どらごにっく★あわー!   〜竜を退治するだけの簡単なお仕事です〜 ●初期情報 No.Z000401       担当:黒川実 ――――――――――――――――――――――― “私という連続体を含む『不揃いの林檎、あるいは腐った蜜柑たちの失格者たる所以について』という集合は、銀河系周縁区域に瞬く青白い明滅にも似た存在の交流です。  ベオウルフという自発的軽業の反哲学が、ビルの頭上にきらやかに集うのです――。”  私がここまで打ち込んだところで、すぐ後ろからモニターを見ていた鮎川女史が、私の指に触れた。 「……あなたが詩人であることは知っていますが、議事録に詩的表現は不向きです。散文にして頂戴」 「あい」  私は素直に頷いて、せかせかとキーを叩く。  月に一度の定例幹部会議は、吉祥寺駅から歩いて10分のユニオン本部で開かれる。  出席者は、我が『りんごみかん』の代表を務めるJagt[ヤクト]こと秋津島安吾団長と、経理担当の鮎川女史以外のメンバーは、その時々の状況次第で入れ替わった。  WBAから来た偉い人や、他のユニオンの代表が出席することや、今日みたいに親衛隊長の鬼熊ことジョシュア・リーが同席することもある。 「……まず最初の議題は、スポンサーについて」  書類をめくる音と共に、鮎川女史の涼やかな声が室内に響いた。 「現在、うちの支援をお願いしているスポンサーの業種は、趣味系に偏りすぎていないかしら?」  日夜ドラゴンと戦う私たちをサポートしてくれるスポンサーの業務内容は多種多様だ。  その中には、これがドラゴンと戦う役に立つとは到底思えない支援をしている企業もあった。  実利主義の鮎川女史は、そこが気になっていて、定例会議では常にスポンサーの件が議題にあがる。 「私が思うに、ここで『コスパーレ』にお願いするより、もっと情報収集に使える企業に……」 「否、断じて『コスパーレ』は外せませぬ」  鬼熊が苦渋の表情を浮かべた。  金色の頬髯と顎鬚に埋もれて、割りと愛嬌のある青い瞳が真摯に鮎川女史を見つめる。 「……身長2m超えの拙者にも着用できるサイズの武者鎧一式を、破格でレンタルしてくれる企業などこの『コスパーレ』の他にござらんゆえ」  ――買えよ、自前で。 「防御系のスポンサーをお願いすれば、鎧を借りる必要もないんじゃないのかしら?」  鮎川女史が優しく微笑んだ――メガネの奥に輝く切れ長の目は少しも笑っていないのが怖い。  しどろもどろで椅子ごと後退する鬼熊の様子に、それまで無言だった団長が物憂げに口を開く。 「待ちなさい、鮎川女史」 「なんですか団長? 私の意見に何か問題でも?」  真っ向から睨み返す女史を咎めずに、団長は軽く目を伏せて、静かな声で囁いた。 「我らが『不揃いの林檎、あるいは腐った蜜柑たちの失格者たる所似について』は、各分野の表現者が集う魂の祝祭空間、貸し衣装は我々が記号化された群集の一部から確立された個性へと羽化するためのいわば祭具とでもいうべき重要アイテム――団員が必要としているものを、仮にも代表を務める我々が個人の好悪で疎かにすることは許されませんよ?」  要するに『コスプレ万歳!』みたいな?  鬼熊は流石でございますと感涙に咽び、男泣きに泣いている。 「先に言っておきますが、他のスポンサーも重要な支援をしてくれていますからね?」 「御利益があるんだかないんだかわかんない毛皮を貸し出してくれるのが、重要な支援ですか?」 「封竜神社の巫女さんは可愛い子が多いのですよ。竜との命のやり取りを目前に控えたベオウルフが、その魂を安らがせ、束の間、戦士から『ひと』へと戻る瞬間のプリミティブな幸福さえも取り上げようというのですか!? この鬼! 悪魔! 貧乳!」  ぎしっと嫌な音が室内に響く。  天然石を一枚板に削って創られたテーブル上に、見慣れぬ大きな亀裂が生まれていた。  亀裂の始点は鮎川女史がメモを取るのに使ってるノートで――女史の右手に握られた万年筆の先端が紙を突き破って、下のテーブルに刺さっている。 「……私の胸が小さいことで、何か団長に御迷惑をおかけしましたでしょうか?」 「いやいやいやいや、コンパクトな美は大和撫子の魅力の精髄、日本の伝統美の結晶ですよ、ね!?」  鬼熊も必死の形相で頷いている。  妙に張り詰めた沈黙の後、鮎川女史は一つ頷いて何事もなかったかのように会議を再開した。  議題は順調に消化されていき、やがて鮎川女史は最後の議題に移った。 「WBAの要請です、もっと有名なヒーロークラスのベオウルフを戦線に派遣してほしいそうです。戦意高揚も兼ねてとのことで」 「うちに声をかけてくるとは、切迫しているのかもしれませんね……誰の派遣が妥当だと考えます?」 「現状、条件を満たした団員で、無傷で、国外まで遠征できる状態なのは団長だけですから、消去法で団長に行って頂くことになりますが」  一瞬の間。団長は憂いに眉を曇らせて、ゆるりと首を横に振った。 「最前線に赴いて私の無為な命を、戦いという名の劫火に投げ込むことはやぶさかではありませんが、残念ながら来月は、この私は日本を離れるわけには行かないのですよ、絶対に、ね……」 「絶対に? 理由をお聞きしても宜しいですか?」 「ええ、5年ぶりに名作『どりーむ☆キングダム』シリーズの新作が出るのです。限定版を買う為に、発売前夜から徹夜で並ばねば……鮎川女史?」 「団長の得意な主要構成ジェネラル種Cの戦線で、お願いしますと返答しておきますね」 「鮎川女史!?」 「御安心めされよ! 戦場へ赴かれるJagt殿に成り代わり、この鬼熊が身命に代えて『どりーむ☆キングダム』限定版をゲット致しましょうぞ!!」 「……戦場行きを替わるとは言わないんですか?」 「否、我が主君の晴れ舞台を、汚すような真似などできませぬ。どうぞ本懐をお遂げくださりませ!」 「死ねと!? 私に『どっキン』最新作のOPすら見ないで死ねっていうんですか君は!?」  逆ギレする団長を鬼熊に押し付けて、鮎川女史は私の手許を覗き込んだ。 「――議事録には、団長の発言を『〜やぶさかではありません』のところまで載せて、後は削除して、団長は要請を快諾、すぐ現地に向かわれたとだけ、記録をお願いしますね」 「らじゃ」  私は女史の指示通りに改竄した議事録を保存し、そのまま共有サーバーにあげる。  議事録は団員なら誰でも見られるようにサイトにあげておくのが『りんごみかん』の方針だ。 「……平成の太宰、中原中也の再来なんて言われたカリスマの、真の姿がこんなんだって分かったら、自殺しちゃう信奉者も出るかもしれませんよ」  逆ギレしてる団長を眺めて、大きく深いため息を吐き出す鮎川女史に、私はとっときの紅茶を淹れ、慰めの言葉の代わりに差し出した。 ――――――――――――――――――――――― ■関連行動選択肢 X018808 不揃いの林檎、あるいは腐った蜜柑たちの失格者たる所以についてのベオウルフとして行動する (担当:???/地域:???) 備考:主に、ユニオンの構成員に対してアクションをかけたい場合に選択する行動選択肢です。地域名はアクションに応じて記入ください。  既存のシナリオや、すでにある行動選択肢などの枠にとらわれないアクションに挑戦したい、上級者向けの行動選択肢です。  すでに存在する行動選択肢で事足りる内容と判断されるアクションだった場合は、不採用になる場合がありますので、ご注意ください。  アクションが不採用となった場合は、不採用アクション用のリアクションが送付されます。 X019900 その他の自由行動 (担当:???/地域:???) 備考:既存のシナリオや行動選択肢などの枠にとらわれないアクションに挑戦したい、超上級者向けの行動選択肢です。自分の意志で世界を、物語を作っていきたいというコアでディープなプレイヤーにお薦めです。  ただしアクションが採用されなかった場合は一切描写されず、不採用アクション用のリアクションが送付されます。  すでに存在する行動選択肢で事足りる内容と判断されるアクションをこの行動選択肢に送った場合は、それだけで不採用になります。  また必ず行動する地域番号を記入ください。行動する地域によって、採用率は変わります。 ――――――――――――――――――――――― ここに掲載されている行動選択肢は、『どらごにっく★あわー! 〜竜を退治するだけの簡単なお仕事です〜』の公式サイト(本サイト)に掲載されない場合があります。 ――――――――――――――――――――――― 個人としてゲームを楽しむための交流の範囲を越えない場合に限り、この「初期情報」の複製、サイトへの転載を許可します。著作権等の扱いについては、本サイトを参照ください。 copyright 2009-2010 ELSEWARE, Ltd. ―――――――――――――――――――――――