★2話前半     ■場面:マサトの家、玄関  マサト「ただいまー」     マサト、家の玄関を開け、中に入る。マサトの左肩にはシグマがとまっている。     マサト、玄関のドアを閉める。     家の奥の方から、近づいてくる足音が聞こえる。  カズト「にーちゃん、おかえりー」     カズト、マサトの前で立ち止まり、笑顔を見せる。  マサト「ただいま、カズト。……ん? なんか嬉しそうだな?」     マサト、しゃがみこんでカズトに顔を近づける。     カズト、マサトの肩にとまっていたシグマをつかんで、無邪気に振りまわす。  カズト「わー、これすげー! かっこいー!」  マサト「あっ! しまった、シグマを隠さないまま家に入っちゃった……」     振りまわされているシグマ、マサトに目で訴える。  シグマ(マサト、助けてくれ……)     マサトも目で返す。  マサト(わかってる。そのまま動かないでね)  カズト「にーちゃん、このおもちゃちょうだい」  マサト「いや、それはおもちゃじゃなくて……」  カズト「え? それじゃなんなの?」  マサト「あ……いや、おもちゃだよ、おもちゃ。でもそれはにーちゃんのだから、返してくれないか?」  カズト「やだー!」     カズト、家の奥に走り去る。  マサト「あっ! こら、待てカズト!」     マサト、靴を脱ぎ捨ててカズトを追う。     ■場面:マサトの家、ダイニング     夕飯が並べられたテーブルに、マサト、カズト、父、母の4人が着いている。     マサトの隣の席にはカズトがいる。マサトの向かいには父がいて、その隣が母の席。     ダイニングに隣接するリビングではテレビが点いており、ニュースが流れている。     マサトは視線を、背後にあるテレビの方に向けている。   アナ『さばな町で、また奇怪な事件です。本日14時頃、男性の遺体が発見されました。この遺体からは脳      が抜き取られており、現在、警察が捜査を始めています。被害者の氏名は、鷹見……』     いきなりテレビが消える。     マサト、正面を向く。     父親が、椅子に座ったままリモコンで消していた。    父「まったく、最近は物騒な事件が多いな。マサト、カズト。しばらくは、一人で外に行くんじゃないぞ」  マサト「(うつむきながら)……うん、わかった」     カズトは返事をせず、相変わらずシグマを振りまわして遊んでいる。    母「こらカズト! ご飯のときまで遊ぶんじゃありません! 言うこと聞かないと、そのおもちゃ、裏      の河に捨てますよ!」     母はシグマを取り上げ、マサトの方へ突きやる。    母「マサト、お小遣いをカズトのために使ってくれるのは嬉しいけど、御飯の時まで遊ばせるんじゃ      ありません!」  マサト「(抑揚なく)はーい。ごめんなさーい」     マサト、シグマを受け取ると、すばやく膝の上に置く。  マサト「(小さな声で)……シグマ、大丈夫?」  シグマ「(ぐったりして)……人間の子供が持つエナジーとは、強力だな。それが良く、分かったよ……」     ■場面:マサトの家、マサトの部屋。         夜遅い時間。マサトの部屋は真っ暗だが、窓から星の明かりが良く見える。     マサトはベッドにもぐり、上半身を起こして、右側にある窓から星を見ている。     シグマも、窓枠に背を預けながら、外を見ている。  マサト「夕方に山で聞きそびれたこと、聞いてもいいかな? シグマは、どうしてデスフォースに味方しな      いで、人間とガチャボーグのために戦っているの?」  シグマ「……デスボーグの作り方、君は知ってるかい?」          マサト、首を横に振る。  シグマ「デスボーグを作るには、ガチャボーグを生け捕りにして、デスボーグ生成機に投げ込むんだ。ガチ      ャボーグのデータクリスタルは生成機の中で無理やり4つに分けられ、それぞれがデスボーグの核      になる。1体のガチャボーグから、4体のデスボーグが生まれるって寸法だ」  マサト「デスボーグになれば、意思を失うんだよね。それって、元のガチャボーグの記憶は無くしてしまう      ってことなの?」  シグマ「そうだ。だけど俺が生成機に入れられたとき、幸運なことに、誤作動が起こった。通常なら1体に      つき1つの核しか持てないはずなのに、俺の中には2つの核が入ったんだ。核が2つあるぶん、ガ      チャボーグだったときの知能が残っている。だからこうやって、マサトと話ができているんだ」  マサト「知能が残っているなら、記憶も残っているの?」  シグマ「残念だけど、ガチャボーグだった頃の記憶は、残っていないんだ。たった一つを除いてね」  マサト「その一つって?」  シグマ「デスフォースへの恨みさ」  マサト「恨み……」  シグマ「自分自身のことを覚えてないくせに、デスフォースのことはしっかり覚えているんだ。俺は自分の      ことより、デスフォースへの恨みの方が強い、そんなボーグだったのかもしれない」  マサト「……僕だって、デスフォースを恨んでるよ。デスフォースのボスは地球を壊そうとしているって、      ノアが言ってた。そんなこと、絶対に許せない」  シグマ「俺もそうだ。そして、地球の破壊を防ぐためには戦うしかない。だから俺は、この体をデスボーグ      に変えられても、他のデスボーグの正体がかつての仲間だと知っても、それでも戦っているんだ」  マサト「……そっか。デスボーグは元々ガチャボーグなんだから、デスボーグをやっつけることって、かつ      ての仲間を撃つことになるんだね」  シグマ「その通りだ。デスフォースによって作られたデスボーグは、自我を持たないただの兵器でしかない。      ……でも、元は俺たちと同じ、メガボーグ星のガチャボーグなんだ。こんなこと知ってるのは、デ      スボーグにされた俺くらいだけどな。このことを他のガチャボーグに教えてしまえば、みんなかつ      ての仲間を撃つことなんて、できなくなるだろう」  マサト「それでもシグマは、戦ってるんだよね」  シグマ「ああ。たくさんの仲間が、この星に降りている。それだけじゃない。たくさんの人間たちが、この      星に生きている。メガボーグを守ることはできなかったけど、俺は必ず、この地球を守って見せる」  マサト「僕も一緒に戦うよ。必ず、地球を守ろう。もう、ノアみたいな犠牲者をだしちゃいけないんだ」  シグマ「犠牲者か……さっきの人間も、デスブレンの犠牲者だろうな」  マサト「(驚いて)人間の犠牲者が!?」  シグマ「さっき、マサトも聞いてただろう? 脳を抜かれた人間のことだ」  マサト「夕飯の時に流れてた、ニュースのことだね。確か、鷹見って言ってた」  シグマ「侵略する星のことを知るために、その星の中で最も知能の高い種族から1体を選び、その情報器官      を抜き取る。デスフォースの首領デスブレンの、いつものやり口だ」  マサト「(怒りに震えて)そんなことを……! シグマ、こんなこと、許しちゃいけない。絶対に勝とう」  シグマ「もちろんだ、マサト」     窓の外で、流れ星が降る。     マサトとシグマはそれを目撃する。  シグマ「あの流れ星、ガチャボックスかもしれないな」  マサト「イナリ山の方に落ちたみたいだね。明日の放課後にでも、見に行ってみようか。新しい仲間に会え      るかもしれない」  シグマ「そうだな。どんな奴が降りてきたのか、楽しみだな」     ■場面:翌日の放課後。マサトの通う小学校。マサトのクラス。     マサト、ランドセルを背負って教室を出ようとする。     教室にいる女子の話が聞こえてくる。  女子A「ねえ、テレビでやってるの見た? 昨日の事件のこと」  女子B「うん、見たよ。なんだかホント、怖いことばっかり起こるよね……」  女子A「この前は、別の学校の女子が行方不明になったでしょ。それから、隣のクラスのダイキだって来な      くなったし。そこに来て昨日の事件だもんねー。なんかの前触れじゃなきゃいいけど」  女子A「や、やめてよ。そんなこと言うの……」     マサト、教室を出て外へ向かう。     ■場面:イナリ山のふもと。登山道東口(さばな町側)。  マサト「ここまで来れば、もう人目は無いね。シグマ、出てきても大丈夫だよ」     シグマ、マサトのランドセルの脇から出てくる。  マサト「さあ、新しい仲間に会いに行こうか」  シグマ「……マサト、危ない!」  マサト「えっ……? うわっ!」     マサトのそばにある樹木に、ビームが着弾する。  シグマ「林に逃げ込むんだ!」  マサト「わ、わかった!」     マサト、林に逃げ込む。     シグマ、その後を追う。     2人は大きめの樹木の陰から頭だけを出しながら、先ほどビームが飛んできた先を見やる。  マサト「さっきのビーム、一体誰が……」  シグマ「はっきりとは見えなかったが、少なくともデスボーグじゃなかった。マシンボーグのように見えた      が……」     マサト達がいる林に向かって、人間の大声が飛んでくる。   男子「出てこいよ、デスボーグ! お前も他のやつみたいに、粉々にしてやる!」  マサト「シグマを狙ってるのか……」  シグマ「どうやら、デスボーグ狩りをやってるやつに出くわしたみたいだな。しかも、話が通じる状態じゃ      なさそうだ」     男子、林の中に入ってくる。     その足元を、マグネットロボ(−)が低空飛行でついてきている。  シグマ「さっきのビームは、マグネットロボのものか。相手がデスフォースじゃない以上、戦いたくは無い      な。……ん? どうした、マサト」     マサト、木の陰から飛び出す。  シグマ「マサト! 危険だ、戻れ!」  マサト「(シグマの言葉を意に介せず)ダイキ君! なんでこんなとこにいるんだよ!」  ダイキ「……誰だ、お前?」  マサト「隣のクラスの近藤正人だよ! みんな君が学校に来ないからって、心配して……」  ダイキ「学校なんかに行ってる暇なんかあるかよ! 俺はデスボーグを全滅させるんだ!」  マサト「まさか、ダイキ君もパートナーボーグをデスフォースに……」  ダイキ「へぇ、そうか。お前も俺と一緒か。……そうだよ。俺はこの間、パートナーボーグを殺されたんだ。      そこに隠れてるデスボーグの仲間にな!」  マサト「……そうだったんだね。デスボーグを恨んでいるのは、すごく分かるよ。僕だって同じだから。で      も、聞いて欲しいんだ。ここにいるシグマは僕のパートナーだ。デスフォースを倒すために、一緒      に戦ってるんだ」     シグマ、木の陰から出てくる。  シグマ「マサトの言うとおりだ。俺は姿こそデスボーグだが、中身は違う。こうやって喋っているのを見れ      ば、分かるだろう?」  ダイキ「……消えろよ」     マグネットロボ(−)、両腕からシグマに向かってビームを放つ。     シグマ、高度を上げて回避する。  マサト「ダイキ君、止めてくれ! 僕たちは敵じゃないんだ! 敵はデスフォースなんだ!」  ダイキ「うるさい! デスボーグは敵だ! デスボーグをかばうなら、お前も敵だ!」     マグネットロボ(−)、両腕をマサトに向ける。  シグマ「マサト、危ない!」     シグマ、上空からマグネットロボ(−)の腕を狙って発砲する。     マグネットロボ(−)は発射態勢を止め、後方に飛び去って回避する。  マサト「ダイキ君、そんな……」  シグマ「逃げるぞ、マサト!」     マサトとシグマ、逃げ出す。  ダイキ「逃がすかよ! 追うぞ!」     ダイキとマグネットロボ(−)、追いかけようとする。     マグネットロボ(−)の足元が、突如爆発する。  ダイキ「な、何だ!?」     続けてビームが飛んできて、マグネットロボ(−)の眼前の地面に着弾する。  ダイキ「あいつらの仲間がいたのか! ……くそっ、今は引くぞ!」     ダイキとマグネットロボ(−)、マサト達とは反対方向に逃げだす。