どらごにっく★あわー!   〜竜を退治するだけの簡単なお仕事です〜 ●初期情報 No.Z000804     担当:山城 一樹 ―――――――――――――――――――――――  深窓の令嬢――龍虹[りゅう・こう]は美しい。  みどりの黒髪は丁寧にまとめられ、頭の左右で輪を作っている。つぶらな瞳は星のよう、形の良い唇は鮮やかな朱色で、白皙の肌と映えあっている。  柳腰で、女性らしいラインの体を真紅のチャイナドレスで包んでいた。伸びやかな脚線美は膝上まで黒いストッキングで隠されていた。  その龍虹が、愁いに満ちた瞳で窓外の景色を眺めていた。  ここは神戸市にある在日華僑・龍[りゅう]家の屋敷であり、龍虹はその屋敷の令嬢だった。ただしこの広大な屋敷には、彼女の使用人がいるばかりで、彼女の家族は皆すでに死に絶えている。  だから後見人の管理下にあるとはいえ、この屋敷も龍家の財産も、彼女個人のものである。  かつて華族が所有していた洋風建築の屋敷に手を入れ、そこかしこの装飾を中華風にリフォームしている、三階建ての豪壮な屋敷だった。  朱塗りの柱や飾り柱。屋根や庇に葺かれた青い瓦。金泥で文字を打った扁額などなど。飾り壁には透かし彫りで龍や鳳凰をあしらっている。装飾過多にならない程度に、中国的なデザインが混在していた。  前庭も小学校がひとつ入りそうなほど広いし、屋敷の裏側の山地も龍家の所持というのだから、豪気なものである。  その前庭に、屋敷の豪華さとは不釣り合いな人々が列をなしていた。  戟、槍、日本刀、火縄銃だったりマスケット銃、石斧……さまざまな武器を持ち、中には馬に騎乗している者さえいる。年の頃は十代から二十代の男性ベオウルフたちだった。彼らはある目的のため、あるイベントに参加するために、この屋敷に集まっていた。そしてそれこそが、龍虹を憂鬱にしていた。  龍虹は満十五歳。あと数ヶ月で十六歳になる。日本の法律で結婚可能な年齢――婚姻適齢にだ。  そして、屋敷の前庭に集っているのは候補者だった。なんの候補者かと言えば…… 「あの方たちのうちのどなたかが、私の旦那様になるのですね……」  龍虹のため息には、悲哀がこもっていた。 「公主(中国語で姫の意)さま、そのように落ち込まれないでください」  おそばに侍っていた、金髪の女仆が声をかけた。女らしすぎる熟れた体を喪服の黒さのエプロンドレスで包んでいた。中露混血らしく、輝くばかりの金髪と抜ける白さの肌を備えていた。ちなみに、女仆とは中国語でメイドの意である。  今はタイタニアに所属しているが、もともと長く龍家に仕えてきたメイド――ソフィア・魏[−・うぇい]だった。いや、正確には龍家に仕える武術集団『泰山派』を構成する四家――王張黄魏の四家の後裔である。だから、龍家に忠実に仕えている。  だが、 「何を言ってるの、ママ。どう考えたっておかしいよ、こんなの!」  ソフィアに真っ向から否定意見を出したのは、まだ子供子供した勝ち気そうな少女である。龍虹と同年代だろうか。彼女はソフィアのひとり娘――アーニャ・魏[−・うぇい]だ。金髪をお団子ふたつにまとめ、大東京中等教育学校の制服を身につけている。  金髪碧眼と色白さ、ベオウルフの才能はソフィア譲りだが、残念なことに背丈と胸は似なかったらしい。少年のような平坦な体つきだった。 「アーニャ……そんなことを言っても……」 「今時、家の命令で強制的に結婚相手を決められるだなんてアナクロもいいところだわ」 「それは……張大人が、龍家のため……いえ、公主さまのためにお決めになったこと……」 「幸せ? 決まるのは見たこともない相手よ!? どんな相手が決まるかわからないのに、龍虹ちゃんの幸せを、そんないい加減に決めていいの?」  ソフィアはアーニャの言葉に目を伏せた。  長年仕えてくれ、自分の世話をしてくれたソフィアの苦衷を見かね、龍虹が口を挟んだ。 「いいんです、アーニャさん」 「龍虹ちゃん……」 「この度の『比武招婿』……代々龍家に仕えてくれた張が決めてくれたこと……きっと、悪いことにはならないと思いますから」  それでもなお、龍虹の表情は冴えない。  『比武招婿』――それが龍虹の結婚相手を決するイベントであり、前庭のベオウルフたちがその参加者だった。  文字通り武力でもって婿を決めるという、中国武術界古来の婿選びの法だった。今回はベオウルフが対象なので、ドラゴン狩りが、その基準となる。  もともと本籍地である中国山東省以来、龍家が尚武の気風を持つ名家であることから、龍家の後見人――張威風[ちょう・いふう]が、龍家の名に恥じない強い婿の血を龍家に入れたいと言い出したため、決まったことだった。  まだ若く、籠の中の鳥である龍虹に、先代当主が死亡して以来龍家の全てを切り盛りしてきたやり手・張威風に反駁する力はない。 「でも、ボクにはわからないよ。今時、そうまでして残さなくちゃいけない血筋なんか、あるの? なんのために?」 「それは……わかりません。でも、この伝統ある龍家を絶やすことはできません。だから……」  健気に、運命に従う覚悟を示す龍虹。だが、先行きの見えない恐ろしさはどうしてもつきまとう。小さな方が、小さく震えていた。  アーニャがギュッと、龍虹をハグする。 「大丈夫だよ。龍虹ちゃん。この後、たとえどんなことがあったって、ボクが龍虹ちゃんを守ってあげる。もし、夫婦喧嘩になったって、ボクが相手をとっちめてあげる」  そう言いながら、アーニャは無力な自分を噛みしめていた。まだものごころつく前に両親に先立たれ、兄弟なく親戚さえおらず、ただ一人ぽつんと取り残された龍虹。まわりには使用人しかおらず、後見人の張威風には頭が上がらない。そして、対等な友達はいなかった。アーニャは努めて友達として突き合おうとしてきたが、所詮はソフィアともども龍家の使用人の家系である。 (誰か龍虹ちゃんのお友達になってくれる子がいたら、少しは龍虹ちゃんの慰めになるのに……)  アーニャが龍虹に見えないように唇を噛む。そんな愛娘を、ソフィアは辛そうに見ている。  そのとき、ノックの音が。こちらの返答を待たず、一人の男が入ってきた。  気品ある端整な顔立ちの、四十路の男。流麗な挙措と高価な仕立ての青い長衫が、彼を高級に演出していた。ソフィアは恭しく一礼し、アーニャは怨敵に対するようににらみつける。龍虹は、小さく嘆息を漏らした。 「張大人、女性の部屋に、返事も待たずに入るなんて、無礼すぎるんじゃないですか!?」 「これは失礼。それはさておき公主さま、そろそろお時間ですぞ」  アーニャの精一杯の皮肉を柳と風に受け流す、この男こそ張威風だった。 「そう怖い顔をなさるな、アーニャ殿よ。諸君ら奥向きの女性に頑張ってもらわなくては。なんと言っても公主さまは嫁入り前。間違いがあっては困る。ああ、それとこの度の『比武招婿』に備え、なお念入りに身の回りのお世話をすることとした。新顔が増えるだろうが、仲良くやってくれたまえ」  張威風の言葉はどこか、龍虹の商品価値が下がると困ると言っているように思える。さらに言えば、魏母娘では力不足と言わんばかりの態度がアーニャは気に入らない。ソフィアが唯々諾々と話を聞いているのも気に入らない。 「さあ、それでは公主さま、参りましょうぞ」  屋敷内の大広間に、『比武招婿』に参加する多くのベオウルフが集まっていた。【あなた】もその一人だった。  龍虹が入ってくると一堂騒然となった。龍家はベオウルフの活動にも理解と援助を示す篤志家であり財産家だ。財産目当てという参加者も少なくないが、龍虹の美しさに思わずため息を漏らしたのだ。龍虹の清楚な美貌に、【あなた】も思わず息を呑む。  上座にしつらえられた席に龍虹が座ると、そのそばに立った張威風が拱手して述べる。 「諸兄、本日は当家婿選び『比武招婿』にご参加賜り、まことにかたじけなく存じ上げる。  さて、諸兄らそろって初対面と思いますが、こちらにおわすのが当家跡取り娘の龍虹です。ドラゴン狩りの危険を顧みず、ご参加いただいた諸兄に対する礼儀として、嫁入り前ながらお引き合わせした次第」  張威風の態度はどこかしら慇懃に思われた。また迂遠な言い回しがうざったく感じられる。そう思った者はほかにもいたらしい。 「そんなことより、『比武招婿』、どうやって選ぶ? まさか、ここにいるみんなで最後の一人になるまで殺し合え、なんて言うんじゃないだろう?」  参加者の野次も気にせず、張威風の口上は続いた。 「そのようなことは要求しませぬよ。第一、そのようなことをすればベオウルフ同士の和を損ないますゆえ。我ら、所属や出自、また国籍は異なれども同じともがらではござらぬか。  第一、ベオウルフが集まれば、することはひとつ。人類の怨敵、ドラゴン狩り」 「なら、早速行って竜を狩ってくるぜ」 「気の早いお人かな。自由課題でドラゴンを狩るとあっては、それぞれの功績の比較が難しい。また納得のいかぬ方も多かろう。  よって、どこのドラゴン狩りを対象とするかは、こちらで指示させていただきたい」 「どこのドラゴンを狩ってくるんです?」  【あなた】の疑問を、別の人が代弁してくれた。その問いかけを待っていましたとばかり、張威風が口を開いた。 「ただドラゴンを狩るだけというのも芸がない。中国山東省に龍家谷(りゅうかこく)と呼ばれる集落があります。その谷は名の通り我が龍家の原籍地ですが、そこに玉笛廟と呼ばれるほこらがあるので、そこに飾られている龍家玉笛を奪還してきた者を最優秀者とさせていただきたい。この土地は今、ソルジャードラゴンの群れに占拠されております。あとはドラゴンを倒した数で序列を決めるということで。まあ、龍家へ婿入り前のご奉公、というところですかな。  またそれを第一課題とし、追って第二、第三と課題を出していき、智勇双全の総合優秀者を当家の婿とさせていただく」 「第一課題でしくじったら、失格なのか?」 「いえ、あくまで総合優秀者を決めることが目的なので、前の課題の失格者も、また中途参加者も含めて総合得点を競う形です。審査は不肖張威風が行わせていただく」  なるほど、課題ひとつだけで優劣を決めるのは運の要素が大きくなりすぎる。だから、課題を複数用意し、アベレージを競うというわけか。【あなた】は納得した。  あとは張威風から無用の長広舌が続いている。【あなた】は周囲へ視線を巡らせた。  蘇州言家拳の言逢春[げん・ほうしゅん]、六合大槍の焦横野[しょう・こうや]といった若手世代の名手の姿も散見される。  だが、ふと、今し方入ってきたばかりの若者に目を取られた。この剣侠も参加希望者らしい。  若さみなぎる小麦色の肌は、回族(イスラム系中国人)出身であろうか。ターバンで頭をまとめているが、わずかにこぼれた毛髪から黒髪であることがわかる。馬掛にズボンというシンプルな装束で、背中に年代物の刀――カットラスを斜めに帯びていた。  その剣侠の瞳は、湖のように澄んだ青さだった。思わず、【あなた】は見とれてしまった。  バカな、自分はノーマルだ。それが、どうして恋敵になるかもしれない相手に目を奪われるのか……  剣侠――セイフ[−]は小さく口の中で呟いた。誰にも聞き取れない、か細い声で自分に言い聞かす。 「ルーカス[−]様……必ずや龍家の秘伝『降龍解題』を暴いて見せます。そして、ルーカス様のお足下を脅かす者どもを、この私が排除してみせます。  きっと……」 ――――――――――――――――――――――― 「マスターより」  どうも、お世話になっております。山城“タイマンはったらダチ”一樹です。初見の方には初めまして。お馴染みの方には毎度ごひいきに。  今回は『嫁取りしなりお』です。PLの皆さんには、武侠小説風な感じで、明るく楽しく烈しくどらごんと戦っていただければと思います。  きーわーどは、下記の通り。 『ろまんす』『武侠』『ろりから美熟女まで』『秘伝争奪戦』『武道家は拳で語れ』『まふぃおそ』『たいまん張ったらだち!』『どたばた』『一部18禁あり』『かんふーあくしょん』  なお、行動選択肢一覧のほか、下記行動選択肢が選択可能です。 A010804 『泰山派』について調べる (担当:山城一樹/地域:117) 備考:この行動選択肢は、神戸の華僑・龍家に関わろうとする方専用の行動選択肢です。『比武招婿』に参加するかしないかは、お任せします。  それでは、また皆様には約一年間十ターン、お楽しみいただければと思います。ではでは。 ――――――――――――――――――――――― ここに掲載されている行動選択肢は、『どらごにっく★あわー! 〜竜を退治するだけの簡単なお仕事です〜』の公式サイト(本サイト)に掲載されない場合があります。 ――――――――――――――――――――――― 個人としてゲームを楽しむための交流の範囲を越えない場合に限り、この「初期情報」の複製、サイトへの転載を許可します。著作権等の扱いについては、本サイトを参照ください。 copyright 2009-2010 ELSEWARE, Ltd. ―――――――――――――――――――――――