どらごにっく★あわー!   〜竜を退治するだけの簡単なお仕事です〜 ●初期情報 No.Z000803     担当:山城 一樹 ――――――――――――――――――――――― 「泰山派の秘伝?」  密やかな囁き声だった。  ここは中国某所の、雑多な屋台である。その一卓で数人のベオウルフが、酒肴をお供に密談していた。 「そうだ。『荘子』に記された『屠龍之技』とも、中壇元帥が蛟龍を退治したときの技に由来するとも言われる、あの泰山派の秘伝だよ」 「だが、そんなものは根も葉もない言い伝えだろう? 泰山派はただの弱小流派でそのパトロンの龍[りゅう]家は日本に移住したただの金持ちってことじゃねーか」  最初の男の囁き声に、怪訝な印象を受けたらしい。別の者が懐疑的な言葉を返す。  中華圏に武術流派はごまんとあるが、泰山派はその中でも小さな流派に過ぎない。ただ、ドラゴン出現以降、事情は若干変わった。  現在の泰山派のトップがベオウルフで、素手でソルジャードラゴンを撃退。SDDに入団してSDD極東支部長に就任したのは、最近でも話題になった。  だが、ただそれだけのことだった。世界に複数あるユニオンのひとつ、その一地方での人事に過ぎない。 「ドラゴンが現れるまでは、オレもおとぎ話だと思っていたさ。だが今はドラゴンが我が物顔で南半球を跋扈するご時世だ。大昔にドラゴン退治した伝承を持つ流派と『龍』の名を冠する伝統ある名家――気にする理由には、なると思うぜ」 「……オレもお祖父さんから聞いたことがあるんだが、なんでもお祖父さんの代には、泰山派は小なりと言えども武林で第一等の地位を誇る最強の流派だったそうだ。それも、素手でドラゴンを追い払ったからだとよ。およそ一世紀ほど前にな。さらに言えば泰山派が小さいのは、血族内でしか技を伝えないからだそうだ。だから規模の大小と技の優劣が、泰山派については関わりない」 「――!!」  百年前であれば、ちょうど第一次世界大戦頃にあたる。つまり、ベオウルフのルーツと重なっており、逆説的にドラゴンの出現時期と同じだ。また、血族にしか技を伝えない、というのも血筋に能力発動を頼るベオウルフらしくも思える。 「当時の話を伝え聞いたことがある古老に話を聞いてみたんだが、百年前、泰山派の先達が追い払ったドラゴンというのはどうやら、人語を解するドラゴンだったらしい。しかも、同様に人語を解するドラゴンを多数従えていたそうだ」 「ジェネラルか!?」  その武力は単純に核兵器にもなぞらえられるジェネラルドラゴンを単身、素手で撃退した!?  そしてその秘伝が、今もなお龍家あるいは泰山派に受け継がれているというのか!?  仲間たちがようやく、自分の提議に食いついたらしいことを見て取って、男はにやりと笑った。 「今の泰山派掌門人(しょうもんにん=武術流派の総帥。『掌門』とも)は龍家とともに日本に居住し、龍家に仕えている。泰山派掌門『神威鬼手』こと張威風[ちょう・いふう]がな。そして龍家唯一の生き残りは、十六、七歳の跡取り娘だそうだ」 「なら、張威風がその伝承者というのか?」 「あるいは、龍家の跡取り娘が」 「…………」 「日本では、張威風の音頭で令嬢の婿取りをするらしい。それもベオウルフを対象に、ドラゴン退治で手柄を競いあって、優れた者を婿にするとよ」 「なるほど。『比武招婿』か」 「ドラゴンが現れたこの時期、怪しい名家が不自然に婿取りを始めた。それもベオウルフを対象に。  それに参加して、ドラゴン退治の秘伝を――まっとうに考えれば、独自のムーヴなんだろうが――その秘密を探ろうって寸法さ。悪くとも、婿になりさえすれば、龍家の財産と令嬢のうら若い体を我が者にできる。  すでに、気のきいた連中は、それを目当てに参加しているようだぜ」 「令嬢自体が美人らしいからな。それ目当ての有象無象もいるらしい」 「参加者は確かに豪華だな。蘇州言家拳の嫡流――『新娘小偸』こと言逢春[げん・ほうしゅん]。それに六合大槍の『酔浪子』焦横野[しょう・こうや]……」  今あげた二人は、中華圏の若手世代のベオウルフでは特に図抜けた面子である。  ほかにも大物の参戦が見込まれていた。たとえば、  虎殺しの英雄よりも強いから『賽存孝』と呼ばれる石斧の名手・黄昇[こう・しょう]  二郎刀を操りソルジャー種五匹を捕まえた戟使い『鎖五龍』単蓋世[ぜん・がいせい]  一矢で二匹の龍を射殺した弩の達人――『神箭』雷先天[らい・せんてん] 「いずれも侮れねえが、俺たちみてえにチームを組んで、手柄を全部、代表に差し出せば、なに、そうそう遅れをとりはしねえさ。それに、俺たちにゃあ切り札がいるしな」  一人が意味ありげな視線を、仲間に向けた。丸々と、猛牛のように発達した筋肉を誇示したその仲間は、石斧を抱いたまま、少し笑ったようだった。 「確かに、安心だ」 「なら、やるか?」  男たちは、どうやら参戦を決意したらしい。  一人の少女の華燭の典。その候補者選びは、水面下で大きくうねっていた。それも、おそらくは少女の幸せとは全く関わりないところで。  少女そのものでさえなく、その背後に伝わるという謎の秘伝を求める男たちが、参加を企んでいるのだった。  屋敷内の大広間に、『比武招婿』に参加する多くのベオウルフが集まっていた。【あなた】もその一人だった。  龍虹が入ってくると、一堂騒然となった。龍家はベオウルフの活動にも理解と援助を示す篤志家であり財産家だった。だから財産目当てという参加者も少なくないが、龍虹の美しさに思わずため息を漏らしたのだ。龍虹の清楚な美貌に、【あなた】も思わず息を呑む。  上座にしつらえられた席に、龍虹が座ると、そのそばに立った張威風が拱手して述べる。 「諸兄、本日は当家婿選び『比武招婿』にご参加賜り、まことにかたじけなく存じ上げる。  さて、諸兄らそろって初対面と思いますが、こちらにおわすのが当家跡取り娘の龍虹です。ドラゴン狩りの危険を顧みず、ご参加いただいた諸兄に対する礼儀として、嫁入り前ながらお引き合わせした次第」  張威風の態度はどこかしら慇懃に思われた。また迂遠な言い回しがうざったく感じられる。そう思った者はほかにもいたらしい。 「そんなことより、『比武招婿』、どうやって選ぶ? まさか、ここにいるみんなで最後の一人になるまで殺し合え、なんて言うんじゃないだろう?」  参加者の野次も気にせず、張威風の口上は続いた。 「そのようなことは要求しませぬよ。第一、そのようなことをすればベオウルフ同士の和を損ないますゆえ。我ら、所属や出自、また国籍は異なれども同じともがらではござらぬか。  第一、ベオウルフが集まれば、することはひとつ。人類の怨敵、ドラゴン狩り」 「なら、早速行って竜を狩ってくるぜ」 「気の早いお人かな。自由課題でドラゴンを狩るとあっては、それぞれの功績の比較が難しい。また納得のいかぬ方も多かろう。  よって、どこのドラゴン狩りを対象とするかは、こちらで指示させていただきたい」 「どこのドラゴンを狩ってくるんです?」  【あなた】の疑問を、別の人が代弁してくれた。その問いかけを待っていましたとばかり、張威風が口を開いた。 「ただドラゴンを狩るだけというのも芸がない。中国山東省に龍家谷(りゅうかこく)と呼ばれる集落があります。その谷は名の通り我が龍家の原籍地ですが、そこに玉笛廟と呼ばれるほこらがあるので、そこに飾られている龍家玉笛を奪還してきた者を最優秀者とさせていただきたい。この土地は今、ソルジャードラゴンの群れに占拠されております。あとはドラゴンを倒した数で序列を決めるということで。まあ、龍家へ婿入り前のご奉公、というところですかな。  またそれを第一課題とし、追って第二、第三と課題を出していき、智勇双全の総合優秀者を当家の婿とさせていただく」 「第一課題でしくじったら、失格なのか?」 「いえ、あくまで総合優秀者を決めることが目的なので、前の課題の失格者も、また中途参加者も含めて総合得点を競う形です。審査は不肖張威風が行わせていただく」  なるほど、課題ひとつだけで優劣を決めるのは運の要素が大きくなりすぎる。だから、課題を複数用意し、アベレージを競うというわけか。【あなた】は納得した。  あとは張威風から無用の長広舌が続いている。【あなた】は周囲へ視線を巡らせた。  蘇州言家拳の言逢春[げん・ほうしゅん]、六合大槍の焦横野[しょう・こうや]といった若手世代の名手の姿も散見される。  だが、ふと、今し方入ってきたばかりの若者に目を取られた。この剣侠も参加希望者らしい。  若さみなぎる小麦色の肌は、回族(イスラム系中国人)出身であろうか。ターバンで頭をまとめているが、わずかにこぼれた毛髪から黒髪であることがわかる。馬掛にズボンというシンプルな装束で、背中に年代物の刀――カットラスを斜めに帯びていた。  その剣侠の瞳は、湖のように澄んだ青さだった。思わず、【あなた】は見とれてしまった。  バカな、自分はノーマルだ。それが、どうして恋敵になるかもしれない相手に目を奪われるのか……  剣侠――セイフ[−]は小さく口の中で呟いた。誰にも聞き取れない、か細い声で自分に言い聞かす。 「ルーカス[−]様……必ずや龍家の秘伝『降龍解題』を暴いて見せます。そして、ルーカス様のお足下を脅かす者どもを、この私が排除してみせます。  きっと……」 ――――――――――――――――――――――― 「マスターより」  どうも、お世話になっております。山城“タイマンはったらダチ”一樹です。初見の方には初めまして。お馴染みの方には毎度ごひいきに。  今回は『嫁取りシナリオ』です。PLの皆さんには、武侠小説風な感じで、明るく楽しく烈しくドラゴンと戦っていただければと思います。  キーワードは、下記の通り。 『ロマンス』『武侠』『ロリから美熟女まで』『秘伝争奪戦』『武道家は拳で語れ』『マフィオソ』『タイマン張ったらダチ!』『ドタバタ』『一部18禁あり』『カンフーアクション』  なお、選択肢一覧のほか、下記選択肢が選択可能です。 A010804 『泰山派』について調べる (担当:山城一樹/地域:117) 備考:この行動選択肢は、神戸の華僑・龍家に関わろうとする方専用の行動選択肢です。『比武招婿』に参加するかしないかは、お任せします。  それでは、また皆様には約一年間十ターン、お楽しみいただければと思います。ではでは。 ――――――――――――――――――――――― ここに掲載されている行動選択肢は、『どらごにっく★あわー! 〜竜を退治するだけの簡単なお仕事です〜』の公式サイト(本サイト)に掲載されない場合があります。 ――――――――――――――――――――――― 個人としてゲームを楽しむための交流の範囲を越えない場合に限り、この「初期情報」の複製、サイトへの転載を許可します。著作権等の扱いについては、本サイトを参照ください。 copyright 2009-2010 ELSEWARE, Ltd. ―――――――――――――――――――――――