どらごにっく★あわー!   〜竜を退治するだけの簡単なお仕事です〜 ●初期情報 No.Z000802      担当:山城一樹 ――――――――――――――――――――――― 「若い兄弟たち、よく集まってくれた。歓迎する」  高級な仕立物は、生地の光沢からして違う。細いストライプが入ったワイシャツに深い緑色のネクタイ。それに漆黒のスリーピース。どれもこれも、ステファノ・コルレオーネ[−・−]の恰幅よい肉体に似合っていた。  ここは日本の兵庫県神戸市内にある、高級ホテルの地下のホールだった。この広大なスペースに集まっているのは、百人近い人数。  この場の総責任者・ステファノが陣取る席だけがピンライトによって照らし出されているが、そのほかは薄暗く、正確な人数はわからない。わかるのは、ほとんどが若い男性であり、SDDらしく夜会服や黒のスーツで身を包んでいることだ。  時折聞こえる賛嘆の声や囁き声から、約百人の国籍がばらばらであることがわかる。最近、極東方面に支部を作った事もあり、ジャパニーズやチャイニーズも珍しくない。 【きみ】も、その百人の中の一人だった。手持ち無沙汰なままカクテルグラスを口に運びつつ、ステファノ『相談役(コンシリエーレ)』の長広舌に耳を傾けていた。 「すでに耳に入れている兄弟もいるかもしれんが、今夜の俺の仕事は、まあ仲人とかキューピッドとか、そういった類のものだ。  この神戸に住んでいるチャイニーズ――龍[りゅう]家というが、古い歴史と伝統と、あと莫大な資産を持つ名家がある。その龍家は、このご時世に少なからぬ私財をはたいてベオウルフの活動援助も行なっている。  その龍家の当主は現在不在でな。ただ一人、嫡流のお嬢さんが血を受け継いで残っているということなんだが、そのお嬢さんが、お婿さんを探している」  ステファノの以外な言葉に、ざわめきが若干、ホールに響いた。いかに名家だろうが、龍家はベオウルフではないはずだ。そんな家の跡取だの結婚だの、そんなものはどうでもいい。それは、【きみ】も同感だった。 「ただの婿探しではない。龍家はもともと尚武の家風。中国の古い英雄譚にある『比武招婿』というので婿選びをするそうだ」 「『比武招婿』?」  ロシア系の兄弟が、怪訝そうな声を上げる。 「婿にするなら武力胆力に長けた英雄――ベオウルフがいいということらしくてな。『武力を競わせて婿を招く』――要するに、選考期間、ベオウルフにドラゴン退治の課題を与え、最も優秀な人間を、婿に迎えるとよ。幾月か、何度かにわけてドラゴン退治の課題が出るそうだ。  すでに『草薙』やら『紅い牙』やらからも参加者が名乗りをあげている。よそのユニオンに、我らSDDがおくれをとるわけにはいかんし、財産家の兄弟がいたら、我々の活動に非常に都合がいい」  なるほど。ベオウルフにふさわしい内容だった。『比武招婿』自体を婿選びではなく若い世代のベオウルフの腕比べと考えたなら、名誉を重んじるSDDが黙っているわけにはいかない。ファミリーの肝煎りで候補者を募っても、そう違和感はない。  だが、しかし。そんな瑣末な問題を、ドン・ヴィンチトーレ[−・−]の側近最右翼にしてヴィンチトーレ一家ならびにSDDのナンバー2――『相談役』ステファノ・コルレオーネが取り仕切るものだろうか。  【きみ】がその違和感をぬぐえずにいると、横から含み笑いが聞こえてきた。 「ふん、おためごかしやのぉ」  若く精悍な、関西なまりの日本人だった。口元に冷笑を張り付かせ、ステファノを値踏みしているようだった。  ナンバー2に対する不遜な態度を【きみ】が咎めると、その関西人はいっそう冷笑の度を濃くした。 「なんや、おんどれ、なんも知らんのやのぉ。めでたい奴や。そもそも、金持ちとはいえ一般人の婿取りなんぞ、SDDが本気で相手すると思うか?」  それは、確かに不思議に思っていた。 「『相談役』はな、一人で来日したわけやない。SDDでもドンと『相談役』のふたり直属の『WOP』ちゅう精鋭を引き連れてきてる。そして、厳戒態勢をひいて龍家を監視下に置いておるそうや」  WOPとは何か? そう質問すると、事情通の関西人は呆れた顔をした。 「『ウィズアウトオブペーパーズ』の略や。『書類不要』ひいては『身分証なし』『パスポートなし』『死亡書類不要』――最初から死ぬことを視野に入れて国境無視で、陰で活動する、SDDに忠誠を誓こうた命知らずの集まりや。  ほしたら、なんでSDDがそないに龍家に執着する? たかが銭金の話やないやろ。となれば……」  関西人のおしゃべりは、強制的に終わらされた。すさまじい衝撃波が、【きみ】と関西人の間の円卓だけを破壊したからだ。  衝撃が発生した方角へ目を向けると、ステファノがバットを手にしていた。どうやら聴衆のおしゃべりを嫌った彼が、素振りで発生させた衝撃波で円卓を壊したようだった。 「野球は素晴らしい。サッカーだのなんだの、流行っているチームスポーツはあるが、俺はベースボールが最も好きだ。野球の素晴らしさはなにか? チームワークだ。チームワークを、場を乱す奴は赦しちゃいけない」  真っ青な顔でうつむく関西人を尻目に、【きみ】も口をつぐんだ。  静まり返った聴衆に満足したステファノは、ポケットから一葉の写真を取り出した。一人の少女が写っている。十六というところか。  紅色を基本にした鮮やかなチャイナドレス。みどりの黒髪は清楚に結い上げ、頭の左右で輪を作っている。象牙色の肌に慎ましやかな朱唇。やさしげな柳眉の下には黒柘榴のつぶらな瞳。これが話題の龍家の令嬢――龍虹[りゅう・こう]公主だった。  その美貌に、どよめきが上がる。あの美貌とSDDへの功績とSDD本部からの評価、そして財産が手に入るのであれば、参加するのも一興ではないか? 「さあ、兄弟たち。邪悪なドラゴン退治をして麗しの姫君を手に入れてみないか? SDDは、兄弟たちの婚活を応援しよう。トリガーが必要なら、武器の援助をしよう。戟が必要ならそれを。火縄銃やマスケット銃の火薬がいるならそれを。複葉機が必要なら、神戸市郊外に飛行場を借り切ってある。そこに数機、用意してある。  それから、今回、大掛かりな『比武招婿』を行なうにあたって、龍家では人手がほしいそうだ。婿候補のベオウルフを接待するメイドやら料理人やらを募集している。ま、これはタイタニアあたりの領分だが……それにまぎれて兄弟たちの活動を補助する者にも、場合によっては報酬を約束しよう。場合によっては、ね」  やがて、神戸にある龍家の屋敷で『比武招婿』のオープニングセレモニーが行われていた。スタッフと参加者、それに主催者側から張威風と龍虹が顔合わせを行っているのである。  張威風は気品ある端整な顔立ちの、四十路の男。流麗な挙措と高価な仕立ての青い長衫が、彼を高級に演出していた。  慇懃に拱手し、張威風が口上を述べた。 「諸兄、本日は当家婿選び『比武招婿』にご参加賜り、まことにかたじけなく存じ上げる。  さて、諸兄らそろって初対面と思いますが、こちらにおわすのが当家跡取り娘の龍虹です。ドラゴン狩りの危険を顧みず、ご参加いただいた諸兄に対する礼儀として、嫁入り前ながらお引き合わせした次第」  張威風の態度は【きみ】にはわざとらしく感じられた。取り繕っているが、誠意がない。そう思っていると、別の者が声を上げた。 「そんなことより、『比武招婿』、どうやって選ぶ? まさか、ここにいるみんなで最後の一人になるまで殺し合え、なんて言うんじゃないだろう?」  参加者の野次も気にせず、張威風の口上は続いた。 「そのようなことは要求しませぬよ。第一、そのようなことをすればベオウルフ同士の和を損ないますゆえ。我ら、所属や出自、また国籍は異なれども同じともがらではござらぬか。  第一、ベオウルフが集まれば、することはひとつ。人類の怨敵、ドラゴン狩り」 「なら、早速行って竜を狩ってくるぜ」 「気の早いお人かな。自由課題でドラゴンを狩るとあっては、それぞれの功績の比較が難しい。また納得のいかぬ方も多かろう。  よって、どこのドラゴン狩りを対象とするかは、こちらで指示させていただきたい」 「どこのドラゴンを狩ってくるんです?」  【きみ】の疑問を、別の人が代弁する。 「ただドラゴンを狩るだけというのも芸がない。中国山東省に龍家谷(りゅうかこく)と呼ばれる集落があります。その谷は名の通り我が龍家の原籍地ですが、そこに玉笛廟と呼ばれるほこらがあるので、そこに飾られている龍家玉笛を奪還してきた者を最優秀者とさせていただきたい。この土地は今、ソルジャー種のドラゴンの群れに占拠されております。あとはドラゴンを倒した数で序列を決めるということで。まあ、龍家へ婿入り前のご奉公、というところですかな。  またそれを第一課題とし、追って第二、第三と課題を出していき、智勇双全の総合優秀者を当家の婿とさせていただく」 「第一課題でしくじったら、失格なのか?」 「いえ、あくまで総合優秀者を決めることが目的なので、前の課題の失格者も、また中途参加者も含めて総合得点を競う形です。審査は不肖張威風が行わせていただく」  なるほど、課題ひとつだけで優劣を決めるのは運の要素が大きくなりすぎる。だから、課題を複数用意し、アベレージを競うというわけか。  あとは張威風から無用の長広舌が続いている。  【きみ】は周囲へ視線を巡らせると、今し方入ってきたばかりの若者に目を取られた。この剣侠も参加希望者らしい。  若さみなぎる小麦色の肌は、回族(イスラム系中国人)出身であろうか。ターバンで頭をまとめているが、わずかにこぼれた毛髪から黒髪であることがわかる。馬掛にズボンというシンプルな装束で、背中に年代物の刀――カットラスを斜めに帯びていた。  その剣侠の瞳は、湖のように澄んだ青さだった。思わず、【きみ】は見とれてしまった。  バカな、自分はノーマルだ。それが、どうして恋敵になるかもしれない相手に目を奪われるのか……  剣侠――セイフ[−]は小さく口の中で呟いた。誰にも聞き取れない、か細い声で自分に言い聞かす。 「ルーカス[−]様……必ずや龍家の秘伝『降龍解題』を暴いて見せます。そして、ルーカス様のお足下を脅かす者どもを、この私が排除してみせます。  きっと……」 ――――――――――――――――――――――― 「マスターより」  どうも、お世話になっております。山城“タイマンはったらダチ”一樹です。初見の方には初めまして。お馴染みの方には毎度ごひいきに。  今回は『嫁取りシナリオ』です。PLの皆さんには、武侠小説風な感じで、明るく楽しく烈しくドラゴンと戦っていただければと思います。  キーワードは、下記の通り。 『ロマンス』『武侠』『ロリから美熟女まで』『秘伝争奪戦』『武道家は拳で語れ』『マフィオソ』『タイマン張ったらダチ!』『ドタバタ』『一部18禁あり』『カンフーアクション』  なお、行動選択肢一覧のほか、下記選択肢が選択可能です。SDD所属者専用選択肢です。 A010803 SDDの一員として龍家で○○する (担当:山城一樹/地域:117) 備考:この行動選択肢は、神戸滞在中のステファノやドンのそばで働く行動選択肢です。行動選択肢の文通り、SDD所属者専用です。  それでは、また皆様には約一年間十ターン、お楽しみいただければと思います。ではでは。 ――――――――――――――――――――――― ここに掲載されている行動選択肢は、『どらごにっく★あわー! 〜竜を退治するだけの簡単なお仕事です〜』の公式サイト(本サイト)に掲載されない場合があります。 ――――――――――――――――――――――― 個人としてゲームを楽しむための交流の範囲を越えない場合に限り、この「初期情報」の複製、サイトへの転載を許可します。著作権等の扱いについては、本サイトを参照ください。 copyright 2009-2010 ELSEWARE, Ltd. ―――――――――――――――――――――――