どらごにっく★あわー!   〜竜を退治するだけの簡単なお仕事です〜 ●初期情報 No.Z000805     担当:山城 一樹 ――――――――――――――――――――――― 「うわぁ、凄い人手ですねぇ」  ベトナム系の少女看護士――グェン・チー・トゥイ[−・−・−]が感心した声を上げた。彼女は、龍家の婿取りイベント『比武招婿』のスタッフである。  『比武招婿』とは、武力を競って婿を選ぶ、中国古典以来の娘婿選抜法である。今回、尚武の気風を持つ在日華僑の名家・龍家では、一族で唯一残った令嬢――龍虹[りゅう・こう]の婿を選ぶにあたって、智勇優れた若手ベオウルフを対象にしたいと言い出したのである。  もともとベオウルフの活動に援助もしてきた龍家は、ベオウルフでも知る者ぞ知る家柄だ。平凡な一市民の想像を絶する財産家で、神戸市にあるこの広大な屋敷だけでもひと財産だ。  トゥイはその『比武招婿』で負傷者が出ることを見込んで雇われた、クリームヒルトラボラトリー所属の看護士である。今後、参加者は傷の手当てなどで大いに手を借りることになるだろう。  負傷者が発生していない今は、龍家の屋敷の前庭で『比武招婿』参加希望者の受付を担当している。 「なんかたくさん人がいるねぇ」  ある者は槍、あるいは戟、はたまた石斧、素手という者もいる。華僑の婿選びだが、中国の武術家のほか、日本の剣豪や忍者、欧米のガンマン、インドの達人など、雑多なものである。全てベオウルフだ。 「まあ、私が見るところ、参加者のうち優勝候補筆頭は二人だな。あと、対立候補が何人か……」  そばにいた龍家関係者――中国人だった――が、胸を張って言った。 「それって誰なんです?」  トゥイの問いかけに関係者が答えようとしたとき、後方から騒ぎ声。新たに前庭に入ってきた人物に、喚声が上がったようである。  現れたのは、虎皮の胴衣に朱房がついた槍を携えた屈強な男。二十代くらいか。槍のけら首には一升はゆうに入りそうな大瓢箪をぶら下げており、気が向けば槍を傾けて瓢箪の口をくわえ、ぐびぐびと白酒(パイチュー)を呑っている。 「『草薙』所属のベオウルフ。人呼んで『酔浪子』の焦横野[しょう・こうや]。六合大槍の達人だ。我が中華の若手世代でも、屈指の達人だな」 「へえ、あの人がその一人ですか。もう一人は?」  そうトゥイが尋ねたとき、今度は門のほうから笛の音が聞こえてきた。  眼を向けると、華美で古風な袍を身につけた童女が二人、笛を吹きながら現れた。さらに続いて、二人の童女が道を掃きながらついてくる。  そして最後に、四人の美女を侍らせながら、眼鏡の少年が姿を現した。瓜実顔で整った容貌の、十代前半の少年だった。アイロンのきいたドレスシャツにスラックスを穿いている。眼鏡の奥には不敵な眼光である。 「なんですか、あの偉そうな子供は? あと、周りの女の子は?」 「あれがもう一人。『新娘小偸』と呼ばれる言逢春[げん・ほうしゅん]だよ。流派は蘇州言家拳。トリガーは世にも珍しい『鉤』だ。中国伝来の武器で、尖端が鉤状に曲がった剣のことだよ。彼が操るのは特に『虎頭鉤』と呼ばれる武器だ」 「で、周りの女性は?」 「そばにいる八人の女性は全員、内縁の妻らしい」 「それって、愛人……」 「あだ名の『新娘小偸』は、花嫁泥棒という意味だよ。腕も立つし顔も家柄もいいし財産もあるから、女はよくよってくる。おおかた、美貌で名高い龍家の令嬢を、我が家の花瓶に活けたいと思ったんだろうさ」 「うわぁ、いけ好かないヤな奴ですね」  トゥイが忌憚ない感想を述べていると、二人の優勝候補がにらみ合った。 「坊主はとっとと家に帰ってテレビゲームでもしていたらどうかね?」 「ふん、名門龍家にはしかるべき家格の相手でなければ、釣り合わないだろ? しょうがないからボクが名乗り出たんだよ」 「はな垂れのお坊ちゃんじゃあ、オレの相手には不足だが……」  焦言の二人がにらみ合う光景を、【あなた】が息を呑んで見つめていると、龍家の使用人がベオウルフたちに声をかけた。 「広間へお越しを。当家主人・龍女と後見人にして『泰山派』掌門人――張威風[ちょう・いふう]が『比武招婿』開始の挨拶を申し上げますので」  屋敷内の大広間に、『比武招婿』に参加する多くのベオウルフが集まっていた。【あなた】もその一人だった。  龍家令嬢・龍虹[りゅう・こう]が入ってくると、一堂騒然となった。龍家はベオウルフの活動にも理解と援助を示す篤志家であり財産家だった。だから財産目当てという参加者も少なくないが、龍虹の美しさに思わずため息を漏らしたのだ。龍虹の清楚な美貌に、【あなた】も思わず息を呑む。  みどりの黒髪は丁寧にまとめられ、頭の左右で輪を作っている。つぶらな瞳は星のよう、形の良い唇は鮮やかな朱色で、白皙の肌と映えあっている。  柳腰で、女性らしいラインの体を真紅のチャイナドレスで包んでいた。伸びやかな脚線美は膝上まで黒いストッキングで隠されていた。  上座にしつらえられた席に、龍虹が座ると、そのそばに立った張威風が拱手して述べる。  張威風は、気品ある端整な顔立ちの、四十路の男。流麗な挙措と高価な仕立ての青い長衫が、彼を高級に演出していた。 「諸兄、本日は当家婿選び『比武招婿』にご参加賜り、まことにかたじけなく存じ上げる。  さて、諸兄らそろって初対面と思いますが、こちらにおわすのが当家跡取り娘の龍虹です。ドラゴン狩りの危険を顧みず、ご参加いただいた諸兄に対する礼儀として、嫁入り前ながらお引き合わせした次第」  張威風の態度はどこかしら慇懃に思われた。また迂遠な言い回しがうざったく感じられる。そう思った者はほかにもいたらしい。 「そんなことより、『比武招婿』、どうやって選ぶ? まさか、ここにいるみんなで最後の一人になるまで殺し合え、なんて言うんじゃないだろう?」  参加者の野次も気にせず、張威風の口上は続いた。 「そのようなことは要求しませぬよ。第一、そのようなことをすればベオウルフ同士の和を損ないますゆえ。我ら、所属や出自、また国籍は異なれども同じともがらではござらぬか。  第一、ベオウルフが集まれば、することはひとつ。人類の怨敵、ドラゴン狩り」 「なら、早速行って竜を狩ってくるぜ」 「気の早いお人かな。自由課題でドラゴンを狩るとあっては、それぞれの功績の比較が難しい。また納得のいかぬ方も多かろう。  よって、どこのドラゴン狩りを対象とするかは、こちらで指示させていただきたい」 「どこのドラゴンを狩ってくるんです?」  【あなた】の疑問を、別の人が代弁してくれた。その問いかけを待っていましたとばかり、張威風が口を開いた。 「ただドラゴンを狩るだけというのも芸がない。中国山東省に龍家谷(りゅうかこく)と呼ばれる集落があります。その谷は名の通り我が龍家の原籍地ですが、そこに玉笛廟と呼ばれるほこらがあるので、そこに飾られている龍家玉笛を奪還してきた者を最優秀者とさせていただきたい。この土地は今、ソルジャードラゴンの群れに占拠されております。あとはドラゴンを倒した数で序列を決めるということで。まあ、龍家へ婿入り前のご奉公、というところですかな。  またそれを第一課題とし、追って第二、第三と課題を出していき、智勇双全の総合優秀者を当家の婿とさせていただく」 「第一課題でしくじったら、失格なのか?」 「いえ、あくまで総合優秀者を決めることが目的なので、前の課題の失格者も、また中途参加者も含めて総合得点を競う形です。審査は不肖張威風が行わせていただく」  なるほど、課題ひとつだけで優劣を決めるのは運の要素が大きくなりすぎる。だから、課題を複数用意し、アベレージを競うというわけか。【あなた】は納得した。  あとは張威風から無用の長広舌が続いている。【あなた】は周囲へ視線を巡らせた。  蘇州言家拳の言逢春[げん・ほうしゅん]、六合大槍の焦横野[しょう・こうや]といった若手世代の名手の姿も散見される。  だが、ふと、今し方入ってきたばかりの若者に目を取られた。この剣侠も参加希望者らしい。  若さみなぎる小麦色の肌は、回族(イスラム系中国人)出身であろうか。ターバンで頭をまとめているが、わずかにこぼれた毛髪から黒髪であることがわかる。馬掛にズボンというシンプルな装束で、背中に年代物の刀――カットラスを斜めに帯びていた。  その剣侠の瞳は、湖のように澄んだ青さだった。思わず、【あなた】は見とれてしまった。  バカな、自分はノーマルだ。それが、どうして恋敵になるかもしれない相手に目を奪われるのか……  剣侠――セイフ[−]は小さく口の中で呟いた。誰にも聞き取れない、か細い声で自分に言い聞かす。 「ルーカス[−]様……必ずや龍家の秘伝『降龍解題』を暴いて見せます。そして、ルーカス様のお足下を脅かす者どもを、この私が排除してみせます。  きっと……」 ――――――――――――――――――――――― 「マスターより」  どうも、お世話になっております。山城“タイマンはったらダチ”一樹です。初見の方には初めまして。お馴染みの方には毎度ごひいきに。  今回は『嫁取りしなりお』です。PLの皆さんには、武侠小説風な感じで、明るく楽しく烈しくどらごんと戦っていただければと思います。  きーわーどは、下記の通り。 『ろまんす』『武侠』『ろりから美熟女まで』『秘伝争奪戦』『武道家は拳で語れ』『まふぃおそ』『たいまん張ったらだち!』『どたばた』『一部18禁あり』『かんふーあくしょん』  なお、行動選択肢一覧のほか、下記行動選択肢が選択可能です。 A010804 『泰山派』について調べる (担当:山城一樹/地域:117) 備考:この行動選択肢は、神戸の華僑・龍家に関わろうとする方専用の行動選択肢です。『比武招婿』に参加するかしないかは、お任せします。  それでは、また皆様には約一年間十ターン、お楽しみいただければと思います。ではでは。 ――――――――――――――――――――――― ここに掲載されている行動選択肢は、『どらごにっく★あわー! 〜竜を退治するだけの簡単なお仕事です〜』の公式サイト(本サイト)に掲載されない場合があります。 ――――――――――――――――――――――― 個人としてゲームを楽しむための交流の範囲を越えない場合に限り、この「初期情報」の複製、サイトへの転載を許可します。著作権等の扱いについては、本サイトを参照ください。 copyright 2009-2010 ELSEWARE, Ltd. ―――――――――――――――――――――――