どらごにっく★あわー!   〜竜を退治するだけの簡単なお仕事です〜 ●初期情報 No.Z001101 担当:鷺ノ宮アンネローゼ               黒川実 ―――――――――――――――――――――――  リングウィネズはウェールズ地方にある、現代のイギリスには珍しい深い森を擁する小さな村だ。  ドラゴンの出現以来、空気が美味しいことだけがとりえの辺鄙な村を訪れる観光客は絶えてなく、数百年に及ぶ自給自足のサイクルを崩すような災厄に襲われることもなかった。  世界がドラゴンとの戦いに巻き込まれていく中で、この村だけは世間の流れから取り残されたような、穏やかで退屈な日々が続いていた。      ◆     ◆     ◆  実際に訪れてみれば、リングウィネズという村は、聞いていた以上のド田舎だった。  奥村菊[おくむら・きく]は、携帯電話が虚しく圏外の文字を表示するのを見て、そっと首を振る。  気心の知れた仲間たちに会える母校は遥か遠く、このイギリスに分校なんてものを作れるほどには、埼玉県立大東京中等教育学校は儲かってない。  ――まあ、そもそも今回の調査隊が、イギリスに本部を持つ『ペポペポの会』が結成したものなので、他のユニオンから参加したベオウルフたちは、殆ど似たような状況なわけだが。  いや、遠い異国の地でひとりぼっち気分に沈んでいる場合ではないと、菊は自分を励ました。  もしかして、ここでの自分たちの頑張り次第で、人類はドラゴンたちとの泥沼の戦いから救われて、未来へ新たな一歩を踏み出せるかもしれないのだ。      ◆     ◆     ◆  何十年、何百年でも続きそうな平穏が突如として破られたのは2009年12月のこと。  リングウィネズの森に薪を拾いに行った村人が、森の中をうろつく、体長50m前後の黒いドラゴンに遭遇し、命からがら逃げ帰ったのを皮切りにして、次々と目撃者が現れた。  当初、酔っぱらいが幻覚を見たのだと一笑に付していた村人たちも、目撃者の数がどんどん増えて、ついに村長が遭遇するに至ってやっと動いた。  数年前、村に重病人が出た際に力を貸してくれたユニオン“ペポペポの会”へ連絡を取ったのだ。  幹部会は、現地への調査隊の派遣を決定。  調査隊長にはフランス支部のエースとして名高いサラ・ル・カレ[−・−・−]が任命された。      ◆     ◆     ◆ 「……その“名高い”っていうのは“悪名高い”の間違いなんじゃなぁい?」  サラは菊の言葉に愉快そうに目を細めた。  ロマの血筋を引くというエキゾチックな美貌は、同性の菊もドギマギするような色気を孕んでいる。  実際、戦場で“ヒーロー”と呼ばれる活躍をしていくつもの街と人を救ってきた英雄でありながら、世間におけるサラの評判は、あまりよろしくない。  それはサラ自身が、年齢も性別も既婚未婚の別も問わずに愛を振りまく自称“博愛主義者”であり、道徳や倫理に囚われない恋をするからだ。  菊だって、サラの名前はWBA発行の速報誌より、芸能ニュースや車内の吊り広告で見かけたほうが、遥かに多い。 「黒いドラゴンが何度も目撃されてるのに、人間には危害を加えてないところが気になったのよねぇ」 「あっ、私も! もしかして人間と仲良くなりたいドラゴンかもしれないと思ったら、いても立ってもいられなくって!」  頬を紅潮させた菊の反応に、サラは不思議そうに首を傾げる。 「菊ちゃんはドラゴンと仲良くしたいわけ?」 「はい! ドラゴンが高い知能を持っているなら、話し合いができれば無意味な戦いも……」 「そっか、あたしは無理」  あっさりと告げられて、菊はその場に凍りつく。 「だってねえ、あたしの恋人だった人達の中には、ドラゴンに殺されちゃったのもいるし、あたしも、ろくに数も覚えてないぐらい殺してるわけだから、これからは仲良くしましょうね、とか言われても、ちょっと無理があると思うのよねえ……」 「……し、しかし、高度な知恵を持ったドラゴンと意思の疎通や交渉が可能になれば、人類にも新たな未来が訪れるのではないかと……」 「あー、うちの引退しちゃった総帥も、共存だとかなんだとか言ってたわねぇ」 「はい、存じております! 引退前にWBA総会でドラゴンと人の共存に関する演説をされたとか! やはりサラさんも前総帥の薫陶をうけて?」  一瞬、何故か菊は背中がひやりと冷たくなるのを感じたような気がした。  そっとサラを見るが、笑顔に変化は見られない。  ただ、手持ち無沙汰なのか、いつの間にか右手に現れたチャクラムを、くるくると回している。 「…………。ええと、素敵なトリガーですね」 「ありがと、菊ちゃんの日本刀もセクシーよ」  どこか微妙な空気が漂う中、菊はサラと並んで、黒いドラゴンが目撃された地点のひとつに向かい、歩きながら話の接ぎ穂を探す。 「……ペポペポは、前総帥を慕う方々と、現総帥を支持する方で意見が割れていると伺ってますが」 「そう、あたしはククルビータちゃん派なのよね。あの子も和平推進派だから」  ちょっと意外な気がした。  ペポペポの現総帥は、就任直後から休む間もなく最前線を渡り歩いていると聞いていたからだ。 「ククルビータさんは、ドラゴンを憎んでおられるとばかり思っておりました」 「和平イコール仲良くしましょうっていうだけじゃないってことかしらねぇ」  戦いを中断し、争わなくて言い場所までお互いに引き上げて距離を取るというのも、和平案としては立派なものだとサラは言う。  少なくとも殺し合いはしなくてよくなるはずだ。 「そのためには、出会い頭に問答無用でブレスやら爪爪牙尻尾の攻撃を仕掛けてこないドラゴンとは、会ってみたいと思ったわけ」  ただ、ペポペポの会上層部がサラに期待するのは和平の使いとしての働きではなく、黒いドラゴンの弱点を調べ、仕留めて本部へ持ち帰る狩人としての腕前である。 「本当に仲良くしたいなら、血気さかんなコたちが黒いドラゴンに仕掛けるよりもはやく……」  サラが不意に口を噤んだのと、そのチャクラムが空を切り、菊が愛刀を抜き放ったのが、ほぼ同時。  振り返ったふたりは、そこに何の前触れもなしに現れた禍々しい殺気を放つドラゴンの姿を見た。  隊長は30m級、殺意と敵意に満ちた真紅の瞳は鬼火のように燃え、陽光を弾く鱗は――白かった。  白いドラゴンは大気を震わす咆哮を響かせると、人間たちに襲い掛かってきた。      ◆     ◆     ◆  三合目、鋭い鉤爪を受け止めた菊の愛刀が硬質な音を響かせて折れた。  既に手持ちのチャクラムは底を尽き、サラも菊も繰り出される攻撃を避けるだけで精一杯の状態だ。  振り回された尾の攻撃を避けきれずに、菊の体は地面に叩きつけられ、駆け寄ったサラが菊を抱えて逃げようとしたところで、ふと気づいた。  白いドラゴンはふたりを見下ろし、くるるるると機嫌よさそうに咽喉を鳴らしている。 「……あらやだ、もしかしたらあたしたちのこと、嬲り殺しにして楽しもうとしてるんじゃなぁい?」  頭上で輝く真紅の瞳が、嘲笑うように細められ、サラの優雅な微笑が引き攣った。  身が軽いのが取り柄のサラが、意識を失った菊を抱えて、どこまで逃げられるかというのもある。  活路を探して考えをめぐらせる皿の上に、すっと影が落ちた。  白いドラゴンの楽しげな咽喉声が急に途切れる。 「――その子を連れて、村のほうにお逃げなさい。さあ、急いで!」  不意に背後から聞こえた耳慣れぬ声に急かされ、弾かれたように立ち上がるサラに、白いドラゴンの吐いた炎のブレスが襲い掛かった。  しかし炎は、黒く輝く“壁”に阻まれて、サラと菊を焼き尽くす前に掻き消される。  ぼんやりと目を開けた菊は、真っ黒なドラゴンが自分たちを守るように、白いドラゴンの前に立ち、突進していく姿を見た。      ◆     ◆     ◆  どうにか村内で調査を続けていた仲間と合流し、本部に事態を報告すると、すぐ返答が戻ってきた。 『了解、どちらのドラゴンも見事に狩り、忘れずに本部まで持ち帰れ。生死は問わない』  菊は思わず我が耳を疑った。 「あの、報告いたしましたように、黒いドラゴンはサラさんと私の命を助けてくださって……」 『相手はドラゴンだ。どんな気まぐれを起こすやら見当もつかん。捕獲して本部まで連れてくるんだ。真実、人類に友好的なドラゴンなら、逆らうまい』  通信は一方的に中断され、村の一角に設けられた調査本部には重苦しい空気が漂う。  あの黒いドラゴンも白いドラゴンも、人の言葉を操り、あるいは理解していた。  間違いなくコマンダー級以上のドラゴンだろう。  そんな怪物を二匹もまとめて相手にしたら、村はおろか自分たちの命だって足りやしない。  森ではドラゴンたちの戦いが続き、二体の咆哮が大気を揺るがしている。  逃げる途中で軽いやけどを負い、仲間に手当てをしてもらっていたサラは、本部との通信が終わるとふらりと外に出て行こうとする。 「サラさん、どちらへ!?」 「調査」 「何を言ってるんですか、こんな状況で!!」 「だって、まだ、なぁんにも分かってないわよ?」  黒いドラゴンがリングウィネズに現れた目的も。  白いドラゴンがやって来た理由も。  どうして黒いドラゴンはサラと菊を助けたのか?  そして、何故、ドラゴン同士で戦っているのか? 「本部のお偉いさんからは、ドラゴンのトラウマを調べるのが最優先事項だって言われてたしねぇ?」  どちらにしても、サラと菊には使えるトリガーが手許にない。  悔しくても雪辱戦というわけにはいかないのだ。 「せっかく来たのに、何もかもうやむやのまんまで手ぶらで帰るのって寂しいと思わない? あたしは行くけど、みんなはどうする?」  褐色の美女は、調査隊のメンバーたちを見渡してにっこりと微笑んだ。 ――――――――――――――――――――――― ■関連選択肢 A011101 サラと一緒に森で調査を続ける (担当:鷺ノ宮アンネローゼ/地域:109) 備考:リングウィネズの森で“黒いドラゴン”について調査するための行動選択肢です。ドラゴンと戦いたい場合は「A011100」を、仲間のサポートに回りたい場合は「A011102」を選んでください。サラに用事のある方もこちらへ。 ※この初期情報を読んで、「A011101」を選ぶPCは、初回、サラたちと共に先行した調査隊の一員としてアクションをかけることができます。 ※調査隊として行動したい人は、アクション用紙に忘れずに『調査隊』と朱書きしてください。 ※記入を忘れると、緊急事態の報告を受けて現場に赴いたものとしてアクション処理されます。 ※リングウィネズ関連の初期情報は四本あります。 ※内訳は通常×3、ユニオン専用×1です。 ――――――――――――――――――――――― ここに掲載されている行動選択肢は、『どらごにっく★あわー! 〜竜を退治するだけの簡単なお仕事です〜』の公式サイト(本サイト)に掲載されない場合があります。 ――――――――――――――――――――――― 個人としてゲームを楽しむための交流の範囲を越えない場合に限り、この「初期情報」の複製、サイトへの転載を許可します。著作権等の扱いについては、本サイトを参照ください。 copyright 2009-2010 ELSEWARE, Ltd. ―――――――――――――――――――――――