「とどめ!」      レイン、ビームを連射してアルファを撃破する。  レイン「よし、これで全部……」  マサト「レイン! 後ろ!」      レインの背後の草むらから、隠れていたアルファが、刀を振り上げながら飛び出してくる。        レイン「(振り向いて)きゃあっ!」  マサト「シグマ!」  シグマ「任せろ!」      シグマ、飛行体制のままバーストの光に包まれ、スピードが急激に上昇する。      その姿勢のままビームを1発放って、アルファの振り上げられた腕を吹き飛ばす。  シグマ「おおおっ!」      シグマ、急降下しながら剣を突き出して、アルファの胸を貫く。      アルファは胸を貫かれたまま、消滅を始める。  シグマ「お前も……仲間のもとへ帰るんだ」      アルファは首を動かして、シグマと目を合わせる。      目を合わせたまま、アルファは完全に消滅する。            マサト、シグマとレインのもとに駆け寄る。  マサト「2人とも、大丈夫!?」  シグマ「俺は大丈夫だ。レインは?」  レイン「(へたりこんで)わ……私も、大丈夫……」  シグマ「(左腕を差し出しながら)立てるか?」  レイン「ええ……ありがとう」      レイン、シグマの左腕につかまって立ち上がる。  レイン「あなた、普通のデスボーグより、ずいぶん強いみたいね」  シグマ「俺は、作りかえられる時に、たまたま……」  レイン「(不思議そうに)作りかえられる?」  シグマ「あ……いや、何でもない。俺が強いのは、マサトのGFエナジーのおかげさ」      マサト、シグマとレインのそばで、身をかがめる。  マサト「良かった、2人とも怪我はないみたいだね」  レイン「大丈夫よ。……でも、危なかったわ」  マサト「さっきの、隠れていたデスボーグのことだね」  レイン「ええ。デスボーグは意思をもたないから、これまではやみくもに襲ってくるだけだったのに……。      作戦を使ってきたのなんて、初めてよ」  シグマ「デスブレンが本格的に動き出したせいだろうな。デスフォースの統率を執り始めたんだろう」  マサト「うん。僕もそうじゃないかと思う。昨日のニュースで犠牲になった人だって、原因はデスブレンが      動き出したせいだからね。デスブレンが本格的に動き出してるのは、間違いないよ」  シグマ「そうだな。デスフォースが作戦を使ってくるとなると、これから苦しい戦いになるだろう。だけど、      絶対に許してはおけない」      近くの草むらからガサッ、と音がして、シグマとレインが銃口を向ける。  レイン「誰!? 姿を見せなさい!」      倒れこむようにしながら、トルネードワルキューレが草むらから出てくる。  トルネ「助けて……黒い、ワルキューレが……」      マサトが駆け寄り、トルネードワルキューレを手のひらで支える。  マサト「だ、大丈夫!? 一体、何があったの?」  トルネ「く……黒いリングワルキューレに、仲間が……。私だけ、なんとか逃げのびて……」      マサトの後を追ってきたシグマとレインも、トルネードワルキューレに近づく。      レインはトルネードワルキューレの背中を見る。  レイン「データクリスタルは無事だけど、身体の方はひどくやられたようね……。マサト、ガチャボックス      は持ってるんでしょ? 入れてあげた方がいいわ」  マサト「わかった。今用意するよ。シグマ、用意する間、代わりに支えてあげて」      マサト、背負っていたランドセルを降ろして、ガチャボックスを取りだそうとする。      マサトに代わってシグマが、トルネードワルキューレを支える。      トルネードワルキューレ、シグマを見て悲鳴を上げる。  トルネ「ひいいいっ!」  レイン「落ち着いて。大丈夫、彼は敵じゃないわ。現に私は、彼に2度も命を救われているの」  シグマ「そういうことだ。心配はいらない」  トルネ「デスボーグが……しゃべってる?」  シグマ「ああ。俺にはちゃんと意思がある。他のデスボーグとは違うってことだ」  トルネ「そうなのね……」      マサト、ランドセルから取り出したガチャボックスを地面に置いて、起動させる。  マサト「用意できたよ。さあ、中に入って」      マサト、トルネードワルキューレを手のひらに乗せて、ガチャボックスに近づける。      トルネードワルキューレはデータクリスタルの姿になって、ガチャボックスに吸収される。      レイン、ガチャボックスに話しかける。  レイン「ねぇ、もし話せるなら、黒いリングワルキューレのこと、教えてもらえないかしら」  シグマ「ガチャボーグを襲っているそうだが、デスフォースの手の者なのか?」      ガチャボックスからトルネードワルキューレの声が返ってくる。  トルネ「はい。黒いリングワルキューレは、新しく組織されたデスフォース地上軍の親衛隊員なんです。      私は仲間と一緒に、デスフォース地上軍の親衛隊と戦いました。でも、まるで敵わなくて、逃げだ      したんです。それを追ってきたのが、親衛隊員の黒いリングワルキューレでした」  レイン「そうだったのね……」  シグマ「デスフォースが地上軍を組織した……か。なるほど。デスフォースの戦い方が変わった直接の原因      は、ここにあるな」  マサト「僕らの敵は、デスフォース地上軍ってことだね。彼らを一刻も早く倒さないと、犠牲者が増えてし      まう」  シグマ「そうだな。だけど、今は戻ろう。マサトがバーストを使って消耗している」  マサト「ありがとう、シグマ」      マサト、西に沈み始めた太陽を見やる。  マサト「もう日も暮れるからね。今日のところは、家に帰ろう。レインも、君(トルネードワルキューレ)      も、僕の家においでよ」  レイン「そうね、これから協力して戦うのなら、一緒にいた方がいいものね。      (ガチャボックスの方を向いて)……あなたは、どうするの?」      ガチャボックスからは返事がない。  レイン「……眠ったみたいね」  シグマ「あれだけダメージを受けていたんだ、無理もないさ」     マサト、ガチャボックスを手に立ち上がる。  マサト「よし、それじゃあ、彼女もいっしょだ。みんなで帰ろう」  シグマ「今度はちゃんと、家に入る前に、俺もガチャボックスに入れてくれよ?」  マサト「もぅ、悪かったってば……」     ■場面:同じ日の夜。さばな町のロウの自宅。その2階にある、ロウの部屋     夜、ダイキが、ロウの部屋を訪れる。     ダイキとロウは、部屋の中央に置かれた低いテーブルをはさんで床に座り、向かい合っている。   ロウ「それで、僕に聞いて欲しい話って、何だい?」  ダイキ「俺のパートナーが、殺されたんだ」   ロウ「そうだったんだね……また、犠牲者が……」  ダイキ「殺した奴は、青い色のデスボーグ・シグマだった。あいつは普通の強さじゃない。放っておけば、      また誰かが殺される」   ロウ「そのデスボーグって、そんなに強いのかい?」  ダイキ「俺は今日、マグネットロボと一緒に、そいつに挑んだんだ。だけど、あっさり逃げられた。そいつ      には仲間がいるみたいだったし、人間のパートナーも一緒だったんだ」   ロウ「人間のパートナーだって?」  ダイキ「ああ。俺と同じ学校のやつなんだ。名前は……何だったかな。きっと、あいつだってデスボーグに      操られてるんだ。そうでなきゃ、デスボーグにパートナーボーグを殺されておきながら、デスボー      グをパートナーにするなんて、考えられない」   ロウ「デスブレンが人間を洗脳するって話は、僕のパートナーから聞いたことがあるよ」  ダイキ「きっとそれだ。デスボーグが、あいつを洗脳しているんだ」   ロウ「なるほどね。それだと、そのデスボーグはガチャボーグを殺すだけじゃなくて、人間も洗脳して利      用しているということになるね」  ダイキ「そうなんだよ。なんとか退治したいけど、俺の力だと敵いそうにない。だからロウ君に、代わりに      退治してもらいたいんだ」   ロウ「……分かった。引き受けるよ。これ以上、犠牲を出しちゃいけないからね」  ダイキ「ありがとう。どうか、俺のパートナーの仇を取ってくれ」     ■場面:ロウの部屋     ダイキがロウの家の玄関を出て、通りに消えていく。     ロウは2階にある自室の窓から、それを見送る。   ロウ「ねえ、サーフ。彼の話、どこまで信じていいのかな?」     テーブルの上に、ビームガンナーのサーフが腰かけている。  サーフ「不自然な点が2つある。1つ目は、彼がマグネットロボと一緒に青いシグマに挑んだ際、シグマ側      は仲間がいるにも関わらず、逃げ出していること。2つ目は、青いシグマに人間のパートナーがい      ることだ」   ロウ「確かに、その2つは妙だね。彼の話は鵜呑みにしない方が良いみたいだ」  サーフ「私もそう思う。その青いデスボーグが、ガチャボーグを殺すものなのか、それとも助ける者なのか。      見極める必要があるだろう」   ロウ「そうだね。真実は、僕自身の目で突きとめるよ」     ■場面:さばな町の路地     マグネットロボ(−)、地面にたたきつけられ、消滅を始める。  ダイキ「(呆然として)そんな……嘘だろ……」  ショウ「フン、この程度か」  ダイキ「なんで、デスフォースでもないのに、こんなことを……」  ショウ「俺にとって、デスフォースもガチャフォースも関係ない。全てのガチャボーグが俺の敵だ。さあ、      次を出せ。全て壊してやる」  ダイキ「もう……いないんだ。俺にはもう、誰も……」  ショウ「(隣にいるガルダに目線を移して)本当か?」  ガルダ「嘘はついてねえよ。もうガチャボーグの気配はねえ」  ショウ「じゃあ次だ。行くぞ!」      ショウ、背中を向けて去っていく。      ダイキ、消えゆくマグネットロボのそばに歩み寄って、ひざまずく。  ダイキ「(泣きながら)なんで、こんな……。俺はただ、お前たちと、一緒に……」