―忍びの里 東屋 カ じゃ、じゃああのお寺の鐘に刻まれた銘は、すべて仕組まれたものだったと・・・? 半蔵 そうだ・・・。 黒衣の宰相と呼ばれた男が画策し、宗矩様が指揮を執った。 俺と小太郎は、実働部隊として様々な工作を行った。 佐助 それで晴れて、豊臣方はまんまと嵌められたってえのか? 退魔 それだけじゃない。半蔵様は、真実の姿とまったく異なる非道い中傷をうけ、 歴史の闇に葬られた。口封じのためだ。 犬 俺はそれが・・・悔しくて仕方がない・・・! カ 今の時代に残る服部半蔵正就の散々な評価は、それが原因・・・。 才蔵 じゃあ小太郎は? 半蔵 やつは密書と共に魂ごと封じられた。死人にくちなし。世は事もなしだ。 だがそうでもしなければ、我々の一族も柳生の一族も、滅亡していただろう・・・。 カ そんな不条理がまかり通っていいんですか? 半蔵 それあ天下をとることであり、歴史というものなんだろう。 佐助 あの狸・・・ますます気にくわねえ。 カ では、密書というのは・・・ 半蔵 この計画の全貌が記されている。 才蔵 なるほど、脅し。いや・・・取引か? 半蔵 ただで死ぬわけにはいかない。俺と宗矩様はこの計画の全貌を残し、幕府への取引材料とした。 退魔 ・・・・・ 半蔵 くく・・・ははははは。 佐助 気でも触れたか? 半蔵 いや、おかしかったのだ。幾百年、ひた隠した事実を遂に打ち明けた今―― 俺は、安心した。 それが、おかしくてな・・・。 犬 半蔵様・・・。 半蔵 もう、なにもかもがどうでも良くなった・・・。 佐助 おいおい、悟るにはまだ早い。 才蔵 やることがひとつ残っているぞ。 佐助 お前は自分の部下に救ってもらっておきながら、自分の飼い主には砂をかけたままか? 半蔵 ・・・宗矩様―― 佐助 そういうこった。