どらごにっく★あわー!   〜竜を退治するだけの簡単なお仕事です〜 ●初期情報 No.Z000806      担当:山城一樹 ―――――――――――――――――――――――  ――少女は、夢を見ていた。  夢の中でも眠っていた少女が目を醒ました。目を開きたくない、と思ってもそれを拒否することは出来ない。なぜなら、これは過去に起こった事実を少女の記憶がなぞっているだけだから。  忘れることのできぬ忌まわしい記憶が、数年経た今も、この少女を捕らえているのである。  目を醒ました少女は、また、その光景を見た。網膜に焼き付いて離れない、無惨な光景――すなわち、巨大なドラゴンに踏み潰され、半壊して死んだ兄の姿を。  体の右半分をジャム状にされ、残った左半身も踏まれたときの圧力で穴という穴から中味がふき出している。少女が兄の亡骸を抱き上げると、視神経でつながった左眼球がだらしなくぶら下がった。紫色の瞳にはうっすらと膜がかかりっている  その瞬間、強ばっていた声帯が、蘇った。少女の喉から、甲高い絶叫が迸る。  ここは、NYのチャイナタウン。兄がここにあるレストランに連れてきてくれたおかげで、初めて訪れた土地だ。そこなら、使用人も部下もいない。兄と二人きり、水入らずのお食事会になるはずだった。  だが、そこにあの悪魔が現れた。白銀の鱗に包まれた巨大なドラゴンが。  ベオウルフの兄は、勇敢にもトリガーを手に立ち向かった。少女もベオウルフだったが、過保護な深窓の育ちが災いし、戦う勇気もなく、ただ卒倒していた。目が覚めたとき、兄はこんな状況となっていた。  狂ったように泣き叫ぶ少女を諭すように、白銀の悪魔が語りかける。 「……この男は勇者だった。この俺と一対一で戦ったベオウルフなど、数えるほどもいない」  悪魔の足を、少女は叩いた。なぜ、兄を殺したのか。よくも、兄を殺したな? しかしどんなに少女が力強く叩いても、トリガーもない少女の身では、ドラゴンに傷を付けることなど出来ない。皮膚破れ血があふれ、むしろ少女の手が傷ついていく。  ドラゴンが少女の拳からすっと身を引いた。叩く相手がいなくなった少女の体が前に泳ぐのを、ドラゴンの足がそっと支えた。  どのような力加減なのか、少女の体には傷一つつかなかった。  はるか頭上にあるドラゴンの双眸を、少女はキッと睨む。そして、なじる。どうして、兄を殺したのか。あんなに優しかった兄が、無惨に死なねばならないのか? それだけを壊れたレコードのように繰り返す。  少女の批難に、ドラゴンはわずかに首を背けた。やや間を置いてから…… 「ならば、少女よ。鍛えよ。鍛えて、お前が好きな兄の仇を、憎き敵たる我に挑むがよい。今のお前ではまだまだ弱い。ただ無為に死ぬ前に、勇敢な兄に近づく努力をするんだな」 「兄様に、近づく……?」 「そうだ。俺は、逃げも隠れもしない。お前が自信を得たなら、いつでも勝負を挑むといい。その声が届いたなら、俺はいつでも挑戦を受ける」 「挑戦、を……」 「そしてそのときまで、俺は誰にも負けん。そのときのために、教えておこう。俺の名は……」  少女は、そこで目覚めた。  目覚めたここは、米国のチャイナタウンではなく、日本の兵庫県神戸市だった。ユニオンを挙げての計画のために、ファミリーを挙げて移動してきたのだ。  兄が死んだ後、ただ一人の後継者候補となった少女は、父母が授けてくれ、愛してくれた名を捨てた。今では、ただのドン・ヴィンチトーレ[−・−]となって、ユニオンのみんなを愛している。  愛される名前を捨てて、みなを愛するための『地位』を名にした。庇護される末っ子であることを捨て、みんなを守る立場であることを忘れないよう、年上の部下にも自分を“ねえさま”と呼ぶことを要求した。  すべては、自分が愛した兄に近づくために。ヴィンチトーレ一家とSDDを継承するはずだった、兄の代理となるために。  自分が兄の変わりに、パパの代わりにファミリーのみんなを支えなくてはいけないのだ。パパや兄の代わりにファミリーのみんなを守ってあげなくてはいけない。そう、二年前、それができるほど強ければ、 「お兄ちゃんは……死ななかったかも知れないもん……」  あのとき、兄を殺したドラゴンは、全身傷だらけとなっていた。自分が気絶している間に、兄はあのドラゴンと互角に戦っていたに違いない。  眠れなくなったドンは、夜具の上にカーディガンを羽織って寝室を出る。一人で廊下へ出た。  ホテルの最上階からは、神戸の夜景が一望できる。  夜警の最中、そんな少女の小さい背中を見た【貴兄】は、思わず声をかけてしまった。ドン、と。 「“ねえさま”でしょ」  いつもの調子で振る舞うドンだが、声音が若干憂いに湿っている。自分でもそれに気付いたのか、ドンはことさら口調を事務的にし、仕事の話題に移った。 「それより、ステファノはどうなの? ちゃんと仕事は進んでるの?」  ドンの問いに【貴兄】はうなずき、答える。人材の管理や物資の手配も着々と進んでいるし、問題はない。さすが『相談役(コンシリエーレ)』というところか。  『相談役』ステファノ・コルレオーネ[−・−]は、SDDでも武力系ナンバー2に位置する人物だった。  今、ドンとともに訪日し、行動している彼の表向きの活動は、神戸にある華僑系富豪、龍[りゅう]家の婿選び――『比武招婿』参加者の後援である。  『比武招婿』とは、龍家の後見人・張威風[ちょう・いふう]が告知した婿選びイベントで、龍家のひとり娘・龍虹[りゅう・こう]の婿に強いベオウルフを選ぶと宣言した。ステファノは『比武招婿』の参加者をSDD内から募り、またそのフォローをするための人材も別途手配している。複葉機など現在では入手・整備が難しいトリガーの確保と保管も、同様に手配している。仮に、複葉機で編隊を組めといわれたなら、即座に編成できるほどだった。  だが、ステファノには裏の仕事もあるらしい。その仕事(あるいはその一部)が龍家の監視だった。また、たかがSDDの若手世代の嫁取り活動のフォローのために、ドンとステファノ、WOP(ウィズアウトオブペーパーズ)と呼ばれる親衛隊さえ同伴させているのは、明らかに不自然だ。  いったい、ドンとステファノはこの日本で何と戦うつもりなのか? たかが嫁取りイベントに、これだけの布陣はあり得ない。  【貴兄】がそんなことを考えていると、 「ねえ、あなたはいくつになるの?」  ドンの問いに、【貴兄】は素直に答えた。するとドンは少しためらってから、 「そう……ねえ、絶対、死んじゃダメよ。今、あたしたちがやろうとしてるお仕事の内容……成功すればファミリーのみんなに多大な利益をもたらすはずのお仕事よ。だけど、とっても危険なことなの。だから、参加するなら絶対死んじゃダメだからね。もし、危なくて怖いんなら、あたしのそばを離れちゃ、ダメよ」  そう呟いたのだった。  【貴兄】が去った後、ドンはぬいぐるみの中から一葉の写真を撮りだした。  いかめしい外見だが自分には甘かった父――先代ドン・ヴィンチトーレと、兄のエミリオ・ヴィンチトーレ[−・−]、そして――少女自身の三人が一堂に会した写真だった。  エミリオは、線の細い十代後半の美青年だった。つややかな黒髪は清潔に切りそろえられ、柳眉の下の目はアメジストのように輝いている。細身の体に黒の夜会服がよく似合っていた。 「お兄ちゃん、きっと、仇を取るからね。  うぅん、私怨じゃない。あいつを倒すことは、きっと、ファミリーにとって大きな繁栄につながるもの。  お兄ちゃんの代わりに、立派なドンになってみせるね。だから……――を、天国から見守っていてね」  ドンは自分たち下の人間を守ろうと常に努力している。情報機密上、言えないこともあるかもしれないが、それでも彼女は部下を等しく愛おしむ。  いったい、自分がこの少女にできることはなんだろう?  【貴兄】は、SDDの一員として考えてみた。  現在、滞日中のドンとステファノが取っている行動は、表向きは龍家婿選びに参加するSDD構成員の募集とフォローである。また、そのために使用する複葉機等の管理をしている。  そして裏では、どうやら龍家の動向を監視しているようだった。特に、張威風と龍虹の様子をつぶさに監視しているらしい。  だが、それにしてもドンの狙いとは一体、なんなのだろう? ドンの狙いとファミリーとSDDの繁栄、そして龍家の顛末が入り乱れたこの事件の中、自分に出来ることは…… ――――――――――――――――――――――― 「マスターより」  どうも、お世話になっております。山城“接待麻雀で取引先の社長の上がりを『南』のみの喰い上がりで潰したら社長から『テメー』と言われてさすがに焦った”一樹です。初見の方には初めまして。お馴染みの方には毎度ごひいきに。  今回は『嫁取りシナリオ』です。PLの皆さんには、武侠小説風な感じで、明るく楽しく烈しくドラゴンと戦っていただければと思います。  キーワードは、下記の通り。 『ロマンス』『武侠』『ロリから美熟女まで』『秘伝争奪戦』『武道家は拳で語れ』『マフィオソ』『タイマン張ったらダチ!』『ドタバタ』『一部18禁あり』『カンフーアクション』  なお、行動選択肢一覧のほか、下記行動選択肢が選択可能です。 A010805 ヴィンチトーレ家について調べる (担当:山城一樹/地域:121) ※この行動選択肢はユニオン・性別等にかかわらずどなたでも選べる行動選択肢ですが、行動選択肢の性質上、SDD所属者推奨です。  それでは、また皆様には約一年間十ターン、お楽しみいただければと思います。ではでは。 ――――――――――――――――――――――― ここに掲載されている行動選択肢は、『どらごにっく★あわー! 〜竜を退治するだけの簡単なお仕事です〜』の公式サイト(本サイト)に掲載されない場合があります。 ――――――――――――――――――――――― 個人としてゲームを楽しむための交流の範囲を越えない場合に限り、この「初期情報」の複製、サイトへの転載を許可します。著作権等の扱いについては、本サイトを参照ください。 copyright 2009-2010 ELSEWARE, Ltd. ―――――――――――――――――――――――