どらごにっく★あわー!   〜竜を退治するだけの簡単なお仕事です〜 ●初期情報 No.Z000801      担当:山城一樹 ――――――――――――――――――――――― 「あ〜あ、退屈」  太平洋上空を飛ぶ個人用旅客機内で、ドン・ヴィンチトーレ[−・−]は、両脚をぶらぶらさせていた。  ドン・ヴィンチトーレは、泣く子も黙るギャングスタ傭兵団『SDD』の領袖だが、そのいかめしい肩書きとは裏腹な外見である。  輝くような金髪を後ろに流した白人の美少女であり、年齢は十三歳。人形のようにスレンダーな肢体を、黒を基調にしたゴシック風のドレスで包んでいる。  眼帯つきの熊のヌイグルミを抱え、頬を膨らませながら、ドン・ヴィンチトーレはおそばの黒服へ対して窓の外を指さした。  窓の外には、ドンの身を守るべく、複葉機が数機、雲間を縫うように進んでいる。 「あたしもあっちのほうがいい」 「ドン、お言葉ながら、そのようにわがままをおっしゃらないでください」 「ドンじゃなくて“ねえさま”でしょ?」 「それは……」  我が子のように歳が離れたドンの言葉に、四十がらみの黒服男は返答に窮した。身分を考えても年の差を考えても、そんな代名詞は使えない。  部下の態度にドンはため息を漏らした。  確かにこの個人用旅客機は豪奢である。床の絨毯、ふかふかのドン用椅子。贅沢な空間と快適な空調。そして機内にいるのは、すべてSDDの人間であり、つまりドンの部下だった。どれをとっても申し分ない――だが、そのどれもこの少女の心を満たしてはくれない。  内心の落胆を隠すために、ドンは話題を変えた。 「もういいわ。じゃあ、ステファノのほうはどうなの?」 「『相談役(コンシリエーレ)』はすでに日本で活動を開始しておられます。兄弟衆を集め、ミッションの候補者を集めております」 「そう。ならいいわ。ステファノなら、いいようにしてくれるでしょうし」 「はい。天竜討伐の下準備、『相談役』なら遺漏なくこなしてくださるでしょう。多くの兄弟姉妹の配置を、綿密に組み上げておられます。複葉機とその空港の手配も含めて」  ステファノ・コルレオーネ[−・−]は、組織の『相談役』だった。  『副ボス』サルバトーレ・フェレロ[−・−]と並ぶナンバー2であり、まだ幼いドン・ヴィンチトーレの後見人でもある。  ステファノは今、日本の神戸というところへ赴き、在地のSDD構成員を集めて候補者を集めている。SDD管轄下にある名家――龍[りゅう]家で、ベオウルフ同士腕比べをさせて令嬢の婿選びをする、その参加者を大々的に募っているのだ。  無論、資産家かつ篤志家であるとはいえ、一介のチャイニーズの結婚話にSDDが無意味に介入するわけはない。部下にその参加を募っているのは、それなりに意味がある。SDDの隆盛を賭けた大仕事『天竜討伐』に必要な事項なのだ。 「ステファノとの連絡は密にしておいてね。必要なものは、可能な限り揃えてあげること。人員でも機材でも経費でも、なんでもね」 「かしこまりました」  ステファノは今、猫の手でも借りたい状態だろう。龍家の婿捜しの候補者選び、彼の下で事務をこなす者……いくらでも人手が欲しいのだ。サルバトーレと違ってステファノは机仕事向きではない。  それで話を切り上げる。やや喉が渇いた。蜂蜜入りのホットミルクを飲みたいが、ガマンする。外の兄弟たちは辛いのだ。  ――そのとき、機内にブザー音が鳴り響いた。ドラゴンと遭遇したときの警報音だった。  ドン・ヴィンチトーレが咄嗟に窓外を見ると、護衛の複葉機が一機、機関部から煙を噴きながら降下していくところだった。  一匹の飛竜がドン・ヴィンチトーレ用旅客機へ取り付こうとするのを、護衛の複葉機たちが懸命に阻止している。 「ドン、危険です。パラシュートをおつけ下さい」 「ダメよ、みんながドラゴンと戦っているもの。あたし一人で逃げることなんかできない」 「しかし、御身に万一のことがあっては……」  おそばの黒服がうわずった声で言いつのるのを、ドンは首を振って拒否した。ヌイグルミを置き、かわりに愛用の長弓を取り上げた。矢筒をつけた革ベルトを腰に巻き、一本、矢を番える。  人形めいた外見に不釣り合いなゴーグルで目を守ると、深呼吸してからドンは機外へ飛び出し、複葉機の翼に飛びついた。  ワンピース型ドレスの裾が、気流を受けて舞い上がる。  複葉機のパイロットへ眼を向けると、パイロットはドンから懸命に目をそらしていた。 「ダメよ、ちゃんと前を見なさい」  パイロットが、舞い上がった裾からもろに露出したくまさんパンツから目を背けているとは思いもよらず、お姉さん気取りで部下を叱咤する。 「し、しかし……」 「だから前を見なさい! くるわよ!」  前方不注意に気付いたパイロットが操縦桿を大きく傾けると、複葉機が雲海に身を隠した。間一髪のところを飛竜が通り過ぎていく。  飛竜がドンが同乗した複葉機を探して長い首を巡らせていると、その後方で、複葉機が雲を突き抜けて姿を見せた。  ドンは右膝をつき左膝を立てた膝射の態勢。右の爪先とおしりで複葉機の翼を挟み、体を固定している。どんなアクロバット飛行でも振り落とされないように。  ほかの護衛機がその機銃弾で飛竜を牽制していた。だが、硬い竜鱗に弾かれ、あまり効果が上がらない。  やがて飛竜は、ヴィンチトーレが便乗している複葉機へと襲いかかった。 「右よ!」  ヴィンチトーレの高い声。パイロットが操縦桿を大きく面舵に切ると、ブロンドと黒のワンピースが蒼穹になびいた。  飛竜の爪を間髪の差で逃れ、複葉機は雲海に身を沈める。  飛竜が頭を巡らし、複葉機を探す。飛竜の背後から、複葉機が白い平面を突き破って姿を現した。  ドン・ヴィンチトーレが弓を思い切り、引き絞る。四枚刃の鏃をつけた鋭利な矢が、その延長線上に飛竜の頭を捕らえていた。ドン・ヴィンチトーレの殺気に気付いた飛竜が、ドンの方へ振り返ってからも。  飛竜の必死必殺の咆吼。複葉機のエンジン音。そしてドン。ヴィンチトーレの白魚のような手指が、弓弦を手放す、ピンと澄んだ音。  飛矢が飛竜の頭部を貫通した。鋭利な鏃はドラゴンの脳細胞を粉砕し、反対側へその鏃をのぞかせている。  空飛ぶドラゴンの断末魔が、ジェット気流に乗ってすぐ吹き飛ばされた……  ドン・ヴィンチトーレ直々のロングボウが、兇悪獰猛な飛竜を一発で仕留めた。  だが、そんなものは何の喜びにもなりはしない。  飛竜の先制攻撃で不意を打たれた複葉機は墜落し、そのパイロットは死亡していた。飛竜の爪をもろに受け、それが致命傷だったのだ。  飛竜が最初に旅客機を狙ったことに気付き、ドンを守るために咄嗟に自らが楯になったのだという。  その忠勇な部下とドンは、日本に到着してから、無言の合流を果たした。  棺の中のもの言わぬ骸を、ドンはそっと抱いた。ハグし、左右の頬に軽くキスをする。 「あたしを守ってくれて、ありがとう。あなたはとても勇敢だったわ。ファミリーの、名誉よ。あなたはきっと、天国へ行ける。そうなるよう、みんなが祈るわ」  ファミリーのため、自分のため、死んでいった。年上なのに自分を“ねえさま”と呼んでくれた男だった。SDD内での地位も低く、世界的には名もない男だった。今回の、ドンの来日の理由も、現在水面下で進行中の計画についても何も知らない。だが、ドンにとってはかけがえのない家族だった。ステファノのような古いつきあいの家族も、まだ見たこともない家族も、ドンから見れば等しく、愛すべき家族なのだ。 「ねえ、どうしてこの子は死んじゃったの? あたしのせいなの?」  おそばの黒服に、泣きそうな顔で言いつのる。 「ドンのために死ねて、幸せだったと思います」 「そうじゃないわ。あたしはみんなに守られるためにドンになったんじゃないもの。みんなの命と生活を守るためにドンになったのよ?」 「家族を守るために死ねる。それもマフィオソの条件であり、栄誉ある死です。そしてこいつは、真のマフィオソでした」  マフィオソ――マフィアの構成員を示す言葉であり、『勇気ある男』という意味を持つ。 「あなたの死を無駄にはしない。きっと、この計画を成功させてみせるわ。天竜討伐を。だからいつまでも、あたしを天国から見守っていてね」  哀惜の意を隠そうとしないドンの背中を見ながら、黒服は思う。 (強く、不憫なお方だ……幼くして身寄りを失い、ファミリーの後継者にならざるを得なかった。その辛さを微塵も見せず、我らを守ろうと健気に……)  ドンはファミリーを率いる才能はある。カリスマもある。だが、そんな世界以外の選択肢のない少女を不憫に思わざるを得ない。本来なら深窓の令嬢としての幸せもあったはずだ。  ドンが毅然と立ち上がった。 「さあ、ステファノと合流するわよ。私たちはファミリーのために、今回の討伐を必ずや成功させなくちゃだから」 ――――――――――――――――――――――― 「マスターより」  どうも、お世話になっております。山城“タイマンはったらダチ”一樹です。初見の方には初めまして。お馴染みの方には毎度ごひいきに。  今回は『嫁取りシナリオ』です。PLの皆さんには、武侠小説風な感じで、明るく楽しく烈しくドラゴンと戦っていただければと思います。  なお、この初期情報は一応、レア扱いです。他の山城担当初期情報では記載されていない、SDDの目的のヒントがあります。  キーワードは、下記の通り。 『ロマンス』『武侠』『ロリから美熟女まで』『秘伝争奪戦』『武道家は拳で語れ』『マフィオソ』『タイマン張ったらダチ!』『ドタバタ』『一部18禁あり』『カンフーアクション』  なお、行動選択肢一覧のほか、下記行動選択肢が選択可能です。SDD所属者専用選択肢です。ドンの周囲で働きたい方は、下記をご選択下さい。 A010803 SDDの一員として龍家で○○する (担当:山城一樹/地域:117) 備考:この行動選択肢は、神戸滞在中のステファノやドンのそばで働く行動選択肢です。行動選択肢の文通り、SDD所属者専用です。  それでは、また皆様には約一年間十ターン、お楽しみいただければと思います。ではでは。 ――――――――――――――――――――――― ここに掲載されている行動選択肢は、『どらごにっく★あわー! 〜竜を退治するだけの簡単なお仕事です〜』の公式サイト(本サイト)に掲載されない場合があります。 ――――――――――――――――――――――― 個人としてゲームを楽しむための交流の範囲を越えない場合に限り、この「初期情報」の複製、サイトへの転載を許可します。著作権等の扱いについては、本サイトを参照ください。 copyright 2009-2010 ELSEWARE, Ltd. ―――――――――――――――――――――――